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2-7 災いと希望の箱

 人型のずんぐりむっくりした形。頭をスッポリ覆う丸いメット。ああ、これは、アレだな…宇宙服かな?

 宇宙服らしき物の各部位には大小の何かのチューブがカプセルの内側に繋がれ、それがこの宇宙服の中身を封印している鎖のように思える。

 何だこりゃ? ……どうしよう…今さらながら後悔してしまった…。このまま蓋閉じたら、なんか良い感じに穏便に済ませてくれないだろうか?

 が、後悔するのも行動を起こすにしてもすでに手遅れだった。

 バチンッと弾けるように宇宙服に繋がれていたチューブが外れる。


「……あっ…やっべえ…」


 呑気に一言口にする間に、残りのチューブが全て外れ、宇宙服が完全に自由の身となっていた。

 宇宙服が上体を起こす。

 バックステップで慌ててカプセルから飛び退き、改めて警戒を強める。

 戦闘行動、それに準ずる怪しい行動をとったら、その瞬間に焼く!

 と、今になって荷物を背負ったままだったのを思い出し、自分の失態を呪った。背中に荷物があったら動きが鈍る。今からでも床に捨てるか…いや、でもその瞬間を狙われたら…。クソ、俺のアホ…!

 どうする? いっその事、先手を取って刻印を使うか…。

 俺が内心ヤバい汗を流しながら相手の行動を読んでいる間に、宇宙服は「よっこいせ」とでも言うような動きでカプセルから降りて来た。

 宇宙服のメットが真っ直ぐに俺に向く。逆光になっててメットの中は見えない。何だ? 中身はどんな化物だ…。

 俺の思考が伝わった訳ではないだろうが、宇宙服が自分のメットの首元に手をかけ、何やらロックらしき物を丁寧に幾つか外す。

 メットが外され、そこにあったのは――――…


「女……?」


 黄金を思わせる混じりのないブロンドの長い髪。透き通るような真っ白な肌。シュッとして作り物じみた、異常なくらい整った顔立ち。……けど、表情筋がピクリとも動かねえなこの女。

 無表情なまま、女のマリンブルーの瞳がジッと俺だけを捉えている。


「おはようございます、マスター」


 喋った!? いや、そりゃまあ喋るか…人なんだから…。エイリアン…じゃねえよな…?  いや、でも人に擬態してるとかは映画じゃ良くあるし…。

 一瞬の間に色々な考えが頭を過ぎる。が、目の前の女がお辞儀をした途端に思考は全て明後日の方に飛んで行った。

 何故かって?

 女がお辞儀をしたら、首から下の宇宙服が腕や足の各部のパーツに分かれて全て床に落ちて、女が素っ裸になったからだ。


「ちょっ!? えっ!? ふ、服…服着ろ!!」


 慌てて程良い大きさで形の良い胸から目を逸らす。

 ちょっ、待てよ! なんだこの展開!? やっべ、女の裸とか直で見るの初めてだぞ!! ああ、このカウントに身内は入れてないから悪しからず……じゃ、ねえよ!? そんな事考えてる場合じゃねえだろ!? なんでこんな地下で裸の女と2人っきり!?


「はい?」


 小首を傾げながら近寄って来る女。

 いや、ちょっと貴女、羞恥心持とうぜ!? 何で見せてるそっちより、見てしまったコッチのが恥ずかしい思いしてるっぽいの!? なんか可笑しくね!?


「とりあえず前隠せっ!!」


 何て言うか、色々見えてちゃいけない部分がチラチラ視界に入って、物凄く恥ずかしい。

 女の方は服も何も取りに行く気配がないので、仕方なく背中のリュックから、毛布代わりに使っていた布を渡す。


「はい」


 渡された布で、俺の言った通りに体の前を隠す。

 ……いや、前を隠せとは言うたが、横と後ろがノーガード過ぎじゃろがい。


「それ、体に巻いといて……」

「はい」


 言われた通りにマントのように首から下を布で覆う。

 はぁ…これでようやく向きあえる…。なんで、スタートラインに立つだけでこんなに疲労してんの、俺……。


「ええっと……とりあえず、誰だ」

「はい。当機はいずれこの研究所に訪れる≪世界の道標≫様を補佐する為に作られた、開発コードP.D.E.R.16‐03です」

「はい?」

「はい。当機はいずれこの研究所に訪れる―――」

「いや、丁寧に繰り返さんでいい」

「はい」


 無表情なまま答えると、口を閉じて俺の反応を待つ。機械的って言うか……。


「人間…じゃねえの?」

「はい。当機の構成上生身の肉体が30%使われていますが、分類上は人ではないと判断します」


 3割生身って事は、逆に言えば7割は機械ってか…。マジか…単なる機械乙女を気取る痛い女ってオチはないよな…? いや、もういっそ、そっちの方が気が楽なんだが…。


「アンドロイド…いや、呼ぶならサイボーグの方か」

「はい、それで問題ないかと」


 表情が全く動かない作り物みたいな綺麗な顔。みたいっつうか作り物なのかコレ? 本当にそうか?

 疑いつつ無表情で能面みたいな自称サイボーグの目を覗き込む。

 マリンブルーの瞳の奥で、カメラのレンズが絞られて俺に焦点を合わせたのが分かった。

 おいっ、マジかよ!? コイツ、マジで機械じゃねえかッ!?


マスター登録(インプリンティング)を開始します」


 俺がアタフタし過ぎて、何故か頭の中でヨサコイ祭りを繰り広げ始めた頃、サイボーグが何かを呟く。すると、それに連動するように瞳の奥のレンズが微かに光ったように見えた。


「肉体情報を取得完了」

「おい、今なんか光らなかったか?」

「声紋を取得完了」


 なんか、良く分かんないけど俺の色んな情報……いや、正確にはロイド君の体の情報が取られてるっぽいんだが、これはどう言う事だ? 途中で止めた方が良い奴か、もしかして?

 サイボーグらしからぬユックリとした動きで俺との距離を更に詰めて来た。


「な…なに?」

「失礼いたします」


 ピアニストみたいな細い指が俺の右手を握る。

 …………。

 あっ! 今、一瞬、本気でドキッとしちゃった!? バカ野郎、相手は半分以上機械やぞ!? ロボだぞロボ!? 外見では分からんけど、体の内部はガションガションしてんだぞ!!

 などと俺が1人でテンパっているのを無視して、握った俺の指を自分の口に運び、パクッと口に含んだ。


「はぃ…?」


 あ、機械だけど口の中ちゃんと暖かい。指先にザラッとした感触が往復してんだけど…これ、多分、舌だよな…………場違いな事を言うが…エロい…。

 が、次の瞬間指先に鋭い痛みを感じて「何だ!?」と、慌ててサイボーグの口の中から指を抜く。見てみると、2mm程の小さい傷が出来ていた。


「お前、いきなり何を―――!?」

「指紋、及び遺伝子情報を取得」

「さっきから何だ、人の情報を勝手に!」

「最後に、マスターのお名前をお聞かせ下さい」


 チキショウ、コイツも地味に話し聞かないタイプか……。


「…アーク」

「マスターネームを登録完了。マスター登録(インプリンティング)を終了します。現時刻をもって、当機はマスター情報の修正、編集権限を破棄。再登録の際は初期化申請が必要になります」

「……………終わったのか…?」

「はい。問題ありません」


 なんだろう…俺が口を挟む間も無く、後戻りできない方向に話が転がったような気がする……。うん、多分気のせいだ…きっと、気のせいだ…うん…。


「で、お前さんの名前は?」

記憶(データベース)を検索しましたが該当する名称は存在しません。ですが、「自分の名前はマスターに付けて貰え」と言う開発者のメッセージを発見」


 ああ、そういや声のオッサンが、良い名前を付けてやってくれって言ってたっけ…。コイツの事だったか。うーん、頼まれたってんなら、ちゃんとした名前付けてやりたいけど…。ロボ…作り物…人形…ドール? ……ダメだな……うーん…。

 作り物の人間か。あっ、そういや、どっかの神話で、神様が泥で人間の女を作るとかってのがあったな…。

 神話から名前を貰うってのもアリか。まあ、コイツの存在もその神話っぽい意味を含んでそうだし…ってのは流石に深読みし過ぎか。


「よし、決めた。お前の名前は―――…」


 勿体ぶって少し溜める。当の本人は、自分の名前が決まるというのに、興味があるのかないのか分からない無表情のまま。


「“パンドラ”だ」

「ネームエントリー完了。当機の名称はパンドラ、です」


 よしよし、我ながら中々満足のいく名前付けだった。

 ……さて、それはそうと…。


「なあ、根本的な事聞いて良いか?」

「はい。どうぞ」

「パンドラはこれからどうすんの?」

「マスターに着いて行きます」

「………マジで?」

「マジです」


 ですよねー。そうなる気はしてましたー。



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