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14-2 完全者

 グレイス共和国東端に位置する港町キュレーア。

 その目と鼻の先で俺は、≪無色≫―――ジェネシスと相対していた。

 奴が使っている体は水野浩也…元≪青≫の継承者であり、魔神の力に喰われて精神がぶっ飛んだ異世界人の物。……まあ、その本人の精神は、もうジェネシスの【精神破壊(マインドブレイカー)】を食らってどこにも存在して居ないんだが…。

 水野のアホの精神がジェネシスにぶっ殺された点については特に感想は無い。奴がやって来た事を考えれば、誰も擁護のしようがない程のクズである事は明らかであり、どんな死に方をしても自業自得としか思わない。

 だから、野郎の事を偲ぶ気持ちは欠片もない。そもそも、


――― こんな化け物を前に、余計な事を考える余裕なんてねえ!!


 水野の持って居た≪青≫と≪黒≫に加え、カグから奪った≪白≫。更に奴自身の≪無色≫の力。究極の魔神―――とも言うべき、一部の疑いようのない化物。

 対して俺は、≪赤≫の魔神1つ。しかも、切り札の原初の火が野郎には効かない事が判明した。


「黙ってしまってどうしたのかな? 我が名乗ったんだ、少しは反応をして欲しいんだが?」


 誰も、何も言わない。身動きも出来ない。

 何故か?

 決まっている。


――― 怖いからだ。


 コイツの名乗りに―――吐き出された“世界の道標”という言葉の重さに…俺を含むその場に居る全員が動けなかった。


「まあ、大人しくなったと言うのならそれに越した事はない」


 止めていた足を動かし、再び俺に向かって近付いて来る。


「では、≪赤≫を貰うぞ?」


 静かに言い放ち、その手が俺に伸びる。


「………!」


 冷たい汗が背中に流れる。

 もし、あの手に捕まったらどうなる?

 ≪赤≫を奪われる。

 まあ、それは間違いないだろう。

 では、その後はどうなる?

 全ての魔神を手にしたジェネシスは、“完全なる1”とやらに合体する……のか? その後の展開は分からない。分からないが―――少なくてもヤバい事になるだろう。それも、世界規模のクッソヤバい奴。


 だったら―――このまま渡して良い訳ねーだろうが!!


 動けッ! 動け動け動けッ!

 ビビるな、恐れるな、そんな(もん)に足を取られてる場合じゃねえ!!!

 半歩後ろに引きながら、腰から上を回転させてヴァーミリオンを振る。


「シッ―――!!」


 不意打ちとしてはほぼ完璧。

 それでも―――届かない。


「ふむ」


 視線は俺の顔に固定したまま、伸ばしていた手の中指と人差し指…たった2本の指で刃が受け止められる。

 必殺の剣を、そんな葉を摘まむようなやり方で防がれるのはショック。

 けど、元々剣は囮!


「ふっ―――!!」


 剣を持つ右腕を起点に、体を更に半回転させ、飛び上がって野郎の頭を全力で蹴り飛ばす。


「おっと」


 軽々とブロックされる。

 だが、蹴りを受ける為に踏ん張った。

 そこが、狙い!

 地面に原初の火を走らせる。


「!?」


 逃げようにも、足を踏ん張ったせいで即座には過重移動が出来ない。

 スピードがどれだけ早くなろうが、体が人の形をしている以上は人体構造を無視した機動するっても限度がある。

 腕は反対に曲がらないし、首が360度回る事は無い。

 そう言う“人間の”弱点を突いて作った、一瞬の攻撃のタイミング。

 原初の火はジェネシスに効かない。それは分かってる。

 それでも、この黒い炎に縋らずには居られない。


 俺は≪赤≫だ。


 炎熱を司る魔神であり、≪赤≫の大精霊の原初(オリジン)を持つ者。

 故に、俺は信じる。

 この、どうしようもなく手の届かない、全知全能の神に等しい怪物に1発食らわせる事が出来るのは、やはりこの炎熱の極致たる―――原初の火しかない、と!!

 

「燃えろ!」

「お断りだ」


 足元で燃え上がる黒い炎を煩わしそうに見る。だが、それだけだ。ジェネシスの体どころか、靴すら燃えていない。

 くっそ……やっぱり燃やせねえ!!

 原初の火が持つ燃焼効果が発揮されてないのか……?

 効かない事に2度目のショックを受け、その理由を考えて思考に意識を割いてしまった。その一瞬の隙を見逃さず、ブロックしていた俺の足を払い除け、指で摘まんでいたヴァーミリオンの刃を掴み―――ぶん投げられた…!?


「ッ……くっそ…!」


 地面に足を滑らせ、素早く体勢を立て直して追撃に備える。が、追い打ちはなく、黒い炎から足を抜いて飛び退いて居た。

 ……? 絶対仕留めに来ると思ったんだけどな…。読みが外れたか?

 まあ、正直、追撃がなかった事にホッとしているけど。野郎が全力で攻撃仕掛けてきたら、下手すりゃ一瞬で終わるかもしれない。

 奴が遊んでいるのか、それとも慎重になっているのかは分からないが、無理な攻めをして来ないのは俺にとって好都合。


「これは称賛するべきかな?」

「何がだ…!」

「君には強めの“恐怖(テラー)”を刷り込んだんだが、まさか向かって来るとは予想外」


 刷り込んだ? てらー……恐怖?

 あっ、そう言えばさっきまで感じてた恐怖心が落ち付いてる。まだ怖いけど、動けなくなる程の物じゃない。


「ああ、なるほど。テメエは精神を司る精霊王の力を持ってるんだもんな? そう言う芸当が出来る訳だ?」

「楽しんでくれたかな?」


 全然楽しくねえよ。

 精神に直接感情や刷り込んでくるのはヤベエって………なんたって防ぎようがない。今の恐怖心の刷り込みも、物理的な拘束ではなく、自分で動きを止めてしまっていた。

 精神干渉は、戦闘以外の所で振り回されると厄介だって認識だったけど、その考えを改めなければならない。


「大道芸程度には楽しめたんじゃねえか?」

「そうか、それなら何よりだ」


 ジェネシスが薄く笑うと―――暴風が襲って来た。


「くッ!?」


 奴を中心に、前後左右、上も下も関係無く風が吹き抜けて、全てを吹き飛ばそうとする。

 パンドラ達や気絶したままのカグも飛ばされそうになる。

 【事象改変】で風の流れを無効にする。

 吹き荒れていた風が止まり、一瞬の無風。

 次の瞬間―――足元の地面が割れ、30cm程の隙間を作る。


「ッ…!」


 人間1人も呑み込めないような地面に出来た隙間。

 だが、直感が言っている。この隙間は、ヤバい―――!

 【オーバーブースト】で加速して、全力で飛び退く。

 俺の動きを追いかけるように、隙間から水が噴き出す。

 ただの水。触れれば溶ける強酸なんて事は無い、ごく普通の水。強いて言うなら海水が混ざっていて、舐めたらちょっとしょっぱいだろうって程度。

 だが、問題なのはその速度と、薄さ。

 刃のように薄く研ぎ澄まされた水を、銃弾なんて目じゃない程の速度で放射する。つまり、この水は


――― ウォーターカッターか!?


 見えているのに、反応が間に合わない!

 咄嗟に、左手を前に出して原初の火を放射して盾にする。

 それでも大量の水を受け切れず、黒い炎の隙間を抜けて水が俺に向かって伸びて来る。


「ちッ…ィ!?」


 水が通り過ぎる度に体が裂け、血が噴き出す。けど、致命打はない。これなら放って置いても回復する。


 受け切った。と言う安堵―――そして、油断。


 凄まじい水の放射を受けて吹っ飛びながらも、安全に着地…と思ったら何かに激突した。


「何…だ!?」


 岩壁だった。

 だが、着地場所の確認は感知能力でちゃんとしていた。俺がぶつかるその瞬間まで、こんな岩壁は存在していなかったと断言できる。

 では何故あるのか?

 決まっている。ジェネシスが用意したからだ。

 急いで離れようとしたら、もう遅かった―――。

 岩壁に触れていた体が、壁の中に沈んだ(・・・)。沼に浸かったように、体が岩壁の中に引っ張り込まれる。

 沼のようだが沼ではない。体を引き抜こうとすると、ピッタリな型にはまったようにピクリとも動かない。


「なんだこりゃ…!」


 並みの岩なら体が半分呑まれてる状態からでも、今の膂力なら砕いて脱出する事が出来る。けど、無茶苦茶硬くてビクともしねえ! よく分からんが、まともな方法で砕ける硬度じゃない事は理解した。

 だったら、原初の火で焼き消す!

 【火炎装衣】を発動しようとしたその瞬間


「残念、我の勝ちだ」


 目の前には、ジェネシス。

 身動き出来ない状態のまま、頭を掴まれる。


「さあ、≪赤≫を返して貰おうか?」


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