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13-42 《白》の覚醒

 かぐやの意識が揺らぐ。

 体を縦に振られたように、視界が定まらず、耳の奥で虫が囁く様な音が響いている。

 体の奥底から噴き出す濁流のような(エネルギー)

 気を抜けば、その瞬間に波に呑まれて意識が沈んでしまいそうになる、圧倒的で、暴力的で、荒々しく、それでいて―――冷たい破壊衝動。

 ともすれば、身を任せてしまう事が正しい事のように思えてしまう。

 “抗えない”ではなく、“抗う必要が無い”と思わせて来る、この上なく厄介な衝動。

 かぐやは、必死にそれを否定する。


――― この濁流に呑まれたら終わりだ。きっと、もう“私”は戻って来れない!


 人間としての危険を感知する本能が全力でそう言っている。


『我ノ意思ニ従エ。サスレバ、オ前ノ求メル力の全テヲ与エヨウ』

「ぅるっさい……! 黙れッ!」


 (かぶり)を振って、全身に響く声に抵抗する。


『力ヲ求メヨ』

「…………ああ、そうよ。私は力が欲しいわよ! でも、アンタはお呼びじゃないっての!」


 濁流に沈みかけた意識を無理矢理水面まで浮上させる。

 未だ、響く声が足を掴んで破壊衝動の波の中に引っ張り込もうとするが、もう揺るがない。もう迷わない。

 かぐやは力を求める自分から逃げない。


 アークを……良太を護る為に、同じ領域まで踏み込む―――!


 パキンッと頭の裏側で、殻が割れるような感覚。

 噴き上がって来ていた力の奔流が、全身を巡って心臓に集まる。その集約されたエネルギーを言葉を紡いで解き放つ―――…。


「“烈風の如く―――”」


 空気が唸る。


「“雷鳴の如く―――”」


 雷轟が空間を奔り抜ける。


「“世界の全てを白く染め上げる”」


 かぐやの纏っていた【白ノ刻印】が、魔神の刻印へと塗り替えられる。

 開かれた瞳は―――怪しく輝く白銀。


「“我に力を”」


 空間のひび割れが広がり、漏れ出る赤、青、黒の光の中に白い光が混じる。


――― 魔神覚醒


 【オリジン:白】とかぐやの精神が繋がり、様々なスキルが体の中に取り出されて、魔神としての能力を発揮するのに必要な状態が整えられる。

 意識が遥か遠くまで届く。

 一足飛びで100km先まで飛べそうな程体が軽い。

 体を縛る全ての鎖から解放され、かぐやの体は神の領域へと昇華された。


「……これが、≪白≫の魔神の力? ううん、私が≪白≫の魔神その物になったの?」


 力が止め処なく溢れて来る。

 空間のひび割れの向こうに存在する≪(かぐや)≫の世界から、とてつもなく巨大な力が押し寄せてくる。

 今なら、世界全部を風で吹き飛ばす事も、雷で全てを破壊して焼く事も出来そうな気がする。―――いや、気がするだけではない。実際に、そうするだけの力が今のかぐやにはあった。


「あれ?」


 いつの間にか、≪無色≫が居なくなっていた。

 最高レベルにまで強化された感知能力で周囲を探るが、≪無色≫の姿はどこにもない。


(そう言えば、良ちゃんが≪無色≫は感知能力で捉えられないって言ってたっけ…)


 本当にこの近くから居なくなったのか、それともどこかに身を隠しただけなのか、それは分からないが、少なくてもこれ以上手を出して来るつもりも、足止めをするつもりもないらしい……と判断し、魔神達の戦場へ走り出した。



*  *  *



 遠ざかって行くかぐやの背中を見送って、≪無色≫は岩陰で1人笑う。

 彼は歓喜に震えていた。

 待ちに待った瞬間が、もうすぐ訪れる。

 全ての準備が整った。


(やはり≪白≫のトリガーは彼だったか。返しておいて正解だったな)


 ≪赤≫を追い込めば、必ず≪白≫がそれを護ろうと発芽すると予想していたが、その通りの展開になった。

 東天王国のトップを洗脳して戦争紛いの侵略行為をさせたのは、決して≪青≫の遊びに付き合った訳ではなく、≪赤≫を精神的に追い込む為だった。

 どれだけ兵士を並べようと、≪赤≫がその気になれば一瞬で消し炭も残らず燃やされるだろう。だが―――国同士のイザコザと言うのは、物理的に解決出来る力があろうと、精神の負担は計り知れない物だ。基本姿勢が不殺の≪赤≫であるのなら尚の事。

 ずっと待ち焦がれた瞬間が目の前まで迫っている事に、知らず上機嫌になる。

 ここが戦場でなければ、鼻歌の1つでも口ずさんでいたかもしれない。

 部下達―――魔神のなり損ない(・・・・・・・・)が全滅した事も気にならない。元々、ここに至る為の手足として作った連中であり、全てが揃った今となっては居なくなっても何も困らない。


(これで、ようやく目障りな彼にも消えて貰えるな)


 全てが自分の思い描く通りに進んで怖い位だった。

 600年間この時を今か今かと待っていたが、これ程計画がカッチリと嵌ったのはコレが初めてかもしれない。


(やはり、世界が望んでいる…と言う事だろうな)


 精霊達に邪魔されて、こんな遠回りをする羽目になったが、結局運命の輪は“こうなる”ように出来ているのだ。

 だが、それも当然の事だ。

 そうなる事を望んでいるのは、他ならぬこの世界なのだから。

 

 自分と言う存在がこの世界に生まれ落ちた瞬間に、結末は決定された。

 だが、嘆く必要はない。全ては道標に指示(さししめ)された通りに進むだけだ。


――― 世界の道標が指示す未来に向かって…。


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