12-14 かぐやの話
カグがコチラの世界に来てから何をしていたのか、そして、どんな経緯であの連中と一緒になったのか。ようやくその謎が明らかになる。
事によっては、俺の体を使っているクソッ垂れの正体も分かるかもしれない。
そもそもの話として、あの連中は何をしたいのかイマイチ分からんしなぁ…。魔神を集めている……けど、さほどコレについては固執していない気がする。俺やルナに喧嘩を売る事はあっても連れて行かれそうになった事ねえし、それにあんなにアッサリとカグを手放したし。
神器も集めているらしいが……まあ、戦力増強なら妥当かつ最短の方法だろう。
あと微妙に亜人も排除しようとしている気がする。なんで亜人? と思っていたが、≪赤≫の大精霊の話によればユグドラシルの結界は亜人達の命で維持されているそうなので、その辺りに目的があるのかも…?
と、まあ自分で考えても答えは出ないので、カグの話に対する俺の期待はかなり大きい。
「ゴメン……正直、あんまりよく憶えて無いの…。所々の記憶はあるんだけど、コッチの世界に来てからほとんどの事を上手く思い出せなくて…」
俺の偽物に洗脳されてたからか…だよな? どう考えても。
チッ、今までもマジで腹立ってたけど、3割増で怒りが増して行くわ。
「それで構わねえよ。思い出せるところだけ話してくれ」
空気を重くしないように紅茶を飲みながら軽く言うと、カグが少しだけ安心した顔をして話し始めた。
「アッチでトラックに轢かれそうになってリョータに突き飛ばされた後、目の前が真っ白になって……」
召喚術の光か。
もどきの所で見た事故の瞬間が頭の中で再生される。
「気が付いたら、荒野に居たの。リョータも一緒に居たけど、目を覚まさなくて……私、てっきりトラックに轢かれて死んじゃったと思った…」
「そりゃ精神が抜けてただけなんだけどな?」
「うん…。それで、どうしようもなくて途方に暮れてたら、お爺さんが来て……」
「お爺さん? 近くに住んでた農家の人とか?」
「ううん。なんか、凄く偉い人だったみたい。周りの人から“頭首”って呼ばれてたし」
頭首? あれ? 俺の偽物も同じ呼ばれ方してなかったっけ? もしかして―――!? いや、でも、よくある呼び方だし……。
フィリスも俺と同じ事に気付いたらしく、鋭い視線を俺に飛ばして来るが、「カグの話を最後まで聞こう」と視線を返して一旦黙って貰う。
「それで、そのお爺さんが「お前は魔神に呼ばれたのか?」って訊いて…。私、何の事か分からなかったから素直にそう答えたんだけど…そしたら目を覚まさないリョータの事も面倒見てやるから一緒に来いって…」
「それで着いて行ったのか?」
「………うん。自分でも、不用心だとは思ったけど……そこが何処なのかも、何でそんな場所に居るのかも分からなかったし……リョータは目を覚まさないし…」
…それだけ不安要素があったら、いくら相手が怪しくても頼っちまうか……。カグの事だから、目を覚まさない俺を「一刻も早くなんとかしないと危ない!」とか大袈裟に心配しただろうしな。
そう言う意味じゃ、最初から頼る相手の居た俺は恵まれてたな。まあ、コッチはコッチでハードモードだったけど。
「それで、お爺さんの所で暫く面倒を見て貰いながら、ここが異世界な事とか色々教えて貰ってたんだけど……」
言葉を切って、少しだけ表情を曇らせる。
「ある日お爺さんに言われたの。リョータを助ける為には魔神の力が必要だって」
「……お前、まさかそれで≪白≫を…?」
「………うん。どこかの地下に連れて行かれて、そこで眠っていた≪白≫を継承したの…」
マジかよ……! カグが継承者になった原因の1つが間接的にとは言え俺だったのかよ…。
自分をぶん殴りたい衝動に駆られるが、この体が自分の物ではない事を思い出して辛うじて自制する。
「その後、リョータはすぐに目を覚ましたんだけど…あ、体の方ね? ………ゴメン、その後から記憶がずっとあやふやなの…。リョータと戦った事とかはボンヤリ思い出せるんだけど…それ以外の時間を何をしていたのか…全然思い出せなくて…」
「そっか…」
カグが思い出せないと言うのなら、これ以上深く突っ込んでも意味無いだろう。悔しいが、情報をカグに持たせなかった野郎の方が一枚上手だったと思うしかない。マジで悔しいけど。ぶっ殺したいくらい悔しいけど。
連中の正体とか目的とか、何かしら解れば良かったけど………、まあカグを無事に取り戻せただけでも良かったと思っておこう、じゃないとやってられん。
けど、1つだけ確認しておかなければならない事がある。
「そいで訊きたいんだが、俺の体が目を覚ました後で例のお爺さんと会ったか?」
「え? ううん、それからは会ってない……と思う…。記憶があやふやだから、多分だけど…」
「こりゃ、当たりかな……?」
俺が独り言を呟くと、フィリスが強く頷いて同意してくれた。
「はい、やはりアーク様の考えている事は正しいです!」
「え? …何が?」
「今、俺の体の中に入ってるのは、多分お前を助けてくれたお爺さんだ」
「ぇ……? 嘘でしょ!?」
「まあ、まだ確証はねえから多分って話しな?」
正直俺も嘘であって欲しいと願っているけどな。だって、自分の体を使っているのが正体不明の爺とか気持ち悪過ぎる……。
けど、その爺は結局何者なんだろうな…? 俺の体云々を置いといても、カグの召喚場所に都合良く現れた事と魔神の事を口にしていた点から判断するに、恐らくカグを召喚したのはコイツ…ないしコイツの仲間って事になるんだが…。
俺が難しい顔をしていると、全く同じ疑問をパンドラが口にした。
「その老人は何者なのでしょうか?」
「うーん、分からんね」
いや、でもなんでわざわざ異世界人なんだ? 召喚…特に次元の壁を越えて行う術式はそれ相応の用意と代価の支払いが居る―――ってのは≪赤≫の記憶から閲覧したものだけど…。それだけの事をするぐらいならコッチの世界で別の継承者を見つけた方が早かったんじゃねえか? 実際ルナはコッチの人間だし。まあ、俺も純粋コッチの人間じゃないけど、少なくても体は完全にコッチの人間だ。
異世界人でなければいけない理由でもあったのか…?
うーん……分からん。
頭を悩ませていると、ふと黙って話しを聞いていた≪赤≫の大精霊が呟く。
「……まさか…“無色”……!?」
ポツリと呟いたので何を言ったのかよく聞こえなかったが、体の炎が妙に殺気立っているように思える。
炎使いとして色んな火を扱っているからか、燃え上がり方からそう言う事を感じてしまうのは、ある種の職業病だろうか?
俺の視線に気付いて≪赤≫が視線を逸らす。
何を言ったのか分からなかったけど、多分俺―――っつか、魔神の継承者に聞かせちゃいけない話しか。
俺達の間の空気が少しだけ重くなる。皆もそんな空気を察して静かになる。
間を埋めるように紅茶を飲んで居ると、エントランスに続くドアを潜って≪青≫の大精霊が現れた。
「待たせたな? 精霊王の準備が整った、これから案内する」
来たか。
ようやく、ロイド君を蘇らせる事が出来る精霊王に会える!
けど、相手は魔神の敵対者である精霊の王だ。素直にお願いを聞いて貰えれば良いんだが……。
「おう!」
不安を払うように、大きな声で返事をした。