表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
454/489

14-28 時は来た

 夢を観ている。

 現実と夢の境界線上にある虚ろな白い世界。


――― 戦うの?


 ああ。


――― きっと、今まででとは比べ物にならない強敵です。


 知ってる。


――― 勝てますか?


 知らん。やってみなけりゃ分かんねえ。


――― でも、信じてますよ。


 信じられても困るんだが…。


――― だって、今までだってどんな困難も切り抜けて来たから。


 今回も切り抜けられればいいんだがね…。


――― 大丈夫ですよ、きっと、貴方なら。



*  *  *



 目が覚めると、ロイド君の家だった。


「んー…よく寝た」


 体を起こして伸びをすると、いい感じに気持ち良い。

 精霊達の力を受け取ってから、精霊達はさっさと疑似的な肉体を潰してそれぞれの宿主の体の中に消えて行った。

 パンドラ、フィリス、カグの3人はガゼル相手に精霊から貰った力を確かめに行ったし、白雪は亜人達の手伝いに行ったし、俺は再び暇になった。

 特にやる事もなかったので白雪と一緒に手伝いをしようかと思ったが、亜人達に「今日は疲れる様な事をなさらないで下さい!」と言われて結局何もさせて貰えなかった。で、仕方無く昼寝をして待つ事にした。

 果報は寝て待て―――は意味がちと違うか…。

 まあ、ともかく決戦当日だっつうのに、俺は優雅に惰眠を(むさぼ)っていた。

 あー昼寝最高! ………って、それは良いんだけど…なんか変な夢観てた気がすんな?

 白雪―――は、寝てる俺に気を使ったのか精神の接続切ってるか…。

 精霊王様?


『呼びましたか?』


 あ、はい、なんか夢見てたんですけど…。


『ええ、知っていますよ』


 あれって…。


『貴方の考えている通りです。それは夢ではありません、もう1人の貴方……この体の本来の持ち主の意識と話していたのです』


 !? って事は、ロイド君の意識は生き返ったのか!?


『正確にはまだです。今はまだ精神の卵にひびが入っただけの状態、そこから雛が出てくるにはもう少し時間が必要でしょう』


 ……そうですか…。


『ただ、精神の再生が異常に早い事には私も驚いています』


 え? そう…なんですか?


『ええ。それは恐らく貴方の影響と思われます。貴方と彼の精神は繋がっていますから、貴方の心の揺らぎが彼の心を刺激し、記憶と記録の積み上げが格段に早くなっているのでしょう』


 そっか……ロイド君も順調に生き返る為の階段を上ってくれてるみたいで安心。

 さてさて、そのロイド君が戻った時に世界が終わってたなんて事にならんように頑張らないとね?


 外を見ると―――空が茜色に染まっていた。

 もうすぐ陽が落ちる。


『そろそろ≪無色≫の指定した時刻ですね?』


 そッスね。

 ベッドから降りてテーブルの上に置いてあったベルトを巻いてヴァーミリオンを腰に差し、赤いパーカーに袖を通す。


「うっし」


 体の奥底から溢れ出る闘志を落ち付けるように1度深く息は吐く。


「行くか」


 独り呟いて、いつも通りの足取り、いつも通りの出掛ける手順で外に出る。

 夕闇と、少しだけ冷えた空気を妙に心地よく感じる。


「あ、起きた」「時間通りの起床です」「アーク様、おはようございます」「“おそよう”じゃないんですの?」「もう少し遅かったら叩き起こしに行こうと思ってた。命拾いしたなチビ」


 俺が起きて出て来るのを待って居たかのように……っつか、実際起きるのを待ってたらしい皆が家の前に居た。

 カグ、パンドラ、フィリス、白雪、ガゼル。皆欠片も悲壮感や不安、それに緊張した感じがない。俺が寝ている間に、皆ちゃんとやるべき事をやって決戦の準備を済ませたからこその戦士としての精神の境地。

 そこに居たのは更に2人、


「チッ、ショタ君が起きてしまったか……もっと早く寝込みを襲いに行けばよかった…」「おはようレッド!! さあ、とっても決戦日和だぞ!! さあさあっ正義をしに行こうじゃないかっ!!!」


 真希さんとJ.R.―――現クイーン級冒険者の戦闘力トップ2。

 ……グラムシェルド待ち合わせっつったのに、結局待ちきれなくて此処まで来てくれたらしい。手間が省けてありがたい。

 ここに居る俺を含めた8人が、おそらく今の世界最高戦力……つっても白雪は非戦闘員なので実質7人だがな。

 カグ達の後ろには、これから世界の命運を決する戦いがある事知っている亜人達が皆して見送りの為に集まっていた。

 期待や不安の入り混じる皆の視線を逃げる事無く受けとめる。


「おはよう皆」


 軽い挨拶。

 けど、皆が俺の一言の裏にある事実を感じて表情を硬くする。

 つまり―――「決戦の時間が来たぞ」って事だ。


「心の準備はできてっかな?」

「リョータこそ!」「はい」「勿論ですとも!」「ですの!」「出来てない奴が居ると思ってんのかお前は?」「ショタ君の貞操を奪う心の準備なら出来てます」「正義の心はいつでもバーニンハートだぞ!!」


 迷い無い言葉に胸が熱くなる。

 こんな心強い仲間が居て、負ける理由はねえって!

 知らずニッと笑みが浮かぶ。そんな俺を見て、皆も「なんだ余裕あんじゃん?」みたいな顔で笑う。

 亜人の代表達が前に出て来て俺達の前に跪く。


「この世界の未来は、貴方達の手に託されました」

「我等では手の届かぬ力を持つ戦士達よ、どうか未来を勝ちとってくれ!」

「堅っ苦しい言葉は苦手でな、一言だけ。信じとるぞ、≪赤≫の御方の力を、今まで世界を護って来たお主たちの力を」


 皆が力強く頷く。

 と、家の陰からイリスが心配そうに俺を見ていた。

 ユグリ村の皆には、不安にさせるだけだから決戦の事も何も伝えて居ない。だけど、キング級、クイーン級冒険者のトップ達が集まってこんな雰囲気で集まってたら、今日ただ事ではない何かがあるのは流石に気付いて居るだろう。

 視線だけで「大丈夫だ」と頷いて見せると、イリスも小さく頷いて返してくれた。

 大丈夫、ロイド君の体も、心も、きっとお前の所に帰って来るから。俺が、絶対にその未来を勝ちとって来るから…!


「今、世界の未来は間違いなくジェネシスの手の中にある」


 これは誇張ではなく事実だ。……認めたくないけど。


「だから―――」


 右手を強く握り皆に向けて突き出す。


「取り戻すんだ! 奴の手から、この世界の……皆の明日を!」

「「おう!」」「「「「「はい!」」」」」


 皆が応じて右手を握って差し出す。

 先を続けながら、順番に差し出された拳にコンッと拳をぶつける。


 カグ。

 この世界でただ1人“阿久津良太”を知っている、俺の大切な幼馴染。きっと、この先もずっとカグとは一緒に居る気がする。この世界に残っても、元の世界に帰るのだとしても。


 パンドラ。

 1週目と同じ“世界の終わり”を回避する為に過去に来た未来の技術満載の機械乙女(ガイノイド)。思えば、この世界の核心へと触れるキッカケになったのはコイツとの出会いだったな。


 フィリス。

 亜人と出会うキッカケをくれたエルフの女性。先代の≪赤≫継承者の信奉者……ってのは亜人全員に言える事だけど…その影響で俺に対しては下にも置かないくらい礼儀正しい。時々それが煩わしかったり息苦しかったりするけど、今ではそう言う部分が可愛らしいと思えるようになった。


 白雪。

 俺がつけたからってのもあるが、本人の愛らしさもあってその名前を呼ぶ時には妙な愛おしさを感じてしまう。妖精の森から離れて迷子になったところを出会い、今では光る球の幼体から小さいながら人型にまで成長した。きっと、大人になる頃は美しい女性になる事だろう。


 ガゼル。

 魔神なんて想定外の存在が居なければ、間違いなくコイツが世界最強だっただろう。軽口叩くし、女にだらしない軽薄な奴に見えるだろう表面的には。けど、本当のガゼルは結構紳士で、人を気遣う優しい奴だと思う。…まあ、本人に言ったら絶対否定するだろうけど。


 真希さん。

 ショタコン………その欠点さえ無ければなぁ。と思う気持ちと、それが無くなったら真希さんじゃない様な気もする…両方が存在する。まあ、でも悪い人じゃないのだけは確実。それに同じ異世界人ってだけでも話しやすいし。絶対に口にはしないけどこの人の事は結構いい“お姉ちゃん”だと思っている。


 ジャスティスリボルバー。

 まあ、言いたい事は色々あるが、この人に関しては今のままで良いと思う。正義の味方として、ここまで全力で突っ走れるのは正直ちょっと憧れる。いつもなら騒がし過ぎるのは勘弁願いたいが、現状はその騒がしさが心地いい。


 皆と合わせ終えた拳を空に突き上げる。


「行くぞ!」



――― 決戦の時は来た

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ