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13-46 彼の終わり

 何度向き合っても、自分の体が目の前に居る事への違和感が消えない。

 まあ、当たり前だ。俺じゃない俺がそこに居るんだから…。


「お久しぶり、かな? カスラナの近くで会って以来か」

「テメエ…! 前のように、そのアホ連れて無効試合になんてさせねえからな!?」

「あれは君も納得の上での無効試合だろう? そこの、君の大切な幼馴染を返してあげたじゃないか?」

「ざっけんなボケ!! 引き換えにウチの相棒の精神ぶっ殺して行っただろうが!!?」


 ≪無色≫の態度がまったく変化しないのが俺をイラつかせる。

 俺の体を使ってやがるのも腹立つし、カグを洗脳してやがった件もクソ腹立つ。

 まあ、だから―――今すぐぶん殴って、ぶち殺してぇ!!


「リョータ、ダメ!!」


 俺が殺気立ったのが伝わったのか、カグが俺と≪無色≫の間に割って入る。

 いや、っつか、何で止めに入ってんだよ…?


「リョータはアイツと戦ったらダメ!」

「何で?」

「何でも! アイツとは私が戦うから!」


 何でそんな(かたく)ななんだ…?

 まあ、確かに、≪白≫の魔神になったカグなら、多少は安心して任せられるけども……それでも≪無色≫は…なぁ?

 俺達の会話を遮るように、地面に倒れた水野が俺を睨みながら立ち上がりつつ口を開く。


「おいっ、俺を護れよ…! お前にとって、俺は“大事”なんだろう!?」

「ああ、勿論さ」


 水野はほとんど戦意喪失って感じか?

 野郎の命乞いがどこまで演技だったのか、はたまたガチの奴だったのかは分からないが、言っていた「後1回原初の火で焼かれたら本当に死ぬ」って部分はマジの奴だったんじゃないかと睨んで居る。

 水野と言う人間に、俺は勝手に“ビビりな小心者”とラベルを張っている。奴が強気で居られるのは、相手に対してアドバンテージが有る時だけ。まだ、俺達に対しては“魔神を2色持っている”ってアドバンテージが有るには有るが、それ以上に小心者には後1回で死ぬって事実が重過ぎるのだろう。

 なまじ世界最強に手が届いて居る奴だからこそ、「死ぬ訳が無い」が「死ぬかもしれない」に変わった時の恐怖に耐えられないんだろう。


「諦めろよ」


 無慈悲に言い放つ。

 チラッと周囲に目を向ければ、すでに戦いをしているのは俺達だけになっている。

 ≪無色≫の手下の魔素体3体はウチの連中に倒されて居た。

 ガゼルの奴が負けるとは欠片も思っていなかったが、それでも魔素体2人は手こずったようで、座ったままヒラヒラと手を振っているだけで、コッチに参戦するだけの力は残っていないらしい。

 対して、パンドラとフィリスと白雪は結構元気なようで、離れた所からいつでも俺のフォローに入れるように身構えていた。


「残ってるのはテメエ等2人だけだ」


 東天王国の兵士達も残っているが、戦力的にはぶっちゃけ大した事ない上に、現在は俺が【事象改変】で動きを止めているのでノーカウント。


「自分の秘書っぽいのまで戦闘員に駆り出しておいて、これ以上戦力を残してる……なんて都合の良い展開はないよな?」

「ご明察。君等の活躍によって、手持ちの駒はゼロさ」


 降参するように両手を上げる。

 だが、その顔には敗北の悲壮感も、怒りも何も無い。それどころか、今まで見た中で1番機嫌が良いようにさえ思える。


「お見事、君達の勝利だ」


 笑顔で言うと、手を叩いて祝福してくる。

 ……なんだ? 何なんだコイツ…?

 すでに諦めている? いや、違う! コイツの目は、死んでないどころか、むしろ勝利を確信している!?

 何だ? 何かするつもりなのか?

 この状況から一気に逆転―――なんて、笑えねえ! だが、≪無色≫は未知の存在であり、能力が計り知れない…大いにそう言う展開は有り得る。

 気を張り直し、剣を握る手に力を込め、いつでも飛び出せるように体勢を動かす。


「おい! 何、負けを認めてんだよ!? だったら、お前が囮になって俺を逃がせよ!!」


 水野の言葉に、≪無色≫の笑顔が少しだけ歪む。

 楽しい笑いが、嘲るような……壊れた笑顔になった。


「大丈夫だ水野君。逃げる必要なんてない。目先の勝利なぞ彼等にくれてやれば良い」


 言いながら、目の前に居る俺達を警戒する様子も無く、軽い足取りで水野に近付いて行く。

 どうする? 今なら原初の火を叩き込めるか…?

 一瞬の逡巡。

 攻撃への躊躇いは、相手が“俺”だったから。

 そして、≪無色≫へ攻撃に動こうとした瞬間に、カグに腕を掴んで止められた。……カグの奴、なんでこんなに俺と≪無色≫がぶつかるのを嫌がってんだ…?


――― だが、この後すぐ俺は後悔する事になる。

 阿久津良太の体を犠牲にしてでも、カグの手を振り切ってでも、この瞬間に≪無色≫をこの世から消し去るべきだった……と。


「なんだ? まだ奥の手が有るのか? だったら、早くそいつを使えよ!」


 水野の言葉に、≪無色≫は無言のまま笑顔を返す。

 そして、2人が手の届く距離まで近付くと―――


「水野君、君の言う通り、君の存在は俺にとってとても大事だ。何物にも代えられず、長い年月の悲願を果たしてくれる救世主と言って良い」


 子供に絵本を読み聞かせるような優しい声。

 その言葉に、一粒の嘘も無い真実だと言う事が伝わってくる。


「だったら、俺の事を護れって言って―――!」


 水野の言葉が途中で止まる。

 何故なら、


――― ≪無色≫の手が、胸に突き刺さったから


 体に傷はないし、血も出ていない。

 アレは―――カスラナでロイド君の精神を殺した時の……!


「ただ、誤解しないで欲しいんだが、俺が大切なのは肉体(うつわ)だけであり、精神(なかみ)には欠片も興味が無いんだよ? この状況まで辿り着けば、もう君の心は必要ないんだ」

「なっ………て、めぇ……!!」


 今までで最高の笑顔を水野に向ける。最後の見送りをするように。


「今までアリガトウ。そして、サヨウナラ―――愚かな道化師(ピエロ)

「ま、待て…! 俺は……まだ―――!!?」



*  *  *



 【多世界生命リンク】。

 水野浩也が≪黒≫の魔神を体に入れた時に、≪青≫が新しく肉体に付与した異能。

 自分の身に降りかかる“死”と、それを(もたら)した“事象”を、別の世界に存在する、水野浩也がそうなるかもしれなかった可能性に押しつける事が出来る異能。

 その可能性の数―――約1億5000万。

 つまり、水野はその回数死んでも、生き返る事が出来る。

 普通に考えれば、1億以上なんて無限に等しい。何故なら、そんな回数死ぬ事なんて有り得ないから。

 それに加え、≪青≫に続いて≪黒≫の魔神まで手にしている。

 これだけの力があれば、最強で無敵な事は明らかだった。


――― なのに、それを≪赤≫が阻む


 黒い炎。

 水野にとっては未知の物だったが、どんな能力であろうとも≪黒≫と無限に等しい残機を手にした今となっては敵ではない―――筈だった。

 2度黒い炎に焼かれたが、生き返る事に支障はなかった。しかし、残機を確認した瞬間に思考が止まる


 残り約1億3000万。


 異常な程減っていた。

 受け入れがたい事実。だが、受け入れなければならない目の前の現実。黒い炎で死ぬと残機が1000万消費される。

 つまり―――黒い炎で燃やされて死ぬ事は、1000万回分の死と同義と言う事だ。

 残機無限も、黒い炎に対しては残りたった13回しか使えない。

 焦る―――


(だが、まだ≪青≫と≪黒≫、魔神を2つ持っている事のアドバンテージは消えていない!)


 必死に自分を鼓舞する。

 しかし、死ぬ。

 黒い炎で殺される度、凄まじい勢いで残機が減る。

 更に焦る。

 ≪黒≫の能力が馴染む程、自身の能力が上がって行く事を実感出来て、それだけが心の支えだった。

 何度も「勝てる!」と言い聞かせる。

 ………それなのに、≪白≫が乱入して来た。

 やれると思った。≪白≫の能力なんてたかが知れている。≪赤≫にとっても≪白≫は絶対的な弱点だ。上手くやれば、両方同時に仕留める事が出来る。

 そんな驕りが、彼の敗因。


 燃やされる―――。

 何度も何度も黒い炎に燃やされて、その度に残機をゴッソリと削られて復活する。

 逃げる事が出来ない。逃げる間もなく、復活したその瞬間に燃やされる。

 減る―――減る―――復活出来る回数が減る。

 残り2000万を切ったところで慌てる。


「待てッ! 待ってくれぇ――――ァがっ!!?」


(死にたくない! 無様でも惨めでも、命乞いでも何でもして生き残る…!)


 残り1000万以下になったところで、ギリギリ黒い炎でのリスポーン殺しが止まり、≪無色≫の助けもあって難を逃れた―――そう思った。

 だが、その瞬間(・・・・)が訪れて、水野は気付く。

 助ける為に現れたのではない…と。


「今までアリガトウ。そして、サヨウナラ―――愚かな道化師(ピエロ)

「ま、待て…! 俺は……まだ―――!!?」


 ≪無色≫の瞳の奥で、4色の光が(またた)く。

 体の中に突きこまれた腕が―――水野の(こころ)を握り潰す。


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