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13-3 ルナの家

 宿から出て飯を食べに行こうかと思ったが、町に出ているパンドラとすれ違うとそれはそれで面倒臭いので、白雪のポケットに入ってる食材を使い、カグが厨房を借りて簡単な料理を作ってくれた。

 (ろく)な調味料も無いくせに、パンドラに負けず劣らずちゃんとした料理を作りなさる…。暴力ゴリラかと思いきや、カグの奴妙なくらいに女子力高ぇんだよなぁ…。小学校の頃から家庭科の成績だけは常に1番だったし。

 ……まあ、食事の途中で帰って来たパンドラが、「マスターのお世話は私の仕事です」とカグとバチバチしてたのは心の平穏の為にスルーしておく。


 腹が膨れたら、さっさと行動開始。

 ディベルト? とか言うルナの故郷に出る。勿論初めての町。…っつか、そもそも何処の国だ?

 アステリアに比べて若干暑い気がするし、少し南国寄りの国かな? 心なしか、周囲の家も風通しの良さそうな形してるし。

 カグ達に案内されてルナの実家に向かう。

 ……正直、アイツの実家がどんななのか想像がつかんな…。煌びやかな豪邸に住んでるなんてイメージは欠片もないが、キング級ともなれば腐る程金持ってるだろうし、有り得無くもない、か。

 宿屋からゆっくり歩いて10分程でルナの実家に到着。


「なんちゅうか、質素な家だな…」


 木造平屋の一軒家。築40年ってところかな? ただ、ちゃんと隅々まで手入れが行き届いているのが素人目にも分かる。

 この家、凄い大事にされてるんだな…。


「あれ? そう言えば実家って事はルナの家族も居るのか?」

「ううん。両親は昔遺跡の探索中の事故で亡くなったんだって…それ以外の家族は居ないってさ」

「遺跡? アイツの両親は冒険者だったんか?」

「冒険者ってか、考古学者だったって話よ? 歴史の研究をしてた人達みたい」


 身寄りのない独り身って事か……。

 俺等の世界でもそう言う人間は山ほど居るけど、コッチの世界は人が簡単に死んじまうから、そう言う人間が輪をかけて多い…。実際、ロイド君もそうだしねぇ…。

 こう言うコッチ側の事情に触れると、つくづく現代日本は恵まれてるなぁと痛感する。

 …………まあ、その話は置いておこう。

 俺が気持ちをニュートラルに戻している間に、先に立っていたパンドラがノックも無しに扉を開けて中に入って行く。


「パンドラの奴…あんな無礼な入り方で良いのか……?」

「いいんじゃない?」

「ルナさんが『自分の家だと思って入って来い』って言ってましたわ」


 いや、それって社交辞令的な物なんちゃうの? マジで自宅みたいな入り方しちゃうってどうなのよ…。

 

「……言ったは言ったんだろうけど…怒るんじゃね?」

「大丈夫よ。≪黒≫の人、話してみたら言う程怖い人じゃなかったし」


 俺が寝てる間にルナと何か話したのか?

 まあ、≪黒≫を失っても元継承者な訳だし、連中に操られて≪白≫の力を振り回していたカグには色々言いたい事が有ったんだろう。……つっても、アイツも操られてたじゃねえか、って話だが。


「まあ良いや、俺等も入ろうぜ…」

「うん」「はいですの!」


 一応開きっ放しになっていたドアをノックしてから中に入る。

 一足先に中に入っていたパンドラが入り口で待っていた。


「マスター、遅かったですね?」

「…お前が堂々と入り過ぎなんだよ…!」

「?」


 本気で「何を言われたのか分からない」って顔をしやがる…。こう言うのをピュアって言えば良いのか、融通が利かないって言えば良いのかちょっと迷う。


「ん? 来たのか≪赤≫いの」


 部屋の奥。窓から差し込む光に照らされたベッドの上で、褐色の肌の女はニコリともせずに俺達を出迎えた。

 見るからに硬そうな木のベッドで上体だけを起こしたルナの姿は、予想していたより元気そうだった。顔色……は、よく分からんけど、少なくても声に張りが合って体温も平熱より少し高いくらい。言うところの“調子が良い”状態だと思う。


「おう、お邪魔します…っつか、してます」

「ああ。遠慮せずに入って構わん」


 導かれるままベッドの傍まで行くと、無言で脇にあった椅子を差し出された。この家には椅子が1つしかない。本来ならばカグかパンドラに譲って俺は立ったままってのが有るべき姿なんだろうが、パンドラは俺を差し置いて座る訳ねえし、カグは1人だけ座ってると気まずい思いしそうだし…。

 消極的な理由により、俺が座る事にした。


「私と戦って以来目を覚まして居ないと聞いていたが…無事に目覚めたようで安心したぞ」

「そりゃ、コッチのセリフだろ。かなり無茶な方法で止めたから、もしかしたらお前の精神も焼いちまったかと不安だったよ」

「問題無い。前よりも調子が良い……と言うのは流石に言い過ぎだな」


 珍しくルナがフッと自嘲気味に笑う。


「魔神の補助が無くなって、人の体がこんなに重いのだと…子供の時分に忘れていた事を思い出したよ」

「………悪かったな。これ以外の方法が思いつかなかったとは言え、≪黒≫を勝手に叩き出しちまって…」


 俺の言葉に、ユックリと首を横に振る。


「いや、謝るのは私の方だ。お前が暴走した時にアレだけ怒った私が、あんなに簡単に敵の手駒にされ、世界に害意を撒く存在となってしまったのだからな…。私を止めてくれた上に、命まで救ってくれたのだ。どれだけ礼を言っても足りんよ」

「礼は良いよ。結局≪黒≫の魔神逃がしちまったし」


 あと1秒体が()ってたら、≪黒≫を原初の火で焼く事が出来たんだが…。思い出すと悔しくて叫びだしたくなる。

 あの場で≪黒≫を仕留(しと)められて居れば、魔神を集めて“完全なる1”に戻ろうとしている≪無色≫の計画を破綻させる事が出来た。

 1週目の世界を終わらせたのが魔神である事を考えれば、≪無色≫の行動がおそらく“それ”に繋がっているだろう事は間違いない。


「そちらの話は、そこの≪白≫いのとメイドから聞いている。精霊の事や、≪無色≫の事も一通りは」

「そうか」


 俺、説明下手だから、その(くだり)を済ませておいてくれてマジありがてぇ。


「で、ご感想は?」

「興味深い」

「……以外と冷静なのな? 俺が精霊王から話聞いた時は結構ビックリしたんだが」

「今の私は“元”継承者なだけの、ただの人間だからな」


 いや、そら、そーですけど…。


「お前の本当の体を使っているのが≪無色≫の継承者なのだろう?」

「多分…っつか、ほぼ間違いなく」

「体の方に、世界の破滅に繋がる魔神の使い手。精神の方は、魔神殺しの炎を手にした…か。お前も中々複雑な因果の中に居るらしい…」

「いっそ誰かに分けてやりたい…」

「要らんな」「絶対要らないわ」「父様以外には背負えないと思いますの」「マスターが責任を持って処理するべきかと判断します」


 女性陣が皆冷たくてちょっと泣きそう……。まあ、でも、人任せに出来たとしても、誰かに渡すつもりなんて欠片もねえけど。

 俺が背負うべき物は、俺が背負うしかないからな。それが、旅して来た俺の答え。


「お前の冗談はさて置き、これからどうするんだ?」

「勿論、≪無色≫を見つけ出してボコリ殺す」

「ふむ……まあ、そうだろうな…」


 ん? ちょっと残念そう…っつか、何か言いたそうな感じ?


「何?」

「いや…少々私から離れた≪黒≫の事が気になってな」


 まあ、そりゃ気になるか…。

 今の≪黒≫がどういう状態なのかは分からないけど、少なくてもルナの溜めて来た戦闘経験値を丸ごと抱えているのは間違いない。

 本来の魔神の継承は、前の宿主が死んだ後に行われる為に、その能力値が渡される時にはリセットされている。俺が≪赤≫を継承した時に、先代の使っていたスキルやら【魔人化(デモナイズ)】やらを使えなかったように…。

 でも、継承者が生きている時に魔神を引き離した今回はどうなんだ? もし仮に……ルナの磨き上げたスキルや能力をそのまま使えるのだとしたら……!


「ルナが危惧してる事は何となく分かった……」

「うむ。もし≪黒≫の次の継承者が私の能力をそのまま使えるのだとしたら、相当マズイ事になる」

「だな」


 俺とルナの会話の意味が分からなかったのか、カグが首を傾げた。


「どう言う事? ≪黒≫の人が使ってたスキルをそのまま使えるんなら、そりゃあ、まあ、強敵だろうけど、リョータなら問題無くない?」


 さっきからずっとツッコミ入れようと思ってたけど、≪黒≫の人じゃなくて“元”≪黒≫の人じゃね? まあ、本人が気にしてねえからどうでも良いか。


「いや、そんな簡単な話じゃねえんだ。もしルナの力そのまま使えるんだとしたら、そいつは始めっから―――魔神になる事が出来るって事だ」


 カグだけでなく、パンドラと白雪も言われて初めて気付いたらしく、皆して「あっ」と声をあげる。


「本来魔神ってのは、少しずつ力を使う事に慣れて行った先でなるもんだ。けど、始めっから魔神になっちまったら、そいつは間違いなく精神を食われて暴走する」

「私自身が“やってしまった”後に、また≪黒≫が暴れるなど悪夢以外の何物でもない」



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