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13-7 統括ギルドからの使い

「現在は、生き残った亜人達が身を寄せ合って何とかして居ますが……正直、まともな衣食住さえ間々ならないような状況で…」

「マジか……とすると、いっそ亜人皆でどっか別の場所に移り住んだ方が良いんじゃねえか?」

「かもしれません……」


 フィリスが今まで見た事がないような苦しそうな顔をする。

 ……そりゃそうか…。生きていく為に仕方無いとは言え、アルフェイルもあの大森林もエルフ達にとっては誇り……いや、もっと言ってしまえば家族のような物だもんな…。それを捨てるなんて、納得出来る訳ねーよ…。

 つっても、この問題はフィリス1人に限った話じゃねえだろ。他の亜人達だって、自分達の住処(すみか)に大なり小なりの誇りがある。それを折って移住させようってんなら、それ相応の場所を用意しねえとだなぁ…。

 いや、でも待てよ!? 人と亜人の生活圏は、亜人戦争の終結と同時に分けられちまってんだよな……? まあ、それを律義に守ってるのは亜人の方だけで、人間の方は戦争の事なんて遠い過去の事と忘れて暮らしている。

 ………するってーと、亜人の新しい住処を確保するなら、偉い人と話つける必要があるな…。うーん…正直苦手だ、そういう仕事は…。

 この問題は一旦保留だな…。住む場所の事とか考えると、もっと色んな連中の意見を聞きたい。ついでに言うなら、その相手がお偉いさんに顔の利く奴だと嬉しい。そうなると、必然思い浮かぶのは各国のクイーン級冒険者の面々なんだけど…。

 とりあえずガゼルに会ったら話してみるか。アイツも自国に妖精の里が在ったから他人事(ひとごと)じゃねえだろうし。


「住処の話は、俺の方でちょっと考えてみるから一旦保留にしてくれ。亜人達が移り住む場所を確保するにしても、人間側に話しつけなきゃならんし」

「…はい、全てアーク様にお任せします」

「ねえ? どうするつもりなのリョータ?」

「まあ、なんか考えるさ…」


 今この瞬間も亜人達は苦しい思いしてるんだろうし、せめて安心して休める家だけでも用意してやんねえとな…。

 一応俺もクイーン級冒険者なんて地位を貰ってる訳だし、こう言う時に最大限活用しねえと勿体ない。


「とりあえずここに居てもしょうがねえ、さっさと移動しよう」

「はい」「…はい」「うん」「ですの」


 …………


 ……………


 ………………


 「移動しよう」と言った2分後にはグラムシェルドに到着している。そして若干日の傾きが違う。時差4時間ってとこかな? これくらいなら許容範囲。

 そう言えば、なんか…いつの間にか、グラムシェルドが俺等の拠点みたいになってんな…? まあ、アステリアのギルド本部が在ったり、国境近くで品揃えが良くて色々と物資の調達が楽だったりで便利なのは認めるけど。


「ギルド本部に国外に出るって報告だけ出して来る。終わったらすぐにアルフェイルに行くから、用意する物が有ったら今の内に揃えといてくれ」


 とは言っても、ディベルトでフィリスと合流する前に買い物は済ませてしまっているので、結局皆でギルドに向かう事になった。

 いつも通りに道行く人達に挨拶をされながら歩く。白雪もその見た目の愛らしさと物珍しさで人気者で、色んな人(主に子供)に挨拶されたり花を貰ったりしているし、パンドラはパンドラで俺…っつか<全てを焼き尽くす者(インフィニティブレイズ)>の相棒として顔と名前が知れ渡っているしで、やっぱり色んな人(主に男)に挨拶されている。

 気持ちが急いているのか、一々呼び止められるのが煩わしく感じる…。が、それを正直に顔と態度に出す程俺もガキじゃない。一応クイーン級の面子を守って若干の作り笑いで正しく対応する。後ろからカグに「…その笑い方気持ち悪い」とツッコまれたがスルーする。

 そんな感じで―――若干の時間を消費させられながら、冒険者ギルドに到着。

 いつも通りに「おいーっす」とか気軽に挨拶しながら入った………のだが…。


「…?」


 なんか、静かなんですけど…?

 常駐している冒険者達も、いつもならビシッとお辞儀しながら「おはようございます!」とか言ってくれるのに、今日は無言のままペコっと会釈しただけだ。

 俺だけでなく、いつもの様子を知っているフィリスと白雪も困惑した顔を浮かべている。……パンドラは…まあ、平常運転です。

 何なんだこの雰囲気? とりあえず受付さんに訊いてみるか…と思ったら、俺等が向かうまでもなく受付のお姉さんが必死の形相でバタバタと走って来た。


「あの、なんか有りまし―――」

「アークさんっ!!!!」

「はい?」


 なんか怒られる感じだろうか? 思い当たる事が有り過ぎるな……。


「ようやく戻って来てくれましたね!!!」

「は? はあ、なんか知りませんけどお待たせしました」

「ずっと御待ちになってたんですよ!?」

「え? 誰が?」


 すると、音も無く受付さんの後ろからヌッと男が現れた。

 感知能力が研ぎ澄まされてる俺やカグ、各種センサーが常に周囲を警戒してるパンドラは特に驚く様な事はなかったが、男の存在に気付いていなかったフィリスと白雪の亜人組がむっちゃ驚いた居た。


「私です」


 丸顔で温和な笑顔を浮かべているくせに、妙に隙が無くて怖い。


「俺の記憶が確かなら、初対面の方ですよね?」

「これは失礼致しました。冒険者統括ギルドより、グランドマスターの使いで参りました」


 ペコっと、やたらと丁寧なお辞儀をする。

 名前を名乗らないって事は、あくまで自分はお使いの呼び出し係って言いたいのかね。

 ……にしても、ルナに言われた直後に呼び出しが来るとはね…。色々とタイミング良過ぎじゃね?

 

「つっても、今急いでんだけど?」


 早いところ逃げた≪黒≫追っかけないと、≪無色≫の奴が≪黒≫を手にいれちまうかもしれないし……。まぁ、俺が寝てた5日の間にすでに手遅れになってる可能性があるのは分かってるけども…。


「おぉ、それはいけませんね? クイーン級としてのお仕事ですか?」

「いや? けど、急がないと間違いなく世界規模でえらい事になる事請け合いの事案…とだけ説明して置く」


 使いの男が若干困った顔をした。

 アッチも使いとして来ている以上、何があっても俺を連れて行く事が最優先。だが、冒険者ギルドの中で絶対強者であるクイーン級の俺が、「急がないとまずい」と言っているのだ。それを無視する訳にも行かず、判断に迷っているのだろう。

 まあ、このオッサンには悪いと思うが、コッチだって譲れない。

 なんとかオッサンを折れてくれるように説得しようと思考を回す。こう言う時に口の回る人間に生まれたかったと思うが……無い物ねだりしたって仕方ねえ。とか考えていたら、意外な所から口を出された。


「アーク様、行かれた方がいいのでは?」

「フィリス…? いや…でも」


 誰よりも気が急いているのはフィリスだと思ってたんだが…?

 ≪黒≫の事もそうだが、亜人の皆の事もだ…。今のボロボロな状態の皆の所に、1秒でも早く俺を連れて行きたいと思ってるんじゃないかと勝手に思ってたんだが…?


「アーク様が、世界の事や亜人の事を色々考えて下さっているのは分かります。ですが、まず貴方は貴方として生きるべきです」


 言われてハッとなる。

 ……確かに、俺は「≪赤≫の継承者として何とかしなきゃいけない」って気持ちが先に立ち過ぎて焦っていた。けどフィリスは、俺はまず第一に“アーク”であるべきだ。と言っている。

 そりゃ、そーだわな…。

 世界の運命がかかってるから、焦るのは当たり前。けど、俺は俺のやるべき事を目の前に出された順番に片付けて行くしかねぇ……って事か。

 フィリスの意見に賛同し、カグも口を開く。


「フィリスさんの言う通りよ。何の用事か知らないけど、迷ってる時間があるならさっさと行って片付けて来なさいよ」

「カグ…」

「リョータが言ったんでしょ? 『コッチの世界の俺には立場が有る』って。立場が有るって事はその分の義務と責任が付いて来るって事でもあるでしょ。これは、アンタが果たすべき義務なんじゃないの?」


 ぐうの音もでねぇ…。

 クイーン級としての権利を都合良く使ってんだから、呼び出しを無視するなんて勝手は許されねえか…。


「…分かった、行くよ」


 俺の返事を聞いてオッサンがホッとしたのが分かった。


「えーっと…で、その統括本部とやらはどこにあんの?」

「はい、大変遠い場所ですので、私が転移魔法でお連れします。それと、共の方々には申し訳ありませんが、統括本部にお連れ出来るのはアーク様御1人だけですので、ご了承下さい」


 俺1人なのは、統括本部の情報を少しでも外に出さない為か? まあ、でも、それぐらい厳しく情報が出る事を止めないとここまで場所が隠蔽出来ねえのか。実際俺も、場所に全く見当つかねえし。

 後は、転移魔法は人数が多くなる程魔力の消費がゴリゴリ上がるらしいから、省エネの為かな? 魔法能力クソ高いフィリスでも転移魔法は疲れるって言うぐらいだし。

 俺1人で行く事に女性陣が不満を感じていないかと若干不安になったが、皆それぞれに何か想うところがあるようで、不満そうな感じはなかった。


「まあ、そう言う事なら仕方ねえべや…。んじゃ、ちょっくら行って来る」

「はい」「お気を付けて」「さっさと帰ってくんのよ」「いってらっしゃいですの!」

「出来る限り早く帰って来るから、お茶でも飲んでちっと待ってて」

「はい」「ご飯も食べて良いですか?」「水っ腹にならないうちに帰って来てよね?」「アップルティーが良いですの!」


 おっと、もう1つ忘れんうちに。

 黙って俺等のやり取りを見ていた受付さんに向き直る。


「国外に出るらしいんで、ヨロシク」

「え? あ…は、はい! ギルマスに言っておきます!」


 俺の方の話が付いたと判断し、男が女性陣に頭を下げる。


「では、参りましょうか」



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