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12-16 魔神の始まり

 精霊王の姿はよく分からない。例えるのなら万華鏡のような姿……だろうか? ハッキリと形を掴めず、(まばた)き1つするだけでその姿が変わる。奇妙のような面白いような。

 まあ、姿はそんなだが、一応話しの通じる相手のようなのでさっさと本題を切りだす。


「あの、今日は頼みがあって―――」

「言わなくても結構ですよ。貴方が、その体から失われたもう1つの心を取り戻そうとしているのは分かりました」


 話しが早くて助かる。さっき≪青≫が来た時に話しを通して置いてくれたのかな?


「いいえ。失礼ですが、貴方の心を見せて頂きました」

「はぃ…?」

「貴方の心は透き通っていてとても心地良いですね。強く、熱い炎のようでありながら、臆病で純粋な子供のような不思議な心」


 え? 何それ? 俺の思考筒抜けって事かしら…?


「ええ、その通りですよ」


 …………要らん事を考えるのは止めよう。

 精霊王が俺の心の声と会話をするものだから、俺以外の皆は訳が分からずクエスチョンマークを浮かべるばかりだ。

 長々話すとだだ漏れた思考からボロが出そうだ。ちゃっちゃと話しを進めよう。


「それで、願いを聞いて貰う事は出来るのでしょうか?」

「ええ、良いでしょう」

「本当ですか!?」

「嘘は言いません」


 ぃよっしゃあああああああっ!!!

 一応皆の手前口に出すのは我慢したが、小躍りしながら歌でも歌いたい気分だった。


「マスター、良かったですね」「私からもお喜び申し上げます!」

「ああ、ありがとう」


 皆と喜びを分かち合っていると、水を差すように精霊王は続けた。


「ですがその前に―――」


 ………え? 何? また試練を受けろ的な話じゃねえよな? …じゃない、ですよね?


「少しお話をしましょう」


 なんだ話しか…。安堵と共に、敢えてここで持ち出す話がただの世間話である訳はない事を予感し、少しだけ背筋が寒くなる。


「≪赤≫と≪白≫の魔神を宿す継承者達、貴方達にとても関係のある話。そして、とても知りたがっている話です」

「……精霊と魔神の仲が悪い件と関係してますか?」

「ええ、とても。そして貴方が知りたがっている魔神の出自でもあります」

「「「!!?」」」


 俺だけでなくパンドラ達も、四大精霊までもが驚く。

 魔神の出自。どうして魔神が産まれたのか? どうしてこんな力が世界に存在しているのか? その答えが聞けるのか、ここで……!?


「…………王よ………よろしいの…ですか………?」

「いいのです。彼はすでに真実に限りなく近い場所まで来ている。それも、魔神の記憶と知識に頼らず、自身の足で歩き目と耳でその答えに辿り着こうとしている。それは称賛に値する事だとは思いませんか?」


 精霊王からの俺の評価が妙に高いのがむず痒い。

 ≪黒≫も精霊王が「いい」と言えば納得するしかないようで、いつもの沈黙モードに戻る。

 話を始める前に精霊王が一拍置く。その一瞬の間が、これから話される内容の重要さを感じさせて聞く側の俺達も緊張してしまう。


「始まりは“完全なる1”でした」

「完全なる…いち?」

「そう。世界を崩壊させる力、もしくは生み出す力。“完全なる1”を放置すれば世界が終わる結末は決定されてしまう。故に、私と四大精霊達はその力が芽吹く前に砕きました」


 ……あれ? なんだ? 俺、この話を知ってる? いや、これ俺じゃない!? ≪赤≫か? でも、こんな話≪赤≫の記憶や知識には無いぞ?

 隣りをチラッと見てみると、カグも俺と同じ微妙な顔をしていた。って事は、≪白≫も同じ状態か。記憶に無いのに聞いた事が有るような―――既視感(デジャヴ)のような感覚。


「しかし、予想外な事が起こりました。5つに砕けた欠片は、それぞれが個の意思を持ち四大精霊から【原初(オリジン)】を奪って行ったのです」

「ッ!?」


 ウチの女性陣は皆して「原初(オリジン)?」と訊き返しているが、この話の結末に俺だけは気付いた。


原初(オリジン)とは、力の根源。世界に存在する全ての源」


 精霊王の説明が抽象的過ぎて伝わらなかったようなので、俺が横から説明を付け加える。


「例えば、≪赤≫の原初(オリジン)は炎熱の全てを司る。言ってしまえば、世界に存在する火や熱を全て手中に収めてる感じだ」


 そう、良く知ってる。

 だって、俺はその力を魔神になる時に使っているのだから……。

 【オリジン:赤】人の肉体を神の領域へと引き上げる正しく神の如き力。あらゆる力の可能性を内包し、自分の求める能力(スキル)を自在に引き出す―――いや、作り出す事の出来る究極の力。

 赤のオリジンは炎熱に偏った能力しか作れない縛りがあるが、それにしたって破格の性能だ。


「欠片達は、四大精霊から奪った原初(オリジン)と、“完全なる1”の持つ力の両方を手にし、それらが混ざり合った結果―――原色の魔神として地上に生まれ落ちてしまった」

「それって…!?」「まさか…魔神は元々1つの存在だった!?」「…ビックリですの…」


 カグやフィリスが驚いているが、俺は話の途中で気付いたからかあまり驚かない。いや、まあ、やっぱり口にして言われたらちょっと驚いたけど。


「マスター、どうかされましたか?」

「魔神が元々1つだった事はまあ良い」

「良いの!?」「いえ、あの…良くないのでは…?」「ですの…」


 女性陣のツッコミをスルーする。

 俺が気になっているのはそこではない。


「問題なのはそこじゃねえからだよ。さっき、砕けた欠片は“5つ”って言いましたよね? 魔神は4つしか存在してない筈でしょ?」

「あっ」「そう言えば…」「マスターもそこが気になりましたか」


 一応訊いてみたが、俺の中ではすでに答えは出ている。

 完全なる1とやらを破壊したのは5人の精霊。そのうち4人だけが力を奪われるなんて都合の良い展開が有る訳が無い。


「ええ、貴方の推測通りです。5つ目の欠片は、私の力の一部を奪って行きました。貴方なら、この意味が分かりますね?」

「精神を司る精霊王様の力を奪った5つ目は、他の4つのような直接的な力ではなく、他者の精神を(むしば)む能力に特化している…って事ですか?」

「そう。言うなれば、5つ目は≪無色≫の魔神。色無き故、姿見えず、捉える事叶わず。気付けば精神(こころ)(おか)されている。そう言う存在です」

「え? リョータ…どう言う事?」「すみません、少し理解が出来ません」


 パンドラは勘付いたような顔をしているが、他3人の為に分かりやすく今得た情報から導き出された事実を言ってやる。


「今俺の―――阿久津良太の体の中に居るのは≪無色≫だ。…で、あってます?」


 精霊王が無言で頷く。

 魔神の継承者は高い精神攻撃への耐性を持っている。にも関わらずカグは操られた。

 俺の体と立ち合ったルナが魔神の気配を感じたと言っていた。

 水野との戦いで≪(おれ)≫の世界へ平然と乱入して来た。

 これだけの情報が揃っていれば、その答えに辿り着くのは必然だった。


「そんな…嘘…?」


 カグがすげぇショック受けてるけど、俺としては敵の正体がハッキリしたのでむしろスッキリした。これで容赦なくぶん殴る事が出来る! 元々全力で殴る気満々だったけど。


「貴方は、≪無色≫と戦うつもりなのですね?」

「ぁったりまえです! 俺の体を勝手に使ってやがる事もイラつくし、人の幼馴染に色々してくれやがった事も腹立つし、その他諸々イラつくからボコり殺します」

「リョータ……」

「そうですか。では、くれぐれも気を付けなさい」


 言われなくても最大限に注意はしているつもりだ。相手が魔神である事が分かったのなら尚の事。

 あれ? でもそう言う事を言いたい雰囲気じゃない……?


「貴方達の宿す原色の魔神はすでに個として独立していますが、≪無色≫だけは違う」

「……どう言う意味ですか?」

「≪無色≫だけは、“完全なる1”に戻ろうとしている。世界を崩壊させる存在に立ち返ろうとしている。そして、その為には貴方達の持つ魔神―――“完全なる1”の欠片が必要になる」

「……!」


 驚くと同時に、色んな情報が頭の中でパズルのようにカチンッと組み合わさって行く。

 1週目の世界の終わり、その原因は魔神。

 おそらく、1週目は“完全なる1”が復活したんじゃねえか? それが世界を終わらせた。そして、未来からその終わりを回避する為にパンドラの製作者達と研究所が送られて来た。

 歴史の改竄者達の目的は魔神の継承者の排除。“完全なる1”の復活には4つの魔神が必要、だから排除しようとした。……って事は、別に魔神の継承者なら誰でも良かったって事か…? どれか1つでも欠けさせる事が目的って事だもんな。

 殺そうとしただけではなく、最終的に時空の狭間に放り込んだのも、肉体を殺しただけでは魔神の力は世界に残ってしまうからだとすれば頷ける。

 しかし、俺は世界に戻って来てしまった。だが、もどきは言っていた…俺が居れば世界の終わりを回避出来る、と。

 そして、実際俺はすでにその為の力を手にしている。


 原初の火。


 あの黒い炎を持ってすれば、魔神だろうと完全に世界から消滅させる事が出来る。

 “完全なる1”に戻ろうとしているのが≪無色≫だけだと言うのなら、アイツを原初の火で燃やせばそれで―――全て終わる!


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