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13-25 異世界の知識

 目まぐるしく日が過ぎる。

 亜人達の移住の許可が取れ、ユグリ村の人達も覚悟が決まり、亜人の代表達を連れてルディエ城に行き、まあ、なんだかんだありまして………。まあ、亜人が人間の王に会うと言うのは外聞的にも色々有るらしく、一先(ひとま)ずは非公式に、秘密裏に…となった。

 しかし、一般人の目に触れる事の無い会談だろうが、間違いなく人と亜人の600年の溝を埋める1歩目。

 アステリアの王はとても善人なのか、それとも俺達と同じ大馬鹿者なのか…正直、その判断は俺にはつけられないが……まあ、どっちにしても亜人と友好的になろうとしているのは本当だ。

 亜人を見慣れていない人間にとっては、その姿は異形に見えるだろう。亜人とそれなりに深い付き合いをしている俺でさえ、初見の亜人を見ると「うぉッ」とビビるからな。

 実際、代表達を前にした貴族や騎士、王妃様達は驚きと忌避感を抱いたようだった。しかし、王様はそんな様子は欠片も見せなかった。……あと姫様も…まあ、コッチは物珍しい亜人に興味津々なだけっぽいが。

 まあ、そんな微妙な雰囲気も、うちの糞餓鬼……じゃないグランドマスターが現れた事で一発で解消された。そら、あんなチビが冒険者ギルドで1番エロイ……じゃない偉い人だなんて、ビックリしますよね? もう代表達の見た目とか気にならないくらいビックリですよね…。


 人と亜人のトップ同士の話は意外な程すんなり進んだ。


 (のち)に聞く話によるとお互いに「俺が居たから安心していた」らしい。

 俺の存在で溝が少しでも埋まるのなら、俺のやって来た事は無駄じゃなかったかな? とか考えると、感慨深いね。

 滞りなく、お互いの不干渉条約をアステリア国内の条件付きで破棄し、これで亜人達のアステリアで自由に暮らす事が出来る。

 亜人達が落ち着いたら、おいおい国内外にその旨を伝えるお触れが出されるらしい。

 ……まあ、いきなりこんな話しが伝わったら、どこもかしこも大騒ぎでしょうからねえ…。特に、亜人を奴隷にしてる連中からはクレームの嵐でしょう。そんなもん、俺等の名前で黙らせるけど。黙らないなら力技で黙らせるけど。命一杯の炎とか浴びせて黙らせるけど。


 その後、今度は代表達をユグリ村へと案内し、村長や村の皆に紹介したのだが……まあ、正直ファーストインプレッションはあんまり良くないよね…うん。でも、それはこれから時間をかけて変えて行けば良いだけの話だ。


「どうですか、この村は?」


 興味深そうに村を見て回る代表達に訊いてみた。


「とても良いですね。この森は星の大樹(ユグドラシル)の加護が強いようですから、エルフも妖精も住みやすいでしょう」


 嬉しそうにエリヒレイテさんが言う。

 しかし、ユグドラシルの加護ってなんじゃ? 魔素が薄いのと関係あんのかな…? まあ、何にしても気に入ってくれたようで安心。

 他の2人はどうかな…と思ったら、ライオンさんが尻尾を振りながらニカッと歯を剥いて笑った。


「森も良いが、俺達獣人としてはコッチの平原が嬉しいな! あっちには高い山も見えるし、翼人達も喜ぶだろうぜ!」

「ふむぅ、立地は良いんじゃが、家の作りがボロボロで心配だわな。おい≪赤≫の御方!ワシ等が移住する時に、ここの人間達の家も一緒に立て直しちまって良いか?」

「了承得てからやるんなら、良いんでない?」

「そうかそうか、それならええわぃ」


 お、3人共場所に関しての文句は一切ないみたいだな?

 この場での評価によっては別の場所を探さなければならなくなる。()いては、亜人達があの不安定で狭い森の片隅に長居しなければならないって事だ。それが分かって居るから、フィリスと白雪は心配そうに代表達を見つめている。

 そんな2人の代弁をしたのか、それともただ単に話を円滑に進める為だったのかパンドラが代表達に訊く。


「この村への不満はないのですか?」

「ないわぃ」「ねえな」

「元々、私達の我儘を聞いて≪赤≫の御方が探して下さった場所。それに、この村は≪赤≫の御方が御生れになった地、そのような場所に不満を言うなど(おそ)れ多い事です」


 代表達が俺に頭を下げると、遠くで俺達を見ていた村長たちが不思議そうに首を傾げていた。


「あー、えーっと、この村では俺の事は普通の人間として扱って下さいってお願いしましたよね…?」

「はい。ですが、そのような不敬をする訳には行きませんから」

「うむ」「その通りだ!」


 意味ねえええええッ!!?

 そしてフィリスは頷いてんじゃねえええええ!!?

 俺の肩にポンっと手が置かれる。


「リョータ、諦めなさい」


 何悟った顔で俺の説得にかかってんだチキショウ…!?

 いや、しかし、この場は誤魔化せても、亜人達皆が来たらどうせ無駄じゃね? 結局ユグリ村の全員に、俺が…っつかロイド君が特別扱いだってバレるんじゃね?

 …………これ、ダメだな…。


「……うん、諦めよう」


 アッサリ心が折れた。

 ……まあ、村の皆には「記憶無くした代わりになんか強くなって名前が売れました」とか、なんか適当に言い訳して納得して貰おう。

 俺の心が折れたところで、ガゼルがふと何かに気付く。


「亜人達にとって良い場所だってのはともかく、この村水場が遠くないか? 今の村の規模ならともかく、ここに亜人が加わるなら水の確保が辛いだろ?」

「んー、確かになぁ…」


 この村の水場つったら近くの川だからなあ。片道20分の道のりをクソ重い水を持って歩くのは正直しんどい事この上ない。

 今の俺なら水を運ぶなんて【空間転移】で一瞬だが、実際に水を運ぶのは俺ではないので、そーゆー問題ではない。

 まあ、亜人の中には走るの大好きな獣人とか、空飛んで機動力が頭1つ抜けている翼人とか、そう言う種族なら苦にもならないような話しだろうけども、確かに水の確保はしやすいに越した事はない。

 いっそ村ごと川の近くに……って、ダメだ。ここら辺は気候的に台風が通るし、変に川が増水したら一瞬でジ・エンドだ。そう言う意味で、この村の距離はかなりギリギリのライン。


「じゃあ、井戸でも掘るか…」

「そうだな、それが良いんじゃないか?」


 俺達の会話を聞いて、カグが何か思い付いたらしい顔をする。碌でもない事を思い付いていない事を祈るしかない…。


「だったら汲み上げポンプとか付けたら? 井戸より格段に楽じゃない?」


 意外な程まともな提案をする幼馴染に一瞬呆気にとられる。そして同時に、何か悪い物でも食べたんじゃないかと心配になる。

 そして、汲み上げポンプの存在を知らないコッチの世界の人達が、全力で顔にクエスチョンマークを出している。


「お前…頭大丈夫か?」

「なんでまともな提案したのに頭の心配されてんの!? すっごい心外なんだけど!?」


 普段の自分の姿を胸に手を当てて思い出しやがれ。

 水を差す様にウチのロボメイド。


「汲み上げポンプはこの世界の技術としては行き過ぎなのでは?」

「あーそうかも…」


 言われて思い出してみても、今までどの町でもそんな物見た覚えがない。


「私の銃火器の使用も同じ理由で禁止されています」


 そう言えば、そうだったかもしれない。


「まあ、でも井戸から直接水を上げる手動式の奴なら良いんじゃん?」

「良いのですか?」

「お前の銃火器はどう考えたって、この世界に伝わって良くねえ物だけど…まあ、汲み上げポンプはギリギリセーフだろう」

「では、私の内蔵火器の使用は今後も禁止なのですね?」

 

 いつも通りの無表情だが、どこかしら残念そうな雰囲気。

 パンドラとしては、自分の肉体性能が100%使えないのが不満なのかもしれない。とかく、近頃は敵のパワーインフレが凄まじいからなぁ…。自身の戦力強化の意味でも火器の使用を望んで居たんだろう。


「まあ、そうだな。現状維持のまま頑張ってみてくれ」

「畏まりました」


 汲み上げポンプを設置するのは決定項で良いとして………あれ? ところで…。


「なあ、提案者に訊くんだが、お前作り方とか設置の仕方とか知ってんの?」

「え……?」


 あ…ダメな奴だこれ…。やっぱりウチの幼馴染の提案なんてこんなレベルの浅さだった。


「お、大まかな形は、小学校の郷土研究の時に覚えたわよ……」

「馬鹿野郎、1から作って設置しなきゃならんのに、そんなあやふやな記憶が当てになるかッ!?」


 つっても、俺もそんなもん知らねえしなぁ…。カグの言う小学生の時の郷土研究は記憶に有るけど、汲み上げポンプの事なんて形くらいしか覚えてねえよ…。

 うーん……。

 ふとパンドラと目が合う。何故か「私を頼って下さい」的なオーラを出しているような気がした。いや、多分気のせいだけど。


「パンドラ、もしかして…だけど、お前の記憶(データベース)に設計図とか、関係ありそうな資料とかない?」

「はい。有ります」

「有んの!?」「有るの!?」


 カグと一緒に全力でツッコミを入れてしまった。

 パンドラの製作者は変にバリエーション豊かにデータを入れてるから、微かな期待を抱いて訊いたのだが、本当に有るとは……。いつもは変なデータを入れる製作者達に怒りしか湧かないが、今回ばかりは感謝してしまう。


「じゃあ、後で描き起こしてくれ」

「はい」


 実際に作って貰うのはドワーフの職人に頼めば確実だし、これで大丈夫かな?

 コッチの話が一段落したのを見てガゼルが不思議そうな…それでいて興味深そうな顔で訊いて来る。


「おい、そのクミアゲポンプ? とか言うのは何なんだ?」

「こう、取っ手が付いてる装置でな? それを動かすと、地下の水を地上まで上げてくれるんだよ」

「ほ~、それは便利そうだな?」

「それは…いったいどのような魔導器なのですか…?」

「いや、魔法は関係ねえよ。配管内を真空にして水を上に吸い上げるって感じじゃなかったっけ?」

「うん、そう、そんな感じ」「はい。大雑把に説明すればそうなります」


 構造は憶えてないけど、原理はそんな感じだと記憶していたが間違ってなくて本当に良かった…。ここで間違えたら、相当間抜けにみえるだろうからな…?


「そ、そのような物を作り出せるとは……流石アーク様…!」

「流石≪赤≫の御方。戦いだけでなく、智力の面でも優れておいでです」

「良く分からんが、≪赤≫の御方が凄い事だけは理解した!」

「ふむ、どんな物なのか、1人の職人としてとても興味深いな。≪赤≫の御方よ、是非それを作る際にはワシも同席させて欲しい」


 フィリスと代表3人の食い付きが凄かった。

 っつうか、感心され過ぎてコッチが恐縮してしまう…。別に俺が考えた装置じゃねえし、使うの提案したのはカグだし、実際に設計図書き起こすのはパンドラだし、作るのはドワーフに丸投げするつもりだし。

 俺の手柄な部分なんて1つもねえ!


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