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13-36 阿久津良太の幼馴染みとして

 遡る事少し前―――キュレーア近郊へ転移した直後の話。


「皆、悪いけど先行っててカグと話がある」

「え?」


 かぐやが予想だにしない事を言われて若干間抜けな顔をしたが、他の面子は特に気にした様子もなく「じゃあ先に行ってる」とさっさと歩いて行き、アークの肩に座っていた白雪も気を利かせてパンドラの元へと飛んで行った。

 皆が声の届かない所まで行くと、早速話し始める。


「それで、何よ?」

「おう、今のうちに話しておきたい事があって」

「うん、そいで何よ、ってば?」

「この先から魔神の気配を感じるのは分かるよな?」

「……うん」


 体に魔神を入れている2人は近くに居る魔神の気配を感知出来る。なので、当然キュレーアから伝わってくる≪青≫の気配には気付いて居る。


「≪青≫が居るって事は、≪無色≫が居る可能性もある」

「そうね…」

「って事は、この先に行けば俺の体を使ってやがるあの野郎とも戦う可能性があるって事だ」

「それは分かるわよ…。だから、どうしたのよ?」


 聞き返されてアークが黙る。

 自分から「話したい」と言っておきながら、肝心な所で何も言わない。そのアークの行動と雰囲気で、「良くない話だ…」と今までの経験から察するかぐや。

 5秒程気まずい沈黙が続き、ようやく続きを話し始める。


「俺は……アイツから体を取り戻す」

「…うん」

「けど、もし、それが出来なかったり、俺の体を切り捨ててでも≪無色≫を倒さなければならないと判断したら………俺は、俺の体ごと≪無色≫を原初の火で焼き殺す」

「………」


 かぐやの驚きは相当な物だった。……だが、アークがそう言うだろう事も予想をしなかった訳ではない。

 この幼馴染なら、多分そう言うだろうと頭の片隅でずっと―――恐れていた。


「……意味分かって言ってるのよね…?」

「ああ」


 原初の火で焼く。魔神を殺す方法はそれ以外に無いのだから、それは分かる。だが、それは同時にその体の―――阿久津良太の体の死でもある。

 それもただの死ではない。

 原初の火で焼かれれば、例え肉体の再生法や蘇生法が存在したとしても、もう2度と元に戻る事はない。


「……それ、死ぬって事なんだよ? リョータが元に戻れる可能性が無くなるって事なんだよ!?」

「分かってる」


 語気の荒くなるかぐやに対して、アークはどこまでも静かだった。その水面のような落ち付きは、どこか死期を悟った人間を思わせて……余計にかぐやを不安にさせる。

 アークがこの話をかぐやにだけしたのは、単純な理由だ。

 もし、“その時”が来たら、自分を止めに入るのは恐らく彼女1人だけだからだ。

 パンドラも、フィリスも、白雪も、ガゼルも、きっとアークが阿久津良太の体を殺す事を止める事はない。

 何故なら―――彼女達は、“阿久津良太”と会った事がないから。

 いつも話してしている自分は、あくまでアークであり、あの体は彼女達にとっては最初からずっと敵だった。だから、阿久津良太がどんな人間なのか想像する事も出来ないだろう。

 だけど、かぐやは違う。彼女だけは、ずっと阿久津良太と一緒に居た。


「分かってない!! ……分かってないよ…」

「んな悲しそうな顔すんなって…。別に始めっから殺しに行くつもりはねえし、俺だって死にたい訳じゃない。極力、体は取り戻すつもりで居るし……まあ、アレだ。心構えの話しだ」

「………心構えって…」

「話はそんだけ。早く皆に追い付こう」


 何事もなかったように歩き出すアークの背を見送る。

 アークが体を取り戻そうとしているのは事実だろうし、死にたくないと言うのも本当だろう。

 だが、それでも……やる時が来たら、アークはやるだろう。

 言い知れない不安が、かぐやの心に重く、重く圧し掛かった…。



*  *  *



 ≪無色≫とたった1人で向き合うかぐやは、あの時の会話を思い出していた。

 正直に言えば、今の状況は怖くて心細い。

 かぐやの戦闘能力は高い。【魔人化(デモナイズ)】すれば、現クイーン級冒険者の中で戦闘力トップであるアスラとタメを張れる程に強い。

 ……だが、それでも幼馴染との間には、隔絶された能力差がある。

 その幼馴染が、対応を慎重にし、警戒を最大にしている≪無色≫と1人で向き合うのは精神的にも能力的にも厳しい。その上、その敵が自分にとって近しい……親しい幼馴染の姿だと言うのだから更に苦しさが割り増しである。

 ただ、この状況は―――


(望むところだわ…!)


 ≪無色≫と戦う事への不安はある。元々戦闘向きな性分ではない事も相まって、気持ちも気分も重くなり、テンションが1秒ごとに下がって行く。

 そこでようやく、≪無色≫が戦場に現れた事にアークが気付く。


「カグっ!!」


 慌てた様子でかぐやと≪無色≫に割って入ろうとする。だが―――それを、戦っている水野が許さない。


「どこ行くんだよ」


 進路を遮られ、アークの足が止まる。


退()けッ!!」

「嫌だね!」


 放出された熱と冷気が空中でぶつかり合い、衝撃波のような風が周囲に吹き荒れる。

 アークならば、何が何でもかぐやを助けようとする。そして、その焦りは戦闘に置いて致命的なミスを呼ぶ。

 それくらいの事は、≪白≫の戦闘経験値を持っているかぐやにも分かる。

 ましてや、今アークが戦っているのは、魔神2つを宿し、原初の火ですら殺し切れない化物だ。


「リョータ!」

「待ってろ! 今すぐ助けに―――!!」

「そうじゃないっ!!」

「……ぁん?」

「私は大丈夫だから、目の前の敵に集中ッ!!」


 アークに心配させたくないから―――と言うのもある。だが、それ以上に、戦わせたくないのだ。

 戦えば、どんなに≪無色≫が強くてもアークが勝つ…とは信じている。

 だが、体を取り戻す事が出来なかった時……アークは間違いなく原初の火で焼くだろう。それを、して欲しくない―――いや、させたくない故の言葉。


(良ちゃんの体は…私が取り戻すんだ!)


 ≪無色≫がアークと戦う前に、自分が体を取り戻す。それがかぐやの出した答えだった。

 自分が≪無色≫の支配化に居た時、助け出してくれたのは他でもないアークだ。


(今度は私の番だから…)


「大丈夫って…お前何言って―――!?」

「コイツは、私が止めるから。アンタは目の前のバーサーカー倒す事だけ考えて!」

「お前が止めるって、そいつは≪無色≫―――」


 だが、それ以上の会話を水野が許さない。


余所見(よそみ)してる余裕があんのかぁっ!!」


 熱の壁を、凶悪なまでの冷気を体に纏う事で無理矢理抜けて、その先に居るアークの首を狙ってインディゴを振る。


「チッ、コッチは話の途中だっての!!」


 氷の刃をヴァーミリオンで受けて返す。

 だが、本格的な斬り合いに突入し、かぐやと会話をする余裕が無くなった。


「パンドラさん、フィリスさん! そっちの小さいのはお願いします!」

「はい」「お前は私達の事より自分の心配をしろ!」


 2人の返事を聞き終わるや、意識を目の前の1人だけに集中する。


「その体、返して貰うわ」

「これはこれは、まさか幼馴染の体を取り戻す為、1人果敢に立ち向かって来るとは。勇ましいのは結構だが、君1人で戦えるのかな?」

「ご心配どーも。心配されなくても、リョータの体は殴り慣れてるから!」


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