12-20 ただいま2
大通りを抜ければ後は特に何事も無く、アステリア王国ギルド本部に辿り着く。
ギルドに着いたら早速ギルマスに「仕事復帰します」と言いに行ったら「お前は忙しねえなぁ…」と強面のギルマスに呆れられ……まあ、最終的にはクイーン級の仕事復帰を喜んでくれたが。
カグの冒険者登録も、フィリスの時と同じクイーン級権限の冒険者任命資格を使って滞りなく終わり、ギルドでの用事は30分もかからずに終わった。
時刻は昼過ぎでまだまだ陽は高い。
今日の内に色々片しておこうと思い、精霊の情報をくれたターゼンさんの所や、俺の居ない間の事をお願いしていた真希さんの所へお礼に行った。
ああ、そうそう、異世界人であり純日本風の恰好をしている真希さんと会ってカグは驚くと共にえらい喜んだ。まあ、気持ちは分かる。ただ、真希さんの「ショタ君、私に抱かれる準備できたの?」の発言で一瞬にして憤怒の表情に変わっていたが……。
プリアネルから帰って来たあとは遅めの昼食をとってから、カグ用の日用品やら着替えやらを揃えたんだが、以外にも女性陣が協力的で、「アレよりコッチが良い」だの、「コッチの方が機能的です」だの、異世界文化に疎いカグに色々と横から口出しして仲良くやっていた。……まあ、フィリスとは流石にギクシャクしているようだが、それも時間が経てば薄れて行くだろうと俺は楽観視している。
カグの奴は人見知りだが人の好き嫌いは無い奴だし、フィリスも亜人として「許さない」発言をしたが、貼られているラベルで人を判断するような奴じゃないと信じている……多分。
夕飯はガッツリ肉を食べ―――ウチの暴食さんは相変わらず食った質量をどこに入れているのか謎な量を食いまくり―――皆が満足したところで、「じゃあ今日の寝床を探すか」と宿屋を求めて歩こうとすると、フィリスに呼び止められた。
「アーク様、少し宜しいですか?」
「ん? 何?」
「私は1度アルフェイルに戻ろうと思うのですが…」
「え? なんで?」と口に出しかけて気付く。
別にフィリスはホームシックになった訳ではない。多分、精霊界で聞いたユグドラシルの件を、多分あの幼女風ダークエルフの族長に伝えに行きたいのだろう。その話を族長さんが他の亜人達に伝えるかどうかは分からないが、流石にフィリス1人の心に留めておくには大き過ぎる物だからな。あの場では俺達に口止めをしたけど、フィリスが話すと判断したのならばそれで良いだろう。
「そうか、分かった。大丈夫とは思うが気を付けてな?」
「はい、ありがとうございます! コチラ側で陽が昇る頃には戻りますので」
「ん…分かった。けど、コッチは暫く大きく動くつもりねえから、一旦アルフェイルでゆっくりして来てくれて良いぜ?」
それでなくてもフィリスはパンドラが倒れてからずっと無理をさせている。俺が居なくなった後も大分しんどそうだったと白雪が教えてくれたし、ここらで一旦ガス抜きをしてリフレッシュしてくれると良いんだが…。
「いえ、出来る限り早く戻りアーク様の近くに居ます!」
ですよねぇ…。絶対に言うと思ったわ。
そりゃあ、フィリスは転移魔法の意味でも、戦闘の支援役の意味でも居てくれればかなり心強いけども…そこまで張り詰められても困るんだが…。
なんとか息抜きの1つでもしてくれんもんかと思っていると、フィリスが唐突にカグを指さし―――
「貴様! 私が居ないからと言ってアーク様に変な事をするなよ!」
「し、しないわよ!! 大体何よ変な事って!?」
「そ、それは…アレだ……その……み、淫らな事…とか…」
「しねえわよ!!?」「するかよ!!?」
カグと俺が同時に全力のツッコミを入れたが、それでも若干不安があるようで…。
「パンドラ、白雪、くれぐれもアーク様にあの女狐を近付かせるなよ」
「はい」「任せてですの!」
「……ちょっと、人の事サラッと女狐呼ばわりしないでほしいんだけど…!? ってか、私とリョータが近いのは仕方無いでしょ、私達幼馴染だもん」
………なんだろう? カグが無駄に勝ち誇った雰囲気を出して居るんだが…。そして、それを受けてパンドラ達3人が黒いオーラを発しているように思えるのは気のせいか? 気のせいだなきっと…。いえ、決して関わり合いになりたくないから見て見ぬふりをしている訳ではないですよ? ええ、本当に。まったく、ちっともそんな気はありませんとも、ええ、本当に。
その後、フィリスはカグに疑いと若干の敵意の混ざった視線を送りつつもアルフェイルに戻って行き、残された俺達は宿屋を探しに歩き出し……幸運にもアッサリと空いている宿は見つかった。うん、それは大変喜ばしいんだが。
さて…。
「部屋割どーする?」
問題はここだ。
「いつも通りに全員一緒で良いのでは?」「ですの」
「えっ!? 貴女達いつもリョータと一緒の部屋で寝てるの……!?」
「はい。そうですが何か?」「ですの」
ギギギとからくり人形みたいなカクカクした首の動きでカグが俺を見る。
「リョータ………アンタ……!」
「待って。一旦落ち着こう。とりあえずその振り被った拳を引きあっぶねぇっ!!!?」
一切の迷い無く振り切られた幼馴染の右ストレートを辛うじて避ける。女の拳と侮るなかれ、≪白≫の支援で肉体強化されているその拳は、そこらのナイト級ぐらいならば殴り殺せる威力が有る。
「リョータ、弁明が有るなら私の拳が炸裂する前に言いなさい!」
「言う前に未遂を一発打ってんじゃねえか!? っつか、今の俺じゃなかったらクリティカルヒットだったからな!!」
「ぅっさいわね! リョータがエッチなのがいけないんでしょ!?」
「エッチじゃねえよ!!? 言っとくけど下心なんぞ一切ねえからな!」
……まあ一切ってのは…うん、まあ、アレですよ? 言葉の綾ですけども…。
だって仕方無いじゃん? 俺だって男ですし? まあ、アクシデント的なラッキースケベなイベントでも起きるんじゃないかなぁ? とか期待する心が無かった訳じゃないですよ? 流石に自分からそんなイベントを起こしに行くようなアホな真似はした事ないですけど。
「ふーん……」
アカン! カグの視線がロシアの大地みたいな冷たさになってやがる!?
「と、とにかく! 今日の部屋割の話だ!」
「あ、誤魔化した!?」「誤魔化しました」「ですの」
女性陣のツッコミを丸ごとスルーする。
「俺とパンドラと白雪は、別にどんな部屋分けになっても構わねえけども……カグ、お前は?」
「ぅ…私は…その…あんまり知らない人と一緒は……その…」
人見知りめ。無理なら無理ってハッキリ言えっつうの。
「じゃあカグはとりあえず1人部屋で。パンドラと白雪は―――」
「マスターと一緒です」「父様と一緒です」
まあ、形としてはいつもと同じだな。それじゃそれで部屋をとろうと思ったら…。
「ま、待って! 貴女達ダメよ一緒の部屋は!!」
「どうしてですか?」「ですの?」
本気で「何故」と訊かれてカグが口籠る。
まあ、パンドラ達にしてみれば俺と一緒の部屋に寝るのは父親と寝る程度のレベルの話だ。そんな子供のような純粋さに「男と女だから」なんて言うのは色々と……汚れている発言だよなぁ…。
「はぁ…」
こんな事で言い合うのもバカバカしい。
普段一緒の部屋に寝てるのは、ただの宿代の節約だったり、空いてる部屋が1つだったり、そんな事情によりだ。
今の俺達は宿代を節約する必要ないくらい金持ってるし、今日の宿は部屋の空きに余裕があるし、別に1人一部屋でも構わねえだろう。まあ、流石に白雪を1人にするのは色々と危ないからパンドラとセットにさせて貰うけども。
「んじゃ、今日は俺、カグ、パンドラと白雪で一部屋づつで良いな?」
「いえ、マスターと一緒で」「父様と一緒が良いですの!!」
「じゃ、三部屋お願いしまーす」
もう面倒臭くなったので全部スルーした。