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12-33 【反転】の力

 なんだろう…? ガゼルが分身したり、黒い光を放出したりしてるんだが…。そしてエメルがその光の直撃を受けて消滅したっぽいんだが…。

 え? 何? ガゼルの奴、あんな凶悪な感じに進化してんの? ヤバくない?

 何をどうしたらこんな短時間であんな化物になんの? いや、まあ、俺も短期間で化物染みて強くなるけど、それは魔神を宿して居ればこそだ。

 竜人(ドラゴノイド)の持って生まれた能力(スペック)がやたら高いのは知っている。だが、前のガゼルは能力値が頭打ちになるギリギリの所まで強くなっていた。だと言うのに、そこから更に限界突破して来るとか、どーゆー事なの?

 

「おーい後輩、こっちは終わったぞー?」


 ガゼルの分身体が消えて行くのを横目で見ながら、若干微妙な気分になる。

 あんな怪物が味方に居てくれるのは有り難いし心強い……のだが、「何かの間違いでアイツと戦う事になったら…」とか考えるとねぇ……。


「コッチもすぐ終わらすから休んどけー」

「周りがこんな状況で休めるかボケー。俺もお前ん(とこ)の女子組と一緒に救助してるから危なくなったら呼べよー」

「気が向いたらなー」

「死ぬ前に気が向けよー」

「そもそも死なねえから問題ねえー」


 さて、気合い入れ直してコッチも再開するかね?

 ルナとの睨み合いに意識を戻す。

 原初の火を見せてからルナが攻めて来ない。まあ、攻撃にも防御にも最強クラスにチートな力だからな。あんな対処法が存在しない攻撃を見せられれば、誰だって腰が引ける。冷静に状況と敵の能力を分析するタイプのルナならば尚の事だ。

 だが、このままいつまでも睨み合いをしている訳にも行かない。

 救助組のカグ達にはガゼルが付いてくれたし、もうこっちで多少暴れても大丈夫だろう。……って、あれ? もしかして、ガゼルの奴がそっちに回ったのって、俺が自由に戦えるように気を使ったからか……? いや、ガゼルの場合、ただ女子の近くに居たかっただけと言う可能性もあるし…まあ、深く考えないでおこう。


「あっちの決着ついたみたいだぜ?」

「そのようだな」


 焦っている様子も、怯えた様子もないな…。≪無色≫の洗脳下にあるのは間違いないが、だからと言って他の連中に仲間意識が有る訳じゃないのか?

 まあ、どうでも良い事だ。

 今俺にとっての問題は、ルナの洗脳を解く方法が分からない一点に尽きる。……こんな事なら、精霊王に解き方訊いておけば良かった…。精霊王に会う前にカグが目を覚ましたから訊きそびれたな…。

 ………まあ、1つだけ、かなり無茶苦茶な方法だが、有ると言えば有る……。とは言っても、上手く行く保証もない一か八かの方法だが…。

 ルナの命を奪う覚悟をしたっつっても、奪わずに終わらせられるならそれに越した事はない。

 とにかく、やるだけやってみる。それでダメなら―――殺してでも止める。

 刀の姿になったヴァーミリオンを握る手に力を込める。


 だが、その為には……ルナに魔神になって貰う必要がある。


 ルナの体は、現状でも魔神に視覚に始まり内臓まで色んな場所の身体機能を奪われてボロボロだ。次に魔神になれば、命に関わるかもしれない…。

 だが、それでも、ここはルナの生命力と耐久力に賭けるしかない…!


「行くぞっ!」


 睨み合いの時間を終わらせて踏み込む。

 ルナを魔神にさせるには―――追い込んで行く!

 【身体能力限界突破】の異常とも思えるパワーとスピードで距離を詰める。だが、【黒ノ刻印】を展開しているルナに反応出来ないってほどではない。

 実際、凄まじい反応速度で俺の動きを追ってハルバードが動いている。このまま突っ込めば、タイミングを合わせられてカウンターで返り討ちにあう。

 そんな事は分かってる。分かっているが足は止めない。

 攻撃のタイミングを取られていると言うのなら―――もう1歩先を行く!


「【オーバーブースト】!!」

「…なっ!?」


 体が光になったような加速。

 肉体の重さや、肉の器の限界を無視した――光速に片足を突っ込んだ速度。

 加速―――更に加速。

 自分の周囲でどういう現象が起こっているのか理解出来ないが、周囲の景色が逆行する…!?

 本来の加速であれば、景色は後ろに流れる。だと言うのに、俺が前に進んでいるのを追い越そうとするかのように景色が前に流れる(・・・・・)


 時間の概念を置き去りにした速度の領域―――…


 周囲の時間が停止したような感覚。この時間の流れの中で動けるのは、俺1人だ!

 人形のように棒立ちになったルナに向かって剣を振る。

 一刀。左肩から右脇腹に抜ける袈裟切り。かなり深く斬ったのに血が出ないし、ルナが痛みで反応する事もない。

 もう一刀―――と剣を振りに入ったところで限界。

 加速していた肉体と意識がブツッとスイッチを切った様に一気に減速する。

 目の前でルナが動きだし、俺の斬った傷が開いて血飛沫を噴いた。


「……ッ痛!? なんだ、今のは!?」


 傷口を押さえながら慌てて俺から距離をとるルナ。追い打ち―――と行きたいところだが、体が動かねえ…!

 全身の筋肉がビキビキと悲鳴を上げている。血管が破裂しそうな程脈打っているのが分かる。

 ヤバい…【オーバーブースト】は無茶苦茶強力だけど、反動がマジで洒落にならん…!

 ほんの1秒全開で加速しただけでこの(ざま)かよ…!

 【オーバーブースト】は【バーニングブラッド】の置き替えで手に入れたスキル。パンドラの加速能力が羨ましかったから入れてみたけど…。“上限無し”の加速能力って、考えてた以上にヤバいな…。ちゃんと自分で制限かけないと体がぶっ壊れるまで加速し続けちまう。

 ……まあ、こんな事もあろうかと【回帰】を【ダメージマネジメント】に置き換えてありますけどね!

 肉体にかかっていた負担が消える。だが、回復した訳ではない。あくまで、肉体のダメージを“ツケ”にしただけだ。【反転(リバース)】を解いたら、その分の支払いをしなければならない。

 ……チッ、いかんな。ロイド君の体が、阿久津良太に寄っているこの姿を嫌って、元に戻ろうとしてる。

 もう暫くは我慢できそうだけど、ちょっと巻きで終わらせねえとまずいな…!

 

「今の力……!」


 歯噛みしながらルナが睨んでくる。

 アイツは即時回復するようなスキルは手持ちにないらしく、俺がバッサリ斬ってやった傷から止め処なく血が流れ続けている。


「分かったろ? 驕ってるのがどっちなのか」


 余裕ぶったセリフを言ってみたけど、内心はそこまで余裕ねえんだよチキショウ! 早い所終わらせねえとロイド君の体にバンバン負担が積み上がってくんだっちゅうの。

 ルナの瞳の奥に、少しだけ迷いが見えた。けど、戦意と殺気が全然落ちてねえ。あくまで戦うって事かよ…。心が折れたら、洗脳の方にもなんか影響あるかも…とか思ってみたけど無駄だったか? やっぱ、アッチの方法で行くしかねえな。


 ドンッと目の前の地面が噴き上がり、岩石や土や泥―――そして見た事もないような鉱石の入り混じった弾丸が襲いかかる。


「ッ!!」


 【火炎装衣】の発動が間に合わない!? けど、原初の火を撒くくらいの余裕はある!

 黒い炎に触れた地面から撃ち出された弾丸が一瞬にして灰も残さず燃え尽きる。だが、それはルナも織り込み済み。

 ルナの狙いは―――瞬間視界を奪い、原初の火を撒いた後の隙…!!

 だから、気付かなかった。

 弾幕のカーテンに紛れてルナが踏み込んでくる事に―――。

 原初の火を正攻法で抜けないと判断して、ハズして来やがった!? なっめんなっつうの!

 【オーバーブースト】で肉体に負担のかからないギリギリのラインまで加速する。


「終わりだ≪赤≫!」


 振り抜かれる≪黒≫の神器。


「終わんねえっつうの!」


 それに向かって―――右手を伸ばす! ハルバードに向かって素手で向かうなんて、腕を落としてくれと言っているようなもの。ルナもそう判断したのか振りを止めない。

 だが残念! 俺の手はちょっとばかり危険だぜ!?

 右手に黒い炎を纏い、神器(ノワール)を掴む。


 ジュッと小さな音を立てて―――≪黒≫の神器は燃え砕けた。



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