12-12 自己紹介
四大精霊全員の許しを得て、さあ早速精霊王との謁見だ………と思ったら、「王にも準備が有る」と言われて、仕方なくもう暫く待ち時間となった。
クソ殺風景なエントランスで待つのをカグが嫌がるので、≪白≫の部屋で待たせて貰う事となった。………≪赤≫と≪青≫は「自分の部屋でも良いのよ?」と言っていたが、どう考えても死人が出るのでお断りした。
で、現在の話。
≪黒≫の大精霊は俺に両断された体を直しに自分の部屋に戻り、≪青≫は精霊王の元へと行き、≪赤≫と≪白≫が俺達と共に待ちとなっている。
良い感じに陽が昇って朝ごはんの時間なので、丁度良いのでパンドラに頼んで朝ごはんを用意して貰う。
カグに軽く俺の話をしている間に、テキパキとパンドラが白雪に出して貰った食材を鍋で茹でたり焼いたり………っつか、量多くない? 絶対多いよね? まあ、ぶっちゃけいつも通りですけど。ウチの暴食いっぱい食べるからね…うん…いっぱい…とっても、いっぱい……うん。
「あれ? リョータ髪と目の色…?」
「ん? ああ、これが本来のこの体の色なんだよ」
待ち時間になったら、俺はさっさと【反転】を解いていつも通りのロイド君の姿に戻って居る。銀色の髪と青い瞳に。そして、ヴァーミリオンも日本刀から直剣に。
ついでに左手の籠手を作って居た【魔装】も解除しているので、左手に力が入りません。
「それは知ってるわよ。ぼんやりとだけど、その色の時に会ったの憶えてるし」
「……ぼんやりとなのか……」
カグとの話はそんな感じで始まり、俺がどうしてこの姿なのかを軽く説明する。
例のトラックの事故の際、2つの召喚術に巻き込まれたせいで体と精神が引き離され、別々にこの世界に召喚されてしまい、精神がこの体を借りている。と言う感じの事実を説明したんだが、自分で口にしてみてバカバカしくなる程ファンタジーだな…。
今までもそう言う事を感じる事はあったが、話している相手がアッチの住人であるカグだからか、今まで以上にそう言うのを強く感じてしまう。
「そのアキヒロ? って言うトラック運転手の人と、私を対象に召喚魔法が発動して、リョータはそれに巻き込まれたせいでそんな事になってるって事よね?」
「だから、今そう説明したじゃん」
パンドラが混ぜている鍋から良い匂いが漂い出して、今まであまり気にしてなかった空腹感が急激に上って来る。
朝飯を楽しみにテンションの上がる俺とは真逆に、カグはシュンっと大人しくなって顔を伏せる。
「ゴメンね…」
「は? 何だよいきなり?」
「だって、リョータは私のせいで…」
「別にカグのせいじゃねえよ。恨む相手が居るってんなら、召喚術を使った奴に向けるべきで、お前に怒るのはお門違いだろ」
「けど……」
妙に気にするな……。
罪悪感と責任感か―――ああ、これ俺も覚えがある……。俺がずっとロイド君に感じている物と一緒だ。
……口でどう言っても、それを拭うのは無理か。俺だってロイド君に何言われても、「はい、許された!」とは行かねえもんな。
自分の中で時間かけて折り合いつけるしかねえ事か…。
「気にするな…とは言わんけど、気にし過ぎんなよ? 少なくても、俺が怒ってないって事だけは覚えておいてくれ」
「……うん」
それ以上かける言葉が見つからずにお互いに黙る。
気まずい俺達の間に流れ始めた頃、タイミングを見計らったようにパンドラが朝ごはんに呼ぶ声がかかった。
「マスター、お食事に御用意が出来ました」
「おう! カグ、続きは飯食ってからにしよう。食いながらするような話じゃねえ」
「うん。わかった…」
っと、一応精霊達にも声かけておくか? 飲み食いは出来るっぽいからな。
「おーい、お前等も飯食うなら一緒するか?」
「誘いを断る理由はない、いただこう」
「人間の食べる物って精霊が食べても大丈夫なの~? なんてねーキャはは!」
からかい口調で言いつつ、キッチリ鍋の前をキープしている透明小僧に思わず苦笑してしまう。そして、「その場所を譲れ」と殺気立っているフィリスを見て冷静に戻る。
おい、暴食コラ、お前は鍋から離れなさい。
「フィリス、一応部屋の主だからお前が折れてやれ」
「くっ………はい」
むっちゃ悔しそう……。フィリスは飯と胸の話でキャラが崩壊するな…。
全員が集まると、パンドラが俺から順番に魚介出汁の野菜スープを配り、白雪がパタパタと飛びながら皆にパンを出して回る。
「ねえリョータ…? 今更だけど、あの小さい人形みたいな子って…もしかしてフェアリー?」
「ああ、そう言えば自己紹介もまともにしてなかったっけ? んじゃ食い始める前にパパっとやっちまうか?」
「えっと……秋峰かぐやです。よろしくお願いします」
新顔として率先して名乗ったのコミュニケーションとして正しいんだが……なんてベターな自己紹介をしやがる…。
まあ、良いや……。さてコッチは誰から紹介しようかな? 出会った順で良いか?
鍋の前で給仕をしているパンドラに目を向けると、俺の意図を読み取って自己紹介を始める。
「パンドラです」
簡潔すぎる!? いや、まあ自己紹介って最低限名前を言えば良いものだけれども…。
流石にそれだけではカグに渡る情報が少な過ぎるので、仕方なく俺が捕捉で説明を入れる。
「俺の身の回りの世話してくれたりしてるんだ」
「ああ、だからメイド服なの?」
「あー、まあそう言う感じ。ちなみに人間じゃなくてサイボーグだから」
「は?」
うわ……カグが全力で「コイツ頭大丈夫か?」みたいな目で見てきやがる…。
でも、それも仕方ねえよなぁ? こんな剣と魔法のファンタジーの世界で、あんなに精巧な女性型機械人が動いてるなんて、普通想像すらしねえよ。なまじ機械技術の文明に生きていたなら尚更だ。
「パンドラ、ちょっとこっち向いて」
「向いています」
はい、そうですね。
「パンドラの目の奥覗いてみ?」
「え? 何よ?」
首を傾げながらも、言われた通りにパンドラのマリンブルーの瞳を覗き込む。
俺が右手を動かすと、それを追ってパンドラの目が微かに動き、目の奥のレンズが右手にピントを合わせて絞られる。
「……え!? レンズ…? 本当に人間じゃないの?」
「まあな。つっても、俺は言う程ロボだと思ってねぇけど」
「まあ…確かにこれだけ完璧な人型だもんね…。でも、なんでコッチの世界にこんなに進んだ機械技術が?」
「その話は色々込み入ってるから、後で旅の話とまとめてするよ」
未来で召喚された技術者達が、過去にタイムスリップしてなんやかんやあって生まれたのがパンドラだ。うん、意味不明過ぎてとっても説明に困るな。
まあ、それは飯食いながら頭の中で整理しておこう。
次は白雪か。
丁度良いタイミングで、全員にパンを配り終わった白雪が俺の肩に戻って来た。
「白雪、挨拶しな」
「ですの。妖精の白雪ですわ」
俺の肩に立ってペコリと頭を下げる。
「わぁ、可愛い!」
カグが撫でようと思って手を出すと、ビクッと怯えた白雪がフードの中に隠れてしまう。
「あ、あれ?」
「白雪、そんなに怖がらなくても大丈夫だ。コイツが暴力ゴリラなのは俺に対してだけだから」
「ですの…?」
俺の言葉を聞いても半信半疑なのか、フードから顔だけ出しただけで、それ以上出て来ようとはしない。
「ちょっとリョータ、次に私の事ゴリラ呼ばわりしたら本気で蹴るからねっ!!」
「ふざけんな。こっちは借り物の体だっつーの」
「リョータが馬鹿な事言うのが悪いんじゃない!」
「オメェが暴力止める方が早いじゃん!?」
いつものノリでギャーギャー言い合っていると、若干怒ったような目と声でフィリスが止めに入った。
「おい貴様! アーク様に馴れ馴れしいぞ!!」
「ぇえっ!!? な、馴れ馴れしいって……別に幼馴染だし」
「そ、それにしたって限度があるだろう!! …………わ、私だってアーク様とそんなに気の置けない関係ではないのに……………!!」
後半部分ゴニョゴニョ言ってて、まったく聞こえなかったんですけど…。多分カグにも聞こえてないぞ、頑張って喋りなさいな。
まあ、フィリス―――っつか亜人にとっては仇敵の≪白≫の継承者だしなぁ、色々思うところもあるし、緊張もするんだろう。
「フィリス、丁度良いからそのまま自己紹介してくれ」
「は、はい…アーク様がそう仰るのでしたら」
ローブを脱いで姿を晒す。勿論、エルフの特徴である長い耳も。
あれ? 正体晒しちゃって良かったの? 普通の人間相手にも隠すのに、≪白≫の継承者のカグ相手には絶対隠すと思ったのに…。
そんな俺の疑問を読み取ってくれたのか、「アルフェイルでの戦いですでに見られて居ますので」と答えてくれた。そう言えばそうだったな…。
「エルフ族のフィリスだ。アーク様がお前を受け入れると言うのならば、それに異を唱えるつもりは微塵もない。だが、私は≪白≫を宿すお前に気を許しはしない」
ナイフで突き刺すような言葉。
明確で、あまりにも真っ直ぐな拒絶。
カグが困惑と共に悲しそうな顔をする。
長年の経験から言わせて貰えば、この状態は物凄くダメージを受けている時の顔だ。いや、精神的ダメージを受けているのは誰が見ても分かるんだが………ダメージの深度が最上級だ。
カグも≪白≫の記憶から、600年前の亜人戦争の事は知っている筈だ。それに、≪赤≫以外の魔神の継承者が亜人に何をしたのかも……。
俺がカグの立場なら、「前の継承者の罪でグダグダ言われる筋合いねえ!!」ってブチギレるかもしれない。けど、カグはそう言うのも受け入れちまう奴なんだよなぁ…。苦労性と言うか…世渡りが下手と言うか…。
そんな俺達の若干気まずい空気を知ってか知らずか、隣では―――
「うむ、このスープは美味いな!」
「人間の食べ物も捨てたもんじゃないね!!」
マイペースに精霊2人が飯を食べ始めていた。