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14-34 世界の命運を賭けて3

 支援魔法のお陰で体が格段に軽く感じる。

 そう言えば、いつも≪赤≫の力のごり押しでどうにかして来たから支援魔法貰って戦うのって始めてかもしんない…。

 かけられて始めて分かる有難味。あ、無意味に五七五で語呂が良いわ。

 今更ながら支援、回復、攻撃、全部出来る万能の魔法使いが後ろに居てくれると心強い。いや、まあ今までもフィリスがそういう役割をしてくれては居たけど、やはり魔法能力の一点で言えば真希さんとでは比べ物にならない。つっても、フィリスの能力が低い訳ではなく、真希さんが魔法使いのランキングがあったら世界最強と言うだけの話だ。


気張(きば)れ、前衛の男共!」


 真希さんの激に親指を立てて返す。ガゼルとJ.R.も同じ事をしていてちょっと状況を忘れて笑ってしまった。

 おっし、気合い入れ直し!

 7m先で俺の次の行動を観察しているジェネシス。

 日本刀となったヴァーミリオンを握り直し、【オーバーブースト】で加速、一足飛びで俺達の間にあった距離を0にする。


「はぁあああっ!!!」

 

 速度を殺さず剣を振る。

 さっきまでとは速度の桁が違う。

 【反転】状態は身体能力強化のスキルが上位互換に置き換えられる上に、体の負担を無視すれば光速まで加速出来る【オーバーブースト】がある。更に真希さんの支援魔法のお陰で速度だけじゃなく攻撃力も強化されている。

 音を切り裂く一刀。


「多少はましになったが、まだまだ足りんな」


 溜息と共に小さく呟き、虫でも掴むように苦も無くヴァーミリオンの刃を素手で掴む。

 腹が立つ程反応が速い…! そして同時に掴んでいる手がクッソ硬い…! 手の平に刃が1ミリも入って行かない!!

 ダメだ、野郎が身構えた状態で攻撃してもダメージが通らねえ!

 ≪白≫の速度と≪黒≫の防御力が合わさって本当に鉄壁過ぎる。


「君達が我を過小評価しているのか―――」


 掴んだヴァーミリオンをグンッと横に振られると、それに引っ張られて俺の体が宙に浮く。踏ん張ったのに、それを無視して凄まじい力で横に体が持って行かれる。


「それとも自分達を過大評価しているのか―――」


 振られた先には―――ガゼル!?


「バッカ!?」


 どうやら、俺がジェネシスに斬りかかったタイミングで同時に突っ込んで来ていたらしい。

 全速力で走り込んで来ていたガゼルが急に止まれる訳も無く…そして振り回されている俺もどうしようもなく。


――― ゴガッ


「ぐィッ!!?」「ぃってえ!?」


 ジェネシスがヴァーミリオンを手放し、解放された俺はガゼルと(もつ)れ合うようにして吹っ飛びながら地面を転がる。

 起き上がるなりガゼルが怒りなさった。


「アホかチビ!? あっさり迎撃されてんじゃねえ!」

「お前こそ今のは良い感じに避けろや!?」

「無理だ!!」

「だろうねっ、知ってました!!」


 ぶち当てられた上に地面転がされたけど、食らったダメージはちょっと痛い程度。真希さんの張ってくれた不可視の盾様々ですな。

 言い合いをしていても俺達の意識はジェネシスや、周りを飛び回る巨腕に向いている。

 だから、氷の巨腕が俺等を狙って動いている事も分かっている。

 2人同時に殴り飛ばそうと、右後方から突っ込んで来る。

 視線でガゼルに合図を送ろうとしたが―――その必要はなかった。

 後方から飛んで来た魔弾が、俺達に近付いて来る巨腕の進路上で連続して弾ける。


――― パンドラ!?


 地面で魔弾が爆ぜた場所から、重機用のような太い鎖が生えて来て氷の腕に様々な角度から何重にも絡みつく。

 巻き付き、重なり、更に絡みつく。

 2秒とかからずに巨大な鎖の塊となって重量を抱えきれずに地面へと落ち、そこを獣のように更なる鎖が襲いかかり地面に縫い止める。


「御2人とも、戦場で遊ばないで下さい」

「「ごめんなさい」」


 ……パンドラの目が冷たくてちょっと泣きたくなった。

 いや、凹んでる場合じゃない。

 スイッチを切り替える様に気持ちを素早く立て直す。

 

「ガゼル、取り巻きの“腕”は皆に任せよう」

「オーケー、俺達はその間に野郎の首を貰うって訳か」

「そのとーし!!」


 ヴァーミリオンを鞘に収め、【空間断裂】の放つ構え。

 ガゼルは姿勢を落として緩やかに槍を構える。どこにも力を入れているようには見えないが、どこにでも力を入れられる自然な構え。

 俺達が今すぐにでも攻撃に入れる状態になっていると言うのに、向き合うジェネシスはだらんと腕を下げ、深い溜息を吐いていた。


「これだけお膳立てしても、まだ本気を出さんか?」

「………」


 無言で返す。

 っつうか、「本気を出せ」って言われてもねぇ……。他の連中はともかく、俺の本気は出し惜しみしなきゃならない理由がある。

 俺の本気とは勿論“魔神”になる事だが、浸食の刻印の関係で使っていられる時間はそれ程長くない。もし刻印が心臓まで届いたらそれ以上は戦えなくなるだろうから、その瞬間までにジェネシスの首を落とさなくてはならない。1秒だって無駄に出来ないのだ。

 ―――なんて事を悠長に言っていられなくなった。


「貴様等が力を出すまでは出来る限り大人しく見守ろうと思っていたが、それもここまでだ。もう少し我慢しようかと思ったが、こんな児戯に付き合わされては我慢ならん。貴様等がそれで良いと言うのなら―――そのまま死ね。力を発揮出来ずに朽ち果てるのも、獣の糞尿にも劣るこの古き世界の最後にはお似合いだ」


 ここに来て始めてジェネシスが見せる蔑みの目。

 無条件に心の内側に叩き込まれる視線に混じる殺意。

 一瞬足が震えて動けなくなった。【精神干渉無効】を備えている俺がビビったって事は、何かしらの異能を使われた訳じゃない。俺の心が、奴の殺気に一瞬押し負けたんだ…。


「“古き世界に終焉を”」


 空間がひび割れる。


「“新しき世界に福音を”」


 ジェネシスの全身に青、黒、白の入り混じる刻印が浮かび上がる。


「“世界の全てをこの手の中に”」


 分かる―――。

 世界が……この世界その物がジェネシスに怯えているのが分かる。


「“我が力を示す”」


 ジェネシスの体から、何かが解き放たれる。

 それが何かは分からない。

 魔神の力か、あるいは破壊衝動か、はたまた破滅を呼ぶ意思なのか。だが、それは目に見えるオーラとなってジェネシスの体から噴き出した。


――― 殺される


 俺が認識出来るのはその1つ。

 無意識に口が動いて、魔神に至る為の言葉を紡いでいた。


「“烈火の如く”」


 心の中で精霊王の声が響く。


『気を付けなさい』


 言われなくても分かってる。むしろ、こんなヤバいのを目の前に、気を抜く事なんて出来る訳無い!


「“灼熱の如く”」


 今度は心配そうな白雪の思念が流れて来る。


『父様……』


 心配そうな声出すなっての……コッチまで不安になる。

 パンドラのエプロンドレスのポケットの中に居る白雪に「大丈夫だ」と短く返す。


「“世界の全てを赤く染め上げる”」


 肉体が魔神へと昇華した事を示す赤く光る刻印が全身に広がる。

 隣のガゼルが、「なんだ、本気出すのか? じゃあ俺も」みたいな視線を送って来ていた。


「“我に力を”」


――― 魔神覚醒


 空間のひび割れが急激に広がり、割れ目から赤い光が漏れる。

 バキンッと頭の中で何かの枷が外れる様な感覚。

 今まで見えなかった世界が俺の中に入って来る。

 全能感と共に体の奥底から力が噴き上がり、思わず剣を握る手に力が入る。

 ……あれ? 魔神に意識を引っ張られる感覚がない? いつもみたいに破壊衝動が襲って来るかと思って身構えて居たのでちょっと拍子抜け。【精神干渉無効】で防いだのか、精霊王が俺の精神を護ってくれたのかは分からないが、何にしても無いなら有り難い。

 俺が魔神へと創り変わったのと同時に、横でガゼルが変身を始めた。


「【竜王降臨(ロードオブドラゴニス)】」


 真横から凄まじい圧力が吹きつけて来る。

 純粋な竜種を越えた力を持つ混ざり物の竜。

 竜の力を極めし、神へと至る進化の階段に足をかけた本物の怪物。


――― 竜王


 額に3つ目の瞳が現れ、背に3対の翼を持ち、頭上には冠の如く伸びる大小5本の角。

 魔神と竜王。俺達2人のその姿を見て、ジェネシスが先程の蔑みの目を止めて満足そうに頷く。


「ようやくか。だが―――それで良い。さあ、始めようか? 本当の戦いを」


 受けて、俺達も全力の声で返す。


「上等だぁッ!!!」「覚悟しな!!」


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