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12-22 もう1人の王様

「だーかーらー、違うつってんだろうが!!」


 俺は朝っぱらから飯屋のテーブルで声を荒げていた。

 と言うのも、遡る事30分前…。いつものように俺の事を起こそうとパンドラが寝たままの白雪を連れて部屋にやって来た。そして見たものは―――ベッドでカグに抱きつかれて眠っている俺。

 はい! ややこしい事になった!! クソ面倒臭い展開ありがとうございます!

 パンドラがいつもは絶対しないような荒々しい起こし方で俺を叩き起こすし(バイオレンス過ぎるので自主規制)、その騒ぎで目を覚ました白雪も何やら怒りだすし…。

 なんとかカグと2人で説明(言い訳)してその場は納得して貰った……と思ったのだが、朝飯を食べにやって来た店に入るなり、パンドラが


「男女が同じベッドで寝ていたという事実を客観的に判断すれば、昨夜マスターはセック―――」


 などと言いだしやがったので、さっきの俺のセリフが吐き出された訳である。

 フィリスがまだ戻って来ていないのが不幸中の幸い。時々頭の中がピンクになるアイツが居たらもっと大惨事になっていただろう。

 白雪もプンプン怒って、今日は俺に寄って来ないし……。


「本当に何も無かったのですか?」

「だから、そう言ってんじゃん!?」「何も無かったわよ!!」


 全力で否定しておく、っつうか実際に何も無かったし! 断じて何も無かったし!

 ……まあ、若干…若干な? 若干引っ付いていたけども、それはアレだ……慰める的な意味合いの奴よ? 愛情とか性欲とは別のところにある奴よ?


「つまり、マスターは不能者と言う事ですか」

「おめぇ本当にぶっ飛ばすぞポンコツ」

「ポンコツではありません、パンドラです」


 その後、運ばれて来た料理を食べながら更に説得をしてようやく昨夜は何も無かったと納得して貰えた。ただ、白雪は昨夜俺が意識の繋がりを切ったのが相当お気に召さなかったようで、その後も若干プンプンしていた。まあ、あとで花でも渡してご機嫌取りしておこう。


 料理も食べ終わり、さて今日のお仕事を探しにギルドに行くか~思い始めた頃、ふと気になった。


「そう言やカグ、お前どうする? 昨日冒険者に登録して貰ったけど、お前も仕事するか? つっても冒険者の仕事なんて基本荒事だから、必然的に戦う事になるけど」


 まあ、実際に戦いになればカグに勝てる奴は人にも魔物にも、そうは居ないだろう。

 【魔人化(デモナイズ)】出来るレベルまで魔神の力を使えるようになってるなら、俺がクイーン級になった時と同レベル程度の戦闘能力が有る筈だし。

 ただ、まあ、それはあくまで能力的な話。カグ自身が戦いたいかどうか…精神的な方ではどうだろう?

 昨日の夜もあんな調子だったし、カグが「嫌だ」ってんなら無理に戦いに引っ張り出すつもりは毛頭ない。


「“働かざる者食うべからず”はどの世界でも共通ルールでしょ? 私も仕事するわよ。まあ、まだ具体的にどんな仕事か知らないけど」

「大丈夫か?」

「大丈夫よ。リョータを殴る時と同じように敵を殴れば良いんでしょ? 楽勝よ」


 …………なんだろう? 間違ってないけど凄いツッコミを入れたい。


「そんなら、今日はカグの初心者講習って事で。パンドラと白雪もそれで良いか?」

「はい、問題は無いかと。戦力が増強される事はマスターの危険を減らす事に繋がりますので、とても良い事かと」

「……父様がそうすると言うなら文句は言いませんけど、私の事ももっと大切にして欲しいですわ!」


 いや、別に(ないがし)ろにしてるつもりは全く無いですけど? むしろ箱入り娘くらい大事にしてるつもりですけど……まあ、いいか、大事にせえと言うなら大事にしよう。

 話が纏まったところで「じゃあ行くか」と机の上に代金を置いたと同時に…。


「居たっ!! アークさんアークさん!!」


 開けっぱなしの入り口から、汗だくになった冒険者ギルドの受付のお姉さんがバタバタと俺達目掛けて慌てて入って来た。

 元もクイーン級ってだけでも周りから注目されるっつーのに、更に輪をかけて視線が俺達に集中する。


「え? 何?」

「知るか。俺に訊くな」

「アークさんアークさん!! もうやっと見つけました!」


 ゼエゼエと息を切らす受付さんに水を差し出すと、遠慮なしに喉を鳴らして一息に飲み干した。ここが夜の酒場なら「良い飲みっぷり!」と煽ってやるんだが……そういう雰囲気ではないらしい。

 まあ、下っ端の冒険者を使わずに、ギルドに雇われてる受付さんが直接俺の所に来るって事は相当重要か重大な事があったって事だろう。


「落ち着きました?」

「は、はいありがとうございます……じゃない! 落ち着いてる場合じゃないんですよ! 大変っ大変なんです!!」

「で? なんかありました?」


 俺の所に急いで持って来る話や用事は大抵面倒事だ。今回もどうせ「クイーン級の魔物が出た」とかそう言った感じの話だろう。相手がキング級の化物でもなければ、俺なら1人でも瞬殺だし、そう慌てるような事じゃない。


「は、はい! 実は今、当ギルドにキング級の冒険者様がいらっしゃって、アークさんに会いたいと!」


 俺に会いたいキング級ね、ちょっと予想外では有るけど…まあ、想定の範囲内。そろそろルナの奴が北の大地の調査結果を持って来るだろうと思ってたし。


「ルナだろ? 分かった、すぐ行くよ」

「え…あっ、いえ、“もう1人”の方です」

「……え?」


 流石に想定外だった。



*  *  *



 キング級の冒険者。

 世界中―――各国に存在する冒険者ギルドに所属する全ての冒険者の頂点であり、たった2人しか名乗る事を許されて居ない最強の称号。

 その片割れであるルナの事はよく知っている……いや、“よく”って程は知らねえか…? まあ、程々に知っている。

 だが、もう1人のキング級の冒険者の事は全く知らない。それなりに旅をして色んな話を聞いて来たつもりだが、噂すら聞いた事がない。

 謎のヴェールに包まれているどころか、本当は存在していないんじゃないかと疑っていたぐらいだ。

 その居るんだが居ないんだかハッキリしなかった“もう1人”が俺に会いたいと、わざわざアステリアくんだりまでやって来たってのはどう言う事だ?

 そんな事をグチャグチャ考えながらギルド本部へ急いで居たらあっと言う間に辿り着いた。

 扉を開けるとやけに中が静まり返っていた。

 いつもは半分酔っ払いのようなノリの冒険者達が借りて来た猫のように静かになっている。

 空気がどこかピリピリしていて、この場に居る全員が不必要な程緊張しているのが伝わってくる。

 なぜこんな感じになっているのかはすぐに分かった。

 受付のすぐ横に立っている男―――。

 年齢は40歳くらい……相変わらず外人の年齢鑑定に自信はないので多分だが…。

 彫りの深い顔に、くたびれて色褪せた短い赤茶の髪。

 防具はお飾り程度に籠手と胸周りだけ。腰に下げている2本の剣は明らかに普通ではなく、恐らく相当使いこまれた神器と思われる。

 まあ、総じて言えば“強そう”。一般の人達が思い浮かべる強者のイメージをそのまま具現させたような男。

 その男の発する異質な空気が、ギルド内の人間を無条件に委縮させている。

 どう考えても、この男が“もう1人”だよな?


「どうも」


 俺が声をかけると、男の瞳が一瞬警戒するように細くなり…何事も無かったように温和な笑顔を浮かべた。


「君がアーク君か。噂は常々伺ってるよ、現クイーン級最強の男だってね」

「最強かどうかは知りませんけど―――」

「間違いなくマスターが最強です」「ですの」


 メイドと妖精の言葉を華麗にスルーする。

 魔神になれるうえに原初の火を使える俺が最強なのは、まあ、そうなんだろうけども……日本人には謙虚は美徳と言う言葉がありましてね?


「アステリア王国冒険者ギルドのクイーン級アークです」


 一応礼儀なのでペコリと頭を下げる。受けて男も会釈程度に下げる


「キング級のシンだ、宜しく頼む」


 手を差し出されて握る。武器を使いこんで硬くなった大きな手………だけど、なんだ? 手が触れた時に感じた変な違和感…? ヤバいって感じの違和感じゃなくて……こう、なんだ? 紙に握手した様な感じ?

 だが、そんな違和感はすぐに流れて無くなった。


「早速だが、君を訪ねて来たのは別に遊びに来た訳ではないんだ」

「まあ、でしょうね。キング級が遊びに来たらそれはそれでコッチも困りますし」

「うむ。今日は君に協力をお願いしに来たんだ」


 キング級が、下位のクイーン級にお願い…?

 断言しよう。これ、絶対碌でもない事になる展開だ!


「ここだけの話にして欲しいのだが…。もう1人のキング級のルナが居なくなった」

「はぃ?」


 ほらやっぱり、碌でもない事になった。




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