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13-11 修羅場…ではありません

 転移による軽い目眩が終わり、目を開くとそこはすでにグラムシェルドの冒険者ギルドだった。


「御2人とも、お疲れさまでした」


 使いの男が、商人のような人の良さそうな笑みのまま頭を下げる。

 それに対し、2人して「どうも」と軽く返して辺りを見回す。

 カグ達は―――あ、居た。隅っこで何やらヒートアップしていて、俺が帰って来た事に気付いて居ないらしい。

 何をあんなに熱くなってんだ…と呆れる気持ち半分、あの人見知りが少しは打ち解けてくれたのかと安堵する気持ち半分。


「ん? おいアーク、首どうかしたのか?」

「ああ、いや……」


 さっきから無意識に首周りを何度も触って居た事に今更気付く。


「なんつーか…首周りが落ち付かんくてなぁ」

「あー。まあ、気持ちは分かる」


 言いながら、ガゼルもベルトを少し撫でる。

 俺の首周りの違和感。そしてガゼルの腰回りの違和感。2つの違和感の正体は同じ物だ。


――― キングの駒


 王冠を(いただ)く、盤上で最も価値の有る駒。

 クイーン級の駒は魔晶石製だった。しかし、キング級の駒は少し違う。魔晶石を色々した結果生まれる王石とか言う物らしい。…と言っても、魔石としても鉱石としても価値は無い。ただし、凄まじく希少(レア)

 何故って、この王石ってのはキング級の駒にだけ使用される物だからだ。

 クイーン級の駒に比べて若干重く、光の加減で虹色に輝くキングの駒。

 最強の冒険者である事の証。それが今、俺の首とガゼルのベルトに提がっている。

 ……何が変わったって言える程変わった訳じゃないんだが、やっぱり首に微妙な違和感を感じてしまう。


 俺達2人のそんな会話を聞いてない風を装って、使いの男は受付さんの所へと向かって何やら話す。

 次の瞬間、受付さんが無言でクワっと目を見開いて俺を―――俺の首のキングの駒を突き刺す勢いで見る。そして……パタンっと気絶した。あ、使いのオッサンがむっさ慌ててる…。騒ぎを見て集まって来た冒険者達にオッサンが問い詰められてる……まあ、頑張って下さいと応援しておこう。

 受付で起こった騒ぎで、ようやくウチの女性陣が俺の存在に気付いた。


「マスター」「あっ、父様ですの!」「何っ!? あ、アーク様!」


 白雪が嬉しそうに手を振る横で、フィリスがガバッと起き上がって俺を見つけて赤くなる。まあ、そこまでは良い……問題なのは、ウチの幼馴染が般若のような顔で走って来る事なんだが…。


「リョータッ!!」

「はい?」


 何怒ってんの? と問おうとした瞬間、カグの手が伸びて来て俺の首を締め上げる。


「ぇぼフッ!? ちょっ、なんだ、おいッ!?」

「私がアンタの首をチョンパする前に答えなさい!!」


 何物騒な事言ってんだこの暴力ゴリラ!!?

 ギリギリと締め上げて来る手を掴んで必死に抵抗する……って、何このパワー!? コイツこんなパワータイプな人間でしたっけ!?


「パンドラさんにキスした件について詳しく!!」

「んだ、そりゃ…!」

「言っとくけど、言い訳は聞かないわ!!」


 話を聞く気が有るのか無いのか、どっちなんだお前?

 そして隣に立っているガゼルが微笑ましい物を見る目で「お前も修羅場を経験するようになったか」とか言ってやがるし。修羅場じゃねえし、断じて違うし。


「アンタ、聞いた話じゃ抵抗出来ないパンドラさんに無理矢理キスしたそうじゃない!?」


 どんな歪曲した情報が伝わってんだよ…。誰だ、そんな笑えないデマをこのゴリラに渡しやがったのは!?

 若干息苦しさに悶えながら、視線を走らせると―――パンドラがドヤッと勝ち誇った顔をしていた。

 お前かよ犯人!!?

 いや…まあ…確かに? パンドラが抵抗出来なかった点は認めますよ? つっても、それはパンドラが腹ぶち抜かれて機能停止してたからじゃん? 仕方無いじゃん? 俺悪くなくね?


「それは、人工呼吸的な意味だっつーの!」

「言い訳すんなやっ!!?」

「オメェ、本当は話聞く気ねえだろ!?」


 おっと…俺まで冷静さを失ってはただの口喧嘩になってしまう。そしてその後に確実に俺が言われの無い暴力に曝される…。


「とにかく手ぇ放せ。借り物の体を、こんなアホな事で傷付ける訳にゃいかねーんだよ」

「アホな事って……乙女の純情がかかってんだからね…!」


 ぶつくさ言いながらも一応手を離す。同時に、白雪が飛んで来てギューっと抱きついて来た。


「父様、お帰りなさい!」

「はいはい、ただいま」

「で、リョータどう言う事よ!?」

「だーかーら! そりゃ、パンドラが敵にぶっ壊されて、直そうにも生命力(エネルギー)が足りねえから、仕方無く1番手っ取り早い口から生命力渡したってだけじゃボケ! やましい気持なんぞ有るか!?」


 いや、まあ、やましい気持ちゼロって言うのは流石に嘘ですけども……。


「本当に!?」

「本当に」

「誓って!?」

「誓って…って、しつけぇよ!? そんなに疑うなら白雪なりガゼルなりに訊いてみろよ、皆あの場に居たから!」


 言われて、キッとカグの視線が俺の肩に居た白雪を捉える。するとヒッと小さな悲鳴を上げて震え、俺の後頭部側にススッと移動してその視線から逃げる。


「白雪さん、本当?」

「ほ、本当ですの…」


 視線がスライド移動して隣に立っているガゼルを見る。


「ガゼルさん、本当ですか?」

「まあ、本当なんじゃない?」


 ややこしくなるので、半端な言い方は止めて頂きたい! っつうか、この野郎はその辺りを理解した上でやってやがるな!? ああクソ、ニヤニヤして見てきやがるのが腹立つ!

 しかし、2人からの肯定を受けて俺の話を信じてくれたらしく、カグの背後に見えていた怒りの波動が引っ込む。そして、何故か頬を若干赤くしながら俺から視線を逸らす。


「あの、さ…。もし…もしよ? 私がそうなったら、私にも…する?」

「はぁ? まあ、必要ならするかな」

「そっか……うん、じゃあ、ヨシ!」


 納得して貰えたらしい。丸く収まって良かった良かった…。

 敢えて遠くから見るだけに徹していたパンドラとフィリスがトコトコとやって来る。


「マスター、お帰りなさいませ」


 パンドラは俺にだけ挨拶し、ガゼルの事をシレッとスルーした。

 一方、フィリスはアルフェイルを護る為に戦ってくれた恩が有るからか、俺に対してと同じようにガゼルにも頭を下げる。


「アーク様御帰りなさい。ガゼル…さんは、お早うございます」

「お早うって時間じゃないけどな? あと、さん付けは要らないよ? 呼び辛いなら呼び捨てにしてくれ」

「いえ、しかし…里を救われた恩がありますから」


 今までは結構冷たく接していたが、元々ガゼルが亜人側の人間だってのもあって、どうやらちゃんと敬意を持って接する事にフィリスの中で決定したらしい。


「マスター、お聞きしたい事が有るのですが?」

「うん? 何?」

「秋峰かぐやとキスをしたのですか?」


 お前もかよッ……!?

 全力でツッコミたい気持ちと、泣きたい気持ちが混ざって、膝を折りそうになってしまった。

 そしてフィリスと白雪の目が若干怖い…。

 っつか、なんでそんな話を―――って、出所なんて1人しか居ねえじゃねえかッ!?

 ギロっとカグを睨むと、サッと何事もなかったように視線を逸らされた。このアホっ! なんつう話をパンドラ達にしてやがる…!


「したのですか?」


 なんだろう? パンドラはいつも通りの筈なのに、雰囲気が心なしか怖いんですけど…。


「ええっと…まあ、うん……」

「イエスかノーで“ハッキリ”答えて下さい」


 コイツ…こんな押し強い感じのキャラでしたっけ…?


「……イエス」


 いや、別にアレですよ? 恋人同士が良い雰囲気になってチュッチュする感じの奴じゃないですよ? まあ、アレよ…中学生特有の異性に興味を持つ、言うところの“御年頃”に、周りがキスをしただのしないだのと話題になりまして…。

 俺達も周りに遅れて堪るかと言う対抗心も有り……「じゃあ、試してみる?」って感じの流れになって、お互いのファーストキスを捧げあってしまった訳です…はい。

 ………こんな、こっ()ずかしい話…絶対に人に聞かれたくねえ……!!

 俺が心の中で悶えていると、フィリスがムンクの叫びのような顔をしていて―――パンドラは…ピピッガーガーっと、良く分からん音をたてて再起動していた…。


「おはようございますマスター」

「……うん」


 どうやら、先程の会話は無かった事になったらしい。コッチも突っ込んで訊かれたくないので流す。


「それでマスター、なんの呼び出しだったのですか?」

「ああ、キング級2人が同時に居なくなったから、代わりに俺とガゼルをキング級に据えるって事だそうだ」


 気絶した受付さんを囲んで使いのオッサンに詰め寄っていた冒険者達が、俺の発した「キング級」と言う単語に反応してグリンッと首をコッチに向ける。


「キング級?」「え?」「今なんて?」「旦那がキング級…?」「聞き間違いじゃない?」「あの帽子の男……グレイス共和国の<竜帝の牙(ドラゴンファング)>か!?」「落ち付け皆」「おい…アークさんの首のクラスシンボル……!?」


 皆が黙り、ギルド内が消えてシンっと響くような静寂。

 それを破ったのは、ムクリと起き上がった受付さんだった。起きるなり自分を囲む冒険者達のむさい顔にギョッとして、次に自分がどうして意識を失っていたのかを思い出し俺を見て、そして叫ぶ。


「アークさん、キング級になったんですかッ!!?」

「はい」


 俺の答えに、受付さんが再び気絶した。

 ついでに周りに居た冒険者達も気絶した。


 そして俺達は、全部見なかった事にして、そっとギルドを出た。




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