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14-7 真希さん家2

 真希さんに事情を説明した。

 東天王国が≪無色≫と≪青≫によって戦争を仕掛ける様に仕向けられていた事。

 グレイス共和国に攻め入った兵士は全員≪無色≫の手にかかって死んだ事。

 ≪青≫の―――水野の精神は殺され、現在はその体に≪無色≫ことジェネシスが入っている事。

 ジェネシスが既に、俺の≪赤≫以外の全てを手にしている事。

 そして、明日の夕刻……奴との決戦がある事。その戦いで敗れれば≪赤≫を奪われ、世界がどうなるか分からないって事も…。


「ふーん……」


 野菜スープをスプーンで口に運びながら、無関心そうな返事。だが、本当に無関心な訳ではない。

 だって、眼鏡の奥で…目が全然笑ってない…。

 クイーン級冒険者として、1つの国を護る戦士として、世界の危機を冷静に理解して、その上で自分の能力とか、戦う事への危険とか、そう言った物を天秤にかけている。


「で、私もそのジェネシスとやらを倒すのに手を貸せ…と?」

「…ダメですか?」

「いや、いいよ。むしろ頼まれなくても行くつもりだし」

「ありがとうございます!」


 良かった…。一瞬断られるんじゃないかとドキドキしてしまった。

 俺がホッとしたのが伝わったのか、横でカグが小さな声で「良かったね」と軽く俺の手に触れる。

 カグの手を軽く握り返して、緑茶を呑んで一息吐く。

 あ~、緑茶うめぇ。コッチに来てから紅茶の美味さに目覚め出したけど、やっぱ日本人としては茶と言ったらこの渋さだよねぇ。

 あと白雪用にと、ドールハウスに置いてあるようなサイズのカップが用意されていた事に驚く。真希さん、地味にそう言う気使いが出来る人だったか…。


「それはいいんだけどさ? ショタ君の≪赤≫を取られて、魔神が1つになったら、その…“完全なる1”? になって、その後具体的にどうなるの? やっぱアレなの? 魔王が復活する的なノリで世界崩壊的な流れ?」

「多分…そんな感じとは思いますけど、正直俺も詳しくは分かってないです」

「明日決戦なのに…大丈夫なのさ?」

「大丈夫じゃないので、この後その辺りの事を知ってそうな連中を問い詰めるつもりです」

「そんな都合のいい人が居るなら、もっと早く問い詰めとけばよかったんじゃない?」


 返す言葉もねえ。

 言い訳させて貰えば、色々忙しかったんスよ……キング級として何やかんややったり、亜人の引越しを手伝ったりで…。それに、そう簡単に会いに行ったり呼びつけたり出来る相手でもないし。

 俺の心の中の言い訳が聞こえた訳ではないだろうが、パンドラがフォローを入れてくれた。


「マスターもお忙しかったのです」

「まあ、それもそうだね。クイーン級の私だってこれだけ忙しいんだ。上のショタ君が忙しくない訳ないもんね」


 真希さんがスープを飲み終えると、メイドさんが食器を片付けて食後のお茶を用意した。


「ありがとうイーゼ。で、その都合のいい訳知りな人って?」

「精霊です」

「精霊かぁ…。またファンタジーなところを攻めてくるね?」


 別に攻めてないけど…。と言うツッコミは仕舞っておく。


「良ければ私も同席させて貰えるかな? 精霊なんて会った事ないから興味がある。それに、今後の世界の話を聞くなら情報共有の意味でも一緒に聞いた方が手間が省ける」

「ごもっとも」


 こちらとしても断る理由はない。


「俺等は構いませんけど、真希さんの方は大丈夫ですか? 場合によっちゃ、結構長い話になるかもしれないですけど?」


 朝から呼び出し食らう程忙しいってんなら、長時間の拘束はまずいだろう。まあ、俺等も俺等でノンビリしてる場合か? って話だが、コッチは下手すりゃ世界の命運がかかっているので、他の事は悪いが後回しだ。


「大丈夫大丈夫。朝っぱらから頑張って魔物討伐して回ったお陰で、暫く大きいのは生まれないと思うし、少しはゆっくり出来るから」

「そッスか? それなら構いませんけど。どうします? 俺等としてはすぐにでも精霊達と話したいんで移動したいんですけど…」

「ああ、それはちょっと待って。アノ、悪いけど急ぎで髪結い直して貰える?」

「はい、畏まりました」


 こうして、真希さんがいつもの御団子頭になるのを待ってから出発した。



*  *  *



「精霊に話を聞くのですよね…?」


 と、遠慮がちに俺に聞いて来るフィリス。カグと真希さんも同じような事を聞きたそうな顔をしている。


「ああ、そうだけど?」


 むしろ俺としては何故にそんな疑問符を浮かべられているのかが分からん。


「では何故、アルフェイルに…?」


 そう、現在地はアルフェイル。より正確に言えばアルフェイル跡地……だが。

 何故ここなのかと言うと、単純に人の目がない場所だからだ。

 住んで居たエルフは引っ越してしまい、「暫くは近付くと危ないから」と代表達が立ち入りを禁止している。亜人達の生活圏だから元々人間は近寄らない。まあ、これだけ荒れていたら、近付きたくても近付けないだろうが…。


「出来るだけ精霊を人目に触れさせたくねえからな」

「そう言う事でしたか!」


 それに、聞く話の内容如何によっては精霊とバトる可能性もある。フィリスやエルフ達には悪いが、周りへの被害を考えるとすでにボロボロになっているココが色々都合が良い。

 俺の思考が伝わって、白雪が少しだけ不安そうな顔をする。口には出さないが、白雪としてもこの森がこれ以上荒れるような事は嫌らしい。


「それでショタ君? どうやって精霊を呼ぶの?」


 ………知らない…。

 いや、でも、なんか火とか水とかに居る的な事を言ってたし、多分適当に呼んだら答えてくれんじゃなかろうか? …分からんけど。

 まあ、試してみよう。ダメならまたクソ寒い精霊の森に行って探すしかねえなぁ…。

 とりあえず落ちていた細い枝の1本に火を付ける。

 コホンッと小さく咳払いして、枝を食って炭に替えている赤い炎に呼びかける。


「精霊さん精霊さん、おいで下さい」

「なんで微妙にこっくりさん風の呼び出しなの……?」


 幼馴染の冷静なツッコミ。

 いや、まあ、よく分かんないけど精霊もこっくりさんも似たような物だろう。

 フィリスと白雪のコッチの世界組が「異世界にもそのような儀式が?」と若干驚いた顔をしているがそれはスルーする。ついでに真希さんが「私も小学校の時やって性癖を暴露されたっけ…」と遠い目をしていたがそれもスルーする。

 ジリジリと枝が燃える静かな時間が経過して、やがて炎の中から声が聞こえた。


『魔神か?』


 とっても聞き覚えのある声だった。


「≪赤≫の大精霊か?」

『うむ』


 ちゃんと反応してくれた事にホッとする。

 後ろで真希さんがフィリスに「炎が喋ってる!? どんな魔法?」と聞いているが、フィリスが答えに困っていた。そして困っているフィリスをパンドラがスルーしていた。


『王が、そろそろお前が声をかけて来るのではないかと仰っていたのでな? ずっと待って居た』

「そうなん?」


 って事は、少なくても精霊王は俺に呼び出される理由がある事を理解しているっつう事だよな? やっぱり精霊界で話聞いた時に何か話そうとしていたのは俺の気のせいじゃなかったか。


「まあ、それなら丁度良いや。色々話聞きたいんだけど?」

『構わん、コチラもそのつもりで待って居た。それより、このままでは話し辛い。そちらに行く』

「おう。あっ、やっぱりちょっと待った」

『なんだ?』


 【魔素吸奪】を使い、周囲の魔素を全部指輪の中に吸い込む。


「もう良いぞ」

『うむ』


 燃えている枝の上の空間がグニャリと捻じれ、真っ黒な穴の中で黒い光が渦巻いている。世界を隔てる壁を越える、人には使えない転移術―――。

 黒い穴の中から赤く燃える人型の炎が姿を見せる。

 ≪赤≫の大精霊が、熱気と圧力を伴う熱風を振り撒きながら静かに大地に降り立った。

 流石に亜人やらゲトゲトした魔物を見慣れている真希さんでも、炎人間にはギョッとしたようで、ビクッとしてずれた眼鏡の位置を直しつつ…。


「…炎上真っ最中の人間?」


 ボソッと言うと、精霊を怒らせたと思ったらしいフィリスが慌てて浴衣を引っ張る。


「あれが≪赤≫の大精霊だ」

「ああ、うん。やっぱりか」


 そんな2人のやり取りを気にした風も無く、≪赤≫の大精霊は真っ直ぐに俺だけを見て話し始める。


「久しいな?」

「言う程でもねえだろ」

「ふむ、そうか。人の感覚に合わせて言ってみたのだが…よく分からんな」

「そら世界の創生から生きてる大精霊と、80年かそこらしか生きられない人間じゃ時間間隔が違い過ぎるだろ…」


 俺がツッコむと、「それもそうだな」と少しだけ笑う。

 話し始めるには良い空気だ。

 さて、そんじゃあ聞かせて貰おうじゃねえか? 精霊達の隠していた、世界の全てを。


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