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13-24 亜人の代表

 イリスとのお堅い話が終わり、水を汲みながら俺の旅の話しを聞かせながら村に戻る。

 村長にガゼルがキング級の冒険者である事を話し(俺もそうである事は伏せた)、亜人達の移住の話を聞かせると無茶苦茶驚かれた。……まあ、そりゃあそうか。

 目の前の優男が自他共に認める世界最強の片割れで、しかも自分の村に未知の存在の亜人を移住させる…と言っているのだから、それで驚かない奴は変人か狂人だ。

 一応亜人達が悪党に狙われて全滅寸前って事とか、移住に際しての諸々は冒険者ギルドが全部負担する事等も伝え、1時間程かけて皆で精一杯説得してなんとか納得して貰う。

 他の村人への説得は村長がしてくれるらしいので、俺達は一旦アルフェイルに引っ越し先が決まった事を伝えに向かう。

 いつも通りにフィリスの転移魔法で運んで貰う。

 流石に人数がギリギリらしく、転移の度に少し疲れた顔をするフィリスを労う。

 そしてここはアルフェイル―――正確に言えば、エルフの里(アルフェイル)の在った大森林の片隅の、仮設亜人の村。

 細工や大工の得意なドワーフ達が居たお陰で、短時間で亜人達の寝床が用意されたが、それでもここはあくまで仮設だ。

 この一角だけが辛うじて無事ってだけで、周囲を見回せばピンク頭達や≪黒≫との戦いの影響で森がボロボロになっていて、普通に歩くだけでも困難になっている。

 それでも亜人達は、この小さな仮設村でなんとか生きている。


「≪赤≫の御方!」


 俺達の姿を見つけた数人の亜人達が、朝日のような笑顔でパタパタと走って来て出迎えてくれた。

 先頭は翼人の女の子、なんか何かと縁が有るウィンディア。≪無色≫達の襲撃の際に背中の翼を怪我したらしく、今も翼を自由に広げる事が出来ないらしい。妖精達が作ってくれた塗り薬や、エルフ達がかけてくれる治癒魔法で大分良くなってきているので、暫くすれば元通りに飛べる様になるらしいが。

 その後ろには、犬耳の獣人とエルフの子供達。……まあ、子供つっても見かけだけで、俺等よりどう考えても年上だろうけど…。


「お帰りなさいませ!」「ませー!」「ませませー、≪赤≫のおかた!」

「はいよ、ただいま」


 俺の周りに集まって来た子供達(年上)の頭を撫でる。


「人間達とのお話はどうでしたか?」

「うん、多分大丈夫」

「本当ですか!?」


 心底嬉しそうに笑う。まあ、流石にこの仮設村じゃあ、落ち付けねえもんな…。


「そんで、その辺りの話を上にしたいんだけど、代表達居る?」


 それぞれの亜人達の集落が襲撃に遭い、族長やそれに準ずるまとめ役の人達が数多く亡くなった。

 現在のこの色んな亜人の入り混じる仮設村では、上役として数人の代表が選ばれて、彼等が亜人達を取りまとめている。


「はい! 今はそれぞれの小屋に居ますので、お呼びしましょうか?」

「ああ、そんじゃあ頼むわ」

「はい、ではすぐにお呼びしますので、集会小屋でお待ち下さい! あ、それと他の皆様もお帰りなさい」「さいー」「さいさいー」

「「「「「ただいま(ですの)…」」」」」


 取ってつけたように言われて、若干皆のテンションが下がる。

 ウィンディアと子供達がそれぞれ代表を呼びに行ったのを見送って、俺達も会議室に使われる集会小屋に向かう。


「≪赤≫の御方!」「おお、今日もなんと神々しい」「竜人様もいらっしゃる!」


 道中、元奴隷の亜人達に声をかけられる。

 この1週間で随分外の生活に慣れたようで、皆どこか顔色が良い。多少住む場所や着る物に不便をしているようだが、奴隷の時に比べれば天国のような暮らしらしい。……やっぱ、あの成金チビデブ1発殴りに行っとくか……。


「皆、元気にやってるか?」

「はい、楽しく暮らしております」


 最初は何かと外の世界に戸惑う事もあったようだが、今の色んな亜人の入り混じる環境が良い感じにそれを受け入れやすくしているようで、3日も経てば馴染んで居た。


「うん、なら良かった。すぐにまた村ごと引っ越す事になるけど、その時は協力ヨロシク」

「はい!」「村の皆への恩返しに、精一杯働きますとも!」「≪赤≫の御方と竜人様に助けて頂いた事が無駄ではないと、働きを持って証明いたします!」「お任せ下さい!」「力仕事ならお手の物ですよ!」


 皆やる気に満ちた答えを返してくれた。特に、移住となれば多くの力仕事で活躍の場があると(オーガ)達が燃えている。

 里を追われ、仲間を殺された亜人達の傷は深い。その中で、こうして生きる気力を振り撒いてくれるコイツ等の存在は、他の亜人達にとってもどれ程の救いになるだろう…。

 フィリスもそんな救われている1人なのか、元奴隷達にいつもより柔らかめの口調で話す。


「元奴隷の貴方達を働かせるのは気が引けるのだが、どうか手を貸してほしい」

「何言ってるんですかフィリスさん!」「そうですよ、私達を受け入れてくれた貴女達に恩返しをしたいんですから!」「そうそう!」「それに、我等ももうこの村の一員。なれば、仲間の為に働く事が苦になる筈もありませんとも!」

「ありがとう」


 お礼を言ってフィリスも笑顔を返す。

 色々あったけど、亜人達は良い感じに“地固まる”に落ち付いたようでちょっと安心。俺の肩で黙っていた白雪も、その光景が嬉しいのか、ほんのり黄色く光ながら目元を拭っていた。

 その後も、集会小屋に向かうまでに色んな亜人に声をかけたりかけられたり。


「アンタって、本当に亜人の人達に大人気よね?」

「俺がっつか、≪赤≫がな」


 反対にカグを≪白≫だと知っている亜人達のカグへの反応はかなり冷たい。まあ、俺が一緒に居る時はあんまりそう言う部分を見せないけど…。


「人気って意味じゃ、ガゼルもじゃね?」

「まあな! 人でも亜人でも、この俺の魅力は分かっちまうって事だ」


 いや、お前が竜人だからだろう。


竜人(ドラゴノイド)だからでしょう」


 俺があえて口にしなかったツッコミをパンドラがした。

 若干精神的ダメージを食らったガゼルに、珍しくフィリスがフォローを入れる。


「しかし、ガゼルさんに私達が感謝しているのは事実ですよ」

「……フィリスちゃん、もしかして俺の事―――」

「死ねッ!!」

「……すいません」

「アーク様、くれぐれも言っておきますが、私はこの男の事など欠片も意識しておりません!」

「え? ああ、うん、そうなの?」

「はい! ちっともです! 小指の爪の先程もです! ですから、誤解なさらないで下さい!!」


 そこまで念押さんでも誤解なんぞしないが…。なんでそこまで必死に…。

 そして、ガゼルが地味にダメージを食らっているけど、それは良いんだろうか?


「……父様、鈍感なのか素なのか判断に困りますが、とっても御自分が罪作りな事だけは御理解下さいませ!」

「はぁ? はあ…」


 肩に座る白雪が何故かプンスカ怒りながら俺の頬をペチペチと小さな手で叩いて来た。

 よく分からんが、ごめんなさい…。

 皆でやいやい言いながら集会小屋に辿り着く。

 すでに小屋の中には3人の代表のうちの1人が座って俺達を待っていた。

 褐色よりも更に黒い肌の小さなダークエルフの女の子。元エルフ族の族長エリヒレイテさん。相変わらず見た目の幼女感と合わないキワドイ服装で、ちょっと良く分からない涙が流れそうになる。

 亜人がそれぞれの種族に別れて暮らしていた時には、他種族にその姿を見られないように部屋の中に籠って居たのだが、現状がそれどころではないと判断し、こうして皆の前に普通に姿を見せている。

 ダークエルフがエルフの族長と知って驚く者は多かったが、それでもアルフェイルを治めていた彼女の力を認め、今では亜人代表の1人として纏め役を担っている。

 チョコンと人形のように椅子に座るその姿を見つけて、嬉しそうにフィリスが駆け寄る。


(おさ)、ただいま戻りました」

「お帰りなさいフィリス。そして≪赤≫の御方達も」

「どうも」


 ペコっと軽く会釈すると、肩に居た白雪も羽でバランスを取りながら俺に続いて頭を下げる。


「ただいまですの」

「はい、お帰りなさい白雪」


 無言でパンドラも頭を下げ、それを見てカグも慌てて頭を下げる。

 最後にガゼルが軽く帽子を持ち上げて挨拶した。


「相変わらず、御美しいですねエリヒレイテ様」

「こんな老婆をからかわないで下さい竜人様」


 クスクスと静かに笑う美しい姿は、「どのあたりが老婆なの?」とツッコミを入れたくなる。本当に亜人は見た目で年齢が判断出来ねぇなぁ…。

 挨拶が終わって、俺達がそれぞれ席についたところで扉が開いて残り2人の代表が入って来た。

 1人はライオンの獣人。いつか、翼人の人と俺の嫁がどうのこうのと言い合って居た人だ。喧嘩仲間だったらしい翼人の人―――ウィンディアのお父さんは、亜人の集落襲撃の時に仲間を守って死んじまったらしく、少し前までは娘以上に落ち込んで居て見ていられなかったが、今は仲間達の励ましもあって代表として立派に仕事をしている。


「おお、これは≪赤≫の御方! よく御戻りになられました」


 武人のような豪快なお辞儀をされたので、慌てて立ち上がってお辞儀を返す。


「どうも。お元気そうで」

「はっはっは! 亜人の代表の1人となったからには、いつまでもしょげては居られませぬよ!」

「おい、獣の退()かんか! ワシが入れんだろう!」

「おお、すまんすまん」


 後ろからせっつかれてライオンの人が中に入ってくると、続いて入って来たのは丸っこい体形で髭モッサモサの…ドワーフ。

 元々人とも交易をしていたドワーフだから、人間との付き合い方を見直さなければならない現状に立った時、最初に代表として選ばれた。

 このドワーフさんは鍛冶場の(かしら)だったらしく、この仮設村での住居を作る際に指揮を取って尽力してくれた。そのせいか、口は悪いが皆からの信頼は厚い。


「遅れてスマンな。ここの連中ときたら、まともに木の切り方も知らねえときたもんでよ。教えなきゃいけねえ事が山ほどあらぁ」

「大変そうッスね棟梁」

「棟梁じゃねえ(かしら)だ≪赤≫の御方! で、何の話だって? よ、っと」


 席につくや否やせかせかと話し始める。

 とにかく無駄が嫌な人なのだ。しかも職人気質に有りがちなクソ短気だし…。


「ええっと、じゃあさっさと本題。移住先の方で許可取れたんで、代表達にはアステリアの王様に会って貰ったり、移住先を見て貰ったり、まあ、色々やる事いっぱいあるので宜しくお願いします」


 順調に話が進んでいる事が分かって、代表3人がちょっとだけ安堵する。


「我等亜人の為に動いて頂き、≪赤≫の御方を始め皆様にはどれ程感謝してもしたりません」


 小さなダークエルフの代表が頭を下げると、他の2人も俺達に深々と頭を下げる。


「いや、亜人の皆には良くして貰ってるし、少しは恩返しさせて貰わないとコッチも申し訳ないですし…」


 妖精の森跡地で水野と戦った後、ボロボロになった俺を助ける為に色々と骨を折ってくれたし、目を覚まさないパンドラの世話も結局アルフェイルに頼りっきりだったし。何より、無条件に俺の味方をしてくれる亜人達の存在は、俺にとってどれだけ心強かったか…。

 それを思えば、どれだけ感謝してもし足りないのは俺の方だ。


「そのような事は言わないで下さい。恩返しと言うのなら、私達は≪赤≫の御方には永遠に奉仕し続けても返せぬ程の恩がございます」


 代表達だけでなく、フィリスや白雪まで凄い頷いてる……。


「まあ、これからまた忙しくなるけど、皆が安心して暮らせるようになるまで、もう一頑張りしよう」

「「「はい!」」」


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