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12-30 エレメント殺し

 アークとルナ、ガゼルとエメルの戦いが始まった―――。

 全員が一騎当千…いや、当万の怪物。ぶつかり合うたびに周囲に振動と轟音が響き、ビリビリとした張り詰めた空気だけが後に残る。

 そんな戦いの空気に当てられながら、かぐや、パンドラ、フィリス、白雪の4人は急ぎ足で≪黒≫の力で死にかけている亜人達を救出して回っていた。

 逃げずに残っていた亜人達と協力して動いているが、未だ助け出せたのはたった数人。それ以外の≪黒≫の攻撃に曝された亜人は例外無く死んでいた。

 パンドラは無表情に事実だけを受け止めて作業を淡々と進めているが、他の3名は冷静ではいられなかった。

 フィリスは長い時間を共にしたエルフを殺されて、怒りと悲しみで頭の中がグチャグチャでまともに思考する事が出来ない。

 白雪は周囲に渦巻く色んな感情を拾ってしまい、自身の心から湧き上がる悲しみも相まって今にも目を回しそうになっている。

 1番混乱しているのはかぐやだ。

 ≪白≫の魔神を宿し、戦いの場に出れば超人的な能力を発揮する……と言っても、その根っ子はただの高校生の女の子。アークの様に時間をかけて戦いを経験し、死に触れて来た訳ではない。

 ただの高校生が見るには、ここは地獄絵図過ぎた。無残で残酷な死がそこら中に転がる。スプラッタ映画が可愛く思える惨状。

 胃の中の物を吐きださないように努める事で精一杯。

 それに加え、アークの……良太の事が心配で堪らない。良太が強い事は知っている。だが、同時に今戦っている≪黒≫の継承者が怪物級に強い事もボンヤリと記憶している。

 2人がぶつかれば、ただで済む訳が無い。

 不安だった。途轍もなく。

 パンドラ達も同じ気持ちなのだろう…と思っていたのだが、カグヤ以外に心配そうな顔をしている人間は居ない。だからこそ、訊かずにはいられなかった。


「ね、ねえ…。リョータ、大丈夫かな?」


 不安そうにかぐやが訊くと、パンドラはいつも通りに無感情に淡々と答えた。


「問題ありません。マスターに勝てる存在はすでに世界には居ないと判断します」

「リョータが強いのは分かってるけどさ……」


 更に不安そうに言うと、フィリスがルナへの怒りを吐き出すように「ふんっ」鼻を鳴らして答える。


「貴様はアーク様の何も分かってない! あの方が負ける訳がないだろう!」


 フィリスの言葉に、白雪が周囲から伝わる感情を頭を振って遠ざけながら続ける。


「父様は大丈夫ですわ。なんと言っても、(わたくし)の父様ですもの」


 皆、無条件にアークの勝利を信じている。その姿にかぐやは少し困惑する。

 かぐやも良太を信じる気持ちは嘘じゃない。だが、パンドラ達のようになんの不安も感じない程信じきる事は出来ない。

 幼馴染として、パンドラ達の知らない異世界での阿久津良太の姿をかぐやは知っている。だが、パンドラ達はかぐやの知らないこちらの世界での良太の…アークの姿を知っている。そのかぐやの知らない時間で、パンドラ達は様々な戦いの果てに無条件に信頼するに至ったのだろう。

 ……その事実に、少しの嫉妬と悔しさを感じる。


「皆…リョータの事信じてるんですね?」

「当たり前です」「当たり前だ!」「当たり前ですの!」



*  *  *



 剣が(はし)る。

 迫るハルバードの刃を、刀の刃先で軽く弾いて横に逸らす。


「―――ふっ!」


 ハルバードの軌道が逸れてルナの体勢が崩れる。

 攻撃のチャンス!

 一歩踏み込んで、相手の間合いを外して剣の間合いに捉える。刀を両手持ちに切り替えて、踏み込みの速度をパワーを乗せて―――振る。

 普通なら致命打になる一撃。だが、相手はルナ。キング級の冒険者であり、≪黒≫の魔神の継承者。そんな“普通なら”なんて仮定意味が無い。

 無造作に突き出されたルナの左手―――黒く光る刻印の浮かぶ左手が、飛んで来たボールを掴むように刀をガッシと掴んで止めた。


「弱い斬撃だ」


 そのまま力任せに振り回されて―――刀ごとぶん投げられた。

 クソ(かって)ぇ!! その上信じられねえパワー……マジでゴリラじゃねえのかコイツは!? いや、ゴリラじゃねえよ魔神だよ。

 吹っ飛びながら空中で体勢を整えて無事着地。


「落ち着く暇があるのか?」


 と思ったら追撃が来た。

 周囲の地面が轟音を立てて立ち上がり(・・・・・)、俺の体をプレスしようと襲いかかる。

 逃げる余裕は無い。

 転移はアルフェイルでは封じられている。回避は無理。とか冷静に考えてる間に盛り上がった大地が迫る。


「さらばだ≪赤≫、潰れ死ね」


 プレス機が閉じる―――と、同時に………黒い炎が溢れだす。

 

退()け」


 俺を押し潰そうとしていた岩盤が、黒い炎に呑まれると同時に塵1つ残さずに消え失せる。

 原初の火。生物、無機物、どんな防御を(ほどこ)してあろうとも、その全てを無視して消し去る、“燃焼”の一点だけを突詰めた究極の火。


「…なんだ、その黒い火は?」

「企業秘密」


 ≪赤≫の知識の中にも原初の火に関する情報はほとんど無い。精々冥府を焼いた不思議な火だって事くらい。恐らく、魔神とは関わりの無い場所で発生して、今まで存在し続けた物だからだろう。

 だから、≪黒≫にもコイツに関する知識は無い。だが、一目見てヤバい物だって事だけは理解出来ただろう。

 右手で燃えていた原初の火を握り潰して消す。


「話すつもりが無いのならいい。そのまま沈め」


 見えない重力と言う名の圧力が上から降りかかる。

 【ブラックエレメント】、≪黒≫の継承者のデフォルトスキル1つ。重力操作の能力。

 もう超強力ですよね? 重力なんて強スキルの代名詞ですもの。


――― 俺には効かないけど


 上からの圧力をサラッと受け流して走り出し、距離を詰めにかかる。


「それ、効かねえから」

「…チッ」


 重力が効かない事に焦ったのが分かった。

 まあ、確かに重力は炎熱やらと違い、分かりやすい耐性のような防御能力が存在しない。多分、今までのルナの経験……いや、もしかしたら蓄積された≪黒≫の経験の中でも重力の効かない相手とはエンカウントした事がなかったんじゃないだろうか?

 であれば、20Gくらいの加重を物ともせずに動く俺は恐怖の対象なのだろう。


「貴様……いったいどういう仕掛けだ…!?」

「言ってんだろ? 企業秘密」


 とか恰好付けたけど、実際はただスキルで無効化してるだけだ。

 通常時に持っている【レッドエレメント】を【反転(リバース)】した時には別のスキルに置き替えている。それが


―――【アンチエレメント】


 平たく言えば、“自然に直接干渉する力を無効にする”スキルだ。

 ≪赤≫で言えば【レッドエレメント】の熱。

 ≪青≫で言えば【ブルーエレメント】の冷気。

 ≪白≫で言えば【ホワイトエレメント】の雷。

 そして≪黒≫の【ブラックエレメント】の重力。

 それらの自然の力(エレメント)を無効にする。あ、ついでにフィリスが持ってるユグドラシルの枝の力も無効に出来るな。

 まあ、つってもこれはそこまで便利な能力じゃない。そもそも自然に直接干渉出来る能力を持ってる奴自体が希少過ぎるからだ。

 魔力を媒介に発動する魔法も、魔素を消費して行使される【魔炎】のようなスキルも無効には出来ない。あくまで、自然に直接干渉する物だけだ。ルナの地形操作は地面の中の魔素を操作して行っているスキルだから、当然無効に出来ない。

 だから、【アンチエレメント】はほぼ対魔神用と言ってしまっていい。だが、だからこそ威力は絶大。俺だって熱を封じられたらと考えたら変な汗が出てくる。

 そしてその変な汗をルナの奴は絶賛流し中な訳です。


「ふざけた事を…!」


 地面が跳ね上がり、鉄より硬くされた石礫(いしつぶて)が放たれる。あ、やば、数がむっさ多い。避けれる気がしない。

 まあ、一々避ける必要もないけど。


 【火炎装衣】。ヴァーミリオンに付与されている防御スキル。【炎熱吸収】で溜め込まれた熱量を消費して発動される炎熱を防御膜に変える異能。このスキルで纏う炎は、俺の持つ発火能力に依存する。

 つまり―――今俺がこのスキルを使用すると、全身に原初の火を纏う事になる。


「届きゃしねえよ」


 石礫が俺の体を包む黒い炎に触れる。そして、1秒とかからずに消滅する。


「っ…!」

「さあ、お次はどうするんだ?」


 重力は【アンチエレメント】で無効に出来る。

 地形操作は【火炎装衣】で原初の火を纏えば封殺。

 これでルナに残った選択肢は近接戦だけ。だが、【反転】状態のスキル構成は近接戦能力重視で固めてある。

 これが、対魔神用と言った意味だ。

 本当は水野との戦い用にそう言うスキル構成にしたんだが……まあ、良いさ。

 


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