表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
458/489

14-32 世界の命運を賭けて

 雷で形作られたワゴン車のような大きさの巨腕。周囲の空気をバチバチと弾けさせながら手の平を開く。

 次の瞬間―――雷の残光だけを残して消える。


「リョータ逃げて!!」


 カグの叫び声に反応して体が勝手にその場から離脱する。

 俺自身の感知能力には特に危険な物は引っ掛かって無い。だが、消えた相手は雷……≪白≫の属性(エレメント)、その専門家のカグが逃げろと言っているのだから従わない理由は無い。

 そしてカグの注意も、それに即反応した俺も正しかった。

 俺が飛び退くのとほぼ同時に、雷の巨腕の拳がコンマ何秒前まで俺が立って居た地面に突き刺さる。


「あっぶッ!!?」

 

 アスファルトの破片が辺りに飛び散り、衝撃に乗って雷光が辺りに舞う。

 っつか、カグの声が無かったら直撃食らってたかも…! 

 この雷の腕はアレか? 雷その物だから、その速度で動けるってか? しかも、今完全に感知能力を擦り抜けられた…! そう言う能力が有る事は前々から知ってるけど、今の俺の感知能力を擦り抜ける事が出来るなんて予想外…。いや、でも相手は魔神その物ですもんねぇ…。


「アーク様、離れて下さい!!」


 フィリスの声が飛んで来た。

 言われた通りにバックステップで更に雷の腕から離れると、雷の拳が突き刺さっている地面から水が噴き出し、水球となって雷の巨腕を捕らえる。

 ユグドラシルの枝を振った訳では無く、≪青≫の大精霊に貰った力による水の操作。

 水球は雷の腕を捕まえただけでは終わらない。

 纏っている雷を水の中に強制的に流させ、その力を奪い急激に弱体化させる。

 漏電させるとは考えたな…。とは言え、電気の文化のないコッチの世界でこんな戦い方思い付くとは思えねぇ…。多分カグかパンドラが「こんな戦い方もある」って教えたんだろう。


「そのまま、水に呑まれろ!」


 水球全体がパチパチと帯電し、更に腕からエネルギーを吐き出させようと渦巻く。

 そのまま巨腕の1本が消えてくれれば良かったんだが、ジェネシスの引っ張り出した物がそんな弱点を突くなんて正攻法でアッサリ倒れてくれる訳も無く―――…。

 突然、ドンッと水球が弾け、小雨となって俺達に降り注ぐ。


「……くっ、そう簡単にはいかんか」


 シューシューと蒸気を上げながら、雷の腕が挑発するようにクルッと1回転してから、指を怪しく動かして見せる。

 1つの攻撃を何とか(しの)いだと言っても一息吐いて居る余裕はない。

 俺が意識を他の巨腕に向けた時には、相手はすでに行動を起こしていた。


――― 目の前に迫る岩石の腕


 視界一杯を埋め尽くす岩の壁。

 この岩石の腕も感知スキルでは捉えらねえのかよ!? 感知スキルが使えなくなった時用に多少は訓練してるっつっても、やっぱり反応が遅れる…!

 幸いだったのは、雷の腕程の速度は出て居ない事。

 地面スレスレを砲弾のように俺に突っ込んで来る岩石の巨腕。辛うじてだけど、回避と防御のどっちも選べる余裕がある。

 でも、俺が反応するまでもなかった。何故なら―――


「ジャスティスパーンチッ!!!」


 空間転移と見間違うような踏み込みの速度で巨腕に追い付いたJ.R.が、必殺の拳を振り被っていたから。

 ただのパンチにしか見えないのに、異常に威力があるパンチ。

 岩の体を水に手を突っ込むように軽々とぶち抜き、巨腕を砕いて吹き飛ばす。


「だぁっしゃぁ!!!!」


 体を構成していた岩石の3割程が粉々になって辺りに飛び散り、残った7割の塊は反対車線を突き抜けて向かいのビルの中に突っ込んで行った。

 ……偽物と解っていても、新宿の街が壊れるのは色々と複雑な気分だ。

 っと、感傷に浸っている場合じゃねえっつうの。

 腕2本が俺を狙って来たって事は、最後の氷の腕も―――


「来るって事ですよねぇ!!?」


 俺の頭上から冷気を振り撒きながら氷の巨碗が落ちて来る。

 仲間に守られてばっかりじゃ俺も恰好付かねえし、この腕は自力で何とかしよう。

 ヴァーミリオンから片手を離し、手の平で炎熱を転がす。熱を内側に向けて放出し、中心で渦を巻くように回転させる。

 ピンポン玉程の大きさになった炎と熱の塊。

 あまりにも頼りない大きさのそれを、上から迫る氷の巨腕にピンっと弾いて飛ばす。


「ほい」


 氷の腕は打ち上がって来る炎熱の球をヒョイっと軽々と躱す。

 そのまま俺に向かって拳を握り落下して来る。

 フィリスと真希さんの2人が、すかさず俺を守ろうと行動を起こそうとするが、視線でそれを制する。

 俺まで1mの距離まで近付いた氷の巨腕。

 俺は避けない。

 何故なら避ける必要がないから。

 俺は防御もしない。

 何故なら防御の必要がないから。


――― グシャ


 俺の体は氷の腕の拳をもろに食らってペシャンコになった―――ように見えただろう、周りから見ていた皆には。

 だが、実際の俺は潰されてなど居ない。それどころか、すでにそこには居ない。

 空中。

 先程放り投げた炎熱がドンッと腹に響く爆音を立てて弾け、その炎熱の中から俺が現れる。

 「イッツ、マジーック」とかやりたい訳ではない。

 これはアレだ、ゴールドの使ってる熱源から別の熱源に飛ぶ奴だ。

 ≪赤≫の大精霊を体に入れた事により手に入れた【赤を統べる者】のスキル。コイツは、炎熱に関連するスキルの詰め合わせみたいなスキルらしい。俺が元々持っていた【バーニングブラッド】や【炎熱無効】、それにヴァーミリオンに付与されている【炎熱吸収】や【レッドペイン】なんかも全部このスキルの中に含まれている。ぶっちゃけこのスキル1つあれば他のスキル要らなくね? ってくらい凄いって言うかヤバい。

 まあ、流石に魔素に発火する【魔炎】や、原初の火を操る【終炎】までは含まれてないけど。


 ま、それはともかく…。


 氷の巨腕が潰した俺は、ただの人型に成型した炎だ。

 地面と拳の間でチロチロと燃える小さな残り火。あまりにも弱々しい火だが、それには俺の意思が通っている。

 瞬間―――ブワッと残り火が膨れ上がり、獣が獲物に噛み付くように氷の腕を一瞬で覆う。

 しかし、氷の腕も溶かされまいと頑張っている。

 だが無駄だ。

 今までの俺の炎だったら防げたかもしれないが【炎熱究極強化】でアホみたいな熱量を一瞬で捻り出せるようになった俺の炎には抗えない。

 徐々に表面の氷が削り落ちるように溶け始める。

 そこから更にもう一手。氷が溶けた水分を【赤を統べる者】の中に含まれるスキルの1つ【液体発火】で、ただの水をガソリン以上の発火剤に“作り変える”。

 燃える。溶ける。更に燃える。もっと溶ける。

 2秒もすれば氷が耐え切れずに亀裂が入る。そこから内側に向かって熱量を捻じ込む。

 内側を溶かして砕きやすくなったところに―――ヴァーミリオンを振り降ろす。


「砕けろや!」


 甲高い破砕音と共に、真っ赤な炎に包まれた巨腕が小さな欠片となってアスファルトに飛び散る。


「うっし」


 これで岩石の腕と氷の腕の処理完了、残りの雷の腕は専門家のカグと漏電攻撃が有効っぽいフィリス辺りに任せよう。

 コッチは親玉の首を取りに行く!

 未だ空中で見物を決め込んでいるジェネシスに向かって突っ込む。

 ジェネシスは俺の攻撃に対しての反応を欠片も見せず、ガッカリしたような目を向けながら呟く。


「そんな不用意に飛び込んでいいのか?」


 言葉の意味を理解するより早く、体を何かに掴まれた……いや、握られた(・・・・)


「はっ? ぎぃっつ…!?」


 凄まじく冷たい巨大な指が俺の体を握って拘束している。

 おい、ちょっと待って!? これ、俺が3秒前に砕いた氷の腕じゃん!?


「言い忘れたが、その腕は死なないし消えないぞ」


 先に言っとけや!!

 横目で見ると、地面から這い出て復活した岩石の巨腕とJ.R.が殴り合っていた。

 なるほど、つまりこの巨腕はゲームのラスボスに有りがちな“無限取り巻き”か。ラスボスが倒れるまで何度でも現れてボスを守り続けるクソ鬱陶しい奴…!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ