13-8 呼び出されコンビ
使いの男の転移に運ばれて、辿り着いたのは……どこかの部屋だった。
真っ白な壁に囲まれた大きな部屋。そのど真ん中の床に、何かの魔法陣が描かれ、俺とオッサンはその魔法陣の上に立っていた。
……ん? この床の魔法陣、もしかして“転移誘導”の術式かな? ≪赤≫の知識には魔法に関する物が妙に少ないからな…。
「お疲れ様でした。ここが冒険者ギルド統括本部です」
オッサンが温和な笑みを浮かべたまま頭を下げる。
お疲れ様でしたって、疲れたのは魔法使ったアンタの方だろう…。俺はただ突っ立ってただけですし。
にしても…この部屋、木造じゃねえよな? レンガでもない…。何かの合金…?
少なくても、コッチの世界ではまずお目にかかれない素材で作られている。
それに、廊下を照らす照明器具……ゴムチューブのような蛍光灯らしき物にも見覚えが有る。
「なあ、ところでこの建物―――」
「すいません。それはお答えできません」
食い気味に遮られた。
爪の先程も話す気がない事は理解出来た。
「そちらもお急ぎの用事があるようですし、早速ですがこちらにどうぞ」
スタスタと歩き出した男に続く。
はぐらかされたような気もするが、急いでるのも事実だしねぇ…。
部屋を出ると、白い合金の通路が続いて居た。
……何だろう? 気のせいじゃなければ、若干体が軽い気がする。つっても、訊いてもどうせ答えてくんねえだろうしな。
暫く無言で廊下を歩く。
左右のドアを見るともなしに見る。
スライド式の―――自動ドア? やっぱり、この建物……“アッチ側”の物か? パンドラの所と同じ……。
1つのドアの前で男が止まると、ドアのセンサーが反応して勝手に開く。
「グランドマスターにお伝えしてきますので、こちらの部屋で少々お待ち下さい」
「……へーい」
結局待つんかいっ!? と言うツッコミは呑み込む。待てと言われれば、従順な犬の如く待つしかねえわ…。
言われた通りに部屋の中に入る。
廊下と同じで真っ白な部屋。6畳程の小さく、調度品の1つもない殺風景な部屋。
簡素な固定型の椅子と机―――そして、そこで肉を食っているナンパ師。
「何してんのお前?」
美味しそうにムシャムシャしている先輩に、氷河の如き白い目を向けながら一応訊いてみる。
「ぁん? おお、アークじゃん! お前、目覚ましたのか。良かったな」
「どうも…」
ワイルドに肉を食う姿が妙にこの男には似合う。
対面の椅子に座る。
「そっちの調子は?」
「チビのお前と違って、鍛え方が違えんだよ。超絶万全だぜ」
「ああ、そーかい」
チビ呼ばわりしたから、後でケツ1回蹴り上げておこう。
「で、なんでこんな場所で肉食ってんの?」
「それがよ、自国に戻ってクイーン級の仕事してたら、グランドマスターの使いとか言うのが来て連れて来られた」
「……そっちもかよ」
「なんだ、お前もか?」
「おう」
お互いに黙る。
ガゼルが食事の手を再度進めるのを見ながら、精霊の事やら≪無色≫やら原初の火やらの話を聞かせる。……とは言っても、俺が寝ている間にコイツにもパンドラ達が説明しておいてくれたらしいので、あくまで俺の主観的な要素だけを話すにとどめたが…。
ガゼルの方も、肉を食い終わると度数の軽いワインを飲みつつ俺等と離れた後の“修業”の話をしてくれた。
何やら、世界中を飛び回り、各地の名の有る竜を片端から食い漁って、その力を根こそぎ奪って竜人としての能力を強化していたらしい。
……なんなの、その狂人染みた強化法は…。何が怖いって、それで本当に強くなってるのが怖いわ…。
まあ、ともかく、俺等の方もかなり壮絶だったが、ガゼルの方も負けず劣らず壮絶な数日を過ごしていたらしい。
「で、俺等は何の用事で呼ばれたんだ? 俺は、レディからの食事の誘いを断ってまで来たっつうのに、未だに待たされてるんだぜ?」
「知らんがな。何で先に来てたお前が知らん事を俺が知ってると思ったし…っつか、俺だって急いでるところを呼び出されたんだっつーの」
「なんだアーク? お前も女の子とデートの約束か?」
「オメェと一緒にすんじゃねーよナンパ師!? ≪黒≫を追っかけるって皆で話して決めて、さぁ行くぞって時に呼び出されたんだよ…」
≪無色≫を探すよりも、≪黒≫を追っかける方が手っ取り早いって話をガゼルに聞かせる。
「ほぉ~。自国での仕事も一段落したし、ここでの話が終わったら俺もそっち手伝いに行くか?」
「来てくれんなら有難ぇけど」
行った先で何があるか分かったもんじゃねーし…。少なくても≪黒≫は居るだろうし、戦力は多いに越した事は無い。その戦力が魔神クラスの怪物とタメ張れるガゼルならば言う事無しだ。
「そう言えばチビ、アスラに会ったんだろ? どうだったよ?」
「酷かった」
「だろうな」
コッチの世界の人間にも、あの特撮オタクが異常なのが分かってちょっと安心。…まあ、悪人ではないんですけどね? ただ、ちょっと暑苦しくて、言動がクソバカっぽいだけで…。
そんな世間話をしていると、ようやく俺達をこんな場所に呼び出した野郎の準備が終わったとお呼びがかかる。
「大変お待たせしました。グランドマスターの元へご案内致します」
先程の使いの男が無駄に丁寧なお辞儀をしながら入って来た。
正直、俺もガゼルも「呼び出しといて、やっとかよ…」と言う気分で一杯だったが、それを口にすると、それはそれで面倒臭い事になる予感がしたので呑み込む。
「行くべ」「だな」
男に連れられて部屋を出る。
ガゼルの食後の片付けに来ていたお姉さんを、早速手を握ってナンパし始めたのでケツを蹴り上げて引き摺って行く。
ガゼルとギャーギャー言い合いながら男の後を歩く事1分程、“マスタールーム”と書かれた部屋に到着。
「どうぞ。奥に御進み下さい」
男は部屋には入らず、一歩下がって俺達を部屋に招く。
特に警戒する事もなく、散歩のような足取りで部屋の奥―――もう1つの扉に進む。
この扉の先に冒険者ギルドの実質トップが居る訳だ…。
気構えする間も無く、勝手に扉が音も無く開く。その先に居たのは―――…。
「いらっしゃい。忙しい所をお呼び立てしてすまないね?」
部屋の主のような言葉を吐いた……と言う事はこの人が冒険者ギルドの全てを統括する1番偉い人、グランドマスター?
いや…でも、この人…。
「随分若いですね?」「っつか、子供にしか見えねえ」
10歳にも満たなそうな小さな男の子が、見た目に合わない豪華な椅子に腰かけていた。
羽のような跳ねた若干青みがかった髪や、丸っこい顔つきが幼さを加速させる。
「良く言われるよ。これでも君等の倍以上生きているんだがね?」
「「えっ!?」」
思わずガゼルと顔を見合わせる。「見えるか?」「いや、全く」とアイコンタクトを交わしながら、失礼にならないように視線を戻す。
もしかして、亜人の血が入ってる人なのかな?
「改めて、呼び出しに応じて良く来てくれたね? アステリア王国のクイーン級冒険者のアーク君。そして、グレイス共和国のクイーン級冒険者のガゼル君」
「どうも」「どーも」
一応礼儀として軽くお辞儀をしておく。
「この見た目では信じられないかもしれないが、私が冒険者ギルドのグランドマスター、ヤハイェル=プル・ブリンシュラだ」
とっても呼び辛い名前の人と憶える事にした。
「さて、早速だが本題に入ろう。君達も何やら予定が詰まっているようだしね?」
「お気使いどうも。それで、どうして俺達を?」
「率直に言う。君達2人には、キング級に昇級して貰いたい」
何を言われたのか3度程頭の中で繰り返し、そしてガゼルと顔を見合わせる。
「え?」「は?」