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13-23 ロイドの幼馴染みとして

 村長に全員紹介し終わったら、「イリスと話して来る」と村から少し離れる。

 ウチの連中は、是非話を旅の聞きたいと村長が引っ張って行った。一応皆には「この村では俺はあくまでロイド君で、記憶喪失だから」と説明をしておいたが……まあ、変にボロ出さないうちにさっさと戻ろう…正直、皆簡単にボロを出しそうで怖い…。


 ユグリ村に居た頃は、毎日イリスと一緒に水汲みに歩いて居た川までの森に沿うようなコースを歩く。「ついでだから…」と水桶まで持たされているが、まあそこはそれだ…。

 あの頃はイリスが結構ハイペースで歩いてたような気がするけど、今一緒に歩いてみるとむしろゆっくりに感じる…。


「ロイドの事?」

「ああ」


 イリスの歩くペースに合わせながら、相談事をする。

 正直、イリスは俺に対してあまり良い感情を持っていないので、真剣に相談に乗って貰う為に話の切り出しでロイド君の名前を出す。


「実はさ、ユグリ村に亜人達を移住させようって話があるんだ」

「亜人…? さっきの妖精さんみたいな、ですか?」

「まあ、そう言うのも込み込みで。エルフとかドワーフとか、獣人とか翼人とか、まあ、色々だよ」


 イリスの顔から察するに、あまり歓迎って感じではないな…。むしろ、どこか恐怖心を感じてるって顔だ…。

 まあ、ただでさえアステリアは亜人に接する機会の無い国だし、王都の近くとは言え、俗世から離れた小さな村じゃさっき見た白雪が初めての亜人だっただろう。

 新しい人間が来るってだけでもユグリ村じゃ大騒ぎだろうに、それがよく知らない亜人だったら、恐怖心が先に来るのは当たり前か…。


「そうなんですか……」

「ああ…でも、まだ決まった話じゃないんだ」


 もう王様からの許可も貰っているので、実際は今すぐにでも引っ越してこられるって事は黙っておく。


「それで、その話とロイドがどう繋がるんですか?」

「あー……えっと…何て言えば良いのかな? んー、もし仮に亜人が移住して来たら、当然ユグリ村は今とはまったく別の形になるだろ?」

「そうですね、どのくらいの亜人さん達が来るのか知らないですけど」

「そうやって変化した村を見たら、ロイドはどう思うかな…って」

「どうって……特に何も言わないと思いますけど…。あの……ロイド自身に訊く事とかは出来ないんですか?」


 どこか期待のこもった目。

 俺を間に挟んでも、ロイド君と話せるかもと言う期待…。

 その目を向けられた状態で凄く言いづらいが、言わないって訳には行かねえよなぁ…。


「ゴメン……。実は、俺の不注意でロイドの精神が1度殺された……」

「ッ!!!」


 イリスの足が止まる。

 顔から表情が消えて、持っていた桶が地面を転がり、ポタポタと大粒の涙が地面を濡らす。


「あっ、待って! けど、居なくなった訳じゃないんだ。精霊王の所に行って、ロイドの精神を蘇生して貰って、今は復活してる最中なんだ」

「……」


 声にならない安堵の息を漏らした後、キッと俺を睨みつける。


「どうして、ロイドが…!」

「ゴメン…」


 あの時、カグの事に気を取られて≪無色≫への注意を外してしまったのは、完全に俺の不覚だ。何度思い出しても自分の間抜けさに怒りを覚えるし、ロイド君には何百回、何千回土下座したって足りない…。

 俺がよっぽどヘコんだ顔をしたからか、それともロイド君の姿に怒りをぶつける事が嫌だったのか、1度大きく深呼吸をしてイリスが自身の怒りを心の奥に引っ込める。


「ロイドは…戻って来るんですよね?」

「ああ、それは絶対だ」

「…だったら、もうその事は良いです…。精霊王って言うのが何かは知りませんけど、少なくても普通の人間が会えるような相手じゃないのは分かります…。貴方は、ロイドを助ける為にそう言う人に会いに行ってくれたって事ですよね…?」

「まあ、そうだな…」


 内心でホッとする。正直、イリスにはぶん殴られても仕方ないと思ってたからな…。


「……話戻しましょう。それで、ロイドがどう思うかって、どう言う意味ですか?」

「いや、他意はないよ、そのままの意味。帰って来て、故郷の村がまったく別の姿になってたらどう思うかなって…」

「どうしてそんな事を?」

「うーん……俺はこの体を借りているだろ? そのお陰で、俺は今もこうして居られる訳だし……それ以外のところでも、ロイドには色々助けて貰ってる…。俺はさ、返さなきゃならない恩がいっぱいあるんだよ」

「だから、ロイドが村の変化を嫌がるようなら、亜人さん達の移住の話を止めるって事ですか?」

「…うん…まあ、平たく言えばそう言う事」


 さっきの怒りの目から打って変わって、不思議な物を見る目。どっちかと言えば、この目の方が向けられて落ち付かない度は高い。


「何?」

「いえ…旅に出てから暫く経って、あんなに色んな人を連れて突然帰って来るし…、かと思えば亜人さんの移住の話とか言いだすし、てっきりロイドの事なんて忘れて、その体で好き勝手に生きてるのかと思ってました…」


 好き勝手て……。いや、まあ、結構好き勝手やってるけども……ロイド君の事をどうでもいいと思った事はないし、この体を自分の物にしようなんて更にない。

 どんなに俺の精神がこの体に馴染んだとしても、いつか持ち主に返すべき借り物だ。…まあ、戦いの度に体に無理と無茶を強いる点は……まあ、アレだ…ゴメンロイド君。

 心の中で反省と謝罪をし終わった時、ふと気が付く。


――― 森の中で魔物が動き出した。


 【魔素感知】のお陰で詳細な情報が取れる。

 例の、この辺りの魔素濃度に合わない魔物数体が一斉に動き出してコッチに向かって移動してきている。

 多分……いや、絶対狙われているのは俺達だよな? なんだろう? 何に反応して突然アクティブになったんだろう?

 ああ、村から離れてある程度の魔素濃度の所まで来たからか?

 森の中で俺等が襲われなかったのは、俺達全員を相手じゃ勝てないと判断したからで、皆から離れて単独行動したから好機と見て行動を開始したって感じかな?

 とすると、ここの魔物は相手の力量を測って攻撃を仕掛ける程度の脳味噌は有るって事か…。

 よく今までユグリ村が無事だったな…。正直、あのレベルの魔物でもユグリ村程度の規模なら一晩どころか1時間で廃墟だろ。


「ゴメン、少し話し変えるけど、近頃ユグリ村で誰か魔物に襲われたりしたか?」

「え? いいえ、ここ何日か森の中で大きな魔物を見たって聞いて、極力森には近付かないようにしていたので」


 なるほど、運良くエンカウント避けれてたって事か。けど、こうして動いてるって事は、遠からず誰か…あるいは村が襲われてたな。


「なんで急にそんな事を…?」

「いや、別に何でもな―――」


 言い終わらないうちに、森の木々を引き裂くように巨大なゴリラのような魔物が飛びかかって来た。


「―――い」


 目測2m30cm。

 大きいは大きいが、もっとでかいのを散々相手にして来たからそこまで大きく感じない。

 魔素量から判断するに恐らくルーク級。上位か下位かの判断はつかないが、正直どっちでも大差ないので流す。

 突然現れた魔物―――しかもこの辺りではまずお目にかかれない上級モンスターに、イリスが目を見開いて悲鳴を―――


「キャ」


――― 上げる前に、指先でピンっと【魔炎】を弾いてゴリラの体を構成する魔素を一瞬で焼失させる。


「ァアアアアアアア……あれ…?」


 イリスの悲鳴が終わると同時に体を無くしたゴリラの魔石がポトリと地面に落ちる。


「で、さっきの話の続き―――ああ、本題の方な?」

「え…!? あ、え? あの、今魔物…?」

「もう2、3匹大きいのが来るけど、それは気にしなくて良いよ」

「えっ…ええ!? き、気にしますよ!!」


 言ってる間に進行方向を遮るようにダチョウのような魔物が森から飛び出して来て立ち塞がる。

 その行動に合わせるように持っていた水桶を上に放り投げ、空いた右手でヴァーミリオンを抜き、【レッドペイン】で射程(リーチ)を伸ばして即座に首を飛ばす。


「俺はこの体を返すって事を忘れた事はないよ」

「ひゃッ……」


 首を失ったダチョウの体が地面を転がり、体を維持出来なくなって黒い魔素を撒き散らして魔石だけが残る。


「だからこそ、体を返した後に村に戻った時に落胆して欲しくないんだ」


 ダチョウの後を追うように狼型の魔物が飛び出す。ここいらでもよく見るポーン級の魔物だ。

 コイツは囮で、本命は―――


 背後の木々の隙間から何かが飛んでくる。


――― コッチだ。


 飛んで来たのは、針。

 【熱感知】で針の飛んで来た方向に居る魔物を確認すると、人間サイズのハリネズミのような奴が木々に隠れるようにして俺達に背中の針を飛ばしていた。

 避ける事は簡単だが、俺が避けるとイリスに当たる。

 【火炎装衣】を発動、炎を出す方ではなく、熱だけを放出して鎧にする改良型の方。イリスに熱を浴びせないように調節して、飛来した針を熱で全て焼き落とす。


「そんな訳でさ、ロイドがどう思うか知りたいんだよ。…俺は、体使ってるって言ってもそんなに会話もした事ねえから、彼が“どう思う”とか“どうして欲しいか”とか、そう言うの分かんねえからさ…」

「そ、それどころじゃない!」


 針での攻撃が届かない事を理解し、ハリネズミが直接攻撃に木の陰から飛び出してくる。それを合図に、前に居た狼型が突っ込んで来て、草むらからも何匹も魔物がワラワラと出てくる。

 いい加減鬱陶しいな…。


「話が進まねえから、黙っててくれよ」


 感知能力の範囲を拡大し、周囲300mに居る魔物を全て意識の中で捕まえる。

 ロボアニメでよく見る多数の敵をロックオンするような感覚で、射程内の敵の心臓を狙う。


「【告死の魔眼(デスゲイズ)】」


 瞳の奥が熱くなり、敵に死を与える赤い光が眼球の中を舞い踊る。

 俺達にあと5歩の所まで近付いていた魔物達。その体内でパキンッと小さな魔石の砕ける音がして、次の瞬間には黒い魔素を撒き散らして消える。

 はい、処理終了。

 一応ここら一帯の魔素を全部吸わせておくか。これで、暫く魔物が生まれる事はないだろう。

 ヴァーミリオンを鞘に戻して、落下して来た水桶をキャッチする。


「え……今の何を…したの…?」

「いや、別に。魔石に負荷をかけて砕いただけ」


 ゴリラとダチョウの魔石を回収してポケットに突っ込む。あとで白雪に預けよう。

 話を再開しようとしたら、その前にイリスが恐る恐る訊いて来た。


「ね、ねえ? 貴方って、もしかして凄く強い人…?」

「まあ、それなりには」

「アルトさんやレイアさんよりも?」

「まあ、そうだな」

「もしかして……勇者様よりも?」

「うーん…まあ、多分」


 魔導皇帝の事件の時に戦う姿を少し見せたが、あの時とは能力値が天と地ほども違うので、イリスが驚く…っつうかビビる気持ちも分かる。あの頃はクイーン級の魔物にギリギリ勝てるかどうかってレベルだったが、今の俺はクイーン級どころかキング級でさえ秒殺する文字通りの化物だ。

 まあ、イリスの場合はそれ以前の話として、ロイド君の見た目で魔物を瞬殺する姿がどうにも不思議なのだろう。


「…そんなに凄い人だったんだ…」

「いや、別に俺は凄くねえよ。色んな偶然が…まあ、なんだ…ワカチャカした結果。あとは、ロイド君がいつも助けてくれたお陰だ」

「あ…今、ロイドの事“君”って…?」

「え? ああ…」


 無意識に出てしまったいつも通りの呼び方を指摘されて、照れくさくなって頬を掻く。


「別に深い意味が有る訳じゃないんだが、イリスの前では“俺”が他人である事を強調する為にわざと呼び捨てで呼んでたんだよ。一応俺の方が年上って事もあるしな?」

「そうなんですか」


 ジッと俺の―――ロイド君の顔を見つめるイリス。


「貴方が、ロイドの事を大事にしてるって事は分かりました」


 俺が大事にしてるって言うか、恩義を感じてるって言うか…まあ、似たようなもんか。


「質問に答えますね。ロイドはユグリ村が変わっても、特に気にしないと思いますよ?」

「え…? そう? でも、故郷だぜ?」

「……ロイドは、この村にあんまり愛着が無かったように思えるんです。時々、村を離れたがっているような事を言ってましたし」


 それは、愛着が無かったんじゃなくて………いや、他人の俺が言う事じゃねえか…。


「でも、それでも良いんです」

「え? 良いの!?」


 良くなくない?


「たとえロイドが村から離れたがっていても、村を嫌っていても、私も村の皆もロイドが帰って来たらいつも通りに迎えるだけですから」


 イリスは、太陽のような曇りの無い笑顔でそう言った。

 それで、俺はようやく気付く。


 この世に変わらない物なんて無い。


 俺達の世界だって、半年もすれば新しいビルやらコンビにやら、場合によっては新しい道路が引かれたり、街の形は変化し続ける。

 あの小さなユグリ村だって、このまま永遠に変化しないなんて事は有り得ない。

 けど…だけど、そこにはイリスや、村長や、村の皆が居る。そこにはちゃんとロイド君の帰るべき場所が…居場所がある。

 ロイド君が村の変化を嫌がっても、それは、まあ「受け入れて下さい」と言うしかないのかもしれない。それを怒ると言うのなら、その怒りは勝手をした俺に向ければいいだけの話だ。

 なんだ…こんな単純な話だったんじゃん…!


「そっか、ありがとう」

「お役にたてました?」

「ああ、大いに」


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