14-26 力を託されて2
ロイド君の体が、水野と同じ特異体質?
「マジか?」
「マジだ」「マジです」
ガゼルと精霊王が同時に答えた。
どうやら本当らしい……。いや、まあ、実際≪赤≫の魔神を入れた状態で精霊王と≪赤≫の大精霊を体に入れる事が出来てますしね?
驚き過ぎて頭が真っ白だ。
いやいやいや落ち付け。確かに驚いたが、そう言う可能性だって有り得なかった訳じゃねえじゃん?
……でも、そうか…そうなのか…。
ジェネシスが600年なんてクソ程長い時間探していた器。
魔神の継承者としての才を持つ魔力を持たない人間……そして全ての魔神を受け入れられる特異体質。ロイド君もその2つの条件を満たす人間だった。そのロイド君の体に俺が入り、≪赤≫の継承者としてジェネシスの最後の敵として立ち塞がる。
どこまでが偶然で…どこからが必然だったのかは俺にも……誰にも分からないが、こう言うのを因果と言うのだろうか?
「マジなのか…」
ちょっとだけ頭が痛くなって額を押さえる。
まさか、ロイド君がある種の“選ばれし者”だったとは……。散々凡人扱いしてマジスンマセンっした!
心の中で一生懸命ロイド君に「ごめんなさい」している俺に気付いたのか、精霊王が微妙にフォローを入れてくれた。
「そうは言っても、全ての魔神を受け入れる程の容量は持って居ないようですが…」
「そうなんですか?」
「ええ、おそらくこれ以上体内に“力有る物”を受け入れる事は出来ないでしょう」
つまり、水野には劣るって事か…。下手すりゃジェネシスが水野の代わりにロイド君の体を狙ってた可能性に思い至り背筋が寒くなったが…どうやらその心配は要らなかったらしい。
何にしても、決戦前の最終強化はこれが限界って事ね。
「ってか、精霊王様達は大丈夫ですか? 本体を俺の中に移動しちゃったでしょ?」
俺に力を渡してから、精霊王と≪赤≫の大精霊の見かけが幽霊のように薄くなってるし、目の前に居るのに気配とか存在感を欠片も感じない。
「ええ、貴方の近くに居る限りは大丈夫ですよ」
「とは言っても、5mも離れたらこの疑似的な体を維持出来んが…」
「そうか。まあ、問題無いなら良いや」
口にはしないが、多分人間の体の中は精霊達には狭くて息苦しいんじゃないだろうか? まあ、我慢して貰うしかないが、さっさと終わらせて外に出してやりたいもんだ。
胸に手を当てて、この体の中に居る本体に「暫く宜しく」と心の中で挨拶すると「こちらこそ」「宜しく頼む」と心の中だけに返事がした。
「リョータ!?」「マスター」「アーク様!!」「父様っ!!?」
ウチの女性陣が小屋の1つから出て来た。
昼飯を食べ終わったのか、それとも外の騒ぎを聞きつけて出て来たのか…。
「アンタ、どこ行ってたのよ!?」
「散歩。亜人の皆に伝言してあったんだけど聞いてない?」
「それは聞いたわよ! 決戦前のタイミングでどこほっつき歩いてんのって言ってんの!」
別に俺は準備とかねえし…と言う言葉は流石に呑み込む。
「マスターがご不在の間に精霊が訪問しました」
「知ってる…っつか目の前に居るやんけ」
「父様…? 精霊王様と≪赤≫の大精霊様がなんだか様子が変ですの」
白雪が定位置の俺の肩に降りると、挨拶代わりにピトッと甘えてくる。
「2人共俺に力全部渡しちまったからな。外に出してられる体には最低限の力しか割けねえんだよ」
言いながら、指先で白雪の頭を撫でてやる。
俺の発言に女性陣がギョッとして、その顔と勢いのまま俺に吠える。
「ちょっと!? 勝手に留守にしてたくせに、勝手に始めるってどう言う事よ!?」
「…アーク様のする事でしたら文句はありませんが……一言相談があっても良かったのではないでしょうか?」
「マスターの勝手は今に始まった事ではありません」
皆の言葉が地味に刺さって痛い…。
いや、勝手なのは自覚してますけども…だって君等昼飯食いに居なくなってたし…。
そしてガゼルの奴が「自分は止めたんですけどね」みたいな知らん顔してるのがクッソ腹立つ…! あとでケツ蹴っておこう…。
でも、まあ、正直ウチの女子チームが居ない間に俺の事を終わらせたのは良かったと思っている。
あの場に居たら居たで変に心配かけただろうし、事後報告だけで済ませた方が幾分がましだろう。
「まあまあ、落ち付きなさいよお嬢さん達」
「誰がお嬢さんよ…気持ち悪い呼び方すなっちゅうの」
「終わった事をグダグダ言っても仕方無いとは思わんかね?」
「言ってる事は正しいのに、勝手に終わらせた本人が言うと腹立つわね」「同感です」「……この女に同意するのは癪ですが…」「ですの」
女性陣の視線がロシアの極寒の風の如く冷たい。いつもはそんな視線向けて来ない白雪ですら冷たい。……ちょっと泣きたいわ俺…。
「で、そいでアンタ強くなったの?」
「ん~、まあそれなりには」
「それなりって……大丈夫なのそれ?」
そう言われても、貰ったスキルがどの程度機能するのか試してないから何とも言えん。
「マスターの能力が向上した事は喜ばしいですが、御身体は大丈夫なのですか?」
「そうです! アーク様、精霊2人を受け入れて御身体は!?」
ほーら、もう、皆して心配なさる…。
カグがハッとなって俺の体に異常がないか見て来るし、白雪は心配そうに頬に触れて来るし…。
「問題無いよ。なんか、ロイド君の体は特別製らしいから」
「特別製…?」「ですの?」
カグと白雪は分からなかったようだが、パンドラとフィリスは言葉の意味に気付いて驚きの表情(パンドラの変化は微妙だが…)。
「そうですか」
「え? え? どう言う事? 何が特別製なの?」
「マスターの体も、≪青≫の継承者と同じ複数の魔神、ないし精霊を受け入れる事の出来る体質だと言う話です」
「えぇ!? そっ、そうだったのっ!?」
「ああ、らしいな」
俺も今さっき聞いた話だけども。
「つっても、魔神1つと精霊2人で容量一杯になってるらしいが」
「でもでも、精霊王様と炎の人の力両方とも手に入れたんでしょ? リョータもう無敵じゃない?」
「そうな、戦う相手がジェネシスじゃなけりゃ無敵だったかもな」
敵が無いと書いて無敵と読む。
ジェネシスを倒すまでは、無敵だの最強だのは名乗れんわな。
ただ、精霊王の精神攻撃を防御する能力と、≪赤≫の大精霊の炎熱強化のお陰でようやくジェネシスとまともに殴り合える。
圧倒的なパワーとスピードを始めとしとしたスペック差がどの程度埋まったのかは実際に殴り合わなければ分からないが、それでも戦える土俵の上に立つ事は出来た。足りない分は皆と力を合わせて、友情と努力とあとなんかその他諸々の奴で埋める感じで。
女性陣との話が一段落ついたと見て、幽霊のように姿が透き通っている精霊王が「コホン」と小さく咳払いをして注意を自分に集める。
「話を進めて宜しいですか?」
「あ、はい」
村人と亜人達の注目され続けている精霊達が、若干気まずそうにしている。まあ、≪黒≫の大精霊だけはまったく動じてねえけど。
っつか、精霊達にも人の視線を気にする程度の羞恥心はあったのか…。
ま、それはともかく―――カグ達に向き直る。
「次は、お前達の番だ。心の準備は良いか?」
「うん」「はい」「勿論です!」