表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
383/489

13-4 元≪黒≫の考察

「そう言えば、訊いて良いのかどうか迷ってたんだけど、お前って戦えんの?」


 ≪黒≫を失った……っつか、俺が引き剥がしたせいで、普通に考えれば戦える訳ない…のだが、なんだろう? 微妙にだが、ルナから魔神の気配の残滓…とでも言えば良いのか? そんな感じの物をボンヤリと感じるのだ。


「いや、まあ、前の様にって訳にはいかんのは分かってるけど…」

「そうだな。≪黒≫と離れた私には、まともな戦闘力は無い。だが、だからと言って戦えない訳でもない」


 やっぱりか…。と妙に納得してしまった俺に対して、後ろでカグが「え?」と驚いたような声を出す。魔神の力の強大さは、元が普通の女子高生であるカグが1番感じている事かもしれない。だからこそ、それを失っても尚戦えると言えるルナが意外だったんだろう。


「どう言う事ですか?」

「≪黒≫に依存するスキルや能力は全て無くなったが、自分の体に付与したスキルは残っているからな」


 ああ、そう言う事ね。

 カグと一緒に俺も納得したが、「それに…」と更にルナが続けた。


「魔神が離れた事で良かったと思える事が1つだけ有る」

「え? 何?」


 考えてみたけど何も思いつかんな。鬱陶しい魔神と関わらなくて済む…とか? まあ、確かに嬉しいかもしれんな。いや、でも責任感MAXのルナだぞ? 途中で放棄する事を喜ぶか?

 答えが出なくて知恵熱出しそうになってる俺に黙って話を聞いていたパンドラが。


「それは顔に浮かび上がる浸食の刻印が薄くなっている事と関係ありますか?」

「え?」


 言われてルナの目の周りの黒い刻印に目をやると……確かに微妙にだが薄くなっている…ような気がする。でも、言われて注視しないと分からないようなレベルの変化だろ? …とは言え、正直驚いている。

 魔神に体を変化させる度に体を(むしば)む浸食の刻印。濃くなる程に浮き出た部位の身体機能を食われて行く。

 普通の病気と違い、この状態が治る事はない。悪くなる方に向かっての一方通行だ。なのに…よくなったのか?


「うむ。そこのメイドは本当に目が良いな?」


 そりゃぁ、未来のトンデモなく高性能な視覚センサー搭載してますから、ウチのパンドラは。


「≪黒≫が居た頃は微かに光を感じる程度だったが、今は色を認識できる程度には回復している」

「マジかよ…!」

「うむ、冗談ではない。恐らくだが、魔神に奪われていた身体機能は体から消失していた訳ではなく、刻印によって封印されていただけなのだと思う。しかし、封印を維持する魔神が体から居なくなった事で―――」

「封印が徐々に解けて来ている?」

「まあ、そう言う事だろう…と私は勝手に解釈している」

「って事は、これから元通りの体に戻って行くのか?」

「多分な」


 それを聞いて白雪は素直に回復を喜び、パンドラは無表情なままチラッと俺の左腕に視線を向けて来る。カグは何か考えているのか若干難しい顔をしているが……まあ、深く突っ込まないでおく。


「とは言え、今の私が回復したとしても、命一杯無理をして精々ルーク級程度の能力しかない。魔神や≪無色≫一派との戦いでは足手纏いにしかならん。……悔しいが、私はここで戦線離脱だ」


 悔しさに顔を歪めながら、拳を握る。

 まあ、戦線離脱するのは良い。元々ルナにこれ以上戦わせるつもりはなかったし。今まで≪黒≫の継承者として…キング級の冒険者として散々戦場に立ち続けて来たんだ。もういい加減休んだって誰も文句言わねえだろう。


「心配すんな、魔神の事は俺等が何とかしておく。お前は自分の体の事と、次の就職先でもノンビリ考えてろ」


 それを聞いて、少しだけ安心したように笑う。


「そうだな。今のお前は、魔神の歴史の中でも最強の継承者だろう。この先の事は任せて、私は隠居するさ」

「隠居て……こっからの生活どうすんだよ…」

「ふん、侮るなよ? これでもキング級の冒険者として荒稼ぎしていたんだ。金の使い道はなかったから、ほとんど手を付けてないしな?」

「え……? まさかの金持ちですか?」

「3回生まれ変わっても、遊んで暮らせる程度には金が有る」


 何それ羨ましい…。別に俺等も金に困ってる訳じゃないけど、金は有って困るもんじゃないし。

 俺も有り余る金で遊んで暮らしたい。


「リョータ…アンタ今、自分も遊んで暮らしたいとか思ったでしょ?」


 何で分かるんだろう…。ウチの幼馴染は本当に俺の心が読めるてるんじゃなかろうか…?


「まあ……それはともかく…」

「あ、誤魔化した」「誤魔化しました」「誤魔化しましたの」


 今回もスルーしようかと思ったが、今回はジト目が痛いんですけぉ…。


「あまり≪赤≫のを苛めてやるなよ?」


 まさかのルナのフォロー!? 嬉しいと言うより、意外過ぎて若干怖い…!

 だが、別にルナは俺を助ける為にフォローを入れた訳ではなく、ただ単に話が進まないので止めたかっただけらしい。やっぱコイツはブレてなくて安心した。


「それで、ここからがお前への話の本題なのだが」

「……え? じゃあ、今までのは前振りですか?」

「お前に謝罪とお礼を言いたかったのは本当だがな」

「…そうか。で、何?」

「うむ」


 2秒程の沈黙。

 これからするのが重要な話しなのか、やけに部屋を満たす静寂が重い。


「お前達が妖精王とやらから聞いた話では、≪無色≫は全ての魔神と1つになる……いや、1つに戻ろうとしているのだとか」


 「ここまでは分かっているな?」と言う視線を向けられて俺が頷くと、パンドラ達もユックリと静かに頷く。


「そして、私は≪無色≫によって操られて居た訳だが―――無論、その後の私の行動も私自身の意思ではなかった、とここで誓っておく」


 んな律義に誓わんでも、この場に居る人間は、お前が好き好んであんな事したなんて欠片も思ってねえっつうの。


「私のやったエルフの里襲撃の件での謝罪や罰の話はこの場では止めて置く、キリが無いのでな。今問題視すべきは“何故、私がエルフの里を襲ったか”、だ」

「……? だから、≪無色≫に命令されたからだろ?」

「そうだ。では、何故≪無色≫は私に亜人を襲わせた?」

「それは――――……なんでだ?」


 亜人が嫌いだから…とか、そんな個人的な話しじゃねえだろう。

 そう言えば、パンドラを治す件で俺が種撒く者の所に行って不在になっていた時に、水野の奴が亜人を狩って回ってたって聞いたけど、もしかしてそれも≪無色≫がやらせていた事なのかな?


「お前達が精霊の世界で聞いて来た話の中に、星の大樹(ユグドラシル)に関する事があっただろう?」

「え…? ああ、亜人の命が聖域の維持に消費されてるって話?」

「うむ。≪無色≫の影響下にあった頃の事はあまり憶えていないが……、私が亜人を襲うように命じられたのは、まさしく其れが理由ではないかと思う」


 亜人を減らせば、聖域の結界が弱まる。だからエルフの里(アルフェイル)を襲った。確かに、アルフェイルにはドラゴンゾンビの件から色々あって多くの亜人が集まっていたし、亜人を減らそうと思ったら第一に狙われるのは間違いなかった。


「でも、どうして…?」

「ユグドラシルに辿り着く為だろう、と言うか、それ以外にない。だが、そう考えるともう1つ気になる事がある」


 若干聞くのが怖いが、聞かないで終わる選択肢はない…ので、仕方無く先を促す。


「…何?」

「600年前の亜人戦争。あの戦争が亜人を殲滅する為に行われた物だとするのなら、先代の≪赤≫が言っていたと言う、戦争を裏で操っていた者も≪無色≫の可能性が高い」

「マジか!?」

「恐らく…だが。まあ、ほぼ間違いないだろう。≪無色≫の精神干渉能力ならば、戦争を指揮する権力者を操る事も容易だろうしな? 継承者の体を渡り歩く事でほぼ無限の命を持つ魔神であるならば、600年前の戦争で何かしていてもおかしくない」

「でも、なんでそこまでして…?」

「お前達は聞いた事がないか? 人間の世界にもユグドラシルに関する噂が1つ広がっているのだが…」


 全く知らん。振り返って他の面子に「お前達は?」と視線で訊くと、皆即行で首を横に振った。全員知らんか…。まあ、カグはほとんどコッチでの記憶ねえし、パンドラと白雪はずっと俺と一緒だったから、持ってる情報量が俺と大差ねえしなぁ。


「“ユグドラシルには、魔神の心臓が眠っている”」

「魔神の、心臓…?」

「実際に有るのかどうかは分からんし、有ったとしても本当に心臓なんて物かどうかも分からん。だが、“完全なる1”とやらに戻ろうとしている≪無色≫が、ここまで固執していると言うのならば、魔神に関わる重要な何かがユグドラシルには有る…と判断してしかるべきだろう」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ