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13-21 人と亜人の1歩目

 侵入者こと裏切り者の貴族1人を捕まえた。

 その後、ガゼルが犯人に「仲間は?」「背後関係は?」「何が狙いだ?」と軽い口調で質問をしたのだが、男は何も答えなかった。

 しかし、隠し事をすれば【天上眼(トルゥゲイズ)】が真実を見抜いてしまうので、犯人の狙いは全て明らかになり、仲間だった他の貴族数名もお縄になり、城外の協力者を捕まえる為に騎士団が出動して行った。

 そんな感じで侵入者騒ぎは終了。

 ガゼルの能力が優秀すぎて、俺等完全に出る幕無し……。まあ、お陰で王様に会う事が出来る様になった訳だけども…。

 なんだろうな……犯人捜しと言えば、警察の組織だった訊き込みとか科学捜査とか……探偵のひらめきと推理とか……そう言う感じの物をさぁ………。今更あっちの常識で物を言うのもバカバカしいか…?



*  *  *



「東天王国?」


 玉座に堂々とした姿で座す王様がガゼルに訊き返した。


「ええ、城の中で騒ぎを起こしたいた者の背後には()の国が居たようです」


 東天王国と言えば、東の大陸の大国。ただ、冒険者ギルドを置いて居ない国なので、俺達でもおいそれと出入りする事が出来ない。

 あと、凄ぇ侵略に積極的な国らしい……。


「東天王国は、我が国を狙っている…と?」

「そうですね、少なくても目を付けられているのは間違いないかと」


 ただの侵入者騒ぎかと思ったら、随分大きい話しだこと…。

 あと、関係無いけどガゼルがちゃんとした話し方をしている事に違和感バリバリ。


「ただ、それはウチの国……グレイス共和国も同じようです」

「それは、どう言う意味かな?」

「今回の騒ぎは、国の重要人物を誰か暗殺し、その犯人としてグレイス共和国の人間を突き出す算段だったようです。両国の関係にひびを入れて、更に国境近くの街でお互いの国を名乗る者達による襲撃を起こし、戦争へ発展させる―――と言うのが連中の計画だったようです」

「なんという事だ……」


 今回の事件の裏を聞いて、王様の顔が曇る。横に居た王妃様は気丈にも顔色一つ変えていないが、姫様は顔を青褪めさせている。

 ……まあ、そりゃあ、もしかしたら自分が殺されて居たかもしれないし、そこから戦争に発展したかもしれないと言うのなら、それは恐ろしくて堪らないだろう。


「もしかしたら、お互いの国のキング級冒険者の俺とアークを潰し合わせようと言う狙いもあったかもしれませんね? 2つの国が戦った後の漁夫の利を狙っていたのだとすれば、俺達は邪魔でしかないでしょうし」


 まあ、実際俺とガゼルはどっちか1人でもいれば、国の1つや2つ余裕で一晩で滅ぼせるようなヤバさですしねぇ? どう考えたって真正面から戦いたくはないだろう。


「しかし、その手先を潰しましたし東天王国も暫くは大人しくなるでしょう。ならないようなら、俺とアークが挨拶がてら話しつけてきますし」


 そうね。挨拶した時に、東天王国の1番偉い人が突然人体発火して灰になるかもしれないけど、まあ、それはあくまで事故ですし。

 王様や周りの貴族達も、キング級の冒険者2人が対応してくれると聞いて安心したようで、少しだけ空気が軽くなる。

 そこでガゼルが周りに気付かれないように俺の背をトンっと叩く。

 コッチの本題を切り出すなら、このタイミングだ。


「それで、今日来たのはお願いがあって参りました」

「ほう、お願いか。そなたには今日も救われてしまったからな、私も出来る限り協力出来ると良いのだが」


 今日救ったのは俺じゃなくてほぼガゼルですけど……と言うのは言わないでおこう。


「ありがとうございます。お願いと言うのは、亜人達をアステリアに移住する許可を頂きたいのです」

「亜人達を? しかし、遠き昔に人と亜人の世界は分かたれた。今両種族が交わる事は許されぬ事…。それは、そなたにも分かるだろう?」

「はい。ですから、そこを曲げて許可を下さい、と言っています」


 どうにも色よい返事をくれそうな雰囲気じゃない…。

 俺の“お願い”が、相当無理難題だって事は自分でも理解している……少しは。

 亜人戦争から600年。人と亜人が築いて来た丁度良い距離感を「踏み越えろ」と俺は言っているのだ。そもそも現代の人間にとって、亜人はほとんど伝承の中でしか知られないような存在で、どんな場所で生活しているのか、どんな物を食べているのか、どんな力を持っているのか…何も知らない人がほとんどだろう。

 だからこそ、王様も亜人が自国の中に入って来る事を良く思わない。

 俺の肩にチョコンと乗っている妖精1人なら「可愛らしい」の一言で済むかもしれないが、それが何十、何百の見た事もないような亜人の群れだったら?

 亜人がもし凶暴な存在だったら―――もし国民を脅かす存在だったら―――もし対話も出来ないような存在だったら。

 けど、そんな“もし”の話は、亜人の何も知らないからだ。

 ただ少しだけ歩み寄って、話をすれば全部解決するのに…。

 少し迷ってから、フィリスに視線を送る。


 亜人と話して解決するなら、ここで話せば良くね?


 ………と思ったんだが、フィリスが人と話したいかどうかは、また別の話しなんだよなぁ…。

 何か別の良い作戦は―――と考え始めたところで、俺の視線を受けていたフィリスが一歩前に出て、突然ローブを捲ってエルフの耳を周囲に晒した。

 いやっ、確かにそうして欲しかったんだけども―――実際にやられて俺もビックリしてしまった! って言うか、俺以外も全員ビックリしていた。王様も、王妃様も、姫様も、貴族達も、騎士団長達も、ガゼルも、カグも、白雪も、パンドラ……は平常運転か…。

 フィリスは皆が唖然とした顔で見つめる中、凛とした顔でユックリと丁寧なお辞儀で王様に頭を下げる。


「お初にお目にかかります。エルフ族のフィリスと申します」


 その凛々しさと美しさに皆が目を奪われる。

 騎士団長達が逸早く正気に戻ってフィリスを警戒し始めたが、警戒されている方は全く気にしていない。まあ、攻撃意思が無いのなら、そんなもん気にしないだろう。俺だってしない。


「これは……亜人の方であったか」

「はい。亜人の身ではありますが、アーク様の厚意によりこの国の冒険者をしております」

「そうであったか」


 チラッと王様の視線が俺を見る。

 さっきまでの温和な目ではなく、少しだけ鋭い気がしたのは俺の気のせいではないだろう。口には出さないが「勝手な事しやがって」と言うクレームだ。


「畏れながら、今亜人達は未曽有の危機に瀕して居ます。どうか、御力をお貸し願えないでしょうか」


 フィリスがもう1度頭を下げる。

 亜人の未来がこの交渉にかかっているから……と言うのは勿論ある。けど、フィリスは今、確かに自分の意思で人間に歩み寄ろうとしている。

 いつか、俺がフィリスに言った言葉。

 『この時代を生きている人間達を、お前の目で見てやって欲しい』

 フィリスは、自分の目で人間達を見て、600年間水底に溜まった泥のような確執を捨てようとしている。

 それが分かった。

 フィリスも、俺と同じように人と亜人が一緒に暮らす未来を信じてくれた…! あっ、ヤベッ、今ちょっと泣きそう……。

 フィリスの行動に胸を打たれたのは俺だけではなかったようで、ガゼルが嬉しそうに笑いながら帽子を取ってフィリスに並ぶ。


「そう言う事なら、俺も頭を下げない訳にはいかんな」


 同じく亜人として、俺よりも色々思うところ有るのだろう。ガゼルもらしくない丁寧なお辞儀で頭を下げる。

 つられるように俺が頭を下げると、慌ててカグと白雪も続き、パンドラも無表情のままペコっと頭を下げる。


「ふむ……」


 数秒の思案しているような時間……妙に長く感じる。


「アークよ」

「はい」


 呼ばれて顔を上げる。


「そなたは、亜人と深く関わっている、そうだな?」

「はい」

「では率直に訊こう。亜人は信じるに値するか?」

「値するかどうかは知りません。ですが、俺は亜人を信じています」

「人と亜人が共存する事は可能か?」

「…正直、問題が多く、困難な事だろうと思います。しかし、俺は―――ここに居る皆は、それでも共存する事が出来ると確信しています」


 嘘偽りの無い、俺の正直な気持ち。

 頭を下げたままの皆が、少し笑ったのが心強い。


「それで、もし仮に移住の許可が下りたとして…その後はどうするつもりだね?」

「はい。亜人の代表者達に移住場所を見ていただき、決まり次第陛下と亜人の代表者の両名で両種族の不可侵条約を一時的に“アステリアの国内のみ”の条件付きで破棄していただきます。なお、その際の立会人は冒険者ギルドのグランドマスターとグレイス共和国のギレイン代表にお願いしてあります」


 俺の説明を聞いて、王様が「なるほど」と小さく呟いてから大声で笑う。


「はっはっは! そちらの準備はすでに万端であったか」

「はい。あとは陛下のお気持ち1つです」

「ふむ、そうだな…。亜人との関係が断たれて600年、もしその溝を埋める事が出来れば、偉大な王として名を残すかもしれぬし…あるいはその溝に落ちて死んだ愚王となるか…? 亜人との共存を信じるそなた達を狂人と呼ぶ者も居るだろう。だが、面白い! 私も、その狂人の1人となろうではないか」

「!! ではっ!」

「うむ。そなた達の良き様にするとよい」

「陛下…宜しいのですか?」

「よい。時代が変わる時とは常に唐突に来るものだ。ならば、我等上に立つ者はより良き時代が来るように決断を下さねばならん。違うか?」


 部屋に居た貴族達が顔を見合わせて「やれやれ」と苦笑してから頷き合う。


「陛下の御心のままに」


 貴族達が俺達にどの程度の信頼を置いてくれているのかは分からない。だが、少なくても主君である男の決断は心から信じてたらしい。



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