14-20 軌跡を辿って2
先代の墓参りを済ませた後、姫様達と亜人の移住についてアレやコレやと話したり、「そのうち視察団が行くかもしれない」と言われてビクッとしたり、機会があれば姫様も村の様子を見に行きたいと言い出したり……。
チラホラと人が起き出した気配を感じた頃に「急いで城に戻ります」と言う2人を見送って俺も次に移動した。
っつー訳で現在地はソグラスの近く。
ルディエからの移動は、人に見られないように【魔人化】して【空間転移】で一瞬だ。
別にギルドに行けば転移士を呼んでくれるのだが、個人的な要件で人を使いたくない…と言うか気を使うから今日は1人の方が良い。まあ、何よりこの方が早いし…。
魔人の姿を見られる訳にはいかないのでソグラスから近いけど、歩きだと微妙に遠い位置。
生身の転移でパッと行ってもいいのだが、何となく気分で辺りの風景でもみながら行く事にした。
「ゴールド、おいで」
【魔炎】で小さな火を作ってやると、炎が弾けるように辺りに広がり、真っ赤なカーテンの向こう側から赤毛の狼がヒョコッと飛び出して来た。そして、勢いのまま鼻先を俺のお腹に擦り付けて甘えてくる。
「はいはい」
首の下辺りの毛をワシャワシャしてからその背に飛び乗る。
「ソグラスまでひとっ走り頼む」
耳の横辺りを撫でながら言うと、嬉しそうに「ガウっ」と一鳴きして走り出す。
風の如く走る。
舗装されて障害物の無い街道は、ウチ1番の俊足には走りやすくて嬉しいようでご機嫌に速度を上げて行く。
…………風景を楽しむような時間もなくソグラスに着いた。
そして若干尻が痛い…。
俺が降りると、「褒めて褒めて」と撫でられるのを期待する眼差しを俺に向けて来る。多分…いや、きっとゴールド的には俺を1秒でも早く目的地に連れて行こうと頑張ったんだろうけども……今回に関してはもっとユックリで良かったんや…。って、ちゃんとそれを言わなかった俺のミスか…。
ゴールドの首の辺りをクシャクシャっと撫でてソグラスに入る。
街中じゃゴールド引っ込めた方が良いかな? と思ったが、時間も時間で人少ないし、キングのシンボルぶら提げてる俺が連れている分には「なんだ、アークさんのペットか」的な目で見られるようでそこまで怖がられないので良いや。ゴールドももう少し俺に引っ付いていたいっぽい空気出してるし。一応「皆が怖がるから吠えるなよ」と釘は指して置いた。
そしてソグラスの街並み。
復興が進んで、少しづつだが確実に町の形を取り戻しだしている。
こんな早朝からすでに材木を運んでいる仕事熱心な人達が居ると思ったら、どっかで見た顔だった。俺が見ている事に気付いて相手も俺を見る。
空中で視線が交差し、次の瞬間相手が「ヤバい!!」と言う顔で慌てて視線を切って重たい材木を抱えているとは思えない速度で走って行った。1人が走り出すと、俺を見ていた他の作業員たちも死に物狂いのダッシュで走って行った。
あの連中どっかで見た覚えがあるような…?
あっ、思い出した。パンドラの居た研究所を根城にしてた野盗共だ! どうやら、めでたく強制労働者として就職できたらしい。………まあ、給料出ないし、奴隷の呪印で逆らったり逃げたら死ぬらしいけど。
ゴールドを連れて歩いていると、誰かが横から飛び出して来た。と言っても俺もゴールドもとっくに気付いて居たので驚かない。
「アーク君!? 本当に居た!!?」
アルトさんだった。
いつも身に付けている防具どころか、剣すら携帯して居ない。髪も変な跡になってるし、完全寝起きだなこの人。
「どうも。そんなに慌ててどうしました?」
「いや、冒険者仲間が君の姿を見たって慌てて俺の所に知らせに来たから…」
「そんな幽霊でも見たような対応されても…」
まあ、キング級の冒険者なんて幽霊よりも……まあ、アレだけども…。
「いやいやいや、キング級の冒険者がこんな時間にふらっと現れたら、普通だったらビックリするよ!?」
「その点は、まあ、そッスね…」
キング級が居るだけで何か起こると思われるのは毎度の事だ…。一応肩書上は世界最強だからねえ。
俺の事をそれなりに知ってるアルトさんですらこの慌てようなので、色々察して下さいってなもんだ…。
「つっても、別に何もないですよ? 本当にちょっと散歩気分で来ただけなんで」
「いや、でも魔獣を連れているじゃないか?」
「あー…はい…スイマセン」
なるほど。確かに俺と一緒ならゴールドは怖がられる事はないけど、魔獣と一緒に歩いてると、それこそ「何か起こるのか!?」とビビられる訳か。
「コイツは…あー…えーっと、ちょっと運動不足なんで歩かせてるだけです」
凄い適当な言い訳だった。
ゴールドが俺の脇腹を突くように甘えてくる。
「そう…なの? それじゃあ、本当に遊びに来ただけなのか?」
「ええ、本当に」
念押しでようやく安心したようで、「はぁぁぁぁ」っと長い息を吐いた。
「良かった良かった。いや、アーク君が居るのなら魔物だろうが魔導皇帝だろうが、何が襲って来ても大丈夫だと俺達は知ってるんだがね…やっぱり町の外からやって来た人達は不安みたいだからさ」
むしろ、ソグラスでの俺の戦いを知っている人達は無条件に大丈夫だと思っている事の方が驚きだわ。いや、まあ前々からそんな気配を漂わせては居たけども…。
その後、少し歩きながら復興作業の進捗状況やら、冒険者の新人達がようやく独り立ちして来たとか、そんな話を聞いた。
そんな折、眠気顔で家……っつか仮設小屋から出て来た子供が俺とゴールドを指さして騒いだ。
「あー! 魔獣使いのお兄ちゃん!!」
「魔獣使いじゃねえっつうに」
ヴェリスだった。
1秒前までの眠そうな顔が嘘のように、太陽のような輝く笑顔でゴールドの首に抱きついて来た。
「それと、アルトのおじちゃん!」
「おじちゃんは止めてねって言ってるでしょヴェリスちゃん…」
「うん! わかったおじちゃん!」
あ、アルトさんが諦めた顔した。
「あっ、そうだ! おはようございます」
「はい、おはようさん」「…おはよう」
遅ればせながら朝の挨拶を済ませていると、ヴェリスが出て来た小屋からババルのオッサンとアネルの姉ちゃんが出て来た。
「んぉ!? 坊主が居る!?」
「朝っぱらから騒がしいねえ…。坊やが居るくらいで騒ぐんじゃないよ」
同じ塒の冒険者同士だからか、アルトさん達は軽く手を上げあって挨拶を終わらせた。俺に対してもそんな感じでええんやで?
「お2人さん、おはようさんです」
「お、おお…」「おはよう坊や」
アルトさん達は、亜人の引越し云々を伝える為に来た時会ったけど、オッサン達は微妙に久々。
なんか、オッサンも姉ちゃんも初対面の時の刺々しさがとれて丸くなったかな? 雰囲気が柔らかい感じ。コッチの国に腰を落ちつけたからかな?
ゴールドを満足するまでモフモフしたヴェリスに服を引っ張られる。
「ねえねえお兄ちゃん!」
「ん? 何さ?」
「聞いて聞いて! ババルのおじちゃんとアネルちゃんね、今度結婚するんだって!」
「へー」「ほー」
俺とアルトさんが顔を見合わせる。そして―――
「「ええぇええええええええぇぇぇぇぇええええッッ!!!!?」」
くそビックリした!
「結婚て、え? 結婚って結婚ですよね!?」
自分でも意味不明な問い返しをしてしまった。
いや、だってビックリするでしょ! そら、オッサンも姉ちゃんも良いコンビだとは思ってたし、長い付き合いらしいと言う事も何となく聞いて居たが…まさか結婚とは…。
アルトさんも初耳だったようで、2人を交互に指差して口をパクパクさせている。
「あー…まあな」
照れくさそうに、オッサンが頬を掻く。
「厳つい顔で照れるんじゃないよ!」
そう言ってるアネルの姉ちゃんも顔が赤い。
「マジで、一緒になるんだ…」
「ああ」「まあね」
そうか…そうなのか…。
「あー、何と言って良いのか分からんが、とりあえずオメデトウ御座います」
いや、しかし何だ。知り合いの結婚なんて、親戚の兄ちゃんの時以来だわ。
ああ、なんかちゃんと事実を呑み込めたら嬉しい気分になって来た。
「まあ、夫婦になった方が、ガキ共を引き取るのに何かと都合が良いからなぁ」
ガキ共を引き取るって…もしかしてヴェリス達を?
「もしかしてヴェリス達を養子に?」
「流石に全員って訳には行かないけどね…何人かは私等がちゃんと育てようって」
「そっか」
「ババルのおじちゃんとアネルちゃんが、私の新しいパパとママになるんだよ!」
嬉しそうにババルのオッサンに抱きつく。
「おう、良かったな?」
「うん!」
心底嬉しそうなヴェリスの笑顔に、新しい両親も嬉しそうに…それと少しだけ照れくさそうに顔を見合わせた。