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12-31 竜人vsアサシン

 アークとルナの戦いは、緩やかに睨み合いに移り変わっていった。

 アークの能力を目の当たりにしたルナは攻めあぐねているし、アークはアークは周囲で救出作業をしている亜人達が去るのを待って積極的に攻めるつもりがないし、お互いに手が出ずに睨み合う。

 それと入れ替わるように、ガゼルとエメルの戦いは静かに始まった。

 エメルは、異形の竜人と化したガゼルを警戒し離れた場所から剣を振る。すると、振る度に炎や氷や雷が剣先から放たれて、無防備に立つガゼルに襲いかかる。

 特に防御するような事も無く、爆発や凍結を体で受ける。

 だが、ビクともしない。

 体の表面に帯びている淡い緑色の光―――竜の波動(ドルオーラ)が、全ての攻撃シャットアウトして1ミリもダメージが通っていない。

 竜の波動―――生物の頂点であるドラゴンが、長い時間をかけて力を研鑚し続けて手に入れる防御能力の極致。物理、魔法に始まり、自然効果ですらほとんどノーダメージにしてしまう究極防御。

 だが、この力を得るに至ったドラゴンは歴史上たった2体しか居ない。


「無駄だから止めろ…って言って、止まるくらいなら始めからやってないか?」


 独り言のように呟きながら、雨あられと放たれる様々な属性攻撃に向かってフッと息を吐く。

 溜息のような小さな息、だと言うのに―――暴風が吹き荒れた。

 ジェットエンジンが始動した時のような凶悪な風力。

 周囲に広がる類の風ではなく、まっすぐに吹き抜ける大砲のような風が迫る攻撃を吹き散らす。


「そんな威力の攻撃じゃ100年続けたって傷1つ付けられないぜ?」

「……………そう……」


 無感情な返し。だが、少しだけイラついたようなニュアンスが含まれていたのを見逃さない。


「女と戦うのは趣味じゃない。このまま退いて貰えないか? ……とか、普段なら言うんだがね? お嬢ちゃんは逃がすと何するか分かったもんじゃない。悪いが、ここで確実に首を落とさせて貰うよ」


 自分の片腕とも言うべき白い槍をクルクルと回してから構える。


「………!」

 

 無言のままエメルが剣を構え直し―――真っ黒な魔素体の体が、瞬間歪んで消える。

 【隠形(おんぎょう)】。

 姿と気配を、相手の五感や感知スキルから消失させるエメルのアサシンとして研ぎ澄まされたスキル。

 発動すれば、誰にも認識出来ない―――筈だった。

 ガゼルの額の3つ目の瞳がギョロッと動いて、見えない筈の敵を追う。


「俺相手じゃ無駄だぞ?」


 背後から迫る誰にも見えない…知覚できない斬撃。

 ガゼルの背の翼の一枚。機械仕掛けの鋼の翼の片翼が、意思も何も無く、勝手に反応してエメルの見えない攻撃を受け止める。


「……!」

「声は聞こえねえが、今お嬢ちゃんが何を言ったのかは分かるぜ? 今のセリフは『どうして見えるの?』だな」


 鋼の翼で攻撃を受けながら、ゆっくり振り返る。


「どんなに上手に隠れても、女の姿を見失う程俺の目は腐ってねえぜ?」


 言葉の通り、ガゼルの目はエメルを完全に捕らえていた。

 3つ目の瞳に宿る魔眼【天上眼(トルゥーゲイズ)】。視界に有る全てを正しく“視る”力。何人(なんぴと)の虚偽を許さず、何人にも騙されない心眼。

 隠された物。偽られた物。全てを暴きだす究極の探知の瞳。


 姿見えず、その声も聞こえぬエメルに後ろ回し蹴りをクリティカルヒットさせる。

 ドゴンッと見えない体が吹き飛び、木々を薙ぎ倒して地面を転がる。

 ダメージを受けたからか、それとも集中が解けたからか、消えていたエメルの体が現れる。


「………なんなの………この力………」


 蹴り一発で相当なダメージを受けたようで、魔素体のデフォルトスキルである【自己再生】が発動して周囲の魔素を掻き集めて肉体を即座に回復しにかかる。


「修行の成果」


 ガゼルは前回のアルフェイルの戦いで、エメルの仲間であるガランジャとの戦いに敗れた。アークが途中で乱入しなければ命を落としていた。

 そして、敗北を糧にガゼルは更なる力を求めた。

 しかし時間が無い。いつ次の戦いが始まるともしれない状況で、ユックリと時間をかけて力を磨く訳にはいかない。

 そこでガゼルが目を付けたのが―――竜だ。

 竜とは、神になり損ねた生物。または、神になりかけている生物の姿と言われている。故に、竜とは例外無く絶対強者。だからこそ、その竜の力を丸ごと奪う事を考えた。

 竜人である自分ならば、それが可能である…と。

 だから、世界中に生きる名のあるドラゴンを探し、倒してその力を文字通り食らった。


――― 力の源たる、竜の心臓を。


 雪降る山奥で、枯れ果てた砂漠で、切り立った谷の下で、深い深い海の中で。

 ほとんど睡眠をとる事無く戦い続けた。

 ガゼルの食らった竜の数は38体。その中には、四竜と呼ばれたうちの2体…幻竜サマルフェス、天竜ゴルドニアスも含まれていた。

 その力の全てを我が物としたガゼルは、竜の力を超越した―――竜王となった。


「…………この力………頭首の邪魔になる……可能性…」


 エメルがガゼルの危険性を改めて感じて戦意が上がる。

 主にとっての脅威である可能性が少しでもあるのであれば、排除する以外の選択肢は彼女には無い。

 この時点で逃げる選択肢は捨てた。

 ≪赤≫はともかく、目の前の異形の竜人は見過ごせない。


「………ここで……排除…する…」

「出来るものならご自由に」


 ガゼルが、欠片の警戒心も見せずに一歩踏み出す。

 それを受けて、エメルが足を退く。怯えた訳ではない、距離を取ったのだ。そして、【隠形】を発動。周囲の知覚からエメルの存在が消失する。

 だが、ガゼルの【天上眼】からは逃げられない。


「見えてるぜ……ん?」


 ガゼルの目はエメルの姿を捉えていた。

 右側から大きく回り込むように動いているのを3つ目の瞳が追っている。しかし、不可解な事が1つある。


 エメルの姿が複数見える。

 

 右側から回り込むエメル。跳躍して上から襲いかかるエメル。背後をとりに走るエメル。そして、その場に留まるエメル。

 全部で4つの姿が見える。

 ガゼルは慌てず、冷静に目の前の状況を分析する。

 【天上眼】で4つの姿が見えている以上、その全てが本物だ。気配の乗った残像などではない。

 体を構成する魔素を4つに分けたのではなく、自身の核である魔晶石自体をコピーして“複数の自分”を用意した。

 恐ろしいのは、その手に持つ2本の神器の剣すらもコピーされている事実。

 単純に考えても相手の戦力が4倍になった事になる。

 こんな簡単に戦力を大幅に上げてみせる途轍もないスペック。ガランジャやエスぺリアも相当な強さだったが、核としている魔晶石の大きさからして別格。


「相手にとって不足無し!」


 強者との戦いは望むところ。何故なら―――その為に力を得たのだから!


 上空から迫るエメルを槍で刺し貫き、タイミングを合わせて来た右側のエメルを片手で首を掴み、背後に回り込もうとしている3人目に投げて諸共吹き飛ばす。

 だが、ここまでの展開はエメルにも予想済み。

 残っていた4人目―――動かずに待っていた4人目が神器を振り被る。

 北の大地で、大地を一閃してアークを驚かせた一撃。あの一撃を更に力を溜めて放たれる一撃。

 ただただ攻撃範囲内の全てを破砕する事に特化した神器の攻撃。究極の防御を誇る竜の波動を持つガゼルであろうとも、直撃を受ければただでは済まない。


 その一撃が―――放たれた。



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