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14-23 昼休憩

 リーベルさんが驚きのあまり気絶して、そのまま目を覚ます様子がなかったので、シスターと一緒にリーベルさんが用意してくれていたらしい朝ごはんを2人で食べた。

 お腹が空いてたので大変おいしゅうございました。飯食おうにも金は全部白雪のポケットの中だから困ってたんだよねぇ。流石教会、救われぬ者も救う神の家、ありがたやありがたや。

 七色教にはまったく興味ないが、帰りに手を合わせて帰ろう。……いや、教会相手にそんな仏教的な感じのアレで良いのかは分かんないけども…。


 朝飯を御馳走になったお礼に、ササル村周辺の魔物を【告死の魔眼(デスゲイズ)】全殺しにして、ついでに周囲半径10kmの魔素を【魔素吸奪】で吸い尽して置いた。

 これで暫く魔物は出ないし、魔素の薄さを嫌って近付いて来る事もない。

 ササル村には冒険者ギルドが無いから、必然冒険者もあまりよりつかない。リーベルさんはここに常駐しているようだけど、多分冒険者として手は圧倒的に足りてない。

 俺の予測だと10日くらいは魔物は出ない筈。村の皆が安心して欲しいってのもあるけど、リーベルさんが少しは楽になってくれると良いんだが…。

 村人達に会うと色々気を使わせるので、パッと終わらせて移動した。



*  *  *



 次に行ったのはアルフェイル…の跡地。

 ボロボロになって誰も居なくなった大森林を1人で歩く。

 途中で魔物を何匹か見つけたので、これ以上荒らされないように適当に処理しつつ災害後のような姿の森を目に焼き付けた。

 この姿は、きっと俺が奴を止められなかった後のこの世界の姿だ。……いや、実際に訪れる未来はもっと悲惨だろう。少なくても、まともに生物が生きていけるような状態ではなくなる。

 俺は、その未来を退ける為に―――この凄惨な有様になった森の民の里を目に焼き付けた。



*  *  *



 俺が最後に行ったのは、隣国グレイス共和国にある妖精の森跡地だった。

 白雪の故郷だった場所。

 元々は、美しい木々や草花の咲き誇る、妖精達の住まうに相応しい幻想的な森だったらしいが……今は薙ぎ倒され、押し流された木々がそこらに散らばる無残な泥に塗れた湿地帯になっていた。

 ここは、ガゼルと出会った場所であり、水野と初めてエンカウントした場所であり、カグと俺の体を使うジェネシスと会った場所であり、パンドラを失いかけた場所。

 運命なんて月並みな言葉は使いたくないが、もしそんな物があるのだとしたら、この場所が俺の運命の分岐点だったんじゃなかろうか?

 ……まあ、ぶっちゃけどーでも良いんだけどさ。

 どんな運命が転がって居ようが、俺に出来る事は目の前にある問題を全力でどうにかする事だけだ。その結果、どんな目が出るのかはそれこそ“神のみぞ知る”って奴だ。


「よし」


 1人で頷く。

 色々見て回って、色んな人の顔を見て、体の奥底にこびり付いて居た物が綺麗に無くなった気がする。

 覚悟が決まった…と言うのとは、また少し違う精神の境地。

 ジェネシスがどんな化物だろうと、倒す以外にこの世界を―――皆を護る手が無いと言うのなら倒す。

 うん、よし。今の精神状態なら、余裕で神だろうが魔王だろうがぶん殴れる気がする。

 我ながら納得のいく万全の状態じゃないか! と1人で自画自賛していると、後ろから突然声をかけられた。


「1人で何してんだお前…?」


 どこかで見たような男が立って居た……っつうかガゼルだった。


「え? 何してんのお前?」

「それは今俺がお前に言った事だろうが…」


 テンガロンハットの位置を気にしながら、むっさ呆れた顔をしなさる。まあ、それはともかく…。


「俺は朝の散歩の最中だ」

「朝って…お前何時(いつ)から出歩いてんだよ…? もう昼の鐘が鳴るぞ?」

「色々回ってたからな。で、お前は? 東天王国となんやかんやしてたんだろ?」

「ああ、一応アチラさんが賠償金支払うって事で纏まった」


 話し合いってもっと時間かけてやるもんじゃないの? コッチの世界の話し合いってこんなアッサリ話が進むもんなの? ウチの世界の会議とかも見習って欲しいんですけぉ。

 つっても、世界滅ぼすレベルの怪物が話し合いの場に混じってたら、そら、まあグダグダ言う馬鹿も居ないだろう。


「そうか、よかったな…」


 物凄く棒読みになったが、ガゼルは流してくれた。


「そんで何よ? 話し合い終わってなんでこんな場所に?」


 こんな場所つったらアレだけども。妖精達に怒られるかもですけども。


「時間見つけて来るようにはしてんだよ」


 少しだけ悲しそうな目で荒れ果てた森の跡地を見る。


「……まだ、ちゃんと弔えてない妖精達が居るからな…」


 水野とのエンカウント前に助け出せる妖精は助けたが、遺体までは能力で探せなかったので今も泥の中に埋まっている者も多い。

 もしかして、水野のやった水害で流されてしまった妖精達を時間見つけて探してくれてたのか?

 とか、ちょっと見直してたら、一瞬でいつも通りの軽いノリに戻った。


「時にアーク、お前飯食った? 俺昨日っからクソ鬱陶しい爺共の話し合いに付き合わされてまともな飯食ってねえんだよ…」

「何? 飯の御誘い? 俺もしかしてナンパされてる?」

「しねえよ。たとえお前が世界に1人だけの女だったとしてもしねえよ」


 むっちゃ真顔で即答された。

 まあ、逆に頬を染められても気持ち悪くて困るが…。


「んじゃどっかで飯食うか。俺も昼飯食いてえし」



 ってな感じで近くの町まで移動する事になった。

 ちなみに2人共自前で飛行能力があるので、高速で飛んで移動した。そしていつの間にかレースになった。僅差で負けた。チキショウ!!

 素の状態での【浮遊】の速度じゃ、人の姿のままで竜人(ドラゴノイド)の翼しか出してないガゼルにも勝てねえ…。

 いや、でも、これはアレだから! 俺が雑魚い訳じゃねえから! ガゼルの能力値が化物なだけだから!

 無駄なデッドヒートで地味に疲れた…。決戦前にこんな無駄な事で体力使うって、俺等はアホなのか? アホだな多分……うん…。


 ガゼルが選んだ小さな町を歩く。

 俺は初めて来た町だけども、ガゼルは流石にこの国の冒険者だけあって知り合いが多いらしい……主に女性に…って言うか声かけて来るのが全部女性。

 ちなみに飯屋を探すなら大きな町に行った方がよくね? と俺は思ったのだが、町を歩いてみてガゼルが小さな町を選んで降りた理由が分かった。


「お、おい…あの2人!?」「ガゼルさんと…<全てを焼き尽くす者(インフィニティブレイズ)>…!?」「キング級の2人が一緒に…!?」「ヤバいヤバいって! こんなの一生に

1度見られるかどうかだぞ!?」「お、おう!! しっかり目に焼き付けとけ!」


 むっさ見られてる…。

 こんな小さな町でこれなら、大きな町で2人で歩いてたらどうなんの…?

 そりゃ、キング級冒険者って肩書が、コッチの世界じゃ英雄中の英雄だって事は分かりますけども…。

 にしたってコレはなぁ…。

 この神格化されっぷりは、前任者の露出が極端に少なかった事も理由の一端ですよね? ルナの奴に文句言っても許されるんじゃね? まあ、言ったところで「知るか」って返されるだろうけど…。


 適当に見つけた飯屋に入り、肉やらコンソメっぽいスープやらを2人でモシャモシャ食いながら昨日の精霊の話をする。

 周囲に人の目があったが、ぶっちゃけ事情を知らない人には何話してるのか意味不明過ぎて分からないだろうからスルーした。


「マキとアスラ? 良いんじゃねえの。あの2人なら戦闘能力申し分なしだろ」


 皿に残った最後の肉の一欠片をフォークで口に運びながらガゼルが頷く。


「だろ? んで、それ以外に戦えそうな知り合いって居ねえか?」

「ん~…」


 肉汁を味わいながら視線を空中に泳がせて記憶を辿っている。が、考えないと出て来ないって時点で答えは絶望的だと思う。


「居ねえな」


 ほーらね! 絶対そうだと思った!!


「それなりに戦えるって奴は何人か思い当たるけど、ジェネシス相手に…って意味なら1人も居ないな」

「まあ…だよなぁ」


 溜息を吐きそうになったが、若干冷めて硬くなったパンを詰め込んで無理矢理押さえる。


面子(めんつ)はこれ以上出せねえだろ。と言うか、お前パンドラちゃん達も連れてくのか? 正直、戦力的には『やめろ』と言いたいんだが?」

「ああ、それな? 実は精霊が力貸してくれる事になってさ、パンドラとフィリスとカグの3人は精霊に能力強化(ブースト)して貰うから多分大丈夫」

「おお、本当か! 俺も精霊についてはそこまで知識はないが、それ相応に強いんだろ?」

「まあ、そうだな。つっても過度の期待はしない方が良いぜ? 力貸せるのは四大精霊と精霊王の5人だけだし、原初(オリジン)を失ってるから本来の能力の半分以下だし」

「それでも、ジェネシスとの戦場に立てるラインにまで強化されるなら十分過ぎる」

「それは言えてる」


 この世界では絶対的な個が量を圧倒してしまう。だが、だからと言って数の有利が無い訳ではない。100の能力の敵に対して1の味方をどれだけ集めても敵わないが、30や40の味方ならば確実に数の利がそこには生まれる。


「で、パンドラちゃん達3人で強化枠が3つ埋まって、残り2つはどうするんだ?」

「うーん、そこが悩んでるところでなぁ…。真希さんはどっちでも良いって言うし、J.R.は要らねえって言うし…。ガゼルは欲しいか精霊の力?」

「俺もアスラと同じく要らんなぁ。竜人としての能力で戦い方が固まっちまってるから、横から能力足されても上手く()かせる気がしない。だったら、その分は他の奴にやってくれ」


 らしい答えを言いなさる。

 正直、ガゼルが強くなってくれんなら凄ぇ心強かったんだが、本人が要らないし能力を活かせないってんなら無理に渡しても仕方無い。


「と言うか、1人忘れてないか?」


 ガゼルに言われて首を傾げる。

 え? 何を…ってか誰を忘れてるって?


「誰って? 能力渡す候補?」

「そう」

「え? 誰?」

「お前だよ馬鹿」


 え? 俺ですか?


「なんで俺?」

「馬鹿野郎……。今回の戦いのお前の役目はチェスのキングだ。お前がやられればその時点で終わる。だが逆に、他の誰が倒れたとしてもお前さえ無事ならば負けじゃない」

「まあ、それは分かるけども…」

「だったら、まず最初にお前の強化を考えるべきだろうがアホ!」


 誰がアホじゃ! と言う返しは一旦呑み込む。


「でも、精霊の力は魔神と同じ枠らしいから、1人の人間に1つしか入れられねえって」

「可能性の話だろ」

「ぁん?」

「…とりあえず無理と決めつける前に試してみれば良いんじゃねえか? って話だ」



 その後、昼食を終えた俺達はユグリ村へと戻った。


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