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13-37 《赤》の戦い

 ひび割れた空の下―――ひびから漏れ出す≪赤≫と≪青≫と≪黒≫の光が入り混じり、さながら夜の魔天楼を照らすイルミネーションの様……。ちょっと故郷の東京の街並みを思い出してしまう。

 が、そんな望郷の思いを感じている余裕はない―――!


「ふっ―――!!」

「しゃぁああああっ!!」


 俺の刀と、水野の氷の剣がぶつかり合う。

 ギィンッと甲高い刃擦れの音、桁外れの攻撃力が衝突した余波が、爆発となって辺りに広がる。

 一瞬の力の均衡。…だが、次の瞬間には―――俺が一方的に吹っ飛ばされた。


「ん…ぐっ!?」


 景色が前に流れて行くのを見ながら、剣を握る手に残る痺れを、手首を振って急いで散らす。

 さっきからこの調子だ…。

 1分前までは力が釣り合っていた筈なのに―――…!


 着地…が、足が地面についた途端、その地面が砂になって底無しの穴になる。

 ≪(ルナ)≫の【地形操作】…!?

 慌てて【浮遊】で体を浮かせる。しかし、落とし穴に気を取られて、一瞬水野から意識が外れた。


余所見(よそみ)はダメだよぉー!!」


 ハッとなった時にはもう遅い。

 水野の蹴りが鳩尾にめり込んだ後だ―――。


「ご―――ふっ…!」


 臓物がグチャグチャにされた痛みが、つま先から頭の先まで貫く。

 【自己治癒】と【治癒力超強化】のお陰でダメージは即座に回復するが、蹴りを受けた衝撃の余韻が体の中で反響している。

 【オーバーブースト】で加速し、距離を取り直す。


「くっかっかか! どうしたの? 逃げんなよぉ、よーやくテンションが上がって来たのにさぁ!」


 ……さっきは原初に火にビビった目をしていたのに……腹立つ!

 っつか、これ気のせいじゃねえよな…?

 徐々にだけど、確実に水野の速度とパワーが上がって来てる! それに、攻撃に≪黒≫の力を折り混ぜるようになったから戦いづらいのなんのって…。

 魔神の能力は基本的に互角だ。

 相性差や、体格差程度の誤差はあっても、魔神から与えられる強化値(ブースト)は、どの色の継承者も同じ。だから、限界ギリギリまで能力を強化した状態で戦えば、当然100対100のぶつかり合いになる。

 けど……もし、≪黒≫のスキルだけでなく、能力の強化値も合算されるのだとしたら…。


「………いや、これ、“もし”も何もねえだろ…」


 俺が今一方的に押されている現状がその答えだ。

 2つの魔神を持つ水野は、スキルの数が2倍。身体能力も2倍。魔神の中に蓄積された経験値も2倍。

 くっそが…!

 コッチは体を魔神にして、限界ギリギリからちょっとはみ出してるくらいの所まで力を出してるっつーのに……。

 多分だが、今の野郎の状態は≪黒≫が体に馴染んで来てる……言うところの慣らし運転の最中じゃないかと思われる。って事は、ここからまだまだ能力が上がって行くって事なんだが……。

 ヤベェなコレ…! 今はギリギリ何とか正面からの戦闘でも食らいついて行けてるけど、これ以上能力が上がるようなら、マジで手が出なくなるぞ。

 俺には“原初の火”って絶対的なアドバンテージが有るが―――ぶっちゃけコイツには効いてるのか効いてないのかよく分からん。まあ、妙に警戒しているようだから、それなりに効果は有る……と思いたいが…。


 なんにせよ―――。


 チラッと視線を横に向けると、そこには静かに向き合うカグと≪無色≫。

 正直、「何とか助けに入らないと!」と気持ちが焦っているが……カグの言う通り、目の前の敵に集中しないとヤバいらしい。

 どれくらいヤバいって…今の水野の強さは、下手すりゃガゼルでさえ秒殺されかねないくらいにヤバい。

 冗談なしに、世界でコイツと渡り合えるのは俺1人しか居ないかもしれない。


 カグの事にしても、水野の強化にしても、この体を貪る浸食の刻印にしても……とにかく時間をかけて良い事が1つもない。

 とにかく短時間で焼き殺すしかねえ…!


「さあさあ、もうダウンかな?」

「まさか。ただの小休止じゃボケ」


 ヴァーミリオンを構え直す。

 現段階の水野のスペックなら、【オーバーブースト】で多少無理をすれば、スピードの差は何とかなる。問題なのはパワーだ。防御力をどれだけ上げても、一発一発が直撃を食らえばマジで致命打になりかねない。

 一先(ひとま)ずは、回避、防御優先で行こう。


「そんなに、ボケっと突っ立ってていいのかなぁ!?」


 水野がドンッと地面を踏むと、俺の周囲の地面が噴き上がり―――土と泥と鉱物が重なって混ざり、槍になり、剣になり、斧になり、槌になる。

 なんだこりゃ…! カスラナで俺がやった事のお返しか?

 四方八方から土の武器が飛んでくる。

 槍を回避し、斧を切り払う―――って、(かった)!? なんだコレ!? これ全部この硬度なのかよ!? 普通の物理攻撃じゃ排除出来ねえぞこれ!? 【空間断裂】か、原初の火じゃなきゃ無理だ!


 ―――じゃあ、そういう対応に切り替えよう。


 ワサワサと蜂のように群れで襲って来る武器、逃げるスペースが潰されて居て防御以外の選択肢がない。転移―――は、絶対何か罠が張ってあるよなぁ…。魔神同士の戦いで【空間転移】を警戒しない理由が無い。

 だったら、選ぶべき道は1つ!

 【火炎装衣】を発動。

 全身に黒い火を纏い、水野に向かって走り出す。

 飛びかかって来る武器は全て無視、どうせ原初の火と貫通出来る攻撃はない。

 凄まじい硬度の武器の群れは、まさに虫のように黒い火の中に飛び込んで来て燃える。灰も残らず燃やせると言うのは、やはり炎使いとしては気持ちがいい。


「チッ…また、その黒い炎かよ…!」


 原初の火を見せると、やはりあからさまに水野の様子がおかしい。

 冥王と似たような反応をしやがる。―――つまり、コイツは原初の火にビビってる可能性が高い。

 ……やっぱり謎だな?

 原初の火で2回燃やしたけど、結局仕留め切れなかった。けど、あれだけ分かりやすく怯えてるって事は、何かしらのダメージが入ってると見て間違いない……よな?

 とりあえず、もう1回焼いて反応を窺うか? ……とは言え、あれだけ警戒されたら普通に振り回したって燃やされてはくれないだろう。何か、一捻りしなきゃダメだな…。

 原初の火を全身に纏ったままだと、水野がビビって近付いて来てくれないので、土の武器が全て消えたのを確認してから、【火炎装衣】に繋げている発火能力を【終炎】から【魔炎】に切り替える。

 視界でチロチロと揺れていた黒い炎が赤くなり、水野の顔が目に見えてホッとしたのが分かった。

 

「ほら、お前がビビって近付いて来ねーから“黒いの”は引っ込めてやったぞ?」


 そして軽く挑発する。


「調子乗るんじゃねえぞガキッ!!」


 水野の姿がふっと消えて、瞬間遅れて踏み足の地面が爆ぜて、周囲に土砂を撒き散らす。

 【オーバーブースト】で肉体とそれに付随する感覚器官を加速―――更に【超速反応】によって反応速度を爆発的に引き上げる。

 意識が早くなり過ぎて、時間がゆっくり流れているような錯覚。

 その緩やかな時間の中を―――2つの色が混じった、混色の魔神が突っ込んでくる。


「―――!」


 水野が何か叫んだが、空気の振動が俺の耳に届くよりも、野郎の動きの方が早いので何を言ったのかは分からなかった。まあ、正直、どうでもいい事を叫んだのは確実なので、聞こえなくても何の問題もなかった。

 大振りの氷の剣(インディゴ)を、斜め上に弾くように下から斬る。


 くっそ、やっぱ攻撃が重い…!


 予想よりも水野の体勢が崩れてない。

 刃のぶつかった音が耳に届くより早く水野が2撃目を放つ。

 大上段からからの振り下ろし。

 ギリギリのタイミングになるが、反応が間に合う―――筈なのに、腕が…剣が持ち上がらない。

 水野がしてやったりの顔をして笑っていた。


 いつの間にか、ヴァーミリオンの刀身が凍っていた。


 さっきの斬撃を受けた時かよ―――!? しかも、その氷に対して重力をかける事で、俺の【アンチエレメント】と潜り抜けやがった…!?

 防御が間に合わない―――…。

 肩に冷たく鋭い痛みが走り、それが袈裟切りに抜けて行く


「―――ガッ…ぅ…!?」


 傷口から血飛沫が舞い、目の前の水野の体を赤く染める。

 クッソが…【火炎装衣】の防御を紙みたいに簡単に斬りやがる…! でも、【火炎装衣】張って無かったら、体を両断されていたかもしれない威力だ…。


「残念だったねえ?」


 俺の血で全身を真っ赤にしながら、楽しそうに笑う―――けど…


「残念だったのは、テメェだよ」


 ダメージのでかさは想定外だったが…まあ、ダメージは勝手に回復出来るのでいい。

 今、重要なのは、野郎が―――俺の血を浴びたって点だ。

 血。

 そう、つまり、【バーニングブラッド】が使える!


「3度目の正直だ!」

「ぢぃっ!」


 水野が俺の狙いに気付いて、慌てて血を拭おうとするがもう遅い。全身に浴びた赤い血が、一瞬にして燃焼して真っ黒な炎となって水野を焼く。


「ぐ…ぁが―――っ!?」


 原初の火に包まれて、火達磨(ひだるま)になった水野が地面を転がる。

 正直、火の中に飛び込んだ虫を見ているようで、(あわ)れに思う気持ちが湧いて来そうになる。が、コイツのして来た事を思うと同情の余地無しなので、黙って体が燃え尽きるのを待つ。

 2秒程かかって、塵1つ残さずに水野の体が焼き消えた。


「さて……」


 1歩後ろに下がって、手の平で原初の火を球状に溜める。

 1、2、3…。

 心の中で、「このままくたばれ」と思いつつ、復活までの秒数をカウントする。そして気付く。

 あれ? さっき原初の火で焼いた時より、復活のタイミングが遅くなってないか? と、小さく首を傾げていたら、音もなく水野がそこに現れた。

 

――― そのタイミングを狙う!


 振り被って、用意してあった原初の火の球を、水野の顔面に叩き込む。


「死ねおらああああッ!!!!」

「―――!!?」


 いきなりの事に反応出来ず直撃。原初の火が顔から全身に燃え移り、再び地面を転がる。

 リスポーンを狙うのはゲームでは基本っちゃ基本だけど、実際にやると卑怯臭い事この上ないな……でも、まあ、やるんだけど。

 1、2、3、4、5……。

 やっぱりだ。復活のタイミングが、原初の火で死ぬたびに少しづつ遅くなってる。

 待ってる間に、もう1発黒炎球を作りつつ少し思考する。

 水野が原初の火を受けて復活出来るのは“別世界の自分に、原初の火を食らった事実を押しつけている”からだ。

 当然その(たび)に、どこかの世界の、俺の知らない水野が死んでいる訳だが……。


 もしかして、原初の火で死ぬ事で、『接続が悪くなる』とか『接続された回線が重くなる』とか、そんな感じのリスクが生じてるのかも…?

 だとすれば、水野が嫌がるのも頷ける。それを続ければ、絶対にどこかで『接続が切れる(リンクアウト)』が発生するからだ。

 仮にそうだとすれば、原初の火で殺し続ければ、どっかで死ぬって事だよな? しかも、水野のあのビビり方から見て、そう遠くないどこかで。

 とか考えてる間に水野が復活した。


「もう、一丁(いっちょ)!!」


 先程と同じように復活とほぼ同時のタイミングで炎球を投げる。


「クッ…ぁああぶねええ!! 糞がキャぁああ! 舐めた真似しやがってぇえええ!!!!」


 が、流石に避けられた。

 まあ、こんなアホな手が通じるのは1回だけか。


 さてさて、水野が後何回原初の火を食らえば死ぬのか分からんけど、野郎の体に≪黒≫が馴染むより早くケリを付けねえと、逆にコッチがピンチになるな。


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