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12-28 赤vs黒

「おいルナ、殴り合いする前に訊いとくが、お前は正気か?」

「黙りなさい≪赤≫の継承者」


 お、一応普通に話せるんか? そんな事実に驚いて、思わずガゼルを顔を見合わせてしまう。


「5つめの魔神に会ったのか?」

「黙れと言った…! 全ては頭首の御心のままに」


 頭首…ね。


「アーク、あの反応はどうよ?」

「完全にアウトですな。とりあえず()(ぱた)いたら治るかもしれんからやってみるわ」


 そんな簡単に正気に戻るようなら、カグの時もそんな苦労要らなかったけどな…。まあ、それで治ったらラッキーくらいの気持ちで居よう。


「ぉっし、それじゃ其処なエルフのお嬢ちゃん? 君の相手は俺がするんでヨロシク」

「…………その呼び方……やめて。……私は……エメル……頭首に…仕える者…」

「エメルちゃん、ね? 男に尽くす女は良い女だが、本当の良い女ってのは、馬鹿やった男のケツを叩ける女の事だぜ?」

「どうでも……いい……」


 ガゼルの軽口を黙らせるようにエメルが斬りかかる。

 人間離れした反応で、ガゼルが槍で迎撃する―――相変わらず良い動きするなぁ…流石竜人。

 突っ込んで来た小さな体を、狙い(たが)わず白い槍が貫通する。

 呆気ない終わり―――ではない! 槍が貫通したエメルの姿が幻のように消えた。

 残像!?

 何この子!? 忍者なの?

 次の瞬間には、小さな体がガゼルの背後で剣を振り被っていた。

 ヤバいッ―――と咄嗟に炎でフォローを入れようとしたが、それよりも早く…


「甘い…ぜ!」


 背後に視線を向ける事無く、ガゼルが無駄に長い足を突き出す。

 剣を振りに入っていたエメルは、その正拳突きのような真っ直ぐに迫る蹴りを避ける余裕はなく、カウンターの形で鳩尾にブーツの底を食らって吹っ飛んだ。


「俺の後ろを取りたいなら、もうちょっとバストとヒップにボリューム付けてからにしなよ、お嬢ちゃん?」


 普段女第一のフェミニストのくせに、敵と判断した瞬間攻撃に容赦がねえ…。

 蹴りをクリティカルヒットで食らったエメルだったが、吹っ飛んだ先でムクリと起き上がってなんでもないように剣を構え直す。

 効いてない…訳ではない。内臓がダメージを受けた影響で口からは血が溢れているし、足が震えている。だというのに、表情はまったく動いていない。苦しいとか痛いとか、そういう気配をまったく外に出さない。


「………」


 そしてまた無言のままガゼルに突っ込んで行く。

 ガゼルの方も、相手が女の子だろうが、手負いだろうが手加減するつもりは一切無いらしく、槍を構え直して全力で潰しに行っている。

 …っと、呑気に横の戦い気にしてる場合じゃねえや。

 目の前に居る“敵”に意識を固定する。


「死ぬ準備は出来たか? ≪赤≫よ」

「出来てねえ、って言ったらいつまでも待ってくれんの?」

「ノーだ」


 途端に、ズンッと地面が沈む程体が重くなる。

 ≪黒≫のエレメント能力―――重力操作か!?

 あ、ヤバい…! 立ってるだけでもギリギリだ。剣なんて振れねえぞ…!

 俺の動きを封じても、油断や余裕を見せる事無く全力で踏み込んで来て、一気に俺の首を落とそうと狙って来る。

 もうちょっと油断してもいいんでない? と心の中で愚痴りながら、突っ込んでくるルナの目の前に【魔素形成】で壁を作る。

 突然現れた遮蔽物に普通なら足を止める。視界を遮られれば当然次の行動も遅くなる。

 だが、相手は≪黒≫の魔神の継承者。恐らく足を止める事無く魔素の壁を蹴り砕いて突っ込んでくる。視界を封じた所で元々ルナは目が使い物にならなくて、いくつか感知スキルでそれを補ってるから意味は無い。

 では何の為に魔素の壁を作ったのか?


 壁を形作る魔素を一気に燃焼させて起爆させる為です。


 ルナが蹴破ろうとしていた黒い壁が2000度近い熱量をばら撒いて爆発し、その凄まじい衝撃でルナが吹っ飛ぶ。


「ぐぅ…!?」


 ついでに重力で縛られて居た俺も吹っ飛ぶ。


「へぎゃぶっ!」


 おっし、若干力技だけど抜けてやったぜ!

 素早く立ち直り、同じく吹っ飛んだ姿勢から流れる様に立ち上がったルナに向かってヴァーミリオンを振る。【レッドペイン】を発動、剣の中に内包されてた熱量を消費して、斬撃の威力と射程を拡張。

 8m先のルナの体目掛けて、剣線をなぞる赤いラインが奔る。

 俺の攻撃を読んで即座に反応し、ノワールでそれを受ける。


「フッ―――ん!!」


 ギィンッとハルバードを縦に振って斬撃を上に受け流す。

 巧い―――! ルナが強い事は知っていたが、今まで超火力攻撃ばかりに目が行って、こう言う小さな技術は見て無かったな…!

 撃ち出されるような速度の踏み込み。

――― 速ぇ!?

 ルナが足を踏み出すたびに、地面が跳ね上がる。

 なるほど…! 地形操作で、足を踏み出す時に地面を押し上げる事で加速させてんのか…! 普通なら気付かないような小技を使いやがる。


「―――ぉおおおおおお!!!」


 吼え猛るような声を出しながらハルバードを振るう。

 ……正直言う。すげぇ怖い。

 ぶっちゃけて言えば、ルナは俺にとって強さの象徴のような存在だった。同じ魔神の継承者であるが、俺よりもずっと長い時間この力と付き合って来たルナ。ソグラスで初めて会った時に見せ付けられた圧倒的な力。

 まるで「継承者はかくあるべし」と叩きつけられたような気分だった。

 強く凛とした、人間の善たる存在。

 そんなルナと剣を交わらせるのは、恐ろしく、そして何より…辛い。だが、俺はルナと約束した。俺達は互いが抑止力であり、どちらかが人に害為す者となるのなら、その時はもう1人が止める。

 その約束を果たすのは―――今だ!

 だから、迷う事無くハルバードを受けて斬って返す。


「むっ!」「ぉらああッ!!!」


 2度、3度、斬る。受ける。斬って避ける。

 終わらない攻撃の応酬。

 更に斬る。斬っては避けて、受けては斬り返す。

 お互いまともなダメージが無いまま、何度も何度も神器(オーバーエンド)のぶつかり合う甲高い音と、超パワーのぶつかり合いの余波が辺りに飛び散る。

 パワーと防御力はルナが上。だが、体格差と武器のリーチで小回りが利く分、速度と手数は俺が上。

 武器での殴り合いでは致命打が入らない。お互いに、得意な炎と地形ダメージを叩き込むタイミングを探りあっている。


「どうした≪赤≫よ? お前の力はこんなものか?」


 ハルバードの長さを器用に調節しながら俺の攻撃を受け流す。

 これは挑発だな。先手を打たせて、切り返しでボコろうって腹か? 上等じゃボケぇ! 真っ向勝負で叩きのめす!

 挑発に乗って、ルナが回避で少しだけ反撃に遅れたタイミングを狙って炎を放つ。

 次の瞬間―――ルナはバックステップで炎から逃れ、俺は檻に捕らわれた…!


 俺の周囲30cmの所で、砂が高速で渦巻いて研磨機のようになっている。少しでも触れれば血が出るだけでは済まないだろう事は容易に分かった。っつか、これ、ササル村でやられた展開じゃね?

 【火炎装衣】。

 体から炎の噴き出す勢いで砂の渦を吹き飛ばす―――と、同時にルナが側面から突っ込んでくる。

 けど、見えてる―――


「ぜッ!!」


 半歩離れながらヴァーミリオンを振って迎撃……する筈だったのに、剣が途中で弾かれる。


「!?」


 何かに当たったような感触はない。それなのに、何かに剣を反対側に押されたような…いや逆側から引っ張られたような感覚。

 何だ? と驚くと同時に、ノワールの能力を≪赤≫の知識から引っ張り出す。引力―――じゃねえ、斥力も使えるのか!? って、そりゃあ≪赤≫の知識は600年前のカビの生えた物だもんな…新しい情報が入ってる訳ねえか!

 剣を弾かれて無防備になった俺に、真っ黒なハルバードが襲いかかる。

 直撃はヤバい―――!

 咄嗟に左手の【魔装】で作り出した魔素の籠手の強度を限界まで上げ、【火炎装衣】に熱量を消費させて硬度を上昇させる。

 左手でガード。


――― ゴッ


 頭の天辺から腹の下辺りに突き抜けるような衝撃を受けて吹っ飛ぶ。

 受けた左手の籠手が粉々に砕け、空気中に魔素になって四散する。集中が解けて【火炎装衣】が勝手に解除される。

 防御力と耐久力上げてもこんだけ威力貫通して来るって、どんなクソパワーだこの女!?

 受け身を取る余裕もなく、ふっ飛ばされるまま何かにドスンっと当たって地面に落ちる。


「ィ―――ッつ!!」


 超痛いんですけど……! 骨は折れてねえけど、腕がむっさビリビリする。


「おい後輩、何苦戦してんだよ?」


 おや? と顔を上げるとカーキ色のコートの背中があった。


「あれ? ガゼル何してんの?」

「お前が戦ってる最中に体当たりかまして来たんだろうよ!?」


 あ、なんだ。木か何かに当たったのかと思ったら、コイツの背中だったか…。


「っつか、別に苦戦してねえよ」


 痛いは痛いけど、今のだってちゃんとガードしたから有効打じゃねえし。腕痺れたけど戦闘に支障ねえし。


「そう言うお前の方は―――」


 と背中越しに相手―――エルフの幼女を見てみると、体中に穴が空いて血で真っ赤になっていた。正直、立っては居るけど「死んでる」と言われたら信じてしまう。

 どんだけ容赦無し…? しかもガゼルの奴、相手は片腕だったっつっても神器も持ってて戦闘力キング級やぞ? それなのに、まともな傷が1つもねえ……。


「楽勝ですが?」

「クソっ…なんか俺のが格下っぽくて腹立つ…!」


 俺達が呑気に話していると、幼女の目がギロっと俺達を睨む。

 この期に及んで全然感情が表情に出ねえな…コイツは…? パンドラみてぇだ…。


「………負けない………頭首様………の為に……負けない…!」



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