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13-45 焼き尽くす

 加速―――意識と体が、今までにない程速くなっているのが分かる。

 カグに背中を押されたからか、全身に火がついた様に熱く闘志が燃えている。

 今なら、普段の限界値を越えられる気がする。……いや、違う。もう既に超えているのか。

 俺が≪赤≫の限界だと思っていた天辺(てっぺん)から、更に一歩踏み込んだ、限界の壁の向こう側。

 対して、水野はカグを重力で押し潰しながら、更に地割れの中に落とそうとしている。

 俺の事が意識から抜けた訳ではないだろうが、完全に注意がカグに向いている。俺への警戒がさっきまでと比べて3分の1以下。

 更に言うなら、カグの砂嵐と雷撃のコンボを止める為に自分を氷の檻の閉じ込めてしまっている。

 野郎が一瞬で氷を解かせるとしても、回避にも、反撃にも無駄な1アクションを挟まなければならない。

 【空間転移】で逃げる選択肢はあるが、むしろそれこそコッチが望む展開だ。原初の火を撒いて【炎熱特性付与】で“転移誘導”を付与すれば、後は何もしなくても勝手に燃えてくれる。

 水野の1アクションなんて、それこそほんのコンマ零点何秒以下の、一瞬にも満たない時間。

 しかし、魔神同士の戦いにおいてはそれだけの時間があれば―――


「届く…!」


 納刀―――その瞬間を見て、水野がようやく俺に対して反応。

 けど、もう遅いっ! 今から氷を退()かし始めても間に合わねえよ!

 抜刀。

 そして【空間断裂】が発動。

 水野には、切り裂かれた空間が見えているだろう。だが、逃げるスペースはない。


「首いただき!」

「糞餓鬼が…ッ!!?」


 周囲の半端に溶け砕けた氷塊ごと、水野の首を斬り飛ばす―――。

 首が胴体から転がり落ち、胴体から噴水のように血が噴き出す。

 原初の火で殺した時とは違い、水野の蘇生が格段に早い。首が落ちて1秒後には何事もなかったようにその場に立っていた。

 やっぱり、コイツを仕留めるには原初の火じゃなきゃダメか。

 だけども、この展開は全部狙い通り!

 蘇生までの1秒。その間、水野は防御も回避も、ましてや反撃は出来ない。完全なる無防備な時間。

 その時間を使って―――水野との距離を0にする。

 目の前には、見てるだけでイライラする神経質な黒髪の純正日本人の顔。

 蘇生が終わり、水野が目の前の俺に気付いてギョッとする。


「逃がさねえよ!」


 腕を伸ばし、その頭を掴む。

 引き剥がされないように、髪の毛を指に絡めるような掴み方をする。無理に振り解けば、某磯野家の波平さんみたいな髪型になる。


「くっそぅがッ!!」


 水野が俺を睨み、【事象改変】で俺を引き離そうとする。

 お前のその対応も想定内! 俺には【無名】が有るから、【事象改変】は効かねえぜ!

 そして、この状態からの発火なら、どんなに速かろうが強かろうが、逃げようがねえよなぁ!?


「燃えちまいな!」


 水野の頭を掴む手から放たれる黒い炎。


「―――ごゥ…あッ!!?」


 一瞬にして黒い炎が藍色の刻印に包まれた体を灰も残さず焼き尽くし、その場には人がいた形成は何も無くなった。


「カグ!」

「大声出さなくても大丈夫よ…」


 地割れに引き摺りこまれかけていたカグが、起き上がりながらパンパンっと体についた土と砂を払っていた。

 水野が燃えた事で、重力の楔が消え、大きくなっていた地割れも止まったらしい。

 さて、恐らくもう数秒もしたら水野が復活して来る訳だ……。やっぱり次も復活してくるよなぁ…? このまま死んで欲しいけど、「絶対に復活して来る」と言う妙な確信が俺の中にはあった。

 まあ、だったら死ぬまで殺し続けるんだが。

 さっきの復活(リスポーン)の瞬間を狙った攻撃、あれは個人的にかなり有効だと思っている。あの方法なら、水野の肉体的な超スペックを全部無視して仕留める事が出来る。

 ゲームで言えば、相手に何もさせない“ハメ技”であり、かなり……いや、相当卑怯なのは承知している。

 でも、悔しいがこれ以上パワーアップされると、本当に俺達が手が出せなくなる。卑怯だろうが何だろうが、勝てる手は尽くす。

 さっきは途中で逃げられたが、今度はそうは行かない。


――― ここで詰みまで持って行く!


 さっき逃げられたのは、原初の火を野郎の復活と同時に放って居たからだ。奴の反射と速度があれば、目の前に突然現れた炎だって回避出来る。

 奴を逃がさない為には、逃げる猶予を与えないようにしなければならない。つまり、持続的に原初の火を焚いて、奴が復活した瞬間に燃やし殺す必要がある。

 しかし、“持続的に燃やす”と言うのは原初の火にはちょっと辛い…。

 何故なら、そこに有るだけで、何もかもを燃焼して焼失させてしまうからだ。例えば、地面で燃やしておくと、土を燃やして消し続け、どんどん地下に潜って行ってしまう。

 原初の火は、“その場で燃焼し続ける”事がほぼほぼ難しい……


 俺1人なら。


 水野が存在していた場所―――数秒後に復活する場所に原初の火を燃やす。


「カグ、“巻き上げろ”!」

「そー言う事ね! まっかせて!!」


 黒い炎に向かって風が流れ込む。

 原初の火が風に巻かれて、数センチだけ空中に浮く。

 不自然に空中で燃える黒い炎………俺達の常識で言えば有り得ない光景。

 カグの操る風に煽られ、炎が大きく、強く燃え上がる。


「良い感じだ! それ維持で頼む!」

「わーってるっちゅうの」


 原初の火が空中で酸素と、無限に吹き込む“空気の流れ”を焼き消す。途切れる事無く燃焼を続け、炎がここら一帯の空気を全て呑み込もうとするかのように巨大化する。

 あまり大きくなり過ぎないように、火力をコントロールして水野の復活点の周囲4m程の大きさで維持する。

 そして間もなく水野が復活する―――。


「―――ギャ…ェ!!?」


 次の瞬間には黒い炎に食われて火達磨になり、2秒したら完全に燃え消える。

 はい、成功。

 このまま逃がさず、死ぬまで殺し続ける。


「ねえリョータ…? 言いたくないけど、これズッコくない?」

「ズッコくねえよ。っつうか、別にズッコくてもいいんだよ」


 焼く。

 何度も焼く。

 何度でも殺す。

 水野が生き返り、その度に燃えて死ぬ。

 苦しそうに悶えようが、断末魔の叫びをあげようが、容赦なく燃やして殺す。


 何度でも、何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも―――殺し続ける。


 カグが何度か躊躇(ためら)いそうなるが、なんとか頑張って貰う。

 ここで逃がせば、次のチャンスがあるか分からない。

 殺す度に復活する水野。

 十回くらい焼き殺しと蘇生を繰り返した所で……


「待てッ! 待ってくれぇ――――ァがっ!!?」


 水野が黒い炎に呑まれながら何かを叫び、そして何度目か分からない焼死。

 何か言おうとしてたみたいだが、何だったのだろう? 特に興味もないので無視する。……しかし、カグはそれを無視出来なかった。

 原初の火に吹き込む風が急激に弱くなり、炎の勢いがなくなる。


「カグ…!」

「だ、だって…あの人、あんなに必死に待ってって……」


 俺はとっくに何かを護る為なら“人殺し”をする覚悟が出来ている。そして、それを実行してしまっている。

 それが良い事か悪い事かは俺には分からないけど、少なくてもそれが必要な事だと俺は思っている。そして、俺以外の皆も、多分そういう覚悟をしている。

 ……けど、カグは違う。

 良くも悪くも、カグの心は元の世界の女子高生のままだ。

 人殺しは絶対に忌避すべき犯罪で、どんな理由があってもやってはいけない事。アッチではそれが当たり前であり、破ってはいけないルールだ。

 今も、実際に水野を殺しているのは俺の炎だが、それを間接的に手助けしているのはカグにとってかなり大きい精神的負荷(ストレス)だっただろう。

 このまま水野の言葉を無視してぶっ殺したい気持ちは大きい。だが、同時にカグが「無視して殺しましょう」と言わなかった事に、ちょっとだけ安心している…。


「……分かった。風止めてくれ」

「…うん。……ゴメンね良ちゃん…?」

「いいよ」


 カグが風の操作を止めた事で、周囲が無風になり空中で燃えていた原初の火が小さくなって地面に落ちる。

 炎が地面を焼き消す前に鎮火させ、ヴァーミリオンを握り直し、反対の手に黒い炎を纏わせる。

 今の水野の復活までの時間は、約15秒。あと5、4、3、2、1、ここだ!

 全力で一歩踏み出し、突然目の前に現れた水野の左肩を、欠片の躊躇いもなく刺し貫き、そのまま地面に押し倒す。


「ギィ……ぁがっ!?」


 ヴァーミリオンで地面に縫い止めたまま、原初の火を纏った右手をギリギリ水野の体に触れないところで構える。

 抜けようとすれば右手が触れて燃える。反撃しようとしても同じ。動いたら、その瞬間に殺す。


「言いたい事があるなら3秒以内に言え」


 現状を認識させる為に原初の火を揺らして見せる。


「ひっ……ま、待て殺すな!? その炎は止めろ! 後1回その黒い奴に燃やされたら、本当に死んじまう!!?」

「あっそ、そりゃ良い事聞いたわ。ようやくコレでテメエの(つら)を見納めに出来る訳だ」


 どうやら、ちゃんと原初の火は効いていたらしい。

 まあ、こんなクソチートな炎が何の効果も無いなんて、それこそ有り得んわ。


「お、同じ異世界人同士じゃねえか!?」

「だから何だ? テメエが今までやって来た事を(ゆる)してくれってか?」


 有り得ない。コイツを赦す選択肢なんて、世界のどこを探しても有り得ない。例えコイツが「この先の一生を贖罪の為に使います」とか土下座したとしても有り得ない。


「ま、待て! 待てって!? 本当に…本当に俺を殺すのかよッ!?」

「そうだよ」


 カグに視線で「見たくないなら目を瞑ってろ」と伝えてから、黒い炎に包まれた右手を握る。


「じゃあな」


 特別な攻撃をする必要はない。この右手で触れて、原初の火を体に燃え移らせればそれで終わる。


――― だが、呑気に話し過ぎた


 突然襲って来た横からの衝撃を受けて、水野の上から吹っ飛ぶ。


「チッ―――!」

「リョータ!?」


 凄まじい衝撃で吹っ飛ばされたが、辛うじて空中で立て直して着地。

 衝撃の飛んで来た方向を睨む。

 クソッ、このタイミングで割って入ってくるのかよ……! いや、水野がウダウダ命乞いしてたのは、割って入るタイミングを作る為だったか…やられた!


「テメエは王手かけると盤を引っ繰り返しに来やがって………」


 睨む。

 俺の―――阿久津良太の体を使う、5人目の魔神を。


「≪無色≫!!!」



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