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14-33 世界の命運を賭けて2

 氷の巨碗が、俺を人形のように乱暴に掴んで握り潰そうと力を込めてくる。

 あ、ちょっと待って…思った以上に結構力強いわこの腕!

 潰されまいと肉体強化スキルを全開にして抗ってみるが、押し返す事が出来ない。ギリギリ押し留めるのが精いっぱい…!

 炎を出してもう1度溶かして消そうとするが、それより早く助けが入った。

 白い槍が、空気の壁を音より早く切り裂いて飛来し、氷の腕の親指の付け根に突き刺さり、手の甲に突き抜ける。

 枯葉が落ちるように親指が地面に落ち、俺への拘束力が弱まる。


「っし!」


 【火炎装衣】で無理矢理体を動かすスペースを作って氷の腕から擦り抜けて地面に降りる。


「サンキュー!」

「気を付けろよ」


 俺の礼に軽く答えながら、槍を手元に戻すガゼル。軽い態度とは反対に、その視線は鋭く巨腕達に向けられている。しかし、その本体であるジェネシスを警戒していない訳ではない。

 そんな間に氷の腕は親指が新たに生えて来て、元通りの姿となって俺達の動きを牽制するようにユラユラと空中を泳いでいる。


「さて、そろそろ本気を出してくれそうかな?」


 文字通りの高みの見物を決め込んで居たジェネシスがアスファルトに降りて来る。目を細めて挑戦的な……挑発する視線。

 構図的には「コイツvs俺達」な訳だが、根本的なところでコイツが敵として認識して狙っているのは恐らく俺1人だ。

 俺が動かないで居る事を否定と受け取ったのか、少しだけ不快気に顔を歪ませる。


「≪赤≫を宿して居ながら…随分と火付きの悪い事だ」


 「ふぅ」と小さな溜息を吐いてから、瞬間の沈黙、そして―――次の瞬間、俺の目の前にジェネシスが現れる。

 転移と見間違う光速に迫る程の圧倒的スピード。

 感知スキルがジェネシスにも有効であったのなら、まだ多少は反応出来たかもしれない。しかし、今は感知スキル無しでの自前の動体視力意外に頼れる物がない。

 そして―――現在の動体視力ではその速度に対応出来なかった。それが全ての結果だ。

 振り被られた蹴り。

 回避も防御も間に合わない……!!


――― ゴッ


「…ぅガッ!!!!」


 臓物を丸ごとぶち抜かれたような衝撃が、腹から背中に向かって突き抜けて行く。

 俺の意思とは関係無く発動した【アクティブバリア】が無ければ、本当に腹をぶち抜かれて内臓を辺りにぶち撒けていたかもしれない。

 体が意思を無視して後ろに吹っ飛ぶ。

 ドンッとビルの壁にめり込む程の強さで打ち付けられて、腹からせり上がって来た物を堪え切れずに吐き出す。

 真っ赤な血……。

 内臓を捩じられたような鈍痛が腹から響いて来る。だが、痛みに悶えている時間は与えてくれない。


「立ち止まる暇があるのか?」


 吹っ飛んだ俺に一瞬で追い付き、ジェネシスが追撃の拳をすでに構えていた。

 このままじゃ嬲り殺しにされる…!

 口の中に広がる血の味の不快感を我慢しながら、痺れたように上手く動いてくれない口を何とか動かす。


「【()(バース)】!」


 自分では確認できないが、瞬時に髪と瞳が変色する。

 そして、ヴァーミリオンと鞘が日本刀へと変化。

 即座に【オーバーブースト】で限界以上まで加速し、ジェネシスの攻撃に反応出来る速度を確保する。

 辛うじてだが…壁に張り付いたままの首を逸らせて拳を避ける。

 後ろ髪を何本がかすらせながらジェネシスの拳が壁に突き刺さり、コンクリートの壁を豆腐のように突き破り、衝撃はそれでは止まらず3階部分の壁にまで放射状のひびが走る。

 反撃しろ!

 頭が命令するよりも早く体が動く。

 ジェネシスの攻撃後の一瞬にも満たない小さな隙を狙って、足でビルの壁を蹴って目の前の顔面に向かって全力で頭突きを食らわす。と言っても相手は≪黒≫を体に入れている。【身体硬化】か何かのスキルで肉体が鉄以上の硬度だったら頭突きした俺の頭が割れる。

 だから―――原初の火を同時に放つ。


「…む」


 チカッと黒い光がジェネシスと俺の顔の間に輝き、黒い炎となって燃え上がる。

 ジェネシスに原初の火が効かない事は先日見せ付けられた。だが、それでも、この黒い炎を気にしないなんて無理だ。実際ジェネシスも炎に気を取られ、スキルを使う間を失っている。

 額に意識を集中し、黒い炎のカーテンを突き破り全力でジェネシスの鼻っ柱に衝撃を叩き込む。


「…ぐっ」


 大してダメージを負ってない。だが、鼻の先が赤くなっているところを見るとダメージが無い訳ではない!

 ジェネシスがどれだけ強かろうと、決して何もかもが通用しない訳じゃない。

 魔神になっていない俺の、ただの頭突きでも多少はダメージを与えられる程度には戦える相手だ!

 鼻を押さえてジェネシスが飛び退いて距離を取る。

 逃がすか!

 追撃をかけようとグッと足に力を込めると、腹から這い上がる痛みで全身の筋肉が硬直した。


「クッソ……」


 痛みと一緒に喉の奥から、グツグツと煮えたマグマのように血が上って来る。

 動けるように【ダメージマネジメント】で痛みを全部先送り(ツケ)にしようとするが、その前にフォローが飛んで来た。


「【フェアリーヒール】」


 真希さんが唱えた治癒魔法。

 俺の体が淡い光に包まれて、妖精が舞うように光の粒がクルクルと回る。

 魔法に疎い俺にはどの程度のランクの治癒魔法なのかは分からないが、フィリスが普段使っている魔法よりも格段に上なのは確実。だって、腹から響いていた痛みがスッと消えたし。徐々に…ではなくパッと痛みが消えた。

 真希さんの魔法はそれで終わらない。


「【魔法範囲拡大化(オーバーレンジマジック)】」


 この場に居るジェネシス以外…つまり味方全員の足元に魔法陣が現れる。


「【パワーアドバンス】【スピードエフェクト】【ウェポンパーフェクション】【ウォールオブプロテクション】【センシティブ】【リジェネレート】、そして私のとっておきの【アースガルズ】、最後に【魔法効果永続化(エタニティマジック)】」


 筋力強化に始まり、速度強化、武器強化、不可視の盾付与、感覚器官強化、自動治癒。これだけでも十分過ぎる程の強化なのに、更に最強の防御魔法までかけてくれるとは太っ腹。最終決戦だけあって真希さんも出し惜しみ無しだな。

 ディレイ無しでこれだけの支援魔法(バフ)をばら撒けるのは、世界広しと言えど真希さんくらいしか居ないだろう。

 真希さんが今まで動いてなかったのは、恐らくこの支援魔法を一纏めに出す為の準備をしていたからだ。

 真希さんの魔法は“唱える”と言うよりは神器から“取り出す”感覚らしい。1つ1つチマチマ支援魔法を出して居たら、途中で横槍をぶち込まれるのは確実。だから、横槍を投げ込まれる隙もなく一気に唱える準備をしていた…って感じの話だろう多分。



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