13-5 ロボメイドの考察
長話で少し具合の悪くなったルナが横になったので、俺達もお暇する。
浸食の刻印が多少薄れて視力や内臓の機能が戻って来てると言っても、まだまだ並みの人間以下だ。
ルナは元々探知・感知スキルを多数持っていたらしいが、半数以上は≪黒≫に持って行かれてしまった。残っている感知スキルも魔神のブースト無しだから、基本的には肉体の五感が頼りだ。
アイツが自由に出歩けるようになるのは、もっと先の話だな…。
ルナの家を後にしてディベルトの大通りを歩く。
道端に生えている南国っぽい草花が珍しいのか、白雪がフラフラと飛んで行って嬉しそうに黄色く光りながら花の香りを楽しんで居る。
「白雪、あんま離れんなよー」
「はーい」
白っぽい花を1輪だけ貰ってパタパタと俺の肩に戻ってくる。
「父様父様、見て下さい!」
「ああ、綺麗な花だな」
嬉しそうに白い花を抱きながら、花の匂いと“声”に耳を傾けている小さな姿は、どこか幻想的で、物語に出てくる妖精の姿その物だった。……これで甘え癖がなかったらなぁ…。
『それは無くなりませんわ』
と心の中で返して来ながら頬っぺたにスリスリと甘えてくる。
幻想的な感じが2秒で崩壊して、ただの甘えん坊になった。
「マスター?」
「ん? 何?」
「元≪黒≫が最後に言っていたのはどう言う意味でしょうか?」
「俺に訊かれても……」
俺達がルナ宅を出る直前にルナに言われた事を思い出す。
『暫くしたら、ギルドの統括本部に呼ばれるだろうが、宜しく頼む』
どう言う意味だろう?
そもそもギルドの統括本部って何? 何処に在んの? 俺冒険者の上から2番目のクイーン級だけど、そんな話欠片も聞いた事ねえんだけど…?
大体呼ばれるって何でだ? まあ、クイーン級の仕事しなさ過ぎで怒られるってんなら分かるが……でもそれはアステリアのギルマスがやれば済む事で、んな大層な場所に呼ぶ程の事じゃなくね?
最悪の可能性として、遂にラーナエイトの一件の制裁ってのもあるが……多分違う気がする…まあ、ただの勘だけど。
「まあ、呼ばれたら呼ばれたで、そん時に考えるべ」
「了解しました」
「……アンタ、いつもそんな感じの行き当たりばったりな事してるんじゃないでしょうね?」
「そ、そんな訳ね―――!」
「父様はいつもこんな感じですわ」「そうですね」
「ちょっとぉ!? 少しはフォローしろよ!!?」
「マスター、嘘はいけません」「ですの」
ウチのメイドと妖精は変な所で厳しい。
そして幼馴染からの視線がクソ痛い…。心の中でちょっと泣く。
「と、ところでさぁ!」
「あ、誤魔化した」「誤魔化しました」「誤魔化したんですの」
「誤魔化してねえよ! スムーズに話しを進行させようとしてんの!」
嘘です。誤魔化しました。
「これから具体的にどーすっかって話しだけど」
「≪無色≫を追いかけるんでしょ?」
「追いかけるにしても、相手の居場所が分からない、とマスターは言っているのでは?」
「ああ。闇雲に探して会える相手じゃねえしなぁ?」
ルナがエンカウントしたって言う北の大地に行ってみるって手もあるが、偶々のエンカウントだったらしいしなぁ。
「ねえ? もう、いっその事待ってたら?」
「ぁん? どう言う事よ?」
「≪無色≫の狙いは全部の魔神を集める事なんでしょ? だったら、そのうち私達の≪白≫と≪赤≫も狙って来るって事じゃない」
なるほど。
コッチが探さなくても、あっちが来てくれるのを待つってのも有りっちゃ有りか。
今の俺なら大抵の状況に対応出来る自信があるし。ぶっちゃけ、目の前に出て来てくれれば、後は原初の火で煮るなり焼くなりご自由にってなもんだし。
カグの意見採用しようかと思ったら、パンドラが反対した。
「その意見は正しいと判断します。ですが、作戦としては愚策と判断」
「どう言う事よ? 俺も良い作戦かと思ったんだけど?」
「元≪黒≫が≪無色≫によって制御下に置かれた時、≪黒≫の魔神は奪われませんでした」
「え? ああ…そうだな?」
「≪無色≫が魔神を容易に制御下に置けるのだとすれば、今までにもマスターから≪赤≫の魔神を奪うチャンスは多く有りました。また、秋峰かぐやの≪白≫の魔神に関しては精神の制御をしていたにも関わらず奪っていませんでした」
「ふむ……つまり?」
「はい。≪無色≫の目的が『全ての魔神を集める事』で間違い無いのであれば、≪無色≫は意図的に魔神を手元に集めないようにしている、と結論します」
なるほど…言われてみりゃあ、そりゃそうか…。あの野郎、カグを手放す時もやたらアッサリしてたしな…。
「≪無色≫の行動の理由を3通り推察します」
機械とは思えない白くて美しい指を立てる。
「1つ、何らかの理由により、魔神を手元に置いておく事が出来ない。2つ、魔神を集める為には何らかの準備が必要で、今はその準備をしている段階。3つ、何かしらのタイミングを待っていて、敢えて泳がせている。どの可能性であっても、≪無色≫が積極的に魔神を集め始めると言う事は、コチラの対処が手遅れになっている可能性が高いと判断します」
流石ウチの参謀役のパンドラ、お馬鹿さんの俺でも分かりやすい。こう言う時の機械的な話し方はプラスだよなぁ…。
「その上で今後の行動を提案します。≪黒≫を追跡なさってはどうでしょうか?」
「≪黒≫を?」
「はい。継承者から魔神が分離した状態は今まで有り得なかったとの事でしたので、今の状況は≪無色≫にとっても想定外の事と判断します」
「まあ、それはそうだろうな? ≪黒≫を引き剥がした俺自身も未だに良くあんな真似が出来たなぁと感心してしまうくらいだし」
≪赤≫から貰った多彩なスキルと原初の火、そして【無名】が無かったら絶対できない芸当だった。
あの離れ業をやる為に必要な能力を、今までの魔神の歴史の中で揃える事が出来た人間が居なかった。って事は、勿論≪無色≫だってこの展開は欠片も予想できた訳ねえ。
「はい。ですので、≪黒≫に対して何かしらのアクションを起こすと予測します。もしくは、現在進行形で起こしているとも予測します」
「あー…なるほど、それで≪黒≫を追いかけるってか? そうすれば、どっかで野郎とエンカウントする可能性が高いから」
「はい。ただ、最悪の可能性としてすでに≪黒≫が≪無色≫一派の手に落ちているかもしれませんが…」
「確かにそりゃ最悪だな…」「笑えないわね…」「ですの…」
話を聞く側の俺等3人は一気にドンヨリした空気になってしまう。
「まあ、でも、それを確かめる意味でも≪黒≫を追いかけるのは有りだな」
「≪無色≫の所に行ってなかったらなかったで、次の継承者には会って敵か味方かハッキリさせときたいしね?」
「だな」
もし暴走してたら、それはそれで俺が止めなきゃならないし…。どの道、≪黒≫の“その後”を確認しない訳には行かねえか…?
「とりあえず、フィリスが戻って来たら1度アステリア王国に戻ろう」
「え? このまま追いかけるんじゃないの?」
「そうしたいのは山々だけどな? コッチの世界の俺には立場っちゅう物があんのよ」
一旦戻ってギルドに話だけは通しておかねえと、後で何言われるか分かったもんじゃねえ。
その後は、アルフェイルに行って≪黒≫の飛び去った方向を地道に探すしかねえ。まあ、今の俺なら2,30kmくらい離れてても魔神の気配を感知出来る。転移での高速移動と合わせれば、そこまで見つけるのに時間はかかんねえだろう。
本来なら、色んな人に声をかけて探すの手伝って貰えば良いんだろうけど……今回は探し物が悪過ぎる。継承者と言う器に入っていない魔神は、普通の人間では視認する事が出来ないからだ。
あの化物染みた進化をしたガゼルですら、辛うじて「何か居る?」程度の知覚しか出来ていなかった。
まあ、とにかく自分達だけで探してみるしかねえなぁ………そこはかとなく、嫌な予感がするけど。