14-1 最後の星空
夜空を満たす、数え切れない程の煌めき。
その光1つ1つが星であり、ここから途方も無く離れた宇宙の先から、途方も無い時間をかけてその光をこの夜空に届けている。
もしかしたら、この光の先に在る星の何割かは、すでに滅んで光を失っているかもしれない。
そしてまた―――俺達の居るこの世界も、明日には光を失うかもしれない。
「はぁ…」
なんでこんな事になっているのやら…。
俺が背負っている物を、全部ぶん投げて叫びたい衝動に駆られる。まあ、そんな事してもどうしようもないのでやらんが…。
「俺に、どうしろっちゅうの…」
誰も居ない静かな草原に寝転ぶと、視界が全て星空に染まる。
ボンヤリと綺麗な光景に目を向けながら、穏やかな夜風に吹かれていると、今自分の置かれている状況が、達の悪い夢か何かじゃないかと思えてくる。
……こう言う日が来る事を覚悟して居なかった訳じゃない。
神様もどきこと種撒く者に、1週目の世界の話を聞いた時から、いずれ今の世界にも同じ“終わり”が降りかかるだろうって事は分かっていた。
――― そして、その時が来た
話としては、それだけの事だ。
けど、まだ終わった訳じゃない。崖っぷちギリギリ……いや、崖から落ちて途中で引っ掛かってるって感じか? でも、まだ死んではいない。何とか上に這い上がれる可能性が残っている。
「その可能性が俺だってのは、なんの冗談かと……」
空に手を翳す。
星が手の中に収まる。勿論、実際に星を握った訳ではない。だが、その気になれば星をこの手の中に落とす力が今の俺には有る。
≪赤≫の魔神。
この体の中に飼っている世界を歪める程の力を持った凶悪な怪物。
思えば、≪赤≫と出会ってから色々あった……。
楽しい事、嬉しい事、悲しい事、苦しい事。色々あったけど、思い返せば出会えて良かったと思える事ばかりだ。
でも、本来ならそれは全部俺の物じゃない。この体の―――ロイド君の物であり、あくまで俺はそれを借りているだけ。
俺の旅の目的のど真ん中にあったのは、常にロイド君にこの体を返す事だった。
「明日世界が終わったら、体も返せんなぁ……」
そうなった時は、一生懸命ロイド君にゴメンなさいしよう。……まあ、ゴメンなさいしようにも、俺も一緒に消えてるから出来ないだろうけど…。
夜空に伸ばしていた手が微かに震える。
怖い…。
覚悟を決めたつもりでも、明日戦う相手を思い出すと恐怖心が湧き上がってくる。
――― ジェネシス
異世界人、水野浩也の体を奪った5つ目の魔神。
≪青≫≪黒≫≪白≫、そしてジェネシス自身の≪無色≫の力。計4つの魔神の力を振るう災厄。
奴には、俺の原初の火も効かない―――…。
絶対無敵だと信じて疑わなかった黒い炎が潰された時の衝撃と恐怖は忘れない…。
「はぁ……」
我慢しようと思っても何度も溜息が洩れる。
ダメだ、あの野郎を倒せるイメージがまったく湧いてこない…。逆に、軽々とぶっ殺されて≪赤≫を奪われるイメージの方が大きくなる。
「死にたくねえんだけどなぁ…」
負けるつもりで戦う馬鹿なんて居ない。俺だって、戦うとなれば勿論勝つつもりで戦う。
けど、今回は相手がなぁ……ヤバいとかそういう次元の向こうっ側に居る奴だし…。
ぶっちゃけて言ってしまうと、逃げたい…。
逃げたところでどうにもならないのは分かっているが、それでも逃げたいと思ってしまう自分が居る。
「…出来る訳ねえよな?」
たとえ俺が逃げたとしても皆は戦う事を選ぶだろう。
だが、相手は魔神だ。
【事象改変】を振り回されればそれだけで全滅は必至。それを抜けられるのは同じ魔神の俺しか居ない。
結局、俺にはあの神の如き化物と戦う以外の選択肢なんてないのだ。
「あ~、も~……」
今更ながら本当に思う。
――― この世界の神様は、本当に俺の事が嫌いらしい。
伸ばしていた手を顔の上に下ろして視界を閉じ、あの日の出来事を思い出す……。