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13-30 総力戦

 水野の体が黒い炎の中で崩れ落ち、間もなく灰も残さず消える。

 水野の体と共に原初の火に触れた地面が、焼き崩れて不自然に抉れたクレーターのようになってしまった。……が、まあ、魔神を仕留める代償と考えれば、この位の被害は安過ぎるだろう。


「これで1人…」


 人を殺した後に感じる倦怠感、心が鉛のように重くなる感じ…。同じ異世界人を殺したって事実が、更に心を重くする。

 ……いや、けど足止めてる場合じゃねえ…。

 深く深呼吸して気持ちを切り替える。


「あとは≪無色≫だな」


 野郎がここに居るかどうかも分からないけど、奴が妙に大事にしていた水野……そして“完全なる1”の欠片の1つである≪青≫を消した。奴の1つに戻るって目的はこれで終わりだ。

 でも、奴には阿久津良太(おれ)の体を握られている。目的を失って大人しくなるのだとしても、放置する事は出来ない。

 ……まあ、とりあえず残っている東天王国の連中を追い返すか。

 皆に「終わったー」と軽く声をかけようとした瞬間―――



「まったく…いきなり首を飛ばすなんて酷いじゃないか?」



 突然背後に魔神の気配が現れた―――いや、復活した…!?

 バッと慌てて振り返ると、繋ぎ直された首の調子を確かめている水野が……さも当たり前のようにそこに立っていた。


「な……んで…!?」


 原初の火を浴びて、何で生きてるんだ!?

 あの黒い炎は、俺以外の誰も耐えられない筈だ。

 ……いや、耐えるとか効かないとか、そんな話じゃないぞコレ!? さっき、確かに1度水野は灰も残さず原初の火で燃えた。であれば、そこからはどんな蘇生能力も再生能力も意味が無くなる。

 再生能力で元通りの肉体を作り直そうにも、その設計図を原初の火は燃やして消してしまう。そもそも肉体が戻ったところで、精神や魂……器の中に入るべき中身も焼滅してしまっている―――筈、なのに……なんで…!?

 驚いているのは俺1人ではない。


「理解不能です」「アーク様の炎が…通じない…!?」「父様……」「リョータ……大丈夫なの?」「これ、まずい展開じゃねえか?」


 皆の不安そうな声が、更に俺を焦らせる。

 正直、完全に今の一撃で終わったと高を括っていた。

 いや、だって、原初の火を受けて生きてるとか、予想外過ぎるだろう……!


「不意打ちをズルイだなんて言うつもりはないけどさぁ~、正義の味方ならそれらしく戦いなよ? どれだけ余裕ないのさ?」


 嘲笑うように顔を歪ませる。

 さっきまで見えなかった人間性が嘘のように楽しそうだ…。


「俺の【輪廻転生(リインカネーション)】だって、残り回数が少ないんだし気を使って欲しいんですけど~」

「そんなもん、知るか…!」

「へっはっは…だよねぇ」


 ヘラヘラ笑いながら腰の神器(インディゴ)を抜く。


「それにしても、君はつくづくチートだねえ? さっきの黒い炎、どう言う理屈か知らないけど、触れれば100%死が確定する上に、防御も出来ないなんて、どんだけなの? まあ、俺は生きてますけどね~へえっはっははは!」

「そーだよ…なんでテメエは生きてるんだよ…!」

「あれれ~? 知りたい? 知りたいの~? でも、教えてあげな~い! コッチが驚かされたんだから、そっちも少しは驚いてて貰わないと割に合わないでしょぅ」


 イラっ…!

 いや、腹立ててる場合じゃねえよ。

 冷静になれ!

 原初の火で殺し切れないって事実をまずは受け入れよう。必殺の攻撃として絶対の信頼を置いて居ただけに、ショックはショックだが……少なくても効果が無い訳じゃないっぽいのが救いか?

 それに、ただ原初の火で仕留められなかったってだけだ。まだ負けた訳じゃねえし、勝ち目が無くなった訳でもねえ。

 水野がインディゴに氷の刀身を作るのに合わせて、俺も姿勢を低くして抜刀の構え。


「はっはは、こうして武器を向け合うのも何度目になるかな?」


 今までの俺との戦いを思い出し、自分の負ける姿が頭を過ぎったのか、笑っているのか怒っているのか分からない顔をする。

 お互いにいつでも飛び出せる状態―――。

 何かキッカケがあれば、その瞬間に俺と水野の……≪赤≫と≪青≫の殺し合いが始まる。……が、それが始まる前に何かが転移してくる気配…!?

 何か来る!! と警戒心を強める。

 ガゼルの奴も転移して来る何かに逸早く気付いたようで、背中から槍を抜きながら俺の横に並ぶ。

 水野の相手は俺に任せるが、それ以外は引き受ける…と言う事らしい。とってもありがたい。

 一瞬遅れて水野も自分の背後に転移して来る何かに気付き、俺から意識を外して振り返る。隙だらけ…に見えるけど、警戒はされてるか…。

 空間が歪み、その中から光が溢れて何かが転移して来る。

 人の形をした真っ黒な魔素の塊。


――― 魔素体…!?


 それが3つ…いや、3人って言う方が正しいのか?

 ガゼルと同じくらいの身長の奴が1人。

 そして頭3つ分くらい小さいのが2人。片方はふんぞり返って立っていて、もう片方は少し腰を折っていて、どこか老人の様に見える。

 そんな3人に向かって、水野が心底嫌そうに…。


「何しに来たんだよ? 邪魔だから消えろよ」


 言われた3人も嫌そうに返す。


「頭首からお前を護るように言われている」「勝手に動き回るなんて馬鹿なのお前!? 馬鹿だよねッ!?」「あまり動き回らせんで欲しいんじゃがのぉ」


 お互いに文句を言い合った後に睨み合ったまま静かになる。

 ……魔素体って事は、≪無色≫の手下だよなコイツ等? しかし、≪無色≫自身が出てくる気配がない。≪青≫を潰すまでは、≪無色≫にチョロチョロされると鬱陶しいので、正直助かる。


「ガゼル、取り巻きは任すぞ」

「あいよ。お前は≪青≫に集中しな」

「御言葉に甘える」

「ところで……あの魔素体の1番デカイ奴だけどよ。あの声、もしかして≪無色≫の傍仕(そばづか)えをしていた隻眼の奴じゃないか?」


 言われてみれば、確かにあんな感じの声だったかもしれない。


「…かもな?」

「傍仕えまで戦闘に出て来たって事は、もしかして連中の手持ちの戦力はもう残って無いんじゃないか?」

「だとすれば、ここで奴等を片付ければ≪無色≫と戦う時に大分楽になるな」


 もしかして、東天王国をけしかけたのも、その辺りの事情から来た小細工なのか? いや、戦争を小細工と言って良いのかは分からんが。

 コッチの話が終わると、連中も戦う気はあるようで……睨み合いを切って俺達に向き直る。


「まあ良いや。お前等が戦うのは勝手だけど、俺と≪赤≫の邪魔はするなよ? 俺が邪魔だと感じたら、その瞬間に殺すからな」

「理解した。だが、頭首からの命により、お前が殺されそうな時には割って入らせて貰うぞ」

「はぁあ!? 今の俺が負ける訳ねーじゃんさぁ! ふざけた事言ってると今殺すよ?」


 そんな水野の言葉を「はいはい」と残りの2人が受け流して俺達の後ろにいる女性陣を見る。


「ふむ、情報通りに≪白≫が目を覚ましておるな…」

「ねえ、あの“取り巻き達”はどーすんのさあ?」

「後ろの連中は、魔法が得意な者が多そうじゃな? ならば、お主が適任じゃろ」

「えぇー!? 僕が雑魚担当なのー!」

「そう言うでないわ。お主は1度人間相手に敗北しておるじゃろう? 見事連中を倒してみせて、頭首からの信頼を回復すればいいんじゃ」

「……ま、そーゆー事なら良いけどさ。けど、さっさと終わらせるから、僕の分も残して置いてよね!?」

「それまで奴が持てばの」


 少しだけ背の折れた老人っぽい魔素体がガゼルに視線を向けて目を細める。

 ガゼルもその視線を受けて殺気を込めて睨み返す。だが、相手が怯んだ様子は欠片もない。

 魔素体のリーダー格と(おぼ)しき長身の奴が1歩前に出る。


「遅ればせながら、名乗らせて貰おう。私はブランゼ、頭首の補佐的な事をしている。コチラの取りまとめ役…と思って頂ければ結構だ」


 自分の名乗りが終わると、老人っぽい方の魔素体を手で示す。


「彼はグリフ、元々老人の体を使っていたので、肉体の老化に引っ張られて喋りがこんな事になっているが、実際は老化なぞ欠片もないので遠慮せずにかかって来てくれ。私と彼で―――そちらの竜人(ドラゴノイド)殿のお相手をする」


 最後の1人、子供っぽい喋りの奴を紹介するのかと思ったら…。


「僕はいいよ! コイツ等に名前を知られたところでチッとも嬉しくない!!」


 そう言って、ドンっと凄まじい量の泥を巻き上げる踏み出してダッシュし、俺とガゼルの横を素通りして、カグ達に突っ込んで行く―――!?

 クッソ、いきなりそっち狙ってくんのかよ!?

 慌てて俺達を素通りした敵を追おうとすると、俺が動くより早く制止された。


「リョータ!」「マスター!」「父様!」「アーク様!」

「「「「大丈夫よ(です)(ですの)!!」」」」


 ……良いのか、本当に任せて…?

 魔素体の能力値はマジでヤバい。魔神の俺や、竜王のガゼルが戦うと格下に思えるが、それは俺等が人外の強さに至ってしまっているだけだ。コイツ等魔素体の能力値は、キング級の魔物を遥かに凌駕する。それを1人だけとは言えアイツ等に任せてしまって大丈夫なのか?

 逡巡(しゅんじゅん)していると、ガゼルに軽くケツを蹴られた。


「ぃってえ!」

「心配し過ぎだ。お前のところの女の子達は王子様の助けを待つお姫様か?」


 いえ、絶対違います(即答)。


「あの子等はそんなに弱くねえよ。それに、そんなに心配なら、目の前の敵を速攻でぶっ殺して助けに行けば良いだけの話だ」

「なるほどね。ガゼル、お前は時々頼りになる先輩(ぱいせん)だな?」

「馬鹿野郎。俺は常に頼りになる格好良い男だっての!」


 俺と向き合う歪んだ笑顔の水野。

 ガゼルと向き合うブランゼとグリフ。

 カグ達と向き合うチビの魔素体。


「ねえ? いい加減始めて良いかな?」


 待ちくたびれたのか、水野が氷の剣をユラユラと揺らしながら不満そうに言う。


「上等! 死んでから後悔しろやっ!!」


 っと、皆が目の前の対処で忙しくなる前に―――スゥッと息を吸う。


「全員っ、死ぬ気で勝てッ!! ただし、本当に死んだら冥府まで殴りに行くからなッ!!」

「おうよ!!」「はい」「はいっ!」「ですのっ!」「アンタこそ死ぬんじゃないわよ!」


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