14-12 逆襲のJ
「戦え~ジャスティースリボルバァアー!!(ジャジャン)」
精霊界以来の特撮オタク。
≪赤≫が転移門に潜って精霊界に戻ると、その数分後に入れ違いでこの赤いマフラーのなんちゃってヒーローが出て来たのだが……現れるや否や例のオープニングが始まった。
作詞・作曲:ジャスティスリボルバー。
歌:ジャスティスリボルバー。
この歌の何がヤバいって、強制イベントで回避不可能な事よね? 1度歌い出したら止まんねえの。
キッチリ1分半のアニメのOP尺に合わせている辺りがせめてもの救いか…。
「ジャスティスリボルバーはご覧の提供で御送りします」
提供テロップ代わりの羊皮紙を開いて見せてくる。
ちなみに羊皮紙には『アヴァロア』と言う文字が黒線で消され、『精霊』とミミズが腹筋しているような文字で書かれていた。
「終わった?」
「うん」
満足そうに頷く。対照的に、オープニング待ちだった俺達は若干疲れてゲッソリ…。
「また会えたなレッド! そしてピンク、グリーン、スノウ! あと久しぶりだなジャスティスマジック!」
「どうも」「はい」「やはりグリーンに納得出来んな…」「ですの」「私、地味にスルーされたんですけど…?」「そのクソだっさい呼び方本当に止めて欲しいんだけど」
J.R.のつける名前は本当に大不評だな…。やっぱり俺は≪赤≫持ってるせいか、言う程気にならんけども。
「精霊界でずっと修行してたって?」
「おう! お陰でジャスティスパンチの進化系、ジャスティスパンチエヴォリューションを編み出してしまったぞ!!」
「そうか、よかったな…」
この人の事だから、ジャスティスパンチ(ただのパンチ)が進化してジャスティスパンチエヴォリューション(力一杯のただのパンチ)になった、とかそんなオチだろう…きっと。
とは言え、元々怪物染みていたのに、短期間とは言え大精霊を相手に修行した事で更に強さに磨きがかかっているってのは本当だろう。正直、鬱陶しくなるノリと暑苦しさはともかく、戦闘力の一点に関してはかなり期待している。
「聞いたぞレッド! なんでも悪の大総統との決戦が近いらしいじゃないか!? 何故、この正義の使者、ジャスティスリボルバーを呼ばない!? ここは絶対に正義の力を結集するところだろう!!?」
「いや、だからこうして呼んだじゃん」
「なるほど! よし、レッドグッジョブ!!」
白い歯をキラッと輝かせる太陽のようなスマイルでサムズアップされた。
戦いを手伝ってくれるように交渉する必要もなく戦闘に参加が決定したな……手間が省けたのは良い事だが……悪の大総統…?
とっても大きな不安を感じたのは俺だけではなかったようで、真希さんが少し遠慮がちに訊いた。
「ねえアスラ君? 決戦が近い事を認識してるのは良いけど、事情は理解してる?」
「幹部怪人が全員レッド達に倒される。悪の大総統怒る。世界征服を諦めて世界を破壊しようとする。皆焦る。正義の使者を呼ぶ。俺登場。希望の未来へレディーゴーッ!」
真希さんが「ダメだコイツ」と言う目をしながら俺を見て来た。すかさず「諦めましょう」とアイコンタクトで返し「じゃあ、そんな感じで」と真希さんが更に返して来た。
J.R.への説明は投げた。
まあ、世界を破壊しようとする大物を倒すって点は間違っていないし大丈夫だろう……多分。それに、ほら、基本的に行動がバカだけど素直な人だし…うん、大丈夫だ、きっと…うん。
「えーっと…じゃあ、その悪の大総統との戦いには参加してくれるって事で良い?」
「勿論だ! 正義の拳が唸る! ジャスティスパンチエヴォリューション敵は死ぬ!」
何そのエターナルフォースブリザード的な即死技…。
まあ、とりあえず目的の戦力は確保完了っと。
「ところでJ.R.は大精霊の力欲しい?」
「うん? 何の話だ!? パワーアップイベントなら欲しいぞ!!」
「いや、今回の決戦に際して、大精霊と精霊王が力を貸してくれるってんだけど、それ欲しいかって話」
「要らん!!」
即答!? 2秒前に欲しい言うたやんけっ!?
「正義の為に力は欲しい! だが、俺はあくまで自分で鍛え上げた力しか信用しない!! 故に、余所から力を貰おうとは思わん!」
あら格好良い。風になびく赤いマフラーも相まって、本当にちょっとヒーローに見えてしまった。
「と言うわけで要らん! 謹んでお断る!!」
断るのにわざわざ謹むのは礼儀正しいからか、言葉選びがポンコツだからなのか……多分後者だが、一応前者だと思っておこう。
「じゃあ、真希さんは?」
「私は貰える物は貰うよ? ショタ君達の話だと、ラスボスっぽい強敵らしいしどれだけ能力強化したってし過ぎって事はないだろうし」
ジェネシスの力の一端を実際に目にしているパンドラ達が大きく頷く。
確かに、あの怪物と戦うならどれだけレベルを上げたって足りないように思える…。まあ、実際に殴り合った俺に言わせれば、どれだけ強くなっても勝てるかどうか分からんような相手だが。
「マジックがそこまで言うとは、流石悪の首領!! 悪との最終決戦に相応しい戦いが出来そうで……燃えるなっ!!!」
俺達がジェネシスの姿を思い出してドンヨリしている事も気付かす、J.R.1人だけが拳を握ってやる気を漲らせている。そんな姿を見ていると、ダウン無気分になっているのがバカバカしくなって来るので不思議だ…。
「まあ、さっき言った通り、実際に私に精霊の力を渡すかどうかはショタ君の判断に任せるし、精霊の力がなかったとしても私は戦うけどね?」
「無論、この正義の使者もなっ!!!」
「ありがとうございます」
ペコっと俺がお辞儀をすると、パンドラ達も2人に頭を下げる。
さてさて、話がトントンっと進んでしまったので一旦時間が出来てしまったな…?
「2人の協力得られましたし、精霊から情報とれて、とりあえずコッチのやる事終わったんですけど、真希さん達はこれからどうします?」
「私は自国に戻るよ。もしかしたら魔物の討伐依頼来てるかもだし」
「それでは俺もマジックに倣って自国に戻る! そして正義を執行する!」
2人が真面目にクイーン級のお仕事をする事については良いが、明日どうしよう…。
「明日の決戦、夕方に北の大地でやるんですけど集合どうします?」
「ショタ君は今日どこで寝泊まりするのさ?」
「あー、多分ユグリ村……アステリア王国の王都の近くに在る小さな村です」
「ルディエだったらともかく、その村は行った事無いな……。じゃあ、グラムシェルド辺りに集合でどう? あの街大きいからアスラ君とこの国にも転移士居るでしょ?」
「問題無い!」
「って事で、ショタ君どう?」
「ええ、いいっスよ。えーとっ…時間はアステリアの時間で陽が傾き出したらって事で」
北の大地はそれ程アステリアと時差が大きくない。アステリアが夜になった頃に北の大地に行けば、丁度あっちでは陽が傾きだした頃の筈。
「OK」「おう!」
「それじゃあ、各自それまでは冒険者の仕事するなり、明日に向けて準備するなりって事で、宜しくお願いします」
「任せて。ショタ君との未来の為に」
どんな未来を想像してるのかは敢えて訊かない。何故なら後ろからウチの女性陣が冷たい視線を飛ばして来てるから…。
「明日が最終決戦かと思うと気が高ぶるな!! どうだレッド、俺と戦っておかないか!?」
「……遠慮します」
J.R.がどれだけ強くなったのか見たい気持ちはあるが、この人全力で殴り合いする気満々な顔してんだもん……。決戦前日にそんな危ない戦いはしたくない…。
「そうか、残念だ!!」
森の中に響き渡るJ.R.の声に、木々で休んで居たらしい鳥達が飛び立って行く。
空に散って行った鳥の姿を皆して目で追い―――明日の戦いに向けて、それぞれの様々な想いが駆け巡っていた。