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12-21 続・幼馴染として

 陽が落ちるのとほぼ同時に宿屋の部屋に入った俺は、とりあえず(くつろいで)いでいた。

 そう言えば、1人で寝るとか随分久しぶりだな。旅に出てからは誰かしら一緒だったからなぁ。

 っつう訳で、今日は白雪の光がチラついて眠れなくなる事も無いし、俺が眠るまで見守って来るパンドラも居ないし、寝てる時にいきなり腹を鳴らす暴食(グラトニー)さんもいらっしゃらないし。

 あー、今日は安眠できそうな気がするわ!

 別にアイツ等と一緒が嫌な訳じゃねーけど、やっぱり元の世界で1人で寝る事に慣れてるからコッチのが落ち付くわ。

 これからはカグの事抜きにしても俺は1人部屋にして貰おうかな?


『ダメですの』


 ………白雪に筒抜けだった。

 うん、そうか。と返して、さり気無く白雪との意識の接続を切る。

 いつもは体が近くに居るから気にしないけど、違う部屋に居ると表層の意識を見られるのも地味に気になるな…。

 さて、眠気が来る前に明日っからどうするか考えておかねえとな?

 一応俺がパーティーの代表だし、今や俺は魔神であり、原初の火を振り回す完全なる人外だ。流石に行き当たりばったりな行動はしていられない。

 まず≪無色≫を追っかけるのは確定。だけど、居場所が分からん……。

 無暗に動きまわっても尻尾捕まえられる気がしねえし…、一旦立ち止まって情報集めてるルナとガゼルを待つか。とすると、やっぱ暫くは冒険者らしく仕事するか?

 今後の方針が決まったところで、遠慮がちに扉がノックされる。

 感知能力のお陰で、誰が来たのかは一々確認するまでも無く分かっている。


「開いてるよ」


 少しだけ迷うような間があって、陽が落ちている事に配慮したのか静かに扉が開かれて、カグが顔を出した。


「起きてる?」

「起きてるから返事したんだろうよ。とりあえず入れば? なんか用があって来たんだろ?」


 小さな照明用の魔導器に照らされた部屋にカグを招き入れる。明りと言っても、俺達の世界基準で言えば電球1つ分程度の光量しか無く、そんな薄暗い部屋にカグと居る事実が不思議な気分にさせる。。


「うん、お邪魔します」


 さっきまでの買い物でパンドラ達とあれこれ言いながら買っていた寝間着姿だった。

 見慣れた姿が制服か私服なので、寝間着姿に妙にドキドキしてしまう。いや、落ち付け俺! 相手は幼馴染やぞ!? 一皮剥けば暴力ゴリラやぞ!!


「どうかした?」

「……いや、なんでもない」


 早くなった鼓動を落ち付かせながら、視線で「座れば?」と適当に椅子でも差し出そうとしたら、その前にベッドに腰掛けたので、仕方無く椅子は俺が使う事にする。

 椅子の後ろ前を逆にして、背もたれを前にして座って腕を置く。

 「あー、現代の椅子のクッションって凄いんだなぁ…」と言うのを、ただ硬いだけの木の椅子に座ると実感してしまう。

 そんな俺の座る姿を見て、カグが懐かしむような(いと)おしむような、微妙な表情でクスッと笑う。


「なに?」

「ううん、なんでもないんだけど。見た目も声も全然違うのに、座り方はちゃんとリョータなんだなって」

「そりゃあ、中身俺だからな?」

「うん」


 それきり黙る。

 え? 何? 何か話が有ったり、用事が有ったりして来たんじゃねえの?

 何やらその目的を躊躇っているように見えたので、とりあえず話しやすいように世間話でもして場を流しておこう。


「そう言えば、俺等がコッチに来た次の週にナインズのアルバム発売だったろ? 俺すっげぇ楽しみにしてたのに結局買いに行きそびれちまったんだよなぁ…」

「私なんてラビリンス3の前売り券買ったのに行けなかったっつうの」

「え…お前ラビ3観に行くつもりだったの? 2無茶苦茶つまんなかったじゃん…」

「そりゃあ2は若干中弛(なかだる)みしたのは認めるけど、最後の主役2人が格好良いから全部許す!」

「いや、ダメだろそれ……」


 その後も連載途中だった漫画の話や、クリアしてないゲームの話、心配してるであろう両親や友人、果てはカグの家の犬の話まで尽きる事無く俺達の世界の話に花を咲かせた。

 俺はアッチの話題を振れる人間が居なかったからか、俺の日常的な部分の会話をする事に飢えていたようで、話題が後から後から湧いて来る。

 30分程昔話や世間話をした。

 途中扉の前までパンドラと白雪の気配が来たけど、どうやら俺達が話しているだけだと知って、気を使ったのかそのまま声もかけずに自分達の部屋に戻って行った。

 まだまだ話題は尽きなかったが、コッチの世界の生活に合わされている体内時計は、そろそろ寝る時間だと知らせる様に欠伸を出した。


「…リョータ眠いの?」

「ああ、コッチの世界じゃ陽が落ちたらもう寝る時間だからな」


 【回帰】が有るから睡眠時間短くても全回復になるつっても、ロイド君の体の成長に多少なりとも影響が有るかもしれんし、寝れる時はちゃんと寝る。

 そう言えばカグは何か用事だか話があって来たんだっけ? 話に夢中でこってり忘れてた……。


「カグ、なんか用事が有ったんなら明日でも良い?」


 流石に頭のスイッチがオフになり始めてる状態で応対するのも失礼だろうと思っての発言だったのだが…。


「……ぁ~、あのね…えっと……実は、お願いがあって来たの…」


 俺の提案を無視して話は始めたって事は、今日じゃなきゃダメな奴か? いや、でも寝る前に何やらす気だよ?


「寝る前だから、ヘヴィーな奴は簡便な?」

「いや、そんなに重い事じゃない……と思う」


 言い淀む所が非情に怪しい……。俺の中の危険感知センサーが微妙に反応している。カグがハッキリ物を言わない時は、俺に災難が降りかかる前触れだと言う事をよく知っている。


「ねえ……あの、今日さ…えと…一緒に寝て良い?」

「は?」


 何を言われたのか分からず、阿呆な面を晒してしまった。

 いや、いやいやいや? え? 何? どゆ事? 一緒に? 寝る? 俺とカグが?


 え? どう言う事!?


 もう訳が分からないので本人に直接訊く事にした。


「えーと……それはアレか? 俺とお前が一緒のベッドに寝る的な事か?」

「う、うん……そう、なるわね…」


 ふむ、なるほど……。


「何言ってんだお前」


 とりあえず冷静にツッコんでみた。


「私だって別に好きで言ってるんじゃないからね!?」

「好きで言ってるんじゃねえならどう言う理由で言ってんだよ!?」

「さ、最初は普通に眠ろうとしたのよ? だけど、さ……部屋に1人になって、ベッドで横になったら急に……なんだか…その…………怖くなって……」

「怖くなったって、何によ?」


 今更カグが怖がるような物なんてありましたっけ?


「別に…具体的に何が怖いって訳じゃないの…。強いて言うなら、今の境遇…かな…?」

「異世界に居るのが怖いって事か?」

「そう…かも」

「今更じゃねえか? コッチ来てから2ヶ月以上経ってるだろ」

「そうだけどさぁ。私コッチの世界に来てからずっと御屋敷の中から出なかったし…≪白≫の継承者になってからは記憶がボンヤリしてるし……。なんかさ? 今日初めて、自分は全く別の世界に居るんだなぁって実感しちゃって…」


 初めて異世界っての物を肌で感じでビビっちまったと…。

 まあ、でも、それを笑う事は出来ねえよなぁ? 言ってみれば、今のカグはコッチの世界に来たばかりの頃の俺と同じ状態だ。

 俺もユグリ村の生活に慣れるまでは、夜が来るのが怖くて仕方無かったっけ……。あの頃に甘えられる相手が居たら、俺も「一緒に寝て下さい」と頼んだかもしれない。情けないが、それくらい夜眠る時が怖かった。


「はぁ…今日だけにしてくれよ? 俺等幼馴染つったって一応男女だからな」

「わ、わかってるわよぉ! い、言っとくけど、変な事しないでよね!? したら、パンドラさんやフィリスさんに言い付けるから!」

「しねえよっ!! こちとら他人様(ひとさま)の体やぞ!? なめんな!!」


 じゃあ、自分の体だったら何かするんか? と言われたら……うん、まあ、それはそれだ…。

 とりあえずお互い納得(?)したので、さっさと寝る事になった。

 カグが壁寄りに寝転んだので、俺は明りを消してカグに背を向けて横になる。


 ………………


 …………


 ………


 いや、ちょっと冷静になったら何してんだ俺? なんで幼馴染と一緒のベッドで寝てんだ? いや、いやいやいや仕方無いじゃん? だって流石に人見知りのコイツにパンドラ達の所に行けとは言えんし。これは仕方無い事。ええ、はい、本当に仕方無いんです。別に深い意味もないですから、ええ本当に。大体ガキの頃からの付き合いのカグとは何度も一緒に寝た事あるし………まあ、小2までの話だけど……。

 アカン! 起きてると変な事を考えてしまう……さっさと寝よう。

 目を閉じて思考を切る。


「ねえ、リョータ…?」

「……何?」


 体とは便利なもので、色々考えていようとも、疲れて目を瞑っていれば勝手に眠りの海に意識を引っ張り込んでくれるように出来ている。

 丁度意識が海に片足突っ込んだような状態。まどろみ始めで、心地良いフワフワとした感じに包まれている。

 そんな状態のまま、目を瞑ったまま問い返す。生返事するのも失礼かとも思ったが、眠りかけのグニャグニャの思考でそんな真っ当な判断も出来るわけ無い。


「起きてる?」

「………寝てる…」


 半分寝ながら言うと、背中に何か暖かくて柔らかい物が触れて…それが何なのか理解する前に後ろから手が伸びて来て―――抱きしめられた。

 沈みかけていた意識が、マグロの一本釣りの如く現実に引き上げられた。


「…カグ?」


 あ、やべ微妙声震えちゃった…。

 落ち付け俺! なんかむっちゃドキドキしてるけど、これ気付かれてたら超絶情けねえ…!!

 ……まあ、相手カグだし良いか…。今更幼馴染相手に取り繕うもんなんて何もねえし。


「リョータは怖くないの?」

「この世界が?」


 無言のまま頷いたのが背中に当たる髪の感触で分かった。


「別に俺だって怖くねえ訳じゃねえよ? ただ、俺はもう慣れたってだけ。最初の頃は俺も夜怖くて全然寝れなかったしな」

「この世界はさ、全然私達の世界とは違うじゃない…? 魔物とか、魔法とか、魔神とか意味分かんない物がたくさん有るし……。外を出歩いたら、簡単に人が死んじゃうような世界……私は怖いよ…」


 まあ、言いたい事は分かる。

 俺だって未だに「この世界おかしくね?」と思う事が山ほど有るし。でも、そう言う物も折り合いつけて付き合っていくしかねえんだ。

 だって、俺達は今この世界で生きているんだから。


「別に違わねえよ」

「え?」

「俺達の世界だって機械技術が発展し過ぎて魔法と変わりゃしねえし、外を出歩けば車に轢かれるかもしれないし。善人も悪人も居て、世界を混乱させる馬鹿が居れば、良くしようとする奴が居る。どこにも違いなんてねえよ」


 俺達の世界にも、コッチの世界にも色んな人が居て、その1人1人が自分の日常を守ろうと頑張っている。戦うとか戦わないとかの話じゃ無く、皆がその為に自分の精一杯をやっているって話だ。

 だから、俺達も自分の日常を守る為に全力を尽くせば良い。元の世界で勉強に向けて居た物を、今は誰かを、何かを守る為の戦いに向けている。違いなんてそれだけだ。


「……リョータ、なんだかちょっと変わった?」

「自覚はねえけど、カグがそう思ったんならそうかもな?」

「うん…ちょっと考え方とか、そう言うのをハッキリ口にするところとか大人っぽくなった」


 うん、言われても自分じゃ全然分からん。まあ、コッチの世界で色々経験したからそれでちょっとは成長したって事かな?

 突然、俺を抱く手に力がこもる。


「なんだか、置いてかれたみたいで……ちょっと焦るよ」

「心配しなくても置いてきゃしねえよ」

「うん、分かってる。ただ、私が勝手に焦ってるだけ」


 背中で少しだけ泣いたのが分かった。


「………」


 気付かない振りをしつつ、俺の胸辺りを抱いている手を握る。


「……リョータ?」

「心配すんな」

「…え?」

「この世界がどんな場所だろうが、俺がお前を護ってやる。だから、お前は何も心配せずに観光気分でこの世界を楽しんでろ」

「うん」


 甘えるように俺の背中に額をあててくる。それが妙にむず痒くて、嬉しかった。


「ありがとう良ちゃん…」



 暫くして後ろから静かな寝息が聞こえて来て、俺も安心して後を追うように眠りの海に落ちた。




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