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14-21 軌跡を辿って3

 「そう言えば、ツキオカさんが君に会いたがってたよ」とアルトさんに言われ、ゴールドを連れて即座にソグラスをあとにした。……いや、だってあの人にエンカウントすると碌な展開にならんし…。

 あの人の根は悪人じゃねえ……と思いたいけど…結局エンカウントすると俺に被害が来るのでやっぱり出会いたくない。

 っつー訳で、守銭奴な悪魔が現れる前にダッシュで移動しました。

 キング級の冒険者が避けたい相手って結構な物ですよ? それが自慢になるかどうかは知らんけども…。

 移動はやはり【魔人化(デモナイズ)】してからの【空間転移】で済ませた。

 そう言えば2度やって気付いたが、【魔人化】しても体が全然疲れない。転移する為だけの1分にも満たない変身だからってのもあるが、体が魔神に慣れ過ぎているせいかな?

 まあ、ともかく次の場所はカスラナ。

 壊れた防壁の修復も順調に進んでいるようで安心。

 顔見知りだった見張りに挨拶をしてカスラナの町に入る。

 そろそろ朝の鐘が鳴る頃と言う事もあり、町を歩く人がそこそこ居る。

 カスラナには俺…っつかロイド君の姉であるリアナさんが居る事はこの町の人達にも周知されている事もあり、キング級の冒険者であっても結構気軽に声をかけてくれる。

 軽く町を眺めるようにゴールドと一緒にブラブラしてから領主邸に向かった。

 しかし、流石に人の家を訪ねるには時間が早過ぎて失礼だな……と思い至ったのは家の前まで来た後だった。

 まあ、良いか…とちょっと寂しい気分をゴールドを撫でて紛らわしつつ(きびす)を返そうとすると。


「アーク?」


 呼ばれて振り返ると、大量の洗濯物の入ったかごを持ったリアナさんが立って居た。


「あ…おはようございます」

「おはよう。どうしたのこんな時間に?」


 少しだけ俺の後ろに居るゴールドを気にしながら走って来た。


「いえ、特に用事って事もないんですけどね? ちょっと皆の顔でも見れれば良いかな~と思って来ただけです」

「……何かあった?」


 特に変な雰囲気を出していたつもりはないが、やはりロイド君の体を使っているからか勘付かれた。って、こんな時間にいきなり会いに着たら、そら不信がられるか…。

 とは言え、「今日世界の命運を決める決戦があります」なんて正直に言える訳もない。


「いえ何も。たまには突然姉さんの顔が見たくなる日だってありますよ」


 心配そうなリアナさんを騙すのは気が引けるが、真実を伝えればそれこそ心配をかけるだけなので、罪悪感は呑み込んで誤魔化させて貰う。


「そう? それなら良いのだけれど…。何かあったらお姉ちゃんに言うのよ?」

「ええ」


 リアナさんも使用人としての仕事中のようだし、さっさとお(いとま)しよう。顔見れてなんか安心したし。


「それじゃあ、これで」

「もう行くの? ゆっくりして行ったら? 領主様もルリ様も会いたがっていたわよ」

「まあ、それはまたの機会に。他にも行く場所があるんで」

「そう? 気を付けて行くのよ」


 手を振って別れる。

 やっぱりロイド君のお姉さんだなぁ。話してると妙に落ち着く。

 人を包み込む雰囲気と言うか…向き合った相手を無条件に安心させるオーラでも出してるんじゃなかろうか? まあ、いつ抱きついて来るんじゃないかとロイド君の体は若干警戒するのだが…。



*  *  *



 カスラナを離れた俺は焦土に立って居た。

 正直、世界で1番来たくなかった場所。知らず動悸が早くなる。


「戻って来た……ってか?」


 俺の罪たる光景。

 俺が未熟である証。

 消滅した街。

 永遠の…“元”永遠の街ラーナエイト。俺の初めての【魔人化(デモナイズ)】で、暴走した末に跡形もなく消し去ってしまった場所。

 俺の心の揺らぎを感じ取ったのか、ゴールドが「クゥン…」と俺を慰めるように体を寄せて来る。

 ゴールドの首元を撫でながら独り呟く。


「少しは償えてんのかな…?」


 俺の罪が(ゆる)される事があるのか無いのか……まあ、どっちでも良いんだけどさ。これまでも、これからもやる事は変わらん。


「ところで………」


 視線を遠くに向ける。

 丁度下層部と上層を繋ぐ坂のあった辺りに、10人以上の研究員っぽい恰好の連中が集まっていた。


「誰だアイツ等?」


 別にゴールドに訊いた訳ではなかったが、律義に俺の言葉に反応して「分かんない」の意思表示に首を傾げていた。

 アチラさん達も、流石にこんな何も無い場所に魔獣と一緒に立って居たら気付かない訳がなく、あっちはあっちで俺達を警戒している空気をぷんぷん出している。

 どこのどちら様方かは知らんが、放置して立ち去る訳にはいかんか…。

 もし悪の組織だったりしたら、きっちりがっつりボコらなきゃなんねえし。

 …それに万が1……いや億が1の小さな可能性として、不老の術を回収しに来た上層連中の仲間って線もある。だとしたら、悪いがここで灰になっていただく事になる。

 俺がゴールドに跨って近付くと、アチラさんも動いた。

 研究員っぽい非武装な奴が手を上げて誰かを呼んだ。すると、元々上層部だった辺りの岩陰から武器を持った別の集団が現れた。

 統制のとれた動きと隊列……どっかの軍人かな?

 武装した連中の中で、武器も鎧も他より1段階上の物を装備している、恐らくリーダー的な偉い人っぽい男が隊列の前に出て、近付いて来る俺に黙って視線を向けている。

 纏め役のリーダーが敵か味方か分からん奴の前に出てくるってのは、一応戦闘する意思はないって事でいいんかな?

 俺が5mくらいまで近付いた瞬間、男がよく通る声で静かに喋った。


「止まりたまえ」


 男の言葉に従う理由はないが、有無を言わさず攻撃するような蛮人ではなさそうなので、こっちも出来れば言葉での解決に持ち込みたい。って訳で、ゴールドの毛を軽く引っ張って足を止めさせる。


「君は何者で、何の目的でここに来たのかな魔獣使い君? 通り抜けたいだけならば、私達に近付いて来る理由はないだろう?」

「魔獣使いじゃねえっつうの」


 俺の無遠慮な返しに、男の後ろに居た武装した者達が苛立ちから少し顔を歪める。


「そもそも、人に何かを尋ねる時にはまず自分が名乗れってパパとママに教わらなかったかな?」

「………」


 しかし返答はなし、誰も名乗る気配もない。

 この時点で、相手がまともな連中ではない事が決定。

 これだけ統制のとれた行動をするコイツ等は、間違いなくどこかの訓練を受けている。それに、そいつ等に護られている研究員っぽい連中だって、手にしている計測器のような魔導器は明らかに素人の手に渡るような物じゃない。

 って事は、コイツ等には行動を支援する大きな“後ろ盾”が居る。だと言うのに、それを堂々と名乗らないってのは、誰がどう見ても怪しい。

 コイツ等がどんな理由で行動してるのかは知らないが、少なくてもこのアステリアで、俺の前で、好き勝手させるつもりはない。

 ゴールドの背から降りて、「ありがとう」と撫でてやる。


「悪いけどさあ、俺、立場上アンタ等を見逃せねえのよ? 事と次第によっては、この場で全員戦闘不能にするぞ」


 言葉の意味を理解させる為に首に提げていたキングの駒を相手に見せる。


「き、キングのシンボル!?」「まさか…この子供が…!?」「焔色の異装に銀色の髪の剣士……<全てを焼き尽くす者(インフィニティブレイズ)>か!?」


 若干疑いの眼差しが混じっているが、それでも一応俺がキング級だって事は理解して貰えたらしい。まあ、俺1人だったらともかく、今はそこらの冒険者が束になっても敵わないゴールドを連れてるしな。

 俺の正体を知って、何人かが武器に手をかけようとする。


「やめときなよ」


 静かに言いながら、全員を取り囲むように炎を撒く。


「うぉ!?」「ぬああ!!?」「炎だと…!?」「魔法…? いや、違う!」

「灰になりたいなら別だけど、そーじゃないなら武器は捨てなよ」


 急かす様に、真っ赤な炎がユックリと時計回りに回転して渦を巻く。

 コイツ等が誰かは知らないが、俺がキング級と知ってなお攻撃してこうようとするってのは大変宜しくない。

 リーダー格の男は、すぐに俺の言葉に従って剣を鞘ごと外して地面に置いた。多分、リーダーが率先して武装解除する事で、俺へのちゃんとした戦闘意思がない事を示し、下の連中には「手を出すな」と言う意思表示にもなる…って事だろう。

 実際、他の者達も武器を捨てた。

 それを確認し、俺もヴァーミリオンを少しだけ抜いて炎を回収して鎮火させた。


「で、アンタ等何者よ? こんな時間にこんな場所で、何をしていた?」


 朝食代わりに炎を食ってご機嫌なヴァーミリオンを鞘に戻す。が、手は柄に置いたままにする。抜くつもりはないが、一応正直に答えて貰う為の相手に対しての威圧行為だ。

 俺の問い掛けにリーダーの男がハキハキとした喋りで返して来た。


「まずは部下の無礼を詫びておく。我々には君との戦闘意思はない……と言うか、()の世界最強の炎術師に挑むような度胸はないよ」


 少しだけ自嘲しながら両手を上げる。

 魔獣使いに続き、炎術師も否定しておこうかと思ったがもう面倒臭いので流す事にした。


「アンタは話し合いが出来るようで何より」


 俺だって好き好んで見ず知らずのオッサン達をぶん殴ったり燃やしたい訳じゃない。


「その言葉をそのまま返させて貰うよ。ここで名高き歴代最強と謳われるキング級冒険者殿に出会えたのは、我々にとって不運よりも幸運の方が大きいかもしれない」

「どう言う意味?」

「我々はアスタグラウト王国の者達だ」


 まったく知らん。どこの田舎だ。

 クイーン級になった頃から色んな国に行ったけど、名前さえ聞いた事ねえわ。


「西方大陸の南部にある小さな国なんだが………知らないかな?」

「無知でスンマセン」


 言う程悪いと思ってない態度で返したが、特に気を悪くした様子は無い。むしろこう言う事には慣れているって感じだ。


「で、そのアスなんたら王国の方達がここで何してんの?」

「我々は―――“炎の厄災(フレア・ディザスター)”を探している」

「……は?」


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