2-6 不思議な遺跡の秘密の地下
人が1人ようやく通れる幅の階段。まあ、横も縦も小さいロイド君の体なら、この階段でも結構余裕があるから、あんまり気にならないけど。
30段程下りた所で床に着く。
暗いな。明りがないので、足元が覚束ない。
『お帰りなさい』
パッと周囲が明るくなる。俺が来た事に反応して、天井に付けられていた照明が点いた。
眼前に伸びる廊下の先に、いかにも重要そうなスライド式の扉。さてさて、扉の先にはお宝か、はたまた碌でもない災いか…。開けてみれば分かるか。
にしても…。改めて天井を見る。
明りが点いてくれのは有り難いのだが……あの光を発しているのは何だろうか…? ゴムチューブのような物が3本、俺の頭の上辺りから奥の扉の所まで伸びていて、それが光を放っているのだが……これ、蛍光灯…じゃないよな…? 光り方も長さも既存の蛍光灯とは明らかに違う。少なくても俺のような一般人が目に出来るような物じゃなさそうだ。
あっ!?
………さっき頭で引っかかった事が分かった。
600年前からある遺跡。って事は、この建物は600年前の俺等の世界から来た事になる……けど、それにしては技術力が高過ぎる。そもそも、自動ドアが世の中に出回ってからまだ一世紀経ってねえんじゃねえの?
考えれば考える程この建物は謎過ぎる。
俺達のような異世界人側の建物なのに、知識と実際に目の前に有る事実が噛み合わない。
…こりゃ、冗談抜きで月岡さんに相談した方が良いかも…。
となればもう少し情報が欲しいな、扉の先に何か手掛かりになるような物があると良いんだが。
扉の前に立つと、何かのセンサーが作動して音も無く扉が横にスライドし、俺を扉の先に招き入れる。
「おおぅ、こりゃあ、また……」
扉の先は教室2つ分くらいの大きな部屋。
部屋中の色んな場所からケーブルが伸びて、壁に設置されたモニターらしき物には俺が理解できない数字とアルファベットが羅列されている。モニターらしき物…と表現をボカしたのは、それが本当にモニターと表現していいのか俺自身に判断出来なかったからだ。SF映画やアニメである、空中に映像やら数字を投影するホログラフィモニター…とでも言えばいいのかな? とにかくそのSFチックな物が今俺の目の前に有った。
「剣と魔法のファンタジーな世界に、颯爽とSFの波が……」
光と闇が混じったら最強になるみたいな感じで、ファンタジーとSFが混ざったらいかんだろ…。この流れで銃を乱射するロボとか出てこない事を祈るばかりだ。
さてと、この部屋どうしたもんかなー…? これ、俺には知識不足過ぎて手が出せねえぞ。
……立ち止まっててもしょうがない。とりあえずザッと見てみるか。
1番目に付くのは、部屋の奥にあるバカでかいカプセルみたいな物だが……。うーん、こういうのは、映画だとエイリアンとかが入ってるタイプの奴じゃない…?
絶対開けたらいけません的な? これを開けたら食うか殺るかのサバイバルが始まります的な?
…いや、でも開けなきゃ大丈夫か? 中覗けたりするんじゃね?
恐い物見たさで近付こうとすると、部屋の中央にあったパソコン(らしき物)から、ノイズ混じりの音声が流れる。
『私達の研究所にようこそ』
老いた男の声。
一瞬俺に話しかけているのかと思ったが違った。どうやら、残されていた音声データが、カプセルに近付こうとした事で再生されるようになっていたらしい。
『とは言っても、すでに残ったのは私1人となってしまった、恐らく私も、もう長くない…。だから、このメッセージをいずれ来る“君”に残す。だが、これを君が聞いていると言う事はとても悪い事態だ、何故な―――――…』
ノイズが大きくなり、男の声が聞きとれなくなる。このまま音声が切れるかと思ったが、10秒ほどで治まった。
『――――が、まだこの世界に残っている可能性が高い』
なんだ? なんか今物凄く重要な部分が飛んだ気がする…勘だけど。
『恐らく、これを聞いている君はこの世界とは別の世界の人間。そして道標となる大いなる力を持った者。それは知っている、彼女が教えてくれたからね』
!? 今の、どう言う事だ!? このメッセージを残した人間は、俺が…異世界人で魔神の力を持っている事を知ってた……?
『君が彼女の待っていた、本当の世界の道標なのかどうかは分からない。だが、すでに賽は投げられた。私には、もう祈る事しかできない…』
この男は何を言ってるんだ? もうちょい分かりやすい状況説明を踏まえてメッセージを残して欲しいんだが…。
『そうそう、それと最後になったが。キミへのプレゼントを2つ用意しておいた、全てを君に丸投げするのも大人げないからね。1つはこの台の下に隠してある。もう1つは奥のカプセルの中で眠っている。開け方はカプセルの右の赤いボタンを押してレバーを下げれば良い。出来るだけ良い名前を付けて可愛がって欲しい』
……名前を付けて可愛がる…? ペットでも入ってるのか? エイリアンのペット?
グロテスクな口の付いた触手が「キシャー!」と俺に向かって来る想像をした。うん、ダメだこれ、絶対ダメだこれ、絵面が完全にホラー映画だ。実際にそんな状態になったら泣きながら全力で逃げる自信がある。
『では、君の未来に光が射す事を祈っている』
音が消えて部屋の真ん中にあったPCらしき機器の電源が落ちる。
なんだったんだ今の? あのメッセージを残した男は、俺が…と言うか、異世界人と魔神の力、2つの条件を満たす人間がここに来る事を知っていて、何かをさせようとしていた…? いや、させようとしていたって言うよりは、俺が何かをする事を願っていたって口振りだったな…。
うーん…考えても分からん!
もう少し分かりやすくしといてくれよ、思わせ振りな事だけ言えばコッチが事情を察すると思ったら大間違いだっつーの! 凡人の脳みそ舐めんなっ!!
…キレててもしょうがねえ。とりあえず、ペットのエイリアンは置いといて、台の下のプレゼントとやらを確認しよう。俺の為に用意してくれたみたいだし、俺が貰っても問題ないよな?
PCの置かれた台の下を探ると、金庫っぽい見た目の金属の箱が出て来た。蓋に手をかけると鍵はかかっていなかった。
中に入っていたのは―――
「白いキャベツ…?」
手の平に収まるくらい小さくて白い……何だコレ? パッと見はキャベツっぽく見えるけど、チューリップの花弁っぽくも見えなくもない。そして、手に持ってみると意外と軽い、そして葉っぱにあたる部分が硬い。金属っぽい冷たい硬さではなく、陶器のような脆そうな硬さ。
………で、コレは何に使えば良いの?
この軽さだと、もしかしてキャベツの中は空洞か? 中に何か入ってるとか?
試しに中を覗いてみようと葉を少しめくってみる。すると、ズルリとその葉が1枚剥けて、高い音を立てて床で砕ける。
「え?」
と俺が間抜けな声を出している間に、残りの葉も全部連鎖して剥けて、次々と葉が床に落ちて砕ける。
うふふ、気持ちの良い位の粉々だ。……いや、現実逃避してもしょうがねえ!
折角のプレゼントなのに、無意味に粉々にしてしまった事を声のオッサンに謝ろうと思った時、自分の手の中に残っていた物に気付く。
「指輪?」
装飾の何もないシンプルな指輪。金属的な輝きも無く、土を焼いただけの陶器のような灰色。軽い…あ、でも硬さは結構あるな。
あのキャベツは、この指輪を包んでいた単なる包装紙代わりだったって事で良いのか? なんだよ驚かすなよ! 無駄に謝ろうとしちまったじゃんか!
指輪かー…指に付けといても邪魔だな。クラスシンボルと一緒に紐に通して首から下げとこ。
「で、だ…」
部屋の奥に目をやる。そこには人が余裕で入れそうな大きさのカプセル。
「開けたくねぇ…」
でも、この後の展開を考えてみよう。月岡さんに報告すると、当然あの人は「珍しいモン入ってるかも知らんから開けて来い」って言うだろ? いや、下手したら「ウチが開けに行く!」とか言い出すかもしれん。中身がエイリアンだとすれば、戦闘になるかもしれない…そしたら月岡さんは食われてジ・エンド。もし仮にペットになるタイプの奴だったとしたら、あの人のペットになる訳で……ダメだ、碌な使われ方する気がしねえ…。
色々考えると、俺が1人で開けるのが1番良い気がして来た…。仕方ねえよなあ、コレが1番被害が少なくて済みそうな方法なんだもん…。
はぁ…ロイド君。もしエイリアンに喰われたらゴメン。いや、ゴメンじゃ済まないけどさ。本当に喰われそうになったら、コッチも全力で相手殺しに行くけど。一応、念のために。
「おし、行くぞ…」
右側の赤いボタン、コレか。震える手で押す。
『ロックを解除します』
あとは隣のレバーを下げるだけ…。
さあ、何が出てくんだ? 触手か? ゾンビか? こうなりゃ腹決めてやるしかねえ。
右手をレバーに添えて、左手に【レッドエレメント】で熱量を溜める。襲いかかって来たら、一撃で溶かし殺す!
1度深呼吸。良し!
レバーを下げて、即座にカプセルから距離を取る。
カプセルの上蓋が少しだけ開き、カプセルの中に溜まっていた冷気が部屋の中へと逃げて行く。まるで、怪物が大きな口から白く濁った息を吐き出したみたいだ。
ゆっくり時間をかけて上蓋が開く。が、中身が動く様子がない。
……何だ? ドッキリでしたー的な、何も入ってないオチか?
警戒を解かずにゆっくり近づく。覗き込んだ途端に「ぎゃあああ!!」なんてベタなホラーをやられたら洒落にもならないので、カプセルの一歩手前の所から中の様子を窺う。
しかし、カプセルの中身はあまりにも俺の予想外で……。