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12-36 追い込んで、追い込まれて

 俺がルナに向かって、砂になった地面に足をつけないように低空飛行で突っ込む。


「だぁああああああッ!!!」


 同時にルナも飛び出してくる。

 足場の悪い砂地だと言うのに、速度が落ちている様子が一切無いのが恐ろしい。まあ、あっちは地形のスペシャリストの≪黒≫だしねぇ…。自分で砂地作っておいて、それで戦力ダウンなんて笑い話にしかならん。

 お互いに踏み込んだと思った次の瞬間には、手の届く距離に迫っている。

 光速に片足を突っ込んだ俺達の戦いは、凄まじい速度で意識が加速する事で成り立つ。

 相手の攻撃を見てから避けるなんて余裕はない。攻撃の前兆を筋肉の動きや加重移動で先読みして避けるか受ける。そして即座にカウンターを放ち、今度は相手が受けに回る。

 ルナにはまだ若干パワーにもスピードにも余裕があるように見える。対して俺の方は、すでに【身体能力限界突破】で肉体が引き千切れそうになるギリギリのラインまで能力を上げている。更に【オーバーブースト】で速度を倍増しにして、ロイド君の体に無茶を強いている。そこまでしてようやく何とか打ち合えるレベル。

 魔人になっても、魔神と比べれば能力の開きは笑えるくらい大きい。多分、通常モードの【魔人化(デモナイズ)】じゃ対応出来なかった。瞬発力重視の【反転(リバース)】の状態だからこそ何とかなってる。

 でも―――ギリギリ(しの)げているだけだ。こっから一歩先に行くには、俺も戦い方を考えなければならない!


「ふっ…!」


 空間を切り裂く様なルナの蹴り―――肉体硬化で極限まで磨き上げられた、アダマンタイトなんて比べ物にならない程の強度を持った蹴り。

 その殺人キックが音を切り裂いて迫る。

 今の俺がルナに勝っている部分が1つだけある。それは―――


――― 尻尾の刃で蹴りを受け流す。


 それは、使える体の部位が多い事だ。


「チッ」


 舌打ちしながら空振った足を引こうとする。

 その隙を逃がすな!

 相手の足の引きの動きに合わせてヴァーミリオンを振る。


「ぜぁああああアアアアッ!!!!!」


 容赦なく首を狙いに行く。


「甘い…!」


 左手を首の横に立ててブロック。

 ガキンッと硬い物同士がぶつかる甲高い音が響き、剣を握る手に振動が伝わり少しだけ痺れを感じる。

 信じられねえくらいクッソ硬い…! 腕を落とすとまでは行かなくても、骨くらいまでは食い込んでくれると目算してたんだけどな……!! まあ、どうせ即時回復されるんですけど……。


「ッ―――!」


 受けていたヴァーミリオンを邪魔そうに横に払い除け、半歩の踏み込みから放たれる拳打。

 拳に速度が乗りきる前に、尻尾を伸ばして下から斬り上げる。

 再びギィンッと鋼がぶつかったような不快な音。流石にヴァーミリオンで斬れない物を尻尾剣で斬るのは無理だ。だが、軌道を逸らすにはこれで十分。

 姿勢を低くして拳を避け、突き出すような蹴りをルナの腹に叩き込む。


「……ぐ…!!」


 小さな呻き声と共にルナが吹っ飛ぶ。

 どんなに体硬くしても、衝撃が全部殺される訳じゃない…か。攻撃の衝撃は一応内側まで伝わってるっぽいな? つっても、蹴った俺の足の方が痛いけど…。


「まだだ…!」


 ゾクッとした殺気。一息吐いてる余裕は無い!

 吹っ飛びながらルナが地面の砂に手を滑らせる。途端に、砂から何百と言う数の刃が生えて俺に向かって来る。

 パワーも速度も圧倒的、回避の道は無い。

 だが、分かってる。ルナのこの攻撃は、咄嗟の対応であり、俺の追い打ちを先手を打って封じる為のものだ。

 だったら、こっちは無理矢理にでも攻める以外の選択肢ねえだろ!!

 【火炎装衣】を発動し、原初の火を体に纏う。これで砂の刃は全て無視出来る!

 グッと一瞬の溜めから、自分の体を前に弾き出す。飛び出した次の瞬間には超音速の世界。加速している最中に数え切れない砂の刃が黒い炎の中に消えて行ったが、俺自身には微かな衝撃も伝わって来ないので無視する。

 加速の際に生じた衝撃波が辺りに広がるよりも早く吹っ飛んでいる最中のルナに接近。

 速度に乗ったままヴァーミリオンを振り降ろす。


「シッ!!!」

「…チッ」


 舌打ちする癖にちゃんと反応して片腕が刀の軌道に割って入っている。このまま振り降ろしても腕を奪うどころか、薄皮1枚傷付ける事が出来ないだろう事はさっきの斬り合いで理解した。

 だから―――コイツは囮だ!

 【火炎装衣】を切って黒い炎を辺りに散らしながら、ヴァーミリオンに意識が向いていたルナの足を尻尾で絡め取る。


「なっ!?」

「上がっとけ!!」


 そしてそのまま空に向かって、超人パワーを振り回しているとは思えない程軽い体を放り投げる。

 ルナが地面に触れていると何をしてくるか分からん。出来る限り≪黒≫の効果の発揮されない空中戦こそが、能力差を埋める活路。

 一瞬で上空40mまで打ち上がったルナを追って飛び上がろうとした時―――上から途轍もない圧力が降って来た…!!


「ぃぎッ!!?」


 重力波―――!?

 鉄球のように重くなった首で見上げると、ルナが手の平をコチラに向けていた。

 【浮遊】を維持出来なくなって砂に足をつく。途端に、砂地が重力波を受けて何十倍にもなった俺の体重を支え切れなくなって地面ごと沈み始める。

 しかも、何だ……!? 息が出来ない…!?

 おいっ、うっそだろ!! 冗談にしたって笑えねえぞコレっ!?

 ルナの重力操作は恐らく全て【ブラックエレメント】による直接自然に干渉する力。俺の【アンチエレメント】ならばその効果を無効に出来る―――筈だった。…だったが、相手の操作能力が高過ぎで無効化しきれない分のエネルギーを俺が食らっている。

 多分【アンチエレメント】が無い状態でこの重力波を受けたら、一瞬で体が自重を支えきれずにペシャンコにされていた。

 【アンチエレメント】を過信していた。そして魔神の力を見縊(みくび)っていた。

 重力が撃ち消し切れないって展開は考えなかった訳じゃないが、こっちも【魔人化(デモナイズ)】してるから対抗出来ると簡単に考えていた…。

 馬鹿か俺は…! 魔神の力は自分で使って良く知ってるだろうがっ!! 生半可な能力で対応出来る程、安い相手じゃねえ!!

 死に物狂いで戦わねえと、首を持ってかれるのは俺の方だっつうの!


 ルナの攻撃は重力波で俺の足を止めただけでは終わらない。

 足元の砂が鎖のように絡まり砂の中に俺を引き摺りこもうとする。上から降ってくる重力波が、俺を埋めようと押さえつけて来る。

 くっそ…! 人を地面に引っ張り込もうとするのが好きな奴だなチキショウめッ!?


 【火炎装衣】


 俺の体から噴き出した黒い炎が、即座に纏わり付いていた砂を燃やす。

 これで足元の拘束が抜けた。問題はここから―――重力なんて、どう回避すれば良い……あれ?

 【浮遊】でいつも通りに体を空中に持ち上げる事が出来た。

 これは……?

 上を見上げる。ルナが落下運動に入りながらも、手の平は変わらず俺に向けている。つまり、重力波が止まった訳ではない。今も体を押し潰さんとする力が絶えず降り注いでいる。

 しかし、重力の負荷が俺の体まで届いていない?


 ………これ、もしかして?


 ああ、なんて事だ。

 俺は、知らなかった。……いや、見誤っていた。


 “原初の火”の力を―――!!


 触れた物全てを燃やし尽くす究極の炎。

 今まで、その力は物体に対して―――あくまで物理的に触れる事が出来る物に対してのみ有効なのだと思っていた。

 だけどもしかして、この黒い炎は…


――― 文字通り“全て”を焼く事が出来るんじゃないのか?


 例えば重力。例えば熱。例えば雷。例えば冷気。

 人の触れる事の出来ないエネルギーに分類される物でさえ、この炎ならば焼き消す事が出来る…のか!?

 あれ? だとしたらこの力……無敵じゃね? っつか、この卑怯なまでの防御力があったら【アンチエレメント】ですら要らなくね? 【火炎装衣】使ってる間は、もう誰もダメージ与える事出来なくね?


「はっはっは、こりゃ笑えるわ!」


 背中のスラスターのような部位から黒い炎を噴き出して上空のルナに向かって飛び上がる。

 重力で押さえていた筈の俺が、重力波を黒い炎で焼き消しながら飛び上がって来たものだから、流石のルナも若干驚く。しかしその驚きは一瞬で終わる。次の瞬間には気持ちを立て直し、【浮遊】で自身の落下を止めて俺から離れる3次元軌道をとる。

 だが、逃がさん!!

 大地を操る≪黒≫の魔神は地上戦で無類の強さを誇るが、反面空中戦は恐らく魔神の中で最弱だ。

 ルナを追い込む千載一遇のチャンス!


「…チッ。まったく、その黒い炎はなんなんだ…!」

「地獄までの道を照らす灯籠(とうろう)ってところだ」


 ひび割れた空で展開される超高速の鬼ごっこ。

 俺達が飛びまわるだけで辺りに衝撃波が巻き起こり、地面が揺れる。

 30秒程それが続いた頃、ルナが焦った様子で俺に振り返る。

 空中ではまともな地形攻撃はできない。重力は原初の火で届かない。近接しようにも原初の火を纏う俺に触れればその瞬間にジ・エンド。ルナは完全に手詰まっている。

 ここから先の行動の予想は容易い。

 魔神としての能力のほとんどが潰されたルナが取れる行動は1つだけ。


「いいだろう! なれば、その炎ごと潰してみせよう!!」


 クルッと突然反転するや否や、胸の前で手を重ねるような動作。

 両手の間の小さな隙間に黒い黒い―――漆黒の闇が生まれる。

 

「光栄に思え、貴様がこれから目にするのは―――≪(わたし)≫の世界だ」


 小さな漆黒の闇を、両手を合わせて握り潰す。


「【事象結界】」



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