13-2 夢から覚めて
「―――……ん……?」
目を覚ますとベッドの上だった。
どこだここ…? 相変わらず目が覚めると現状認識に一苦労するわ…。とりあえず、どこかの宿屋……っぽいけど、どこだろう…?
「あ、起きた」
見慣れた顔が上から覗き込んでくる。
「カグ…?」
俺にとっては本当に見慣れた顔の幼馴染。寝起きにコイツの顔があると、元の世界で叩き起こされて居た日常に帰って来たようで変な気分になる。
「父様…」
パタパタと飛んで来た白雪が、軽やかに枕に着地して、心配そうに俺の頬に触れて来る。小さな手から伝わってくる暖かさに妙に安心してしまう。
部屋の中に居るのはカグと白雪だけか…。パンドラとフィリスはどこかにお出かけ中だろうか?
「大丈夫だ」
毛布から手を出して白雪を撫でてやると「えへへ」と、喜びを表す黄色に光りながら笑う。
「父様、なんで泣いてらしたんですの?」
「え?」
言われて初めて自分が涙を流していた事に気付く。さっき白雪が頬に触れて来たのは、涙を拭ってくれてたのか…。
カグも心配そうな顔してるし。
「なんか、悪い夢でも見てた?」
「……悪い夢っつか、ロイド君の記憶を見てた。多分、ロイド君の記憶を再生してる影響だな…」
「それでなんで泣くの? 悲しい思い出? ……あっ、聞かない方が良い…?」
ロイド君の昔話を、俺が勝手にして良い物かと一瞬迷う。
……うーん…まあ、ダメだったらダメだったらで、後で謝ろう。正直、俺の心の中に置いておくにはちょっと重い。
「ロイド君はさ、自分が魔法を使えない事に凄ぇ劣等感を感じてた」
「あ、そっか。コッチの世界じゃ、誰でも魔法使えるのが当たり前だもんね?」
「うん。そいでさ、自分にはその人より劣ってる部分を補える体格も頭脳も無いって、劣等感と無力さで泣いてた」
「そっか……」「…ですの」
「両親が死んで、姉さんが何とかロイド君を養おうと頑張る程そう言う思いが強くなって………いつの間にか、自分が早く死ぬ事だけを願うようになってた…」
現代日本じゃ考えられないが、世の中には“口減らし”って行為が有る事は知っている。
家族全員で生きて行く事が出来ないから誰かを切り捨てる。別にその行為自体を否定するつもりはない。する方だって、好きで家族を捨てる訳じゃないだろうし…。そうしなければ生きていけない現実が…コッチの世界には溢れかえっているし。
ただ、だからと言ってロイド君が死ぬ事が正しかったかどうかと問われると、俺としては首を傾げるところだ。
……いや、違うな。正しいとか間違ってるとかはどうでも良いんだ。俺を救けてくれたロイド君が、自分から死に向かって突っ込んで行くような人であった事を受け入れられてないだけか…?
「それが悲しかったんだ…?」
「ん…そうかな」
「でも、リョータの話すロイド君はさ、全然そんな感じの人じゃないよね? いっつもリョータが危ない時には助けてくれて、ヘタレた時には叱ってくれる子なんでしょ?」
「そうだな」
少なくても俺はそう思ってた。けど、考えてみればそれは俺の主観での話であって、ロイド君自身はどう思っていたのかは、俺にも分からない。
「それってさ、ロイド君もリョータと一緒に居て変わったからじゃない?」
「変わった、か…」
そう言えば、もどきの所でロイド君と話した時にそんな感じの事言われたっけ。あの時ロイド君は言っていた。
『それでも、僕はそんな風になりたいって思ったんです。貴方のような、心の強い人に』
ロイド君が、俺と一緒に居た事で「生きよう」って変わってくれたのなら、それはとても嬉しい。俺がロイド君の体を使わせて貰っている事は無意味じゃなかったって思えるから。
「んー…かもしんねえな?」
まあ、本人がまだ復活してないのにあーだこーだと話してもしょうがねえか? ロイド君が帰って来たら、改めて訊いてみればいい。
さて……ロイド君の件は一先ず横に置いといて、現状確認に戻ろう。
「よっ」とベッドから上体を起こし、目元に残っていた泣き跡を拭う。すると枕に立っていた白雪もそれをパタパタと飛んで追いかけて来て、定位置の肩に腰を下ろす。
「で、話し変わっけど、パンドラとフィリスは?」
「パンドラさんはここの冒険者ギルドに行ってから町の様子見て来るって。フィリスさんは……故郷の後片付けに行ってる…」
「そっか…」
アルフェイルは、ルナの襲撃でほとんど壊滅させられちまったからな…。里だけじゃなく、森の方もかなり深刻な被害が出てるし、亜人達もどれだけ死んだか分からない…。妖精の里の件もあるし、良くも悪くも、亜人と人の世界の関わり方の変革期なのかもな…?
「っつか、ここどこだ?」
「ディベルトって言う≪黒≫の人の故郷だって」
「そうだ! ルナの奴どうなった!? 生きてんのか!?」
「騒がなくても大丈夫よ。アンタと同じように眠ったまま目を覚まさなかったけど、一昨日目を覚めしたし」
「それに、ちゃんといつものルナさんに戻ってましたわ」
「そっか…良かった」
ん? あれ? 一昨日?
「俺…何日寝てた?」
「「5日よ(ですわ)」」
またガッツリ寝てたな俺……。並みのダメージなら一晩で回復してくれる【回帰】を持ってしても5日って相当ヤバかったなよな…。回復にこれだけ時間がかかったのって、水野との初戦以来じゃね? まあ今回はルナから受けたダメージより、スキルを無茶な使い方して自分で勝手に背負った負担が大半だろうけど……ロイド君、ゴメン…。
「ああ、そう言えばその≪黒≫の人が、目が覚めたら話が有るって」
「まあ…そりゃあ有るだろうよ」
俺の方だってルナに話がある。
≪黒≫をルナから引き剥がした事とか、操っていた≪無色≫の事とか、色々話さなきゃならない事がある。
「それと、ガゼルさんも話が有るって」
「そうか……で、その本人は?」
「父様が起きるまで、自国で冒険者のお仕事をしてくると言ってましたわ」
「ああ、そう言えばアイツ休業してたもんな」
かく言う俺も、5日間寝たまま休業でしたけど…。
「どうする? 早速行く?」
さっさと話しに行きたいとは思うが―――その前に。
グー
腹が減った。
「腹減ったわ。飯食ってからにしよう」
「……なんだか力が抜けるわね。あんなにシリアスな戦いしてたのに、目を覚ましたらお腹減ったって…」
「アホか。どんなにシリアスな超人バトルしようが、誰だって普通に腹は減るだろ」
「いや…まあ、そりゃそーだけどさ」
魔神だろうが、竜王だろうが、人間の3大欲求には勝てないでしょう。