14-11 力を結集して
精霊から聞きたい事は大方聞けた……と思う。
ジェネシス…っつか、魔神の正体が世界を創り変える創世の種ってのは、まあ、ビックリしたけど納得も出来た。
ユグドラシルに、野郎の大事な部分が封印されている事も、まあ、元々魔神に関する何かが有るだろうと予想は出来てたから特に…。
前に精霊王が俺達に言わなかった理由は、多分そこら辺の事情だろう…と俺は勝手に解釈している。
≪赤≫の魔神に蓄積された知識や経験を俺は全て閲覧できる。けど、その中にはユグドラシルに魔神の一部が有るなんて情報は無かった。
精霊王はおそらく危惧したのだろう。ユグドラシルにアンカーが有る事を知れば、≪赤≫の魔神が俺の意識を呑み込んでその封印を解きにかかるのではないか…と。
あの時の俺は魔神の力をほぼ操れるようにはなっていたけど、実際にはキュレーアで魔神になった時には意識を持って行かれかけた。そう言う意味では、精霊王の危惧は正しかったような気がする……が、やはり「そう言う重要な話は先に全部言っとけ!」と思わなくもない。
それと―――もし、仮に俺達が負けた場合の予想だが、1週目の世界と同じ結末…と言う事だろう。その未来になった場合、3週目が始まるのか、それともそのままエンドマークが出るのか……それは俺には分からないが…。
よし、頭の中での整理完了。
「ところで≪赤≫よ?」
「なんだ?」
「精霊は後始末を全部押しつけて傍観者決め込むのか?」
若干棘のある言い方になったが、まあ、それは仕方無い。だって実際精霊が何もしなくんないのは事実ですし。
「そう責めないでくれ…。私達もお前達に任せてしまっている事を心苦しく思っているのだ」
「じゃあ、何か協力せぃ」
「よかろう」
「ほーら、もうまったく協力しな―――えっ!? してくれんの!? 力貸してくれんの!?」
「うむ。だから、そう言っている」
マジか? 絶対この人達何もしないと思ってたよ…。
「と言うより、そもそも協力はするつもりだったのだ」
「そうなの?」
「うむ」
力強く頷く。
どうやら本当に最初から何かしらの協力はするつもりだったらしい。まあ、精霊達の魔神への憎悪は、それを生み出してしまった自分達の罪悪感から来る物だろうし…その後始末を全部俺等に押しつけるのは、流石に気が咎めるのだろう…多分。
「つっても、直接戦闘には出られないだろう?」
魔素のせいで、コッチの世界じゃ精霊の能力激減な上、四大精霊と精霊王は原初を奪われてるせいで本来の力が出せない。
「そうだな…恥ずかしながら直接的な戦闘では足手纏いにしかならんだろう」
悔しさを噛みしめるしように俯く。
余程精神的にキているらしく、肩が若干震えている。
「で、直接戦闘じゃないとすると、何してくれんの?」
「うむ。知って通り、王と私達四大精霊は原初を奪われているせいで力のほとんどを失っている。とは言え、それでも他の精霊に比べれば格段に強いがな」
「うん、そらそーだろう」
「だが、≪無色≫と戦うには足りん。故に私達の残りの力を、全てお前達に預ける」
うん? どう言う事ですかな?
俺だけでなく皆もそう言う顔をしていた。
「私達のアンカーを一旦外し、魔神と同じ状態にするのだ。そうする事で、人の体に入り力を貸す事が出来る」
マジか!? 精霊の力がそのまま使えるようになるってんなら、一気に戦力アップじゃん!
「だが、このような方法を実行できるのは上位精霊である王と私達の5人だけ……言いたい事は分かるな?」
「精霊の力を借りてパワーアップ出来るのは5人だけって事だろ」
「うむ、正しくそう言う事だ」
……そう言うオチだったか。
精霊全員がそれを出来たなら、今まで戦力外だった奴でもいきなり戦力として数えられるようになるかもしれんのに……そう話は上手く行かねえか…。
しっかし、たった5人か……どうすんだよ?
困って後ろの女性陣に目を向けると、
「リョータに任せる」
とカグ。それに続くように、他の皆も…。
「マスターの指示に従います」
「アーク様の判断に従います」
「ショタ君が1番だと思うのが良いんじゃない? 先頭切って戦うのはショタ君だろうし」
任せられた…っつうか、丸投げられたっつうか…。
うーん…どうすっぺや…? 俺、ゲームのキャラのステ振りでさえクソ悩む人間なのに、現実の……しかもこんなラスボス一歩手前の状況で選ばされるとなぁ…。
「それと言っておくが、私達精霊も魔神と同様に肉体のキャパシティを貰う事になる。つまり、魔神と同じく普通の体では1人につき精霊1人しか能力をやる事は出来ん」
なるほど、精霊2人分の強化値を貰う事は出来ないって訳ね…。まあ、水野のような特殊な体質の人間が居るなら別だが、そんな奴が都合良く居る訳ねえ。なんたって、ジェネシスの野郎ですら百年単位の時間をかけてようやく水野を見つけたようだし…。
「カグ、お前明日の決戦参加するか?」
「……うん」
若干の躊躇いがあったが、やる気らしい。……けど、なんか変な感じだな? 大丈夫かカグの奴?
とりあえず、カグ参加なら≪白≫の大精霊はカグだろ。魔神程の強化は見込めないけど、それでも大分戦えるようになる……と思う。
問題は他だけども…。
渡す相手の候補は、パンドラ、フィリス、真希さん、ガゼル、J.R.かな。
ルナの体が万全だったなら文句なしに≪黒≫の大精霊の力を渡して戦列に加わって貰うんだが……浸食の刻印の影響で体ボロボロだからなぁ。
候補の中でガゼルは除外でいいかもしんない。アイツは精霊の補助なくてもクソ強いし…。でも、ガゼルが更に強くなってくれんなら、それはそれで心強いんだよねえ。
すっげぇ悩む。
1人うんうん唸っていると、≪赤≫が少し呆れたように言う。
「別に今決める必要もない、コチラも用意が必要なのでな。≪無色≫との戦いは明日なのだろう? であれば、その前にもう1度呼んでくれれば良いし、その時まで十分に悩めば良い」
「そうか? んじゃ、そうさせて貰うわ」
「うむ」
明日までドップリ悩む事にしよう。
≪赤≫がそろそろ帰ろうとする気配を感じ、もう1つの用事を思い出す。
「そう言えば、精霊界に置いて来たJ.R.ってどうしてる?」
「む? あの人間なら楽しそうに精霊界で過ごしているぞ」
やっぱりバカンスしてんのかよ!? コッチが必死こいてるっつうに!
「悪いけど、今すぐコッチに戻してくんない?」
「構わんぞ。そろそろ私達でも相手が辛くなって来ていたのでな」
「相手?」
ああ、カードの相手? どんだけ満喫してんのあの特撮オタク…。
「うむ。あの人間は、起きている間はずっと私達と戦っていてな…。最初の頃は精霊としての特異性で私達が勝利していたのだが、近頃は四大精霊2人がかりで戦ってもかなりギリギリになってな…」
マジか…!?
四大精霊2人…しかも精霊界でって事は能力ハンデ一切無しのガチ勝負で?
え? いや、何なのあの人? 修行を満喫してんの?
そして人間1人にそこまでやられている四大精霊の1人がむっちゃ凹んでいる…。気にしなくて良いと思うの…あの特撮オタクが異常なだけだから…。
「そうか…なんか、苦労かけてスマンな?」
「いや、構わんのだが……うむ」