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13-19 新しい≪黒≫

 現在地、目的の北の山の小さな村。

 俺とカグの魔神同士の気配感知を頼りにこの村に来たのだが……何やら変な感じだ。と言うのも、確かに魔神の力を近くから感じるのだが……力が妙に小さくて弱い気がする…。カグも同じような事言ってたし、俺の気のせいって訳じゃないらしい。

 ……まあ、それはともかく現在の俺は、地面に膝を付いて吐きそうになっているフィリスの背中を(さす)っている。


「大丈夫か?」

「………ありがとうございます……少し良くなりました…」


 何故こんな事になっているかと言えば、皆で空中を砲弾の如く飛んで来たのだが、ちょっと荒っぽ過ぎてフィリスがダウンしてしまった。

 フィリスだって決してか弱い訳じゃねえけど、あんな洗濯機みたいな飛び方させられたら、そりゃ、まあこうなります…。っつうか、アレで平気な俺等の方が変だ。


「おいカグ、お前風で加速してくれとは言ったけど、あんな竜巻みたいな風起こすって何考えてんだ!?」

「だ、だって“急ぎで”って言ったし! だったら強い風の方が良いかなぁって…」


 いや、まあ、急かした俺も悪いけども…。カグばかりを責められませんけども…。

 優雅な空の旅…って訳にはいかんかったなぁ……。


 5分程でフィリスが回復し、小さな村で例の男を訊いて回る。


「ああ、それならロランだよ! あの子ったら魔法の1つも使えなかったのに、突然強くなっちゃって頼もしいねえ本当に!」


「それならロランの事さ、ほらあの奥の小屋だよ」


「ああロランの事? そう言えば昨日から姿見てないけど大丈夫かしら…?」


 と言う感じの話を聞けた。

 どうやら、そのロランさんとやらが≪黒≫を拾った人で確定。

 いきなり俺達が行くと、それこそ警戒したり暴れたりするかもしれないので村人達に間に入って貰おう……と思ったのだが…ガゼルに止められた。


「アーク、俺達で行くぞ」

「え? 何? でも俺等―――っつか、いきなり俺が行くとまずくない? 相手も魔神の気配感じてるだろうし」

「そんな事言ってる場合じゃねえかもしれねえ」

「…どう言う意味?」

「あの小屋から血の匂いがする」


 クンクンと嗅覚に集中してみるが、それらしい物は嗅ぎ取れなかった。亜人…と言うか、竜人(ドラゴノイド)って鼻も利くのか…。

 竜人がハイスペックなのは置いといて、今は件のロランさん宅から血の匂いがするって点だ。

 その血が誰の血かは問題じゃない。問題なのは、血が流れるような事態が小屋の中で起こってるって事だ。

 俺も警戒心を高めて感知能力を展開するが……人影が見えない。


「誰も居ない…?」

「行ってみるか?」

「おう」


 女性陣を離れた場所に残し(若干白雪がごねたが…)、俺とガゼルの2人でロランさん宅に向かう。

 距離が近くなると、確かに微かに血の匂いがした。

 改めて家の中を確認してみるが、やはり人影は見えない。

 ガゼルが一応警戒して槍を抜き、俺も左手を魔装で包んで自由に動くようにしておく。

 礼儀としてノックをしてみたが、反応はなし。

 仕方なく無断でドアを開けて中に入ると――…


「女の子達は置いて来て正解だったな?」

「だな。特にカグには絶対見せられねえや」


 小屋の中は、血で真っ赤になっていた。

 そして、床に転がる首無し死体。晒し首の様に椅子の上に置かれた男の首。

 正直、惨劇現場を見慣れて来た俺ですら吐きそうになった。暫く肉食えないかも…。


「この首無しがロランか?」

「多分ね。コイツから≪黒≫の気配を感じるし」


 ……いや、でもやっぱり気配が小さいな? こんなに近くに来てるのに、微妙にしか魔神の力を感じない。…なんだこりゃ?


「誰にやられたんだ?」


 ロランがどれくらい力を使えていたのかは知らないが、少なくても魔物と殴り合える程度には使えていた筈。っつー事は、そこらの人間や魔物で首を狩れるとは思えない。

 それに、村人が誰もロランの死に気付いて居なかったってのもな…。


「視てみるか?」


 ガゼルが突然主語を省いて呟くものだから、思わず聞き返す。


「何を?」

「首を刎ねた奴を」


 言いながら帽子をとって前髪をかき上げる。すると、竜王モードの時に出ていた3つ目の瞳が開く。


「何お前、過去視る事までできんの!?」

「過去が見える訳じゃないけどな? そいつが、何か隠蔽するような事をしていてくれれば、俺の【天上眼(トルゥーゲイズ)】で視る事が出来るってだけ」


 なるほど。

 村人達がこの惨劇に気付かなかったのが不自然だったけど、何かしらの隠蔽の魔法やらスキルやらで認識を誤魔化されて居たとすれば納得。

 そして、隠蔽が施されて居れば、ガゼルの嘘や虚像を見抜く【天上眼】で隠されている物を視る事が出来る…と。


「なんか視えたか?」

「もうちょっと待て。過去像はぼやけるから視辛いんだよ…」


 ガゼルの額の瞳がキョロキョロと辺りを見回す姿を30秒程眺めていると、大きく息を吐きながら3つ目の瞳が閉じて、神妙な顔をしてガゼルが俺を見る。


「ふぅ……。アーク、悪い話と凄く悪い話が有るが、どっちから聞きたい?」

「どっちも聞きたくない」

「じゃあ悪い話からな」


 ちきしょう……絶望的な2択からの逃げ道はなかったか…。


「この首無しを()ったのは、≪青≫のミズノだ」

「マジかよ……」


 いや、まあ、ルナの能力をそのまま持ってるっぽい≪黒≫を殺したのなら、恐らくそうだろうとは予想はしていたけども……事実として言われるとショックだ。

 水野が来てたって事は、完全に俺等出遅れてんじゃねえか…クッソ…!


「次に凄く悪い話だが……この死体から≪無色≫が何かを抜き取って行った。ちゃんと視えなかったが、恐らく≪黒≫だ」

「考え得る最悪の展開過ぎる……」


 どーりでこの死体から感じる魔神の力が弱々しい訳だ…。抜け殻に力が微かに残ってるってだけだもんな…。


「追いかけられるか?」

「無理だな。隠蔽かけてあるのはこの小屋の中だけで、1歩でも外に出たら追いかけられん。転移で逃げたってんなら、マキに頼んで追いかけられるんだが…」


 そもそも転移で逃げたかどうかも分からんってか…。

 このまま追いかけられるなら急いで追撃してやっても良かったんだが…、手詰まりってんなら、これからの事1度パンドラ達に相談しなきゃダメだな。


「外でよう。一旦皆に相談しなきゃダメだコレ」

「そうだな。それに、ロランが死んだ事を村人に伝えて弔ってやらないと…」

「…だな」


 どんな人なのかは村人に聞いた程度の事しかしらないし、話した事もない人だけど、俺等と同じように魔神の因果に巻き込まれた人だ。もっと言ってしまえば、俺がルナから離れる時に≪黒≫を仕留め損ねなければ、この人は死ぬ事もなかった…。責任を感じてしまう…。


 外に出ると、見知らぬ人間が村人を訪ねた事が物珍しかったのか、興味深そうに何人かの住人がコチラを気にしていた。

 丁度良いので、噂話の好きそうなおばさんを捕まえてロランが殺されて居た事をオブラートに包んで伝える。すると、顔を真っ青にしながらロランの小屋へと入って行き……村中どころか山中におばさんの悲鳴が響き渡った―――…。

 そこら中から村人が集まって来て、その度に悲鳴が聞こえた。

 村人達に簡単に事情を説明しようかと思ったけど、皆が落ち付くまで少しかかりそうだ。今のうちに、コッチの話し合いを済ませてしまおう。

 村人が小屋に入る度に悲鳴が何度も響き、ただ事ではないと理解したカグが不安そうに訊いてきた。


「ねえ? 何かあったの?」

「見に行かない方が良いぞ。かなりスプラッタだから」


 出来るだけ不安を煽らないように軽い言葉と口調で返す。

 ただ、俺のそう言う気使いをカグは見抜いたようで、気使いをする意味も読んで顔色を少し悪くする。

 そしてパンドラも村人達の様子から何があったのか察したらしい。


「死んでいたのですか?」

「ああ、水野にやられたらしい。≪黒≫は≪無色≫に持って行かれたってさ」

「それは、大丈夫なのですか?」

「大丈夫じゃないな…」


 ≪無色≫が、本当に他の魔神の回収を始めたのだとすれば、それはもう“終わり”に向かって一直線だからマジでヤバい…。

 ただ、今回は不測の事態への急な対応として回収して行ったって線もある。その場合は、もしかしたらカグの時みたいに簡単に手放すかもしれない。

 まあ、どっちみち放って置いて良い理由はないけど…。


「これから、どうするのですか?」

「そうだな…別口から野郎を探すか」


 ルナが奴とエンカウントした北の大地。……それと、亜人を殺してユグドラシルの結界を緩めているってのが本当なら、1度ユグドラシルにも行っておきたい。

 ただ、どっちも≪無色≫を追いかける為の取っ掛かりがありそうには思えねえんだよなぁ…。

 そんな俺の手詰まり感を見抜いたのか、ガゼルが思いもよらぬ提案をして来た。


「いっそ1度足止めて、地固めするか?」

「……いや、そんな悠長な事言ってる場合じゃ…!」

「つっても、『手詰まってます』って顔に書いてあるぜ?」

「ぅ……そうだけど…」

「確かに奴等を放置出来ないが、俺達はキング級としてやらなきゃならない事が山積みだし、何よりお前は亜人の移住の事とか後回しにしてるだろう?」


 確かに、気が焦ってる…。俺のせいで人が死んだと思ったら、『早く何とかしなきゃ!』と言う気持ちが先に立っていた。

 フィリスや白雪だって俺を急かすような事を口にはしないが、すぐにでも亜人達の新しい安住の地を探して欲しい筈だ。

 …≪無色≫の出方待ちになるのはクッソ悔しいけど、俺の身の回りの事だって放置して良い問題は1つもない。

 大きく息を吐いて気持ちと思考をニュートラルな状態に戻す。


「…そうだな。奴等の行方を探りつつ、色んな事1つづつ片付けて行かねえとだわな」


 皆が頷いて肯定してくれた。特にフィリスと白雪の頷きが力強かったのが、少し嬉しい。


「あっ、そう言えば全然関係ねえんだけど、思い出したから訊いとくわ。ガゼル、お前が故郷の島に帰ったのって、大昔に漂流した異世界人の話し聞く為だっただろ? あれって結局どうなったん?」

「あれ? パンドラちゃん達から聞いてないのか? お前が寝てる間に女の子達やルナには話しておいたんだが」


 全然聞いてません。

 女性陣に目を向けると、代表してパンドラが答えた。


「はい。近いうちにガゼルと会う事になるだろうと推測し、それならば本人の口から直接聞く方が情報伝達に齟齬が発生しないと判断しました」

「ああ…そう…」


 そうならそうと言っておいてくれよ…。必要な事を言わない体質はどっから出て来たんだか…。


『父様ですわ』


 …………聞かなかった事にしよう。


「で、何か新しい情報有ったか?」

「ああ、島で1番長生きの爺が、その男が死に際に言ったって言葉を伝え聞いてた」

「ほう。死に際ねえ…」



「『新しい世界には絶望しかない』だとさ」



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