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14-19 軌跡を辿って

 鍋パーティーから明けて翌日。

 まだ陽が昇っておらず、時刻は約4:00~5:00ってとこかな?

 ロイド君家の堅いベッドで眠ったが、体が自分の家だと理解しているのか妙に快眠だった。まあ、それは俺の精神的な不安が無くなったからって事もあるけど…。

 ともかく、今日の朝はスイッチを切り替えるようにスッと目が覚めた。【回帰】のお陰で寝起きは常に全回復なのだが、こう言う日はいつもより増して調子が良い事が分かる。

 家を出ると、辺りは山の方から降りて来た霧が薄く森の方まで包み込んで居た。

 そろそろ村の皆が起き出す頃だが、昨日騒ぎ過ぎたせいか人影は見えない―――と思ったら誰かが森の方から出て来た。

 数人の獣人達が辺りを警戒したように歩いていて、最後尾で顔の怖いオーガの若者が物騒な斧を肩に担いでいた。

 全員元奴隷の亜人達だ。

 何事かと思っていたら、俺の姿を見つけて小走りに近付いて来た。


「「「≪赤≫の御方!」」」


 全員が大声を出した後、皆が起きていない事に気付いて「しまった」と慌てて口を手で塞ぐ。


「どうした? なんか出たのか?」


 ここら一帯に魔物の気配はないし、怪しい誰かも居ないのは感知スキルで分かっているが、もしかしたらそう言う物を擦り抜ける奴が潜んでいるかもしれないしな。


「いえ、ただの日課の見回りです。亜人の仲間達の中には、里を襲撃されてからちゃんと眠れていない方達も多いようなので」

「我等は元々あまり睡眠を取らない生活をしていましたので、体に無茶が利きますし」

「ああ、だからと言って嫌々やっているのではないですよ? むしろ、体に無理をさせるなと皆は止めてくれます」


 奴隷としてどう言う扱いを受けていたのかが透けて見えて少しだけ怒りが込み上げてくる。が、ここは怒るところではないだろう。


「そうか、皆の為に御苦労さん。仲間の為に尽くす皆の働きは俺の胸に刻んでおくよ」


 言うと、皆が跪いて涙を流し出した。


「なんと…なんと畏れ多い! ≪赤≫の御方にお褒めの言葉を頂けるとは…!」


 いや、いやいやいや、感動し過ぎでしょ…。


「でも、あんまり無理すんなよ? もし体を壊すような事になれば、その皆が泣くぞ?」

「そ、それは困ります…! 皆を悲しませるのはダメです!」

「そこ分かってんなら良いや」


 これ以上説教するつもりもねえ。何より、コイツ等が皆と仲良くやっているのが改めて分かっただけでも嬉しいし。


「それで、≪赤≫の御方はどうしてこのような時間に?」


 村の皆と亜人達が早起きなのは畑仕事やらの早朝の仕事があるからだ。実際俺も旅に出るまでの1週間はそういう生活してたし。

 だが、今の俺は違う。冒険者として生計を立てているからか、皆が俺を起こそうとしないので、基本的に俺は昼近くまで寝ている。だと言うのに、こんな時間に起きていたらそりゃあ変に思われるだろう。


「いや、ちょっと早く目をさましちまったってだけ」

「そうでしたか、では今日は村の仕事をなさるのですか?」

「んー…そのつもりだったけど」


 皆の顔を見ていたら、ちょっとやって置きたい事が出来た。

 決戦は夕方だし、精霊達が来るつっても、まあどうせ昼過ぎまでは来ないだろうし。それまではぶっちゃけ暇人だ。

 ………我ながらこんな感じで良いんだろうか? 最終決戦前と言えば、色んな準備に皆がバタバタするんじゃないかと思っていたんだが…なんで時間を持て余してんだ俺?

 いや、まあ、持て余してんなら有効活用しようって事で思い付いた事を早速実行に移そう。


「ちょっと出かけて来る」

「どこに行かれるのですか? まさかっ、御1人で決戦に――!?」


 亜人達が一斉に青褪めて、縋りついてでも俺を止めようとして来た。

 やんわりとそれを手で制しながら…


「いやいや、違うっつうの」


 流石にそこまでの度胸はない。

 ジェネシスと1対1(サシ)の勝負なんて、完全に自殺志願者じゃねえか…。奴との戦いは皆の力が必要だろう。


「今のうちに見ておきたいんだ」


 少しだけ頭を出した太陽が、世界に夜明けを知らせる。

 その何かの祝福の様に降り注ぐ眩い光に目を細めて空を見上げる。


「俺が今まで護って来た世界を。これから護る世界を」



*  *  *



 5分後、俺はルディエの閉じている門の前に居た。

 歩いて抜ければ半日以上かかるルディエの森だが、【空間転移】を無制限に使える俺にはそんな距離関係無い。

 一応元奴隷の亜人達に「昼過ぎには戻ってくるから心配するな」と皆への伝言は頼んでおいた。まあ、今日は白雪を置いて来たから、思念で伝えれば良いだけなんだけど…つっても白雪爆睡中で何時起きるか分からんしなぁ。

 とかどうでも良い事を考えながら固く閉ざされた門を見上げる。

 城壁の上に設置された見張り台から、2人の兵士がやたら驚いた顔で俺を見下ろしていた。


「あのー、通りたいんですけどー」


 一応上の連中に見えるように、首に提げたキングのクラスシンボルを取り出す。


「き、キングのシンボル!? あ、あ、アーク様ですかッ!?」

「そーですー」


 俺の返事に、兵士達が大慌てで何かを話しあっている。

 まだ朝の鐘が鳴っていないので門を開ける時間ではないが、中に入りたいと言っているのはキング級の冒険者である俺だ。職務的にどっちを優先すれば良いのか迷っているのだろう。

 …とは言え、俺は別に門を開けて欲しい訳ではない。「中に入って良いですよ」と言う許可が欲しいだけだ。


「あのー、門は良いので通行許可だけ下さーい」

「え!? ああ…はい! どうぞ!」

「どうも」


 ドンッと8m程ジャンプで飛び上がり、そこから【浮遊】で体を更に上に持って行って見張り台を飛び越す。


「見張り御苦労さま」


 唖然としていた兵士達に軽く手を振ってルディエの街に入る。

 流石に王都でもこの時間は皆起き出してない…か。まあ、パン屋やらの朝の早い職種の方達はチラホラ見えるけども。

 少しだけいつもより歩みを遅くして、まだ目覚めていない街を歩く。

 ルディエの街並みで思い出すのは………やはり、この街を守って死んだ明弘さんの事。そして、殺した張本人の魔導皇帝。

 あの時の戦いや、その前の明弘さんとのやり取りを思い出すと自分のガキさ加減で泣きたくなる。

 センチメンタルな気分に浸りながら墓地に向かう。

 あの戦いの傷痕も大分薄れて来たが、それでも人々の心が治るのはもっと先の話だろう。とは言え、今日俺達がジェネシスに負ければその時は来る事は無い。まあ、勝ちゃ良いだけの話だ。

 起き出している人に挨拶をされながら墓地に到着。

 とりあえず明弘さんの所に行くか…。

 墓地の奥にある、他よりも大きく立派な勇者の眠る墓。

 相変わらず誰かが手入れしているのか汚れ1つなく、お墓を包むように大量の花が供えられている。

 …こんな時間なのに、誰かが墓参りに来ていた。

 質素なローブに身を包んだ小柄な人影と、それにつき従うように直立不動の鎧の人が1人。

 一瞬「誰だ…?」と警戒してしまったが、鎧の人が知人だったので警戒心はそれ以上湧いて来なかった。


「団長さん?」


 鎧の人を呼ぶと、振り返って驚いた顔をする。


「アーク君!? こんな時間にこんな場所で合うとは…」


 それはこっちのセリフですけども…。騎士団のトップがこんな時間に墓参りとはどういう事なのか。

 だが、団長さんが居る理由はすぐに分かった。隣で墓参りしていたローブが振り向いたからだ。


「姫様!?」

「おはようございますアーク様」


 フランス人形を思わせる可愛らしい女の子。

 忘れもしない…っつか、忘れたくても1度会ったら忘れられねえわ。

 ローブの下のスカートを摘まんで、体に教え込まれているのが素人目にも分かる美しい挨拶をされた。俺もそれ相応の挨拶を返すべきなのだろうが、心も体も一般人の俺に大層な挨拶が出来る訳もなく、普通にペコっとお辞儀で返した。


「おはようございます姫様」


 ニコッと野花のような笑顔を返された。

 王族的な気高さ的なオーラのせいか、美しさ3割増ですね。まあ、それはともかく…。


「お偉いさん2人がこんな時間に墓参りですか?」

「日中に来ようとすると、どうしても大きな行事になってしまうので」


 ああ、そりゃそうか…俺のような一般人(パンピー)のように気軽には来れねえわな。……キング級の冒険者が一般人にカテゴライズされるかどうかはさておき…。


「勇者様は、異世界から私達の勝手で呼び出しました…」


 姫様の表情が曇ると、つられるように団長さんも苦しそうに顔を歪ませる。

 今更ながら、そりゃ罪の意識くらい感じてるだろう…。

 アステリアの人達だって、魔導皇帝に追い詰められてどうしようもなく……と言うのは理解できるが、異世界から呼ばれた方にはそんな事情は関係ないし知ったこっちゃない。ぶっちゃけ迷惑な事この上なく、それ以外の何物でもない。


「結果として私達は救われましたが……勇者様は戦いで命を落としてしまいました」

「そうですね……」


 明弘さんの死に顔を思い出して、胸に鋭い痛みが走る。

 異世界から呼ばれた事が死に繋がっていると言うのなら、俺が≪赤≫を持っていってしまった事も同じ事だ。俺にこの人達を責める権利はない。…元々そんなつもりもないけど。


「こうして勇者様への御祈りを捧げるのは、王族として……関係の無い世界へと呼んでしまった懺悔であり、贖罪なのです…」


 慰めの言葉でもかけてあげたいが、「明弘さんは恨んでないですよ」なんて口先だけの言葉でも言えない。

 きっと、これはアステリアの皆が抱えて行かなきゃいけない痛みと罪なんだろう。


「そう…ですね。でも、それは王族だけが背負うべき物じゃないでしょう。皆で明―――勇者様の事を忘れずに冥福を祈りましょう」

「はい」


 団長さんの横に並んで手を合わせる。


「アーク君、その手はいったい…?」


 さり気なく左手が動くように【魔装】させた事を言われたのかと思ったら違った。どうやら、おれが手を合わせる姿が奇妙だったらしい。

 おっと、そう言えばコッチの世界には手を合わせるような習慣はねえのか…。


「勇者様の国での作法…だそうです」


 一応体裁上「人に聞きましたよ」アピールをしておく。


「そうだったのか」

「それは良い事を聞きました」


 2人が俺にならってお墓に手を合わせる。

 暫く3人でそうしていた後…。


「そう言えば、君はどうしてここに?」

「俺は、まあ特に何かしに来た訳じゃないんですけど…来たついでに勇者様と先代の墓参りをしておこうかと」

「「先代?」」


 あっヤベ…いらん事口走った。


「あー…えーと…俺の師匠? みたいな人です」

「なんと!? キング級冒険者の師がこの墓地に眠っていたのか!? それは是非とも挨拶をしなくてはな」


 つっても入ってる墓は、どこともしれない死体が纏めて放り込まれる場所ですけどね…。

 何のかんので結局お参り出来てなかったから、決戦前に来られてよかった。

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