13-1 そして彼は2人になった
――― 夢を見ている。
1人の男の子が生まれる夢。
両親と、5つ上の姉に祝福されて生まれた小さな小さな男の子。
彼の生まれた村は、とてもじゃないが豊かではなく、家もどちらかと言えば貧困だった。
お金があって何にも不自由のない事が幸せではないように、貧困である事が不幸とは限らない。
実際、彼は幸せだった。
両親に愛され、姉に愛され、村の皆に愛されて彼は幸せに育った。周りに比べて成長が遅く、いつまで経っても身長が伸びなかったが、そんな些細な事気にならないくらいに。
その幸せな生活に影が落ちたのは彼が6歳になった時だった…。
それは、初めて魔法の基礎を教わった時の話。
基礎の基礎である“魔力で魔法陣を構築する”方法を、村1番の魔法使いである村長から教わった。
だが………彼には出来なかった。
次の日も。その次の日も。次の週も。次の月も。
同い年の誰もが当たり前に出来るそれを、彼は出来なかった。
――― 魔法使いとしての才無し
それが彼に突き付けられた現実。
魔法を使える事は、俺達の世界で言う文字の読み書きくらい持ってて当たり前の能力だ。なのに……彼にはそれが無かった。
いや……例えが悪かった。文字の読み書きならば、教われば身につけられるが、魔法の才は生まれた瞬間に決まってしまった物であり、気付いた時に何をどうしても無駄。その欠陥は、死ぬまで付き合い続けなければならない問題だった。
彼は、ここで初めて自分が“普通”に比べて劣っている事を理解した。
そんな折……彼を更に絶望させる事が起こった。
両親が病にやられて亡くなったのだ。
それからは姉と2人の生活が始まった。
姉は、彼を不自由させないように、居なくなった両親の分まで懸命に働いた。彼も、少しでも助けになればと思ったが………彼はもう1つの事実に気付いてしまう。
魔法の使えない欠陥持ち。そして、彼にはそれを補う体格も、知恵も知識も無い…。
彼は気付いた。気付いてしまった。
自分がただの足手纏いでしかない事に…。
『自分が居なかったら、姉さんはもっと楽に生きられるんじゃないんだろうか?』
そんな思いが生まれる。
それは、姉だけではない。両親の居ない彼に良くしてくれる村の皆も、幼馴染のイリスも、皆が彼を必要としていないと思っていた。
だから、姉が遠くの町に出稼ぎに出ると聞いた時も、止める事無く…ただ微笑んで彼は見送った。
姉が居なくなったら、それこそ自分の存在意義が無くなる事を理解しながら、彼はそれを受け入れた。
姉と離れてからの彼は、ただただ自分が“終わる瞬間”を待っていた。
自分の生きている意味を…価値を見出す事が出来ず、彼は淡々と過ぎる毎日の中でずっと待った。
両親と同じように病で死ぬか、魔物に食われて死ぬのか…。結末は何でも良かった。ただ、早く終わらせてくれる事だけを願った。
そんなある日、彼は声を聞いた。
何処か遠くから聞こえる、彼にだけしか聞こえない声。
その声が、どこにも行き場が無く彷徨っている事を理解した彼は―――その声を自分の中に招き入れた。
『きっと、僕を終わらせに来てくれたんだ……』
自分の望んだ結末を運んで来てくれたんだ…と、“ロイド君”は俺に体を渡した。