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13-33 それぞれの戦い

 人の焼ける臭いと、微かな黒い残り火だけがその場に残る。

 水野の体は跡形もなく燃え消した。……しかし、先程の展開が何かの間違いでなければ、恐らく復活してくる。

 今も地面を焼いて居る小さな黒い残り火を消火して、その瞬間に備えて意識を集中する。

 異変は一瞬だった。

 予兆は無かった。

 (まばた)きに目を閉じて、開ける。その一瞬の動作を行う間に、居なかった筈の水野が当然のようにそこに立って居た―――。


「チッ、やっぱり殺し切れねえか…」


 悔しいは悔しいが、まあ、これは想定内。

 コッチの目的は、復活の瞬間を見る事だ。

 今目の前で起こった事を【異能解析】を使って改めて探る。

 えーっと…なんだこれ? 事象平面干渉? 多次元……リンク? うーん? どう言う事だこりゃ?

 よく分からんけど、自分が死んだ事実を、別の世界に存在する“自分がそうなる可能性”に押し付ける能力……って事かな? いや、マジでどんなご都合な能力だ…!

 例えば、異世界とはまったく無関係に生きている水野。

 例えば、嫁さんと子供を持って幸せな家庭を持っている水野。

 そう言う、別の可能性の自分に“原初の火で焼かれて死んだ事実”をぶん投げる事で、今目の前に居る水野は生き延びている…らしい。

 逆に言えば、何も知らない別の世界線の水野がその度に死んでるって事か…。その点に関しては同情も罪悪感も湧いてこないが……こんなどうしようもない馬鹿な可能性の自分が居た事を恨んで下さい。

 さて、謎が解けたのは重畳(ちょうじょう)。問題は、これをどうすりゃ良いんだ…って話だ。

 別の可能性の自分なんて、どれだけ数が居るのか分からん。幾千、幾万の人生の分岐がある事を考えれば、“自分がそうなる”可能性なんて億を越えてるんじゃねえか? って事は、コイツは殺してもその回数復活出来るって事になる……。

 本当…勘弁願いたいわぁ…。

 コッチは早いところ終わらせたいのに……耐久戦とかマジ止めて欲しいわ…。

 ……とは言え、コイツが死ぬまで殺し続けるしかねえか。


「その黒い炎が強いのは理解したが、それじゃあ俺は殺せないよ?」


 …あれ? さっきまでの魔神の喋りじゃない?


「どうした? 俺の顔に何かついてるかな?」

「いや、別に。ただ―――お前水野か?」

「当たり前だろう? なんでそんな当たり前の事を訊くのかなぁ?」


 ヘラっと笑う。

 あのクソ鬱陶しい笑い方は、間違いなく水野か。さっきまでは間違いなく魔神に意識を食われて居たのに、1度死んで意識を取り戻した……のか?

 まあ、でも魔神の意識よりもコイツの方が幾分が楽だな。能力的にも、精神的にも。


「……あれ? 俺いつの間に炎なんて食らったっけ…? まあ、いいや。さっさと続きと行こうか?」

「ああ。テメエがあの世に行くまで、何度でもぶち殺してやるよ」

「何度でも…ね。くくくっははは! 無駄だって理解しろよ餓鬼。何万回殺されたって、俺は痛くも痒くも―――」


 言葉を止めて、何かを確認するように視線が空中を泳いでいる。

 何してんだアイツ? 油断を見せて、俺が攻撃するのを誘ってる……って感じじゃねえな?

 つっても、不用意に突っ込むには危険過ぎるな。


「おい!」


 声をかけると、子供の様にビクッと肩を震わせて俺を見る。だが、その目にはどこか怯えが透けて見える…。

 え? 何? なんで2秒前まで強気だった奴がこんなにビビってんの…?


「な、なんなんだよ…その黒い炎はよぉ…!?」


 さっきまで余裕こいてたくせに、急に原初の火を警戒し始めた? さっきまでの余裕の出所が「残機ほぼ無限」だったとすれば、今の怯えっぷりは……それが何かしら崩れたから…か?

 攻めてみるか!


「企業秘密!」


 水野に向かって、駆け出した―――…!



*  *  *



「で? 俺は何時(いつ)までお前等と睨み合ってれば良いんだ?」


 目の前の魔素体の2人に向かって、ガゼルは呆れ混じりに呟いた。

 戦端は開かれ、今も横でアークと水野…2人の魔神が地形を変える威力の攻撃をやり取りしている。後ろの方では女性陣も戦いを始めている。……だと言うのに、ガゼルは目の前の敵2人と、お見合いの如く向き合ったまま動かずに居た。

 相手が1人であるならば、ガゼルは気にせず飛びかかって速攻で殺しにかかっている。だが、2対1と言う状況は宜しくない。相手が格下ならばまだしも、それ相応の能力者だ。

 決して舐めてかかっていい相手ではない。

 ガゼルからは無暗に攻められず、かと言って相手からも攻めて来ない。そんな訳で、周囲でバタバタと戦闘が行われて居るにも関わらず、3人は睨みあったまま動かずに居た。


「他の戦いが終わるまで……と言ったらジッとして居てくれるのかな?」

「無理だな」


 長身の方の魔素体、ブランゼが訊くとガゼルは食い気味に即答した。

 一応アークに対しては冒険者の先輩としての威厳がある。後輩が死に物狂いで戦っている横で突っ立ってるのはプライドが許さない。そしてそれ以上に女子が危険覚悟で戦っているのを助けに行けない状況が許せない。

 ガゼルの返事を聞いて、老人っぽい動きをする魔素体、グリフが肩を揺らして笑う。


「ほっほっほ、やはり大人しくして居ては貰えんようじゃのぉ」

「エメルを圧倒した相手と正面切って戦うなんて、本来ならば絶対避けて通りたいんだがな…」


 ブランゼが額に指を当てて溜息を吐く。

 魔素体―――魔物の体になっても人の体と同じようにする様が、存在の(いびつ)さを濃くする。


「せめて、リューゼが“取り巻き”を始末して合流するまではジッとして居て欲しかったんだが、そう上手くいかなそうだ」

「お前達、あの()達を舐め過ぎじゃないか? あの()っさいのがどの程度が知らないが、1人でどうなる程安くないと思うぜ? まあ、今更助けに行こうとしても―――戦場で俺と向き合った以上、絶対に逃がさんがな」


 ガゼルが殺気を解放するや否や、空気が―――空間がガゼルを恐れるように震える。

 受けて、魔素体2人の雰囲気が変わる。ガゼルの殺気を押し返す様に放たれる見えない圧力―――。

 3人の周囲で常人には視認出来ない力が衝突し、パチッと空気が弾けて小さな風を起こす。

 魔素体2人が戦闘モードになった事を確認して……ガゼルは少し迷う。

 戦う事は異存ない。むしろ望むところだ。……だが1つ問題がある。目の前の2人を相手にするには今の人間の姿のままでは流石に辛い。“竜王”になれば対等以上に戦えると自負しているが………問題は東天王国の兵士達だ。

 自分が竜人―――亜人である事は隠している。同じ亜人や信頼のおける者達の前ならばともかく、出来れば人目につくところでは使いたくない。


(とも言ってられねえか……)


 今のガゼルはキング級の冒険者だ。クイーン級の時以上に注目が集まる。

 恐らくどこかでバレるだろうという危惧はずっとあった。それが予想以上に早く来たという、それだけの話。

 ただ、幸いな事に、兵士達は自我を保って居るのか怪しく、運が良ければ記憶が残らない…と言う可能性もある。


(バレた時は…その時はその時だ)


 覚悟を決めて、迷いを頭の中から締めだして完全な戦闘モードに移行する。

 槍を地面に刺して両手を開け、コートを脱ぎ捨ててその上にテンガロンハットを投げる。


「【竜王降臨(ロードオブドラゴニス)】」



――― 戦場に竜王が舞い降りる。


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