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13-27 引っ越しは始まり…

 東天王国の動きが怪しい…とグランドマスターから聞いて2日。

 聞いたその日のうちにルディエを始めとした主要都市に回り、東天王国の件を伝えて出来るだけ備えるように注意した。

 まあ、【転移無効(アンチポータル)】なんて、転移魔法よりも使い手が希少な魔法だ。冒険者ギルドの方に数人だけ居るらしいので、その人達には転移魔法の使い手と組んで色んな町に回って貰う事になる。

 とは言え、伝えて回った印象は以外と皆落ち着いて居た。いや、それどころかカスラナやソグラスでは「そりゃー大変だ、はっはっは」と爆笑された。

 なんでそんな余裕ブッこいてるのかと訊いたら「何かあっても、君が助けに来てくれるんだろ?」と笑って返された。

 予想以上に俺……っちゅうか、キング級冒険者に対する期待はでかいらしい。分かっては居たけど、改めて気が引き締まる思いだ。そして責任感の重さで胃が痛くなりそう…。

 ガゼルの奴も自国に戻って注意喚起に回って居たらしいが、コッチと似たような感じだったようだ。


 まあ、ともかく東天王国が何か仕掛けて来たら、俺等が飛んで行って殴り倒す!

 つっても…、ずっといつ来るか分からない敵さんに備えてギルドに詰めている訳にも行かず、現在はユグリ村で亜人達の引越しの手伝いをしている。


「疲れた……」


 頬を伝う汗を拭って、こんなに汗だくになった成果を改めて眺める。

 立ち並ぶ40を越える簡易小屋。

 とりあえずの亜人達の住居だ。本当に簡易的な建て方をされており、土台とか全然作ってない。もっと言うなら大黒柱もない。ぶっちゃけ俺等の世界のプレハブ小屋の方が耐久性が3倍は高い。

 ドワーフの棟梁……じゃない(かしら)が「落ち着いたら、絶対にもっとマシな奴を建てるからな!」と声を荒げていた。

 早いところあの荒地のような場所から移住はしたいが、職人としてこの家の作りには納得していない…と言う事らしい。まあ、勝手にやってくれ。

 それにしても………作業を開始したのが今日の朝方からで、亜人総出、ユグリ村の村人協力ではあるが、昼過ぎにはこれだけの数の建て物が建ってるって凄くね? どんな作業効率なの? 災害救助に出向いた自衛隊でもこんなに早く住居用意出来ねえよ?

 しかも指揮を取ってるのが、本来は建築とはあまり関わらない鍛冶職人の頭って…。

 後に聞いた話だと、頭を始めとした現場を引っ張るドワーフは全員種族特性として【物作り】のスキルを持っているらしい。このスキルは、どんなに無茶なやり方や作り方をしても、ある程度の水準の物が作れてしまう…と言う便利スキルだそうだ。つまり、ドワーフが適当に鍋に食材を放り込んで思い付くまま調味料を入れたら、必ずそこそこの味の料理が出来るって事らしい。例え鍋の中にゲテモノや、味を殺し合う食材が入って居ても、仮定を無視して成功する未来に無理矢理繋げてしまう、ある種の運命操作のスキルって事か?

 まあ、ともかくそのスキルの持ち主達が頑張ってくれるお陰で、周りがどんなに適当な仕事をしたとしても仕上げを彼等がすればアラ不思議! ちゃんとした小屋が建つって寸法よ。


「大分進んだね?」


 言いながら木陰で一休みしている俺に、水の入った木製のコップを差し出すカグ。


「サンキュー。つっても、まだこれでも7割らしいけどな?」


 受け取った水を一気に飲み干す。

 冷たい水が喉を通り過ぎるのが心地良く、水分を欲していた体が満たされる。


「……どんだけ建つの、この小屋?」

「≪無色≫の連中の襲撃で大分数を減らされたって言っても、色んな種族が集まってるから相当な人数だしな。仕方ねえよ」


 あの小さかったユグリ村が、あっと言う間にカスラナクラスの大きさに発展ですな。

 まあ町が大きくなる事が一概に良い事ばかりじゃないし、ユグリ村の皆の戸惑いを考えると諸手を挙げて喜ぶ気にはならんけど。


「でも、これで正式に亜人さん達もこの村の住人って事かぁ」

「そーだな。あの無残な姿になっちまった森は、亜人達―――特にエルフには苦しかっただろうから、これで少しは気が上向いてくれると良いんだが…」


 とは言っても、生活環境が人間の生活圏の中に移るって事で、精神的な負担はやっぱりかかるんだろうけど。

 せめてもの救いは、ユグリ村の人達と亜人達がそこまでギスギスしてないって事だな?

 ユグリ村の人達は、森を挟んだ外の世界にはあまり関わらないから、そこまで亜人に対する恐怖心や忌避感がない……まあ、完全に無い訳じゃないけど…。

 一方亜人達は、人間に対する憎悪を抱いている者さえ居るけど、ユグリ村の人達は「≪赤≫の御方と同じ生まれ」と言う事で、むしろ敬意を持って接している。

 ≪(おれ)≫を神とするのなら、ユグリ村の人達は神父やシスターのような物なんだろう。だから、負の感情を向ける事を亜人達はしようとしない。

 そのお陰で、少しづつだが既に村人達と亜人達は交流を始めていた。

 休まずせっせと働く亜人達に村人達が水や食べ物を差し入れしたり、森の中へ食料を調達しに行く村人に亜人達が付き添ったり、村長とエリヒレイテさんなんかは、お茶を飲みながら呑気に魔法談義をしたりしている。


「引越しってさ、今までの場所で作って来た人間関係を全部投げ捨てて新しい場所に行く訳じゃない?」

「うん? まあ、そうだな?」


 妙に実感こもってるなぁ…って、そう言えばカグも小さい頃に引っ越して八王子に来たんだっけ…。子供の人間関係の広さなんてたかが知れているが、小さいカグにとっては大切な友達とかも居ただろう。

 俺は引越しなんてした事ねえけど、生まれ育った場所を離れて、今まで当然のように会えていた人達に会えなくなる事がどれだけ寂しくて辛いのかは……今、この世界で嫌という程実感している。


「そう言うのの寂しさと同じくらい新しい場所での出会いにワクワクする物なのよ」

「お前もそうだったの?」

「そうね。まあ、私は引っ越して暫くは、全然友達作れなくて前の家が良かったって思ってたけど」


 ダメじゃん…!

 亜人達が少しでも新しい住処に希望を持ってくれれば良いと思ってる時に、なんでテンション落とす話ししてんだコイツ……!?


「でもさ、環境が変われば嫌でも新しい出会いがあって……それがあまりにも運命的で、嫌だった毎日がそれだけで楽しくなったりする物よ」


 「そう言う物かね?」と問い返す言葉が喉まで出かかって…確かにそう言う物かも、と納得した。

 俺にもロイド君との出会いがあり、パンドラとの出会いがあり、白雪や、フィリスや、ガゼルや、色んな人の出会いがあって…コッチの世界で生きて行こうと思えたんだ。


「亜人の皆も、ここで楽しく生きてくれりゃぁ良いんだが…」

「まあ、大丈夫じゃない? 結構仲良くやってるっぽいしさ?」

「そうな」


 ま、引越した後は、もうなるようになれだ。多少の口出しはしても、基本的には村の皆と亜人達で上手い事やって貰うしかない。


「そう言えばフィリスさん知らない? さっきから探してるんだけど、どこにも居なくて」

「フィリスなら居ねえよ。今はガゼルに付いてお隣の国」

「あっ、言われてみればガゼルさんも居なかった…」


 気付かなかったんかぃ…! まあ、仕方ねえか。ガゼルの奴自国に戻ったりコッチの様子見に来たりで忙しそうだもんな? 一応来た時と離れる時に俺には声をかけて行くから把握出来てるけど。


「でも、どうしてフィリスさんが?」

「グレイス共和国は東天王国の件で今かなりヤバいからな。いつ何時俺等も行く事になるかも分からんから、フィリスには転移魔法で飛べるようにアッチの国の色んな場所に行っといて貰ってるんだ」

「そうだったんだ?」


 現在アステリア王国とグレイス共和国は東天王国の奇襲戦を警戒している訳だが、アチラさんが大規模な軍隊を動かしている以上当然そちらも警戒の対象になる。

 しかし、転移魔法であろうとも大軍を一気に飛ばす事なんて出来ない。人だけではなく、武器、食料、移動の足、その他諸々を全部転移でチマチマ運んでいたら敵に発見されて準備の整わぬまま攻撃されてジ・エンドだ。

 だから、軍隊を移動させるのなら恐らく船だろう。別の大陸まで移動する事を考えれば、当然出来るだけ近い場所で陸の拠点が欲しい。だとすれば、グレイス共和国を素通りして北か南に迂回しなければならないアステリアまでちんたら渡って来るとは考えづらく、先に狙われるのはお隣の国、と言う事になる訳だ。


「東天王国ってのは、何を考えてるのやら…」

「どこの世界でも、戦争の好きな人が居るって事でしょ?」


 笑えねえ話だなぁ…。

 それに今までそんな素振りをまったく見せていなかったのに、急に戦争を始めようとしてるってのも…妙に引っ掛かるところではある。


 亜人と人が新しい町を作る姿を眺めながら、穏やかな時間が過ぎて行く。

 そんな俺達の元へ、グレイス共和国の東端の港町が落とされたと知らせが届いたのは、翌日の話だった―――…。


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