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13-26 未来の暗雲

 亜人の代表達がユグリ村を訪れてからは、更に日々が目まぐるしく過ぎる。

 亜人達の仮設村では着々と引越しの準備が進められ、ユグリ村には冒険者ギルドが用意した大量の材木やら石材やらが届けられていた。

 ついでに、ユグリ村にフラッと来そうな人達(アルトさん達とかリアナさんとか)が驚かないように、お触れが出る前にそれとなく伝えておいた。…余談だが、その際に会ったリアナさんに、この前唐突に居なくなった事を凄く怒られた…。

 そんなバタバタした毎日を送る中で、突然冒険者統括ギルドに俺とガゼルは呼び出された。


 そして現在地、糞餓鬼…もといグランドマスターの部屋。

 部屋の主であり、俺達冒険者のトップである子供は、美味そうにパイプを咥えている。

 ………前来た時に思ったんだが、ここってさぁ…もしかしてアレですよね?

 誰にも見つからなくて、異世界の技術で作られていて、体が軽くなる…。以上の要素を合わせて考えると…ここってもしかして宇宙じゃね? 宇宙ステーションじゃね?

 でも仮にそうだとすると喫煙は御法度じゃないの? 酸素無くなるんじゃないの?

 ……いや、でも毎回吸ってるって事は未来的な凄い技術な空気清浄機でもあるのかな? 酸素の供給してる様子がないって事は、この施設の中だけで二酸化炭素を酸素にしてんのかも…。

 だとしたら凄いな……。そんな技術が有れば、現代の温暖化問題も幾分か解消されるんじゃね?

 ………とか、どうでも良い事を現実逃避で考えてしまった。


「忙しいところを呼び出してすまないね?」

「前に呼び出された時もコッチが忙しい時だったんですけど」

「そうだったかな? 覚えてないな」


 良い性格してやがるな、ウチのトップは。

 天井に向かって煙を吐く子供に、若干ガゼルがイラついていた。


「で? 今日は何の呼び出しですか?」


 凄んでいる訳ではないが、無意識に相手を威圧してしまうのは、もうこの際仕方無い。

 正直、俺も忙しい時に呼び出されて結構イライラしている。


「緊急の呼び出しって聞いて来たんスけど?」

「うん、かなり緊急だ」


 その割にアンタ自身がまったく慌ててる様子がねえな…。まあ、この人に慌てられてもコッチが困るけど。


「先日、君達から報告のあった東天王国だけど…」


 ああ、そう言えば先日のルディエ城の件を報告したっけ。

 でも、あの件は東天王国が大人しくなるだろうって事で終わったんじゃなかったの?


「ガゼル君が大分きな臭いって言ってた意味を、少し探らせてみて分かったよ」


 あれ? 本当に終わったと思ってたのは俺だけで、実はガゼルはまだ警戒してたの? だとしたら俺1人だけが馬鹿みたいじゃない…。


「何かしてましたか? アステリア王国での件で大人しくなってくれれば良かったんですけどね」

「ふむ。手の物に少し探らせてみたら、大規模な軍事行動の準備をしていたよ」

「え…!?」


 軍事行動って……戦争の準備って事!? 予想以上に東天王国ってやる気のある国なのね……?

 俺が1人で混乱していると、この展開も予想していたのか、落ち付いた声でガゼルが話を進める。


「仕掛ける先は?」

「そこまでは。ただ、アステリア王国とグレイス共和国をぶつけて漁夫の利を狙っていたのだとすれば、どちらかを狙う可能性は高いだろうね?」


 アホか…! コッチはキング級として色んな場所の魔物退治に引っ張り回される上に、亜人達の引っ越しが間近に迫っててクソ忙しいっつうのに…! ≪無色≫や水野の動きがねえのも不気味だし……これ以上問題ごとをよこすんじゃねえよっ!!

 もういっその事、先手打って殴りに行けば良いんじゃね?


「東天王国が行動起こす前に、俺等で先手打ってシバくってのは?」

「止めとけ」「止めてくれよ…」


 2人に呆れ顔で止められた。


「東天王国は冒険者ギルドを置いてないんだ。あの国の中じゃ、君達キング級の冒険者であろうと一般人と同じ権限しかない。……いや、国外の人間って点を踏まえれば、むしろ一般人以下の扱いだ」


 何それ酷い……。


「とは言え、権限が無くても君等が怪物級に強く、1人で大国の軍事力を軽く凌駕すると言う点は何も変わらない。さて、そんな君達がふらっと行ったらどうなるか?」

「威圧行為として、戦争を仕掛ける口実になる」

「つっても、先に喧嘩吹っ掛けて来たのはアチラさんじゃん? コッチは下手すりゃ王族が殺されてたかもしれないんだし、文句の1つも言わなきゃ気が済まねえべや」

「それはそうだろうけど、その刺客だって東天王国と繋がってたって物的証拠は何も無いんだろう?」

「いや、でも、ガゼルがスキルで見抜いたんならそうなんだろう?」


 言ってガゼルの顔を見ると、少し渋い顔をしていた。


「確かに俺のスキルで見抜いた真実は全て事実だ。けど、それが事実だと誰が証明できる? もしかしたら俺が嘘を言ってるかもしれないだろ?」


 ……なるほど。グランドマスターの言う通り、東天王国にクレームをつけようにも、それに足る物的証拠が無いってか。

 相手が黒だって決定的な証拠が無い限りは、黒だと確信して居てもグレーとして扱わなければならない。……コッチでもこのルールは絶対か…。

 そりゃ、俺でもガゼルでも、ちょっと行って暴れてくれば相手の軍隊を壊滅させるなんて楽勝だ。けど、「相手が悪い」事が証明されていない状態でそれをやれば、世間的に悪者になるのは俺達だ。

 冒険者最強であり、今や名前が世界中に知られている俺等がそんな事になれば、冒険者ギルドの評判はガタ落ち……下手すりゃ組織として致命打になりかねない。


「つまり……コッチからは手を出せないし、近付けないって事?」

「そうなるな」「そうなるね」


 ……腹立つわぁ…。

 力技でなんでもどうにかなる程単純じゃねえのは分かるけどさぁ…。

 俺が心の中でブツブツと文句を言っていると、スパンっと後頭部をガゼルに叩かれた。


「ぃてっ」

「とりあえず、早く戻るか? 本当に戦争するつもりなら、コッチもコッチで備えなきゃならんだろう」

「そうな」


 後頭部を擦りながら同意。

 東天王国が本当に戦争を仕掛けてくるってんなら、まあ、それは良い。相手が殴って来るより早く、俺等が殴り返して返り討ちにするから。

 問題は奇襲を仕掛けられた場合だ。

 奇襲と言えば隠密行動を思い浮かべるが、コッチの世界の奇襲はそんな生易しい物ではない。何故なら転移魔法が有るからだ。

 転移魔法で相手の懐まで一気に突っ込み、広範囲魔法の一発でも叩き込まれれば小さな町ならそれだけで半壊だ。だからこそ、先んじて主要な街には【転移無効(アンチポータル)】や魔法障壁を用意して置く必要がある。

 まあ、【転移無効】って実は魔法の転移にしか効果無くて、俺のようなスキルで転移する人間は素通りだから結構穴だらけなんだよね? つっても、スキルの転移を振り回せる人間なんて、それこそ魔神の継承者くらいしか居ねえだろうけど。

 魔導皇帝の時も、【転移無効】が用意されるまでルディエの中で魔導皇帝の手下が好き勝手に転移して来て暴れてたし………ん? そう言えば魔導皇帝って、なんで(しょ)(ぱな)から皇帝本人が来なかったんだろう? 最初に転移して来て皇帝が無防備なルディエに魔法を叩き込んだら、それで落ちてたんじゃないのか?

 ちまちま手下送ってたから防備を整える時間を与えて、その上勇者を異世界から呼ばれて不必要に手間取る事になったんじゃん…?

 …あーダメだ。今この場ではそんな事考えてもしょうがないけど、気になったら止まらなくなった。丁度良いのが2人居るし、訊いてみるか?


「なあ?」

「なんだ?」「何かな?」

「奇襲を仕掛ける時、初手で仕留めない理由って何かあるか?」

「なんだ? 戦術談義がしたいなら帰ってからにしろよ?」

「いや、そーじゃなくてさ? ルディエで魔導皇帝が転移で散発的に手下を送って来てたんだけど、そんな事するくらいなら警戒される前に皇帝本人が来て魔法ぶっ(ぱな)した方が早かったんじゃないかと思って」


 一瞬「その質問今必要か?」と言う顔をされたが、それでも話として興味深かったのか真面目に答えてくれた。


「そうだね…魔導皇帝がどんな人物かはレポートの中でしか知らないけど、皇帝を名乗るぐらいだし、雑兵より先に立って出るなんてプライドが許さなかった…とか?」


 言いながら、少し思案顔でグランドマスターがパイプを吹かす。


「うーん、それはどうだろう…。直接会った印象だとむしろ率先して前に出てくるタイプに思えましたけど…?」

「だとすれば、前に出れない理由があったって事だろうよ?」

「例えば?」

「そうだな。怪我とか不調とかで、その皇帝が力を十二分に発揮出来なかった、とかか?」


 怪我や不調ねえ…。


「あとは、相手がジワジワ弱って行くのを楽しんで居たとかじゃね?」

「それはねえな。全力の相手を、それ以上の力でねじ伏せる事を楽しむような奴だったぜ?」

「ふむ。だとすれば、何かを待っていたって事かもね?」

「……何か、とは?」

「さてね? そこまでは分からないよ」


 何かを待っていた…?

 ルディエで何かが起こるのを待っていたのか、皇帝の周りで何かを待っていたのかは分からんけど……仮にルディエで何かを待っていたとすると……皇帝の襲撃前に起こった異変…か。

 思い付くのは俺が≪赤≫を手にした事か? いや、でも最初俺が≪赤≫の継承者って気付いてなかったよな?

 他には……いや待てよ? 襲撃するにしたって多少なりとも準備期間が居るだろう。って事は、もっと前に起こった事じゃねえか?

 もっと前っつっても、俺がこの世界に来たのって襲撃のちょっと前だしな……。いや、いやいやいや! それが異変じゃねえの!? それっつうか、俺がコッチに来る事の原因になった事……つまり、


――― 勇者の召喚


 魔導皇帝は、勇者が召喚されるのを待っていた…?

 いや、それ意味分かんねえだろ? なんで自分の敵が来るのをわざわざ待つのよ?

 ダメだ。考えても分からん。

 無理矢理思考を打ち切ると、見計らったかのようなタイミングでグランドマスターが手をパンパンっと2度叩く。


「はいはい、話は終わり。早く戻ってキング級の役目を果たしてね?」

「へーい」「はーい」



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