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14-24 精霊の来訪

 ユグリ村へ戻ると、皆はせっせと働いて居た。

 …改めてこうして眺めてみると、本当に村の規模がでかくなったなぁ……。亜人全員受け入れたから、そらまあ当然っちゃ当然なんだけども。

 とか思っていたら、昨日の“鍋奉行席”に見慣れない物が鎮座していた……と言うか、居た…。

 子供のように見えるかと思えば老人のようにも見え、男に見えたかと思えば次の瞬間には女性に見える。

 感知能力をフル動員しても実態を認識出来ない…。

 横に居たガゼルも同じようで、目を擦って何とか見ようと頑張っている。(しま)いには第3の目まで開けそうなので「多分無駄やぞ」とツッコミを入れておく。


――― 精霊王


 そして精霊王の前には、右から胡坐をかいている炎人間、正座する水の女性、面白そうにキョロキョロしている透明な子供、巨大な岩の塊。

 一見リラックスしているように見えるが、何人たりとも近付けない威圧のオーラを4人共バンバン放出している。

 そんなだからか、対面に座っている亜人の代表3人とユグリ村の村長が縮こまっている。

 ……いや、ってかさ…。


「何普通に(くつろ)いでんの…?」


 声をかけると、精霊、亜人、村長が一斉に俺と隣のガゼルを見る。


「遅いぞ」「随分待たせてくれますね?」「遅い! 何待たせてんのさ!」「……戦う気があるのか貴様は…」


 と四大精霊に怒られ、


「≪赤≫の御方、精霊王様がいらっしゃるのならば先に言っておいていただきたいのですが…」「ま…まさか…伝説の精霊様と会えるとは…」「おい≪赤≫の御方! お偉いさんを呼ぶなら言っとけ!」


 と代表達には泣かれ、


「ロイド、この不思議な方達は誰じゃ?」


 村長だけが状況を把握してなかった。

 ……まあ、精霊信仰でもなけりゃそこまで知られてねえ存在だからなあ。長命の亜人達ですら伝説って言ってるくらいですし。

 つっても、下手に凄さが分かってないからか、精霊達を気にしつつも村人達はいつも通りに農作業やら建築仕事をしている。

 対して、精霊がこの世界での根源に関わる存在である事をぼんやり知っている亜人達は、緊張しているのか動きがぎこちない。

 皆が精霊達に大なり小なりの恐れを抱いている中、1番偉い精霊が俺にユックリとした口調で話しかける。


「また、お会いできましたね?」

「どうも」


 一応目上なのでペコっと頭を下げる。

 すると、代表達もキチッとした俺とは違うちゃんとしたお辞儀をする。ガゼルの奴も帽子を取って頭を下げる。

 挨拶をしたところで本題に戻る―――の前に、かなり薄いが周囲の魔素を吸って精霊達に快適な空間にしておく。


「あら? お気使いありがとうございます」

「いえ。それで何でまたここに……? もう少ししたらコチラからお呼びしようと思ってたんですが…」

「その手間を省く為ですよ。本当は貴方の元へ行こうかと思ったのですが、何やら移動しているようなので、貴方の従者達がいらっしゃるここで待たせて貰いました」

「はぁ…そッスか…」


 一応精霊なりに気を使ってくれた…と言う事らしい。

 まあ、俺としては確かに手間は省けたけども、待ってる間の亜人や村人の心労を考えると、ぶっちゃけ「もう少し空気読め」と言いたい。

 あ…精霊王が若干すまなそうな空気を出してる?

 っと、そう言えばコッチの思考は筒抜けなんだっけ……なんか、すんません…。


「いえ…こちらも人間や守人達への配慮が足りませんでした」


 精霊王が反省したからか、四大精霊も少し気まずそうな雰囲気を出す。……≪黒≫の大精霊だけは「知った事か」な感じだが。

 反省してくれたと言うのならこれ以上言うのは馬鹿だな。さっさと本題に移ろう。


「それで、≪赤≫の大精霊から精霊王様達の力を貸して貰えるとの事でしたが?」

「ええ。その為にここに居ます」


 よかった…。このタイミングで「嘘です」とか言われたら、本気で原初の火を叩き込んで精霊を全殺ししていたかもしれん…。

 で…だ。さっき飯を食いながらガゼルに言われた事を訊いてみる。


「それで、俺に力を付与して貰うって事は出来ませんか?」


 正直、否定される事を前提にしてダメ元で訊いた事だ。

 ガゼルに言われた通り、俺が現状から少しでもパワーアップ出来るならそれに越した事はないが、世の中そんなに甘くないだろう…兎角(とかく)この世界は。


「それについては私達も考えました」

「え? そうなんですか?」

「ええ。と言うのも、貴方は唯一この世界に残った希望。もし貴方の体に有る≪赤≫の魔神が≪無色≫に奪われればその時点でこの世界は終わりです。先程ユグドラシルの聖域の様子も見て来ましたが、守人の数が減ったせいで結界が脆弱になっています。おそらく、今の≪無色≫でも簡単に突破されてしまうでしょう」

「でも、ユグドラシルには精霊王様達が張った封印があるのでしょう?」

「勿論です。しかし、その最後の守りも貴方の≪赤≫が奪われればすぐに破壊されてしまう」


 事態の重さを改めて実感させられたのか、代表達が縋るような目で俺を見て来る。そんな目で見られても困るんですけど…。

 まあ、全力は尽くすし、出来る限りの事はしますけどね?


「ですので、私達としても貴方の能力を強化する点については諸手を上げて賛成です。何より、≪無色≫の振るう私の精神に干渉する力は人間達の魔法やスキルでは防ぎようがない攻撃です。ですので、貴方には私の力を持って居て欲しいのです」

「はい」


 冷静に返事をしてみたけど、そりゃそーだわな…。

 ジェネシスの精神干渉を使えば、かつてのカグのように人間を操る事が出来る。もし仮に俺が操られるような展開になれば、その瞬間にジ・エンド。それを防ぐ為には同質の力である精霊王の力を俺も持って居なければならない。

 それに、防御不能の【精神破壊(マインドブレイカー)】に対しての防御って意味でも、確かに精霊王の力は欲しい。


「ただ、実際に貴方に私達の力を渡せるかどうかは、やってみないと分かりません」


 無理って一刀両断されないって事は、そう出来る可能性が何かしら有るって事かな?


「じゃあ、やるだけやってみましょうか?」


 無理なら無理で、その時は俺も覚悟決めて挑むし、ジェネシスの精神攻撃は……まあ、警戒しつつ気合いで防ぐ感じで…。

 っと…なんか精霊からの力の受け渡し始めそうな感じだけど、ウチの女性陣どこよ?


「貴方の従者達なら、先程ランチを食べて来ると言っていましたよ」


 精霊が訪ねて来てんのに、優雅に飯食ってる場合か…。いや、俺等も食って来ましたけども…。

 横に居たガゼルが「呼んでくるか?」と気を使ってくれたが、急かしても仕方ねえし、パンドラ達の事は飯食い終わった後にしてコッチの方を済ませてしまおう。


「始めましょう」

「そうですね。では、コチラに」


 言われて四大精霊の横を通り過ぎて精霊王の隣に立つ……ってか、今更だけど仕事してる皆も俺に注目してて視線が痛い……ユグリ村の皆の事もあるし、せめて場所移動して貰えば良かった…。っつっても、始めちゃったら途中で止めらんねえけども…。


「無理だと感じたらすぐに言うんですよ?」

「分かってます。600年前のジェネシスみたいに体崩壊したら洒落にならんので」


 精霊王の手が俺の胸に触れる。

 その手から目には見えない何かが流れ込んでくる。

 暖かいような冷たいような……何とも言えないエネルギーの流れが、俺の中に巡っていた≪赤≫の力に混ざるようにして全身を回り出す。


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